【完結】剣製の魔法少女戦記
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第一章 無印編
第十二話 『核の暴走』
前書き
シホ、もとい衛宮士郎はやはりブラウニーが代名詞だと思うんです。
Side シホ・E・シュバインオーグ
温泉旅行から少したった。
私としてはこの旅路では得るものがあった。
まず家族の大切さの再確認。
私は、一人じゃない。
帰ってこられる家があるのだから場合によるけどもう前みたいに無理はしない。
………まぁ、そんなことを考えているのは現実からの逃避だ。
いいかげん現実を見つめろとどこかで聞いたような天の声(アクマの声)が言っている。
「シホちゃん、どうして態度がまだ他人行儀みたいなの…?」
なのはのなにげない一言が夜の食卓を支配した。
「え、っと…なのは。別に私は他人行儀していないわよ?」
「えー? してるよー。だってまだ私以外はさん付けでたまに遠慮している光景もよく見るし…」
「いや、あのね…?」
「それに私の相談は聞いてくれるけどシホちゃんからの相談事は私されたことないよ?」
それはあなたに言われたくありません。
君も結構溜め込んでいるわよね?
でもそんな事は口に出すことは出来ない。
「なのは…私はもう十分高町家の皆さんにはよくしてもらっているわよ?」
そう、前に比べれば頼る事が多くなったことは自覚しているから。
なのは以外にはまだ隠してあることはあるけど、話すことは話しちゃったり…
でもここでなのはに援軍がかかる。
「そうだな。まだシホちゃんは少し遠慮しているところがある。そうだろ恭也?」
「ああそうだな。別に迷惑なんて思っていないから出来ればもっと頼ってほしい所が本心だ」
「はいはい! 私も恭ちゃんの意見に賛成!」
「シホちゃん! 前にも言ったけど私達は家族なのよ! だから一人で何もかも背負い込まないでちょうだい!」
なのはのちょっとした一言が一気に感染拡大した。
や、本当に私は前よりかは幾分マシになったつもりですよ?
というよりそれは現在フェイトとどうやったらお話できるか悩んでいるなのはに聞いてやってください。
ユーノやフィアまで頷いているではないですか!?
当の発言者であるなのははここまで拡大するなんて思っていなかったのだろう。
思念通話で《シホちゃん、ごめんね…》と苦笑いを浮かべながら言ってきた。
◆◇―――――――――◇◆
所変わって現在は昼下がりの学校の屋上にいます。
それでそのことをアリサとすずかの二人に昨晩の事を話してみたけど、
「私はなのはちゃんの意見に賛成かな?」
「あたしもよ。シホって今学校でなんていわれているか知ってる?
いい意味でだけど『聖祥の赤いブラウニー』とか言われているのよ。
シホって校内で困っている人がいたらすぐに助けに入るし、壊れている備品とかがあったら無償で直しているそうじゃない?
まぁ美化委員に入っているから頷けなくもないけど一人で全部直しちゃうからちょっと頑張りすぎってところがあるわ。
それになんでも普通の人より出来ちゃう分、あまり人に頼ろうとしないところとかない? 自覚ある?」
「…はい、あります」
思い当たるところを盛大にアリサは指摘してくれた。
なんかアリサがリンにかぶるなぁ…。これでうっかりのスキルがあったなら性格共に金髪だからルヴィアね。
なのはは「ブラウニーってなに…?」とすずかに聞いている。
それにすずかは純粋な笑みを浮かべながら、
「ブラウニーっていうのは家主の寝ている間に無償で勝手に家事をしてくれる妖精さんの事だよ」
「あ、そうなんだ。確かにそう言われるとシホちゃんのイメージにピッタリかも」
グサッ!
無垢な一言は時にして心を鋭利な刃物のごとく突き刺し抉り出す。
そしてそんな猫のような人懐こい表情で納得されると胸が痛い…。
私としては不本意極まりないのにそんな表情をされると結構来るわね。
体は剣で出来ている。でも心は硝子…。だから砕けないか心配です。
過去、学生時代もブラウニーはあったけどやっぱりやりすぎているのかな?
