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Muv-Luv Alternative~一人のリンクス~

作者:廃音
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白銀武

 
前書き
ヴォールクデータの詳細がいまいち分からないので結構でたらめな設定になってるかもしれません。 

 
 夕呼と呼ばれた女性の後を付いて行き、たどり着いたのは戦術機と呼ばれる人型機械が多数存在する格納庫。俺がこの世界み来て一番最初に見た戦術機も幾つかあった。この戦術機、確かにACと似ている気はするが、スラスターなどの跳躍機関がどうも大きく違うようだ。この戦術機は腰部に二つ、大きなスラスターが付いているが、ACにはそれがない。もしかしたら機体制御の仕方が根本的にACとは違う可能性がある。そうなったら俺はこの戦術機に乗れる事が出来るのか。

 先程あの女性には此方の技術を提供すると言ったが、それが使える技術でなければ意味がない。実際に俺のACに使われている技術を此方の世界で使えなければ意味がないのだ。最悪俺のACは使えなくなる可能性すら出てきてしまう。此方の世界には当然ACの設備を整える場所などないのだから。

 もしACのジェネレーターの整備が出来ない場合、コジマ粒子の生成が出来なくなってしまう。コジマ粒子がなくともACは一応動くが、プライマルアーマー含め、現在のACの力の殆どはコジマ粒子から来ている。そのコジマ粒子の使用が出来なくなった場合、俺の戦力は一気に落ちるだろう。

 しかし、コジマ粒子が問題なく使えたとしても、また別の問題が出てくる。

 環境汚染だ。

 コジマ粒子は重金属であり、環境汚染を進めてしまう。あのリンクス戦争によって全世界規模で拡散してしまったコジマ粒子は世界を汚した。人が住めなくなる程に。確かにこの世界でコジマ粒子の技術を持っているのは俺一人だが、もしこの技術が普及してしまった場合、BETAとは別の問題が出てくるだろう。

 コジマ粒子の力は強大だ。もしかしたらこの世界の現状だって覆せる切り札に成り得るかもしれない。だが、その技術を渡す人間を間違えた場合、この世界は俺が居た世界よりも酷くなる可能性がある。

 俺はこの女性の中身を把握仕切れて居ない。俺を助けてくれた白銀が心から信頼しているのは分かるが、それとこれとは別問題だ。この女性が、コジマ粒子を悪用するかどうか見極める必要がある。

 確かに俺の目的はこの知らぬ世界を生き残る事だが、この世界を壊してまで生きようとは思わない。それがあいつとの約束だとしてもだ。それに俺がそこまでして生きても、あいつは喜ばない。寧ろ俺を殺しに来るだろう。…まぁ今考えても仕方のない事だ。コジマ粒子が使える使えないも、普及させるさせないも、全て目の前にいるこの女性の手に委ねられるのだから。

「白銀はさっさと強化装備に着替えて頂戴。シミュレーターであんたの実力を見極めさせて貰うわよ」

「分かりました」

 先程からこの二人は箱型の機械の前でなにやら話し合っているが、内容が分からない俺は先程からだんまりだ。と、そうしている間に白銀が此処を離れ、数分だけいなくなったと思えば思わず目を見張るような服を着て戻ってきた。

 恐らく、と言うか十中八九パイロットスーツで合ってると思うのだが、今までに見たことのない形状のために少し同様する。

「中々様になってるじゃない。シミュレーターの設定はどうする?」

「夕呼先生にお任せします。何ならヴォールクデータも構いませんよ」

「ふーん…言うじゃない。ならヴォールクデータを用いたHIVE突入で設定するわよ。希望の装備は?」

「突撃前衛でお願いします」

「分かったわ。官制の必要は?」

「大丈夫です。何もなしの俺の純粋な実力を見て欲しいので」

「…そこまで言うからには良い物見せてもらわないと満足しないわよ?」

「任せてください!」

 白銀は最後に強い口調ではっきりそう言うと、箱型の機械の中へと入って行く。シミュレーターと言っていたので、仮想敵との戦闘訓練か。…仮想敵と言う以上、BETAと呼ばれる地球外生物が見れる筈だ。この世界で生きる以上俺も人事ではないだろう。しっかりとこの目に焼きつかなければならない。

