レンズ越しのセイレーン
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Report
Report5 カルデア
前書き
あなたと一緒にお買い物 ふわふわするのはどうして?
アルヴィンとユティはマクスバード/エレン港に上陸した。目指すはシャウルーザ越溝橋の露店ストリート。今ならエレンピオス製品もリーゼ・マクシア製品も両種類が正価で並んでいる。
ざわざわと人通りが多い中を抜けて、目当ての品を二人で物色する。
「これ」
「胸に『とってもたくましいです…』ってプリントあるからアウト。女が着るもんじゃねえ」
「じゃあこっち。プリントは『ネコネコする猫』だからセーフでしょ?」
「文字がセーフでもサイズがアウト。ミラ様のダイナマイトボディを舐めるな」
「じゃあ」
「どれであってもアウトだアウトっ。『くま殺し』とか『家出人』とか『来世から本気出す』とか『クラマ感動』とか、そんなんあのミラに着せたらバニッシュヴォルト落とされかねねえだろうが! おたくはセンスをどこに落としてきた!」
「王の狩り場」
「中途半端にリアルな地名答えるなよ……アーストとか歴代の王様がお前の謎センスを拾ったら一大事でしょーが」
がっくりと肩が落ちる。ユティは残念そうにシャツを戻した。
それから露店の軒先をいくつも覗きながら歩いた。
機能性だの保温性だの話しながら歩く自分たちは、さしずめ一家の娘と母の再婚相手といった感じに見えるだろうか。デートという名目で連れ出したが、ちっともそう思えないアルヴィンだった。
「ならばこれはいかが」
ユティが何軒目かの店で持って自分の体に当てるのは、ベージュのチュニックとショートパンツのセット。
カットソーにレースを重ねたフェミニンデザインは確かにリーゼ・マクシアの女の子向けだ。露出が少し多いのでは、と感じる部分も、ミラなら着こなせるだろう。
「スリーサイズの数値はミラの名誉のために伏せるけど、ほぼ同じ値」
「グッジョブ、よく発掘した」
ユティは親指をグッと立てた。会計は彼女自身がした。あとでルドガーに請求するらしい。
「あとはエレンピオスを歩く時の普段着いくつか。今度はエレンピオスっぽいほうがいいね。ミラのアレ、目立つ」
「元マクスウェル様としちゃあ、あれでも抑え気味だぜ」
「アルフレドはどっちの味方?」
「ユティお嬢様の味方ですとも。ただ服だけじゃなくて寝具も買うの忘れるなよ」
「それに関してはばっちぐー」
ユティがカメラを閲覧モードに切り替えてアルヴィンに見せた。
「ん? この写真、ニ・アケリアのミラの家じゃねえか! これ…寝具か?」
「マットレス、ピローのタイプは大体把握してる。ミラが出かけた間に撮った。抜かりはないよ」
「負けました。脱帽です」
戦果発表。
ミラの寝間着としてベージュのチュニックとショートパンツ。普段着として、ニットと柄シャツとジーンズを3種ずつ。他、靴下、下着、髪ゴム、コスメ用品。
ファミリーマットレスセットなるものもあったので、これまたユティ清算でルドガーの家に宅配するよう手続きした。ついでに、出てきたばかりのミラのため、エレンピオスの簡易ガイドブックも買った。
思った以上に時間をかけすぎた買い物を終えた頃には、交易都市はまんべんなく夕陽が降り注いでいた。
アルヴィンとユティも急いで定期便に滑り込み、トリグラフ港に戻った。
「今日はアルフレドと大冒険」
「ま、デートとはちーとばかし違ってたわな」
「アルフレドはデートがよかった?」
「いんや。俺もユティと冒険できて今日は大満足よ」
ユティはほっとしたようだった。スタート直後で彼女を情緒不安定にさせた身としては、デート相手がここまで復活したのは純粋に喜ばしい。
「ほんじゃ帰るか。もう暗くなるから送ってくよ」
「いいの?」
「ああ」
暮れなずむ街を歩きながら、会話は弾むというより、ぽつりぽつりと静かに交わされた。
「お仕事、上手く行ってる?」
「ボチボチな。今は相方と一緒に試行錯誤中」
「相方」
「リーゼ・マクシア人の男でな。キタル族っつー、ワイバーンを操れる部族の奴なんだ。俺より年下なのに、ずっと男らしくて根性あって」
「何て名前?」
「ユルゲンス。ユルゲンス・キタル」
「会いたい、な」
「いいぜ。今度会わせてやるよ。あ、先に言っとくけど、あいつ妻帯者だからな。しかも新婚さん」
「奥さん……会える?」
「……いや。ずっと寝たきりだから、会うのは無理じゃねえかな」
「会ってみたいって言ったら、ユルゲンス、怒るかな」
「それはないだろ。きっと、喜んでくれるさ、あいつなら」
「二人が一緒に商売してるとこ、撮って、いい?」
「そういうんなら大歓迎。いい写真撮って販促してくれ」
「よかった。たのしみ」
ふふ。孵化する直前の卵を抱くように優しく両手の指先を重ねる少女。
「リーゼ・マクシアの果物、おいしい?」
「パレンジはちーとすっぱいけど、慣れるとクセになるぞ」
その内、マンションが立ち並ぶ団地が見えてきた。静かでほっこりした時間はこれでおしまいだ。
「ここまでで、いい。ありがとう。アルフレド」
「いえいえ。小さなレディのためですから」
大仰に礼をしてみるが、ユティは首を傾げただけで笑いは取れなかった。
「――ねえ、アルフレド。今日のことで一つ、まだ聞いてないことがあった」
「ん、神妙な顔してどうしたよ」
「ワタシ――社でのアルフレドとユリウスのインファイトの結果がどうなったか、知りたい」
もっと深刻な問いと予想しただけに、大きく肩透かしを食らった。
「あー、あれね。一応、俺の白星。泣き虫少年の漂流記でかるーくジャブ、アルクノア時代のアレコレでこれが癖なんですっつってストレートK.O。案外あの男、情にもろいのな。さすがルドガーの兄貴」
「泣き虫、公認」
「どうせ知られてんなら、とことんこのネタ押そうと思ってな。ま、押すまでもなくあちらさんが捕まっちまったけど」
「また使う機会、来るよ」
団地の中に入ったところで、二人は足を止めた。
「おやすみなさい、アルフレド」
「おやすみ、ユースティア。いい夢見ろよ」
別れの挨拶を交わす。
少女は荷物を抱えてマンションフレールの中へ。男は夜のトリグラフへ。背を向け合って去っていった。
後書き
Q.初分史任務帰還後、アルヴィンがオリ主をデートに誘いだした後何をしていたか。
A.二人ともミラさんのことを考えて生活用品を物色していました。
締めるとこは締めるアルヴィンさんと、その辺を察して乗っかるオリ主。作中の息が合ったコンビ№2ですね。№1はルドガーのつもりです。ユリウスさんは……ユティがあえてズラしてる感じを狙っているのですが伝わってますかね(^_^;)?
ユリウスは絶対にルドガーと同じでお人好しだと信じています。懐に入れた人間にはだだ甘だと信じています。根拠になるシーンはいくつかあるのですが次のネタにとっておきたいのでここでは勘弁してください。
【カルデア】
扉の蝶番の女神。家庭生活の守護神。
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