『いいかげん自覚しろ…』
ええいっ、うるさい!
なんかリンっぽいものが葉巻を咥えながら車に乗って私の頭を過ぎったようなイメージがふってきたけどすぐに振り払った。
…そして放課後、
アリサとすずかと別れて二人で下校中。
「ねぇ、なのは」
「…うん? なに、シホちゃん」
「いや、昨晩の話じゃないけど…なのはも結構悩み、かかえているでしょ?」
「…うん」
「大方フェイトの事なんでしょ? やっぱり戦いはしたくない?」
なのはは無言。予感は的中か…。
「やっぱりね。ね、なにも争い事だけが戦いじゃないでしょ?」
「えっ…?」
「…今まで戦いだけに身を投じてきた私が言えた義理じゃないけど、なのはのフェイトに『お話をしたい、理由を聞きたい』っていう語りかけもきっと一つの戦い…。
だからなのはは諦めたくないんでしょ…?」
「うん…、フェイトちゃんとしっかりとお話をしたい。分かち合いたい…」
「それならそれを貫き通せばいい。甘い考えかもしれないけどそれもれっきとした戦いの一つでもあるわ」
「そう、かな…?」
「ええ。それでも聞いてもらえなかったらさらに考えて、考えて努力すれば、もしくは…」
…そう、しっかりと話を聞いてあげられれば私のようにはきっとならない。
そもそも私は話を聞こうともしなかった…。
本当に反面教師ね…考える余裕が出てくるといつも自身のあり方はなんだったのかと自問する。
それでも一つ分かることはなのは…そしてフェイトにもだけど己と同じ間違いを犯してほしくない。
「うん! 私、頑張るね!」
「元気が出たみたいね…。それじゃ私もちゃんと見守ってあげるから頑張りなさい。
でも、無茶だけは絶対にしないで…私達が教えた戦い方はあくまでフェイトへの対策としてだから。
元々なのははこちら側の人間じゃない…だから無理して士郎さん達やアリサ達に心配はかけないように。
それと昼間は元気そうにしていたけど二人とも内心とても心配していたから後で謝っておくようにね。
語り合える友達がいるってのはとても幸せなことだから…」
◆◇―――――――――◇◆
Side 高町なのは
―――でも、無茶だけは絶対にしないで…私達が教えた戦い方はあくまでフェイトへの対策としてだから。
―――元々なのははこちら側の人間じゃない…だから無理して士郎さん達やアリサ達に心配はかけないように。
―――それと昼間は元気そうにしていたけど二人とも内心とても心配していたから後で謝っておくようにね。
―――語り合える友達がいるってのはとても幸せなことだから…
その言葉がなぜか、とても不安なものに感じました。
もっともな言葉だけどやっぱりその中にシホちゃん自身が含まれていないような、そんな嫌な感じがした。
それに、それじゃシホちゃんは友達がいなかったような口ぶり。
でもシホちゃんはいつもと変わらない笑顔で私の事を励ましてくれていた。
…うん。だからきっと、大丈夫。
◆◇―――――――――◇◆
Side アルフ
最近、あの高町なのはっていう白い魔導師と、それにシホのおかげでフェイトは前より笑うようになった。
でも! それに引きかえあの鬼ババァ…!
フェイトが必死にジュエルシード集めをしているのにそれ以外は無関心。
それどころかフェイトを虐待している始末…!
どうして実の娘にああまで酷いことをできるんだ!?
フェイトは「大丈夫…」って言っているけどあたしは使い魔。
精神リンクでフェイトの痛みが伝わってくる。
できることならあたしがあのババァを懲らしめてやりたいけど…きっとフェイトは止めてくる。
悔しい…。
悔しいけど、フェイトの支えになってあげられるのはあたしだけだ!
いざという時には…!
