IS《インフィニット・ストラトス》~星を見ぬ者~
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第十四話『決断』
ドイツの地で行われる、モンド・グロッソは“シュバルツェ・ハーゼ”等の警備により、無事最終日、決勝戦を迎える事が出来た。
決勝は前回優勝者、織斑 千冬。対する対戦相手は前回準優勝者、シュハイク・オーディス。再びこのカードが揃い、会場も大いに賑わい、新聞にも大題的に扱われている。
歓喜に満ちた第二回モンド・グロッソは無事に終わりを迎えるだろうと誰しもが思う……だが、事態は動き出す。
「決勝戦の試合開始の瞬間はもう間近……か」
「いよいよですね。シュハイク責任官もリベンジ果たせれば良いのですが……」
「そうだな」
スウェンとクラリッサはモニタ-を眺めながら言う。
「シュハイク責任官なんて「今回こそ勝ってみせる!」って意気込んでましたから」
「空回りしなければ良いのだがな……」
決勝戦が目前に迫ったその時、緊急通信がスウェンとクラリッサに入る。
『こちらファングA、緊急事態発生。織斑 千冬の弟、織斑 一夏が不審な人物に連れて行かれたとの報告。ドイツ軍はこれを誘拐事件と決定、辛うじて情報を入手、これを元にスウェン・カル・バヤン中尉は隊の指揮を』
「こちらスウェン中尉、了解した。“シュバルツェ・ハーゼ”はこれより行動を開始、そちらは本部の指揮に伴い行動を」
『了解』
緊急通信が終わると、クラリッサはスウェンの隣に立ち
「このタイミングでこの事態発生ですか」
「ああ、今すぐ隊の皆に通信を……」
スウェンはインカムを起動しようとするが、携帯端末が振動する。
「これは緊急通話?」
インカムを起動せず、携帯端末の通話をする。通話の相手は、ロイであった。
『スウェン!』
「義父さん? 一体どうし――」
『リズが、リズが倒れたんだ!』
「なっ!?」
表情を変え、焦りの色を見せるスウェン。ロイは声を慌ただしたまま
『今、ローエンス病院に緊急搬送された! リズの命が危ないんだ!』
「わかった!今むか……!!」
スウェンは言葉を止める。自分には誘拐事件の指揮を担当されている。軍よりも身内を最優先させるなどもっての外。だが、リズは血の繋がっていないとはいえ、大事な家族。スウェンはどちらをとるか、激しい葛藤に見舞われていた。
だが、答えは決まっていた。軍での自分の立場がどうなるかわからない。それでも、大切な家族の下に行く。だが、指揮はどうする? スウェンはそれに行動を止められていた。
「くっ……! 俺は……!」
「隊長」
クラリッサがスウェンの肩に手を置く。
「通話はこちらにも聞こえていました、あなたは行ってください」
「!?」
「今この現場を離れたら、あなたの身の上がどうなるかはわかりません……ですが、あなたはそれでも行く心算なのでしょう?」
「……ああ」
「でしたら指揮はこのクラリッサが請け負います。安心して、ご家族の下へ行ってください」
「……すまない、クラリッサ! 義父さん、俺は今から向かう。ここからならそこまで遠くないはずだ。切るぞ!」
『ああ!』
通話を終え、スウェンはクラリッサにインカムを渡し
「後は頼む」
「はい!」
スウェンは頷き、全速力で本部を走り抜けていく。残されたクラリッサはインカムを起動し
「これより指揮はクラリッサ・ハルフォーフが急遽受け持つ。全体は私の指揮の元で行動しろ!」
/※/
「はぁ…! はぁ…!」
スウェンは止まることなくローエンス病院たどり着き、受付に向かう。
「リズ・グレーデュントが緊急搬送された病院はここだな!」
「え、えっと……少々お待ちを……はい、今は緊急手術を受けているところです」
「場所は!」
「そ、そこを右に曲がったところです」
「感謝する!」
再び走るスウェン。手術中と表示された部屋の前に、ネレイスが座っていた。
「スウェン!」
スウェンに気づき、椅子から立ち上がりスウェンの前へ駆け寄るネレイス。
「リズが……リズが……急に家で倒れて……意識が戻らなかったのぉ……!」
「落ち着け、義母さん」
「ネレイス! スウェン!」
次いでロイも走ってやってきた。研究室に居たまま来たのだろう、服装がそのままであった。
「ネレイス、今のリズの容態は!?」
「あ、危ない状態だって……もしかしたら……うぅ……」