「それじゃあ、あんたはこっちに付いて来て。白銀の様子をモニタリングしてるから見るわよ」

 それは俺にとっても嬉しい誘いなので断るような事はせず、大人しく女性の後に付いていく。

 先程白銀が乗り込んだシミュレーターの場所から少し離れた所に管制室のような場所があり、そこの椅子に腰を下ろし、白銀が今現在見ているであろう風景を俺も見る。

 そして管制室のモニターが写した世界は俺が今までに見た事もない世界であり、俺の予想を遥かに超える地獄でもあった。

―シルバSide Out―

―白銀武Side In―

 今俺の心臓の鼓動が激しく脈打っているのが分かる。BETAとの戦闘はもう慣れていると言えば慣れている。それにこれはシミュレーターだから本来ならそこまで緊張する必要はないかもしれない。

 だけど今回は場合が違う。このシミュレーターは夕呼先生に認めて貰うためのシミュレーターだ。俺の実力を見極める為の。つまり、これが俺の今回のループの未来を大きく分けると言っても過言じゃない。寧ろそれが現実だ。

 一応俺の実力は高い方だと思ってる。実際誰かと比べあった訳じゃないけど、今までの記憶から考えたら、俺の実力は高い方…の筈。そして今回はその実力を全て出し切り、認めて貰わないといけない。俺一人の純粋な実力を。

 だけど今回のシミュレーター訓練。俺の課せられた状況はかなり厳しい。幾ら慣れ親しんだシミュレーターとは言え、そのシミュレーターの中に搭載されているOSが違う。今の時代では一般のOSかもしれないが、俺からしたら旧世代のOSみたいなもんだ。操作性もXM3とは大きく異なる。

 一応此方のOSも使っていたけど、XM3よりは機動性が落ちてしまうと思う。その事を視野に入れてHIVE突入を行わなければいけない。機体は撃震。装備は87式突撃砲、74式近接戦闘長刀、65式近接戦闘短刀、92式多目的追加装甲の四つ。

 突撃前衛はかなりの接近戦に特化したポジションだから当然弾薬の数は少ない。その少ない弾薬の数に比べてBETAの数は異常とも呼べる数だ。その使い所を間違えたら即撃墜に繋がりかねない。

 と、どうHIVE内で動くか想定していると網膜投影によって切り替えられた視界の右隅に夕呼先生からの通信が入った。

「此方の準備は良いわ。あんたの好きなタイミングで出なさい」

「了解!」

 目の前に広がるHIVE内部へと繋がる大きな口。この入り口を見るだけで桜花作戦を思い出してしまう…。

 ッ…!

 今は感傷に浸ってる時じゃない。あれを繰り返させない為にも俺は望んだんじゃないか!

「それじゃあ…行きますよ!」

 合図を出し、一気に激震の跳躍ユニットを噴出する。

 ストップ状態から一気に最高速度に達する。網膜投影に移った景色が一気に後方へと流れて行く。

 ヴォールクデータのHIVE内部は一応記憶してある。最も細部まで記憶している訳じゃないから急激な進路変更なんかは出来ない。

 だからこそ帰ることを想定した推進剤の残量は考慮せず、今は深部に到達する事だけを考える。HIVE内で最も重要なのはBETAを駆逐する事じゃない。如何にBETAを相手せず、どれだけ素早く深部に到達するかが重要なんだ。

 BETAが無数に蠢くHIVE内で一瞬でも足を止めたら即BETAに囲まれてしまう。もし俺が囲まれたら単独でHIVE内に突入しているのだから撃墜は間逃れない。HIVE内で唯一の救いと言ったら光線級が居ない事。光線級が居なければ俺が最も得意とする三次元機動が出来る。

「前方敵影…数3000って所か?」

 HIVE突入後、数分で早速四桁数のBETAをレーダーが捉えた。

 3000の数なら突破は可能…!使用する弾丸は最低限度で留める!

