Muv-Luv Alternative~一人のリンクス~
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横浜基地
謁見
「シルバさん。此処からは俺に任せて下さい」
あの後俺は此処横浜基地と呼ばれる所に来るまでの間、白銀にこの世界の事を簡易的にだが教えて貰った。内容的には信じれないような物ばかりだ。地球外生命体BETA。そしてBETAの脅威。先程まで俺達が居た町もBETAによって蹂躙された後だと教えてもらった時には驚きを隠せなかった。
最も、この坂から見る景色が何もない理由はBETAだけではなく、他にも理由はあると言っていたが、それはまた今度をはぐらかされた。また何時か教えてくれるならそれで構わないと俺も了承したが。
そして何より驚いたのが、今衛兵二人と何かを話している白銀武はこの世界を既に二度も経験していると言うのだ。記憶も、知識も、経験もそのまま持ち越し、この世界を二度もやり直していると。本来なら今自分はこの場にはいない筈だった、と白銀は悔しそうに言っていた。それと同時に自分が望んでしまったとも。
俺にはそう悔しそうに呟いた白銀の気持ちは分からないが、その時白銀が語る言葉の一つ一つに含まれた感情から、いかにこの世界が厳しいか、なんとなくだが感じ取る事も出来た。
と自らの先程の事を思い出していると、目の前に広がる基地の中から一人の女性が歩いてきた。紫色の髪を伸ばした少し釣り目な女性。白いコートを着ている所を見ると研究者か技術者のどちらかだろう。
どちらにせよ、余りいい雰囲気ではない事は理解出来る。
その女性は足早に白銀の方に向かうと白銀となにやら小さな声で話し合った後、俺の方に少しばかり視線を向ける。その瞳から伺える感情は興味と言った所か。少しばかりの敵意も入っているが、殆どは興味って感じだな。
「この二人は私の知り合いよ。あなた達は下がって頂戴」
有無を言わせない気迫の籠もった言葉に、先程白銀を少しもめていた二人の警備員は大人しく後ろに下がった。
「さ、私に付いてきて」
今この状況がどういう状況なのか、俺には分からないが、白銀から説明された事が本当なら、この女性が俺が何故此処にいるか分かるだろうと言っていた。白銀自身がこの世界を繰り返している原因もこの女性に解明してもらったとも。
それとどうやらこの世界に俺と同じような境遇の人間は白銀しかいないらしい。らしい、と言うのは白銀自身、それを調べた訳ではないからだ。当然、違う世界から人間が来る、なんてことは有り得ないので白銀の過去の事は数人の人間を除き誰も知らないと言う事。結果俺のと白銀の存在はかなり希有な存在だと言う事だ。それと同時に異なる世界の概念を持ってくる存在とも言える。
白銀自身、自分の記憶を元にXM3と言う新しい概念のOS製作の手伝いをしたとも言っていた。やはり異世界の人間の知識は大きいと言う事だ。
まだ俺はこの世界の機械、つまり戦術機の動きを見ていないから何とも言えないが、俺のACの技術がこの世界の技術よりも高かった場合はこの世界の戦術機の水準を大きく上げる事も可能になるかもしれない。…最もそれはコジマ粒子を使う事になるのだが。そう考えると俺の機体は使えないかもしれない。
そして歩くこと数分。どうやら目的の場所に辿り着いたようだ。
目の前にある扉の横に設置された機械にカードを通すと扉は開き、女性に中に入るように催された。特に反論することなく、大人しく俺と白銀は部屋の中に入る。部屋の中にはかなりの量の本と机にコンピューターのみと言う質素な物だけが置かれていた。
女性は部屋の入り口の近くで立っている俺達の横を通り過ぎ、部屋の置くに置かれた椅子の上に腰を下ろした。
「あんた達も適当に座んなさい」
俺と白銀はその言葉に従い、近くにあった椅子を引っ張り腰を下ろした。
本題はここからか?と言っても俺は先程から蚊帳の外の存在なのでこれからどういった話が始まるのかさっぱり分からない。白銀に聞いたのはBETAの存在と白銀自身の事。それだけだ。
「で、白銀武。何処で00ユニットの事を聞いたの?これは私しか知らない筈だけど」
「先程も言った通り俺はこの世界を二度ループしています。突拍子もない話ですが、俺が持っている知識を教えれば信じて貰えると思います。まず先程言った00ユニットに関してですが…これに関しては全て夕呼先生本人から教えてもらったとしかいいようがありません。それで00ユニットは量子電導脳という世界最高のコンピューターをもち、人間には真似できない優れた処理能力があると聞いています。その気になれば世界中のコンピュータを支配下に置く事も出来ると」
