スコール
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第三章
「絡まれると厄介だからね」
「というか日本に来て何やってんのよ」
「我々は黙ってはいない!」
彼等は二人の目の前でまだ喚いている。商店街のど真ん中で拡声器まで使いビラを撒き自分達の祖国の旗を大袈裟に振る。
そして挙句にはだった。
何故かここで暗黒舞踏をはじめた。しかも頭から油を被りだ。
そのオイルギッシュな彼等を見て勝大はうんざりとした顔でまた有紗に言った。
「気温四十度でここまで騒ぐってね」
「熱中症にならないのかしら」
「全く。余計に暑くなったよ」
「いつも夏と二月二十二日と三月一日には騒がしいわよね」
「他にもちょっと何かあったらだけれどね」
「夏に。しかもこんな暑い日にはせめて祖国でやって欲しいわね」
「万歳!」
「万歳!」
今度は両手を挙げて絶叫する。どうも無断で騒いでいたらしく商店街の人達がお巡さんを連れて来て抗議しだした。そして揉み合いの大騒ぎを演出して見ている二人の気分を余計に暑苦しくさせたのだった。
その暑苦しさを堪能した二人は何とか映画館に辿り着いた。これでやっとクーラーの効いた涼しい部屋に辿り着いた。筈だった。
映画館に二人並んで座るとその右には何と。
今は亡きフレディマーキュリーがいた。既に故人であるので本物ではない、そっくりさんが勝大の横に座っていたのだ。
勝大の左に有紗がいるがその左には今度は藤岡弘、がいた。しかもt何故かタキシードを着て色々と薀蓄を言っている。
しかも前の席にはゴスロリ軍団だ、夏でも黒でポップコーンや煎餅をぼりぼりとやりながら頑張っている。後ろには豹柄や虎柄のおばさん軍団が厚化粧と香水をフル装備でぺちゃくちゃとしていた。
二人はこの完全な結界の中に置かれた、身動き一つ出来ない
その結果の中で映画を観終わり出て来てから二人共将帥しきった顔で言い合った。
「映画覚えてる?」
「全然」
肝心のそれすらだった。
「どんなのだったかしら」
「いや、俺も全然」
「前後左右からの熱気が凄かったわね」
「というかさ。何あれ」
勝大は将帥しきった顔で有紗に言う。
「あの人達tって」
「横にいたのってクイーンの」
「本人かと思ったよ。いや、もう身体全体の熱気がね」
「凄かったのね」
「むわっときたよ」
その辺りもフレディ=マーキュリーだったのだ。
「で、有紗ちゃんの横も」
「凄かったわよ。タキシードの特撮ヒーローが延々映画の薀蓄を一人で語ってるのよ」
「暑苦しかったわね」
「壮絶だったわ。前も後ろもね」
「ゴスロリに関西おばちゃん軍団って」
前後も壮絶だったのだ。
「というかさ。ゴスロリも豹柄も一緒よね」
「どっちも暑苦しいわね」
「自分達はいいけれど」
「周りに団体でいられると」
「きついわね。もうクーラーがあっても」
「暑かったね」
「というか何?今日」
有紗はいい加減言いだした。映画館を出た頃には夕刻だがそれでも暑さはそのままだ。
その暑さも感じながら言うのだ6った。
「暑いうえにどんどん暑苦しい事態になってるけれど」
「プールにすべきだったかな」
「いや、多分プールでもね」
夏で最も涼めるその場所でもだと、有紗は予想を述べた。
「行ったら力士さんの軍団とかアンドレ=ザ=ジャイアントがいるから」
「アンドレって」
「それかベルサイユの薔薇か」
違う意味で暑苦しい。
「エースを狙えでもいいけれど」
「聞くだけで暑苦しくなるね」
「でしょ?今日は結局そんな日なのよ」
「悪い時には悪いことが重なる」
「世の中ってそんなものだけれど」
有紗はある意味達観していた。この日の一連の暑苦しい出来事でそれがすっかり定着してしまったのである。
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