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かゆみ

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第二章

「とにかくいいから身せるんだよ」
「わかりやした、上着をですね」
 こう応えてすぐにだった。朝八は着ている着物の上を脱いだ、そのうえでその身体を朝一に見せたのである。
 痩せているが贅肉はない、優男の身体だ。その身体を見てだった。
 朝一は確かな顔でこう言った。
「御前さんすぐに病院に行きな、今日のうちにね」
「今日のうちにって」
「これまで誰もその斑点に気付かなかったのかい?」
「?そういえば」
 朝八も言われて気付いた、見れば彼の身体のあちこちには赤紫の斑点があちこちにあった。朝八もそれを見て驚く。
「何ですかい、これは」
「御前さん遊郭遊びをしていても知らないのかい?」
 朝一は着物の袖の中で腕を組み深刻な顔のままで問うた。
「そうだったのかい」
「まさかと思いますがこれが」
「そうだよ、あれだよ」
 朝一はこう朝八に返した。
「梅毒だよ。知ってるだろ」
「あの、梅毒って」
 朝八もこの病のことを聞いて真っ青になった。この病気になれば。
「かかったらそれこそ」
「今は薬があるよ。ペニシリンがね」
「ペニシリンですか」
「いいかい、だからすぐに病院に行くんだよ」
 朝一は真剣に朝八に告げた。
「さもないと御前さん本当に死ぬからな」
「梅毒で死ぬってなると」
「その斑点が瘡蓋になって鼻も落ちて髪の毛もごっそりと抜けるさ」
「それであちこち腐って、ですよね」
「折角戦争も生き残ったのにそんな怖い死に方したいかい?」
 朝一は朝八に対して問うた。
「そうなりたいんならいいがね」
「滅相もありやせん」
 朝八は蒼白になった顔で答える、これは本音そのままだった。
「それはとても」
「じゃあいいね。今日のうちに行くんだよ」
「わかりやした。それじゃあ」 
 こうして彼はすぐに病院に行き診察を受けた。結果はっきりと梅毒と言われ薬を渡された。そして治療を続ける中で医者にこう言われた。
「いや、本当にあと少しで危なかったですよ」
「手遅れだったんですか」
「斑点が出てましたからね」
 だからだというのだ。
「危なかったですよ」
「そうだったんですか」
「梅毒は潜伏期がありますからね」
「何年も苦しむ病気ですよね」
「そうです。だから本当jに危なかったですよ」
「そうですか」
「遊郭がお好きですよね、宮城さんは」
 これが朝八の本名だ。宮城雄一というのだ。
「大層もてるそうで」
「自慢じゃjないですけれどね」
 ここでは笑って言った朝八だった。だがそれはこれまでの様に完全に明るく笑えたものではなかった、それはとても無理だった。
「その通りです」
「遊郭は昔からですからね」
「梅毒だの淋病だのですね」
「それが多いですからね、どうしても」
「それで、ですか」
「はい、間違いないですね」 
 そこから梅毒に罹ったというのだ。
「何人とも、ですよね」
「常に十二人位は」
「まあ誰が罹ってるかはわかりませんし」
 それはだった。
「けれど遊郭には付きものですからね」
「あたしが罹るとは思ってませんでした」
「それはまたどうしてですか?」
「いや、あたしに限ってそれはと思いまして」
 特に根拠なくそう思っていたというのだ。
「それでなんです」
「まあそう思う人は多いですけれどね」
 このことは実際のことだ。まさか自分は、と思ってしまうのだ。そしてそれは朝八にしても同じだったのだ。
「それでもです」
「罹るんですか」
「人はそう思っても病気はそう思いませんから」
 真理だった。 
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