「…」
「その00ユニットの素体になっているのは俺の幼馴染である鑑純夏。この横浜基地の下にあるHIVEに捕らえられBETAによる研究の挙句脳だけの姿になっている筈です。夕呼先生は唯一の生き残りである鑑純夏の脳を使い00ユニットを製作しようとしている。違いますか?」
「ッ!」
白銀がそこまで言った所で女性は机の引き出しから拳銃を取り出し、白銀に銃口を向けた。
「何故そこまで知ってるの!?貴方は何者なのよ!」
「何度も言っている筈です。俺はこの世界を二度もループしていると。何なら他の事も話しましょうか?夕呼先生はこのまま俺の協力なしではAlternative4の成果を挙げられずAlternative4は中止になりAlternative5へと移行してしまいます。その結果、世界規模のG弾を使用した反撃が行われますが、HIVEの反応炉を壊すまでには届かず、世界の重力を狂わせただけの結果に終わります。そして宇宙へ逃げた戦艦も通信途絶です」
「…」
「Alternative4の計画が打ち切られるのは12月24日。つまり後二ヶ月しかないんです。正直言うと今この場でこうしている時間さえも惜しい。どんなに証拠を出しても俺の言うことはまだ確信がないとは思います」
「…あんたの目的は何?」
「地球と仲間を守る事です!」
「…取り敢えず利害は一致してるって訳ね」
女性は小さくため息をこぼすと、白銀に向けていた銃を下げた。
「夕呼先生!」
「勘違いしないで。私はまだあんたの事を完全に信用した訳じゃない。この後あんたが使えるかどうか判断させて貰うわ。それであんたの処遇は決める」
「はい!」
「…で、さっきから後ろで黙っているそっちの男は何なの?白銀からは自分と似た人間だって言われてるけど」
ようやく俺の話に入ったか、と思いながらも口を開く。
「俺は白銀同様違う世界から来た人間だ。最も白銀が元々居た世界とは異なり、かなり荒れた世界だった。と言ってもこちらの世界にいるBETAなんていない世界だ。戦術機なんてものもない。代わりにACと呼ばれる人型機械があり、俺はそれと一緒に此方の世界に飛ばされた。そこで交渉がしたい」
「へぇ…言って御覧なさい」
「俺の持っているACの技術を提供すると同時に此方の世界での衣食住の保障をしてもらいたい。当然違う世界から来た俺には戸籍も居場所も何もない。あるのはACとそれを操る技術だけだ」
正直言うとACの技術提供がいかに有効なものか俺にも判断できない。此方の世界で戦術機も、BETAも見たことがないのだから当然だ。
「その機体は何処にあるの?」
「崩れた町の中に置いてある。見たいのなら今すぐにでも取ってこよう。…此方の戦術機とやらを自分の目で見ていない以上、判断は難しいが、ACの技術はこの世界にはない技術だと思う。この基地にある設備を見てそう感じる」
見た感じこの部屋やこの部屋に来る前に見たものは全て俺の世界では古い型のものばかりだ。恐らく性能は此方の方が高い筈。まぁ先程も言った通り確信は出来ないが。
「まだ見てないものを信用できないわ。あんたの方も見てからにする。それで?肝心のあんたの目的は?」
「生き残る事。その為ならなんだってしよう。あんたらが言うAlternative4だかの計画を手伝う事も出来る。…必要なら人だって殺す」
「ッ!…分かったわ。あんたも事も信用した訳じゃないけど、取り敢えず話しは此処まで。早速で悪いけど格納庫の方に行くわよ。先に白銀の実力を調べさせてもらう。使えなかったら…その時はその時で考えるわ」
取り敢えずこの女性に取り付く事は出来たようだ。白銀から聞いた所によれば、この世界の技術でBETAに勝つことは厳しいとの事。なら今の技術よりも高い技術を持った俺はこの女性にとっては良い存在の筈だ。
確かに俺の話が真実だという証拠はないが、それでも見る価値は十分にある筈。
だが此処にいるのが俺だけだったら恐らくこの女性と会う事は出来なかっただろう。白銀と言う重要な知識を多く持った存在がいたからこそ俺が取り付く場所もあったのだ。…白銀には感謝しなければいけないな。
「時間が惜しいんでしょ?行くわよ」
女性はそう言うと足早に椅子から腰を上げ、出口に向かう。俺と白銀も腰を上げ、その後を追った。
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