「大丈夫だ、義母さん。必ず……必ずリズは助かる。信じるんだ」
「スウェンの言うとおりだ。今の僕達はリズの無事を祈るしかない」
「……ええ」
ネレイスは徐々にだが落ち着きを取り戻し、椅子に腰を掛ける。スウェンは壁に背を預け、ロイは時計を何度も見ながら、手術中と灯された表示を見つめていた。
そして五時間後……
手術中の表示の明りが消え、手術室から医師がマスクを外しながら出てくる。ロイは医師の前へ行き
「リズは! リズはどうなったんですか!」
「あと一歩遅かったら大事になっていましたが……一命を取り留めました。もう大丈夫ですよ、お父さん」
その言葉に、ロイとネレイスは表情を一変し、喜びに包まれた。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
「よかった……」
「……」
ロイは医師に握手をし、ネレイスは喜びで涙をながし、スウェンは安堵しゆっくりとその場に座り込む。手術室から、担架で運ばれてくるリズが居た。
「意識も取り戻したようですし、ご家族の方、お話してください」
「はい! スウェン、先に」
「ああ」
スウェンはリズの傍まで近づき
「リズ、大丈夫か?」
「お兄……ちゃん? あれ? お仕事……は?」
「ああ、途中で抜けてきた」
「……ごめん……ね、私のせい……でお仕事の邪魔……しちゃって……」
「いいんだ、お前が無事で。けど良かった、本当に心配したぞ……」
「えへへ……ありが……と」
スウェンはリズから離れた。ロイとネレイスは一緒にリズの近くに行く。スウェンは何より、リズの命が助かった事に安堵と喜びを感じていた。不意に鏡を見ると、微笑んでいる自分の顔が映る。
「俺でも……こういう顔が出来るんだな」
第二回モンド・グロッソ決勝戦の最中で起こった誘拐事件は、ドイツ軍の情報網により織斑 千冬の手で織斑 一夏は無事救出。だが、それに伴い救出するために決勝戦を棄権し不戦敗。優勝者はシュハイクになるという結果になった。
最終日に起こった波乱を越え、モンド・グロッソは終幕したのであった。
/※/
「スウェン・カル・バヤン中尉、貴官は現場の指揮を任されていたのにも関わらず、身内を優先し指揮を放棄したと言う事に間違いはないな?」
「はい」
中将の椅子に座っている男性の目の前にスウェンは直れの姿勢で立っている。
「ならば貴官には然るべき懲罰を与えなければならない……貴官は“シュバルツェ・ハーゼ”の隊長の位を剥奪、そして一年の謹慎とする。以上、何か言う事は?」
「御座いません」
「よろしい、それでは下がりたまえ」
「はっ、失礼します」
敬礼の後、規則正しい動きで退室していくスウェン。そして数秒後
「失礼します!!」
ドン!!と部屋の扉を開けドカドカと入ってきたシュハイクが居た。
「シュハイク大佐、もう少し静かに……」
「スウェンを隊長を辞めさせるなんてどういうことだ! 父上!」
鬼のような剣幕のシュハイクを「やれやれ」といった表情で見る男性『ゲルハルト・オーディス』。シュハイクの父親だ。
「ここでは中将と呼べよ……これでも何とか刑を軽く出来たほうなんだぞ? 本来だったら軍を去ってもらなければならない状態だったし」
「そ、それでも……」
「はぁ……今回ばかりの事はお前でも予想外だったろうな」
「……まさか、スウェンがあそこまで感情的な行動をするなんて思ってもいなかった」
「彼も人の子という事だ。言っちゃあ悪いが、俺は少し安心したな」
「なに!?」
「そう怒った表情するなよ……俺は最初、スウェン・カル・バヤンという人物を見たとき、まるでコイツは感情のない人形のようだと思ってしまった。だが、今回の一件で彼はしっかりとした人間なんだなと感じたんだよ」
「ッ……」
シュハイクは苦虫を噛み潰したような表情で、窓の外を見る。外は清々しい程の青空であった。まるでスウェンを“シュバルツェ・ハーゼ”に迎え入れた日のように。
(くっ! 今日に限ってこの空が忌々しいよ……スウェン)
後書き
第二回モンド・グロッソは終了。そしていよいよ次回から原作へ突入します。
長らくお待たせしました。……十何話と引っ張りすぎましたね……申し訳ありません。
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