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ヒーローは泣かない

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第三章

「何かあったの?」
「お母さんが」
「えっ、僕の」
「はい、交通事故に遭われて」
 マネージャーは強張った顔で話していく。
「その」
「まさか」
「すぐに病院に搬送されました」
「大丈夫だよね」
「いえ」
 マスクで表情はわからない、だがだった。
 ケツアルコアトルは声の色を一変させてマネージャーに詰め寄る様にして告げた。
「予断を許さない、いえ」
「助からないんだね」
「言いにくいですが」
 その状況だというのだ。
「その様です」
「そうなんだね」
「あの、それでなんですが」
 マネージャーは青ざめた顔で彼に問うた。
「試合は」
「今日の試合は」
「事情が事情です、お休み下さい」
 これがマネージャーに言うことだった。
「絶対に。そうして下さい」
「いや、出るよ」
「試合にですか」
「うん、出るよ」
 絶対にそうするというのだ。
「僕はね、出るよ」
「ですが貴方にとってお母さんは」
 実は彼は親思いだ、両親共に健在であり成功した今は豪邸を建てそこで一緒に住んでいるのだ。だがその母がなのだ。
「ですから」
「僕はレスラーだよ」 
 ルチャ=リブレの神の戦士だというのだ。
「子供達が応援してくれてるんだ、だから」
「それでなんですか」
「うん、出るよ」
 ケツアルコアトルは冷静さを取り戻した声で答える。
「絶対にね」
「本当にいいんですか?」
「いいよ」
 母の命が今にも消えようとしている、だがだった。
 彼はそれでもだと言ってだった。そのうえで。
 再びサンドバックに向かう、そうしてマネージャーに言った。
「じゃあね。もう少し身体を動かすから」
「そうですか」
「今日も勝つよ」
 こうも言うのだった。
「そうするからね」
「祝勝会の準備もね」
 その話もするのだった、試合の後の恒例の。
「それも頼むよ」
「いつも通りですか」
「そう、いつも通りね」
「わかりました」
 マネージャーはあえて己の言葉を止めた、彼の気持ちがわかったからだ。
 そうして試合になった、まずは前座や若手の試合が行われた。
 そしていよいよだった、メインイベンターの試合になった。
「ケツアルコアトル!ケツアルコアトル!」
「今日も頑張れ!」
「勝ってね!」
 子供達を中心に歓声が起こる。
「勝て!」
「ジャガーになんか負けるな!」
 熱い声援だった、その声を受けながら。
 彼もリングに向かう、そしてだった。
 ジャガーマンと向かい合う、その彼はというと。
 闘う姿だった、その彼が言ってきた。
「リングの上では」
「ヒールだね、君は」
「そうさ」
 それだというのだ。
「だからその立場で君と闘うよ」
「リングの上ではね」
 こうしたやり取りはレフェリー以外には聞こえない、だがだった。
 このやり取りから闘う、ジャガーマンはリングの上では見事なヒールだった。 
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