 例え四桁数のBETAが現れようが、今出している最高速度を緩める事なく、前方に見え始めたBETAの大群の真ん中に突っ込んで行く。

「…!更に前方敵影…!」

 まるで動く絨毯のように敷き詰められたBETAの大群を掻い潜る中、更に前方からBETAが押し寄せてくる。その数は先程の比にならないレベルであり、最早BETAが波に見えてくる程だ。互いに意思疎通しないBETAは互いの上を踏むように進行し、更に他のBETAがその上を進行する。その繰り返しで今俺が通っているシャフトは既に本来の広さに比べかなり狭まってきている。

 一刻も早くあの隙間を通らなければ終わりだ。まだ中層にもたどり着いていないのにこんな所で落ちるわけにはいかない!

 上から次々と自機めがけて振ってくるBETAを時に避けつつ、時に長刀でなぎ払いながらどんどん深部の方へと機体を進めて行く。

 進めど進めど現れてくるBETAの大群。既に弾は1/3を使ってしまっている。良いペースと言えば良いペースなのだが、此処まで被弾がなかった訳じゃない。幸い戦術機の命綱である跳躍ユニットに損傷はないから問題なく進めているけど、先程上から降ってくるBETEを処理しきれず右肩にかすり態勢を崩してしまった。

 一旦辛うじて空いていた隙間に着地し、すぐさま飛ぼうとしたが、XM3ではなかった着地後の硬直により危うく撃墜されそうにもなった。

 その後幾度となく危ない場面に見舞われたけど、どうにか切り抜け、ようやく最深部までたどり着く事が出来た。XM3もなく、機体も激震と言う旧世代の戦術機で此処まで来たのだから夕呼先生もある程度は認めてくれるとは思ってる。けど此処まで来たからには反応炉まで破壊したい。

 と、そこで一つの問題が生まれた。よくよく考えればこの激震には自決装置でもあるS-11が詰まれて居ないのだ。ならどうやって反応炉を壊せばいいんだ?と今更になって考えてしまう。突撃砲ではどう考えても火力不足だ。弾切れになって終わるのが見えてる。かと言って長刀で切り刻むのも無理。つまり反応炉んの破壊は不可能と言うこと。

 これは不味い、と思っても既に時遅く目の前に広がるメインホール。そして青白い光を放つ反応炉。

 手持ちの弾丸は残り少し。長刀は二本の内一本は破損。そして激震も右腕破損に左足損傷とかなりボロボロな状況だ。

「夕呼先生。聞こえますか?」

 反応炉の破壊は不可能だと判断した俺は夕呼先生に通信を入れる。

「…聞いてるわよ」

 視界の右上の方に映し出された夕呼先生の表情は心なしか活き活きとしている。…俺はその表情を見て思わず気が緩んでしまうが、緩んだ気を引き締めなおし、夕呼先生に反応炉の事について説明する。

「反応炉まで辿り着いたのはいいんですけど…反応炉を壊す手段が見つかりません。それに推進剤も底を尽きているので此処で終わりです」

 最深部までは到達したが、反応炉を壊すことは出来なかった。

 いまいち満足できなかった結果だけど、視界に写る夕呼先生の表情を見る限り悪くなかったとは思う。…そう思いたい。

 夕呼先生は何考えてるか本当に分からないからなあ…少し怖い。

「そ。それじゃあシミュレーターはお終い。適当に終わらして管制室の方までいらっしゃい」

「了解です」

 その言葉を最後に夕呼先生との通信は切れ、視界のど真ん中に終了の文字が映し出された。

 …これから夕呼先生の結果を聞くのか…緊張するなぁ。

―白銀武Side Out―

―シルバSide In―

 …どう今の感情を表に出していいのか分からない。

 今俺が見ている白銀の視点が映し出されたモニター。そこに映し出された映像は俺が予想もしていなかったものばかりだった。白銀からBETAと言う存在は聞いていたが、それがあそこまで圧倒的な存在だとは思っていなかった。

 そして同時に納得してしまった。あの存在があればこの基地の外の景色もこいつらの存在が原因なのだと。

 俺の世界にもこのBETAと似た生物兵器、と呼ばれる存在が居たのは一応俺も知っている。その情報を見たこともある。だがこんな圧倒的物量を持っている訳でもなく、個々の戦闘力もここまで高くない。

