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薔薇の騎士

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第二幕その三


第二幕その三

「美しい御婦人方もそう呼ばれるとか」
「それは」
「今私は非常に嬉しいのです」
 オクタヴィアンを見上げての言葉であった。目は彼を見ている。
「一人でいる時とは違う別の世界に入るのですから」
「だからなのですね」
「そうです。貴方も喜んで下さりますね」
「勿論です」
(何という美しさか)
 ここで心の中で呟いた。
「従兄様」
 また彼をこう呼んできた。
「私が私となる為にはまず男の人が必要なのです」
「男がですか」
「まずはそれが貴方」
 またオクタヴィアンを見上げての言葉であった。
「ですから私は男の方にまず感謝の念を持ちますわ」
「それはつまり」
「そう、貴方に対して」
 この上なく優しい笑みでの言葉であった。
「私は貴方の名誉を何があってもお守りしますわ」
「何と有り難いお言葉。では私もまた」
 オクタヴィアンもゾフィーのその気持ちを受けその心に近付いていた。
「そうさせて頂きます。貴女と同じように」
「私と同じように」
「そうです」
 そして言うのだった。
「貴女が不当な扱いを受けることを許しません」
「私がなのですね」
「ええ。何故なら貴女は」
 そしてまた言ってみせた。
「この世で最も素晴らしい、美しい方なのですから」
「それはお世辞では」
「笑って下さるのならそれで結構です」
 返す言葉は毅然としたものであった。
「貴女のされることは何でもそのまま受けますから。おや」
「また馬車が来ましたわ」
 マリアンネが二人に告げる。
「おそらくあれは」
「フロイライン」
 オクタヴィアンはゾフィーに顔を向けて告げてきた。
「花婿が来られました」
「私の夫となる方が」
「そうです。ここに来られたのです」
 それを教えるのであった。
「さあ。もうすぐです」
 ここでファニナルが戻って来た。儀礼通りである。しかし儀礼通りはそこまででここからはそれが砕けてしまったものになった。何故なら。
「こら、御前達」
「あの声は」
「レルヒェナウ男爵のものです」
 急に聞こえてきた場違いの声に戸惑いを見せるゾフィーにオクタヴィアンが説明する。彼はその顔を少し顰めさせていた。
「では私の旦那様となる方が」
「そうです。ですが」
(様子がおかしいな)
 オクタヴィアンは心の中で呟くのであった。
(ここは騒ぐ場所ではないのに)
 ウィーンの儀礼を知っている彼はこう思った。しかし声はまた聞こえてきた。
「そうウロウロ歩くな。行儀よくだぞ」
「すいません、旦那様」
 穏やかに窘める男爵の声とそれに謝る声が聞こえてきた。
「慣れていないもので」
「わかればいい。では行くぞ」
「はい」
 こう話をしていた。そして扉を開けて出て来たのは着飾った男爵と彼の従者達であったがその従者達がどうにも野暮ったいのだ。まるで田舎からそのまま出て来たようであった。
「うわあ、こりゃいいお屋敷だ」
「旦那様のお屋敷よりも」
「何でわしのところだ」
 口を尖らせて今の言葉には問い返す。
「いやあ、全然違うなあと」
「立派なものです」
「ウィーンだから当然だ」
 男爵はこう彼等に言う。
 
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