あることを決意しながらもあたしはフェイトの寝ている場所に向かった。
(食事が残ってる、か…でも最近は少し残る程度ほど食べるようになってきた。やっぱりシホには感謝しなきゃいけないかもね)
「フェイト…前より食事食べるようになったんだね」
「うん…シホの事怒らせたくないから。それよりアルフ、ジュエルシードがそろそろ…」
「あいよ!」
「かあさんが、待っているから…いこう!」
フェイトが笑顔を浮かべた。
うん。やっぱり笑うようになった。
だから大丈夫…。
それにフェイトになにかあったら絶対あたしが守る!
◆◇―――――――――◇◆
夜になる。
シホ達は夜に探索を行っていた。
だが突如ある一角のビルの屋上から魔力反応が発せられ同時にジュエルシードの反応がした。
「こんな街中で強制発動!?」
「兄さん!」
「分かってる! 結界構築、間に合え!」
ユーノが結界を作り出し周りの人が姿を消す。
そしてなのはがバリアジャケットの姿になりフィアットは人間形態に戻り棒を構えた。
シホも聖骸布を投影して羽織って夫婦剣を投影して腰のホルダーにさした。
ユーノは結界構築に専念している。
そして光が上がると同時になのはとフェイトがシーリングフォームで封印を同時にした。
封印はなのはの方が若干成功したが、なのはは封印せずにフェイトに話しかけた。
それとは別に今回はシホとフィアットがアルフに足止めを食わされていた。
「やっぱり狼形態だと、今の私ではきついものがありますね…!」
「フィア、下がりなさい! 後は私がするわ!」
先程まで矢を放ち牽制していたがフィアットの戦況が悪くなった為、シホが前に出た。
「今度はシホか…! 相手になってやるよ!」
「そう簡単に私の守りを崩せると思わない事ね!」
「そんな事は百も承知さ! だけどね、あいつはなんでさっさとジュエルシードを封印しないでフェイトに語りかけてるのさ!?」
「あれがなのはの戦い方だからよ…。とても真っ直ぐな心を持っていて、ずっと話も聞かないで戦地を渡り歩いていた私には真似できない方法…」
「シホ、あんたやっぱり…!」
「今は私の事は関係ない。でないと…」
シホは夫婦剣を構えて、
「…あっさり倒すわよ?」
「わかった…あんたの事は聞いてあげたいところだけど、本来敵同士!」
「そういうこと…!」
そして二人が駆け出そうとした瞬間、ジュエルシードは不気味な脈動を始めだし、魔力反応が急激に高まっていく。
「っ!? アルフ! 一時休戦よ。アレを封印するわ!」
「確かに…アレはやばいね!」
「お姉様! 私もいきます!」
三人が駆け出したが空で戦っていた二人がジュエルシードに同時に杖を突き出して封印しようとしたが、互いのデバイスにひびが入り、そして突然の衝撃波が発生し二人は双方ともに吹き飛ばされた。
シホはフィアットとユーノになのはの方に向かうように指示をした。
アルフもフェイトの方に向かっている。
シホはそれで安心した。
だがそれは一時のもので全方位にかけて衝撃波が広がっていく。
◆◇―――――――――◇◆
Side シホ・E・シュバインオーグ
私はとっさに周りを見回す。
突如の事で全員動揺としていて構えを取れていない。
それで私はある決断をした。
全員助かる為に双方吹き飛んだ中心点に立ち、
「―――I am the bone of my sword―――……熾天覆う七つの円環――――!」
魔術回路を最大限駆使して今までで最強の出来栄えであるだろうロー・アイアスを投影した。
そして衝撃波とアイアスが衝突する。
衝撃波がアイアスを何枚か割り私の体を傷つけていく。
「くぅっ…!」
(前に解析して少し分かったことだけどやっぱりあれは聖杯と同じ効果を持った石!
安心できるところといえば穢れがないということだけだけど、それでも十分危険物…!)
私は必死の思いで衝撃波を防ぎアイアスの盾はすべて砕けなかったが、それでも余波で体