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第二章

「いいお店知ってるよ」
「何処にあるの、そのお店」
「マジックだよ」 
 言いながら駅前のある場所を指し示した。そこにはダークブラウンのゴシックな造りの店があった。
「あそこ入ろう」
「あのお店ね」
「そう、喫茶店だから絶対にクーラーも効いてるし」
「しかもアイスティーだから」
「涼しめるよ。だからね」
「そうね。それでお昼は」
「お昼も涼しいのがいいね」
「ざるそばかお素麺か」
 勝大が挙げた食べ物は如何にも夏というものだった。
「そういうの食べる」
「そうね。それじゃあね」
「まずは喫茶店で水分摂ってね」
「それからお昼食べて」
「で、映画館行こう」
「うん、それじゃあね」
 有紗は微笑んで勝大の言葉に応えた。そうしてだった。 
 まずは喫茶店で二人でアイスティーを飲みそれから駅前の商店街の中のうどん屋に行きざるそばを食べた。飲み食いしたもの自体は涼しかった。
 だがそれでもだった。二人はうどん屋を出た後でうんざりとした顔でそれぞれ顔の汗を拭きながらこう言ったのだった。
「いや、まさかね」
「そうよね」
「喫茶店は大学のラグビー部が大挙して来て」
「八条大学の人達よね」
「いや、凄かったね」
「ええ」
 有紗は少し放心状態、暑さでそうなっている顔になって自分と同じ顔になっている勝大に対して述べる。今歩いている商店街も上は覆われているが気温はかなり高い。
「何十人もお店に来てね」
「暑かったね」
「クーラー意味なかったわね」
「しかもうどん屋さんはうどん屋さんで」
 そちらもだった。
「今高校野球やってるけれど」
「阪神グッズの軍団が占領していたなんて」
 うどん屋はそちらだった。
「広島に遠征するのについていくその前の腹ごしらえだったみたいね」
「黒と黄色で」
 どっちも暑くなる色だ。黒は熱を吸収し黄色は暖色だ。
「おまけに騒がしくて」
「あっちも何十人で」
「いや、暑かったねあそこも」
「お店全体がそうなってたわね」
「運が悪いっていうのかな」
「どっちも味はよかったけれど」
 だがそれでもだったというのだ。
「暑かったわね」
「涼しくなりたかったのに」
 勝大、そして有紗のこの願いは儚く費えたのである、
「ラグビー部に阪神ファンって」
「あの人達に責任はないけれどね」
「暑い時に暑い人達に会ったね」
「全くね。しかも前見て」
「うわ・・・・・・」
 今度は商店街のど真ん中で抗議活動をしている人達だった。何処かの島が日本領ではなく何処かの半島国家のものだと叫んでいる。
「あの島は我々の領土だ!」
「日本は侵略するな!」
「我が国は負けない!」
「断固抗議する!」
「そんなことは大使館の前で言って欲しいな」
 勝大は何故か全身を真っ赤に塗って抗議している彼等を見てさらにうんざりとなった。
「商店街じゃなくて」
「そうよね。何かあれも」
「暑苦しいね」
「何であの人達こんなに暑いのに元気なのかしら」
「夏にはいつも普段以上に元気になる人達だけれど」
 少なくともスタミナはある様だ。
「それでもね」
「暑苦しいわね」
「とりあえず無視して前行こう」
「知らないふりしてね」 
 二人は彼等を見ないことにすることにした。 
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