 白銀武は今までこんな存在と戦ってきていたのか?…この世界の人間はこんな存在と戦ってきていたのか?…正直言うと俺は舐めていたのかもしれない。

 俺とて最強のリンクスと呼ばれた存在だった。だからこそ自分の力に自身はあり、ある程度この世界でも通用すると思っていた。だがそれは俺の傲慢でしかなかった。個人の力は物量には及ばない。質より数とはまさにこの事だろう。如何に個人が優れていようが、圧倒的な物量の前には無に帰す。

 そんな俺の心境を読み取られたのだろう、横で白銀の様子を見ていた女性が俺に声を掛けて来た。

「これが私達の敵BETAよ。それを見た感想はどうかしら?」

 そう聞いてきた女性の口元は笑みを浮かべているが、その瞳には感情がなかった。俺がこの世界の現状を見て、どう感じたのかを判断しているのだろう。この世界を見て、俺が使えるかどうか、判断したいのだろう。

 確かに俺はこの映像を見て驚き、恐縮しているかもしれない。だが、俺に戻る道はないのだ。自分の知る世界じゃない以上、俺は前に進むことしか出来ない。それが地獄への道だとしても。

「正直言うと驚いている。…だが問題はない」

 そう…問題はない。俺にはACがある。

 BETAの圧倒的物量には驚かされたが、白銀が操作する戦術機を見て俺にとっては嬉しい確信が取れた。戦術機とACでは圧倒的にACの方が性能が高い。速度、火力、防御力、どれをとってもACが戦術機に劣るものはない。

 当然先程も言った通り、AC単機では全てのBETAを駆逐する事は不可能だろう。だが、AC単機でこのHIVEを攻略する事は…恐らく出来る。

 白銀のシミュレーター映像を見ていて分かったこと。HIVE攻略に重要なのは速度と言う事だ。速度ならば先ずACの横に出る存在はこの世界にないだろう。それにBETAの鈍い動きにACがつかまる、なんて事も先ずない。そこに操縦者の技術が絡んでくる事も事実だが、俺は初心者ではない。

「俺が持つACの技術。これで安心出来そうだ」

「へぇ…この映像を見て確信が持てた訳ね。楽しみにしてるわよ?」

 その後会話が続くことなく、俺達は二人して白銀の方に視線を移した。

 俺にとって白銀がこの世界でどれほど強いのか分からない以上、どう判断していいか分からないが、隣の女性を見る以上、白銀の操作性は異常なのだと判断出来る。

 まぁ白銀の技術がどれほどのものか分からないと言っても、その他のことならば判断出来る。白銀の状況判断能力は素晴らしい。あの壁のように迫ってくるBETAの大群の中から一番薄い層を一瞬で見つけ、必要最低限の弾丸を使い突破する。かなり戦いなれている証拠だ。

 そして遂に白銀がHIVEの最終地点、反応炉に到達するが、それを壊せる手段がないと言う事でシミュレーターは終了した。

「…あいつはどうなんだ?」

「個人の実力としては間違いなく世界でトップね。このヴォールクデータを単機で最深部まで行く奴が現れるなんて…嬉しい誤算だわ。まだ白銀の言っている事を信用した訳じゃないけど…十分使えるわ」

 そう語る女性は自分の中から湧き出る喜びを隠せていなかった。

「となると後は俺だけ、か」

「まぁそうなるわね。特にあんたの方は厳しいわよ?あんたは何も情報を持っていないんだから私の信用は無に等しいわ。あんたの持つ技術とやらが使えないものだと判断した場合、直ぐにでも此処を出て行って貰うわよ」

「それで構わない。だが、間違いなく俺が持つ技術はこの世界に大きな影響を与える。あの戦術機とやらは大きく変わるだろうな」

 と、そこで管制室に誰か入ってきた。誰か入ってきたと言っても白銀しかいないのだが。

「此処からは二人で話しておいてくれ。…俺はACを取りにいってくる。案内は白銀にさせればいい」

 二人の返事を聞く前に俺は管制室から出る。

 後ろで何か聞こえるが、今は一人で居たい。心の整理って奴…だな。

 まだ混乱している状況だが、それでも覚悟は出来た。この世界で生き抜く覚悟だ。まだこの先、どうなるか分からないが、約束がある以上、泥を啜ってでも生き延びてやるさ。この地獄のような世界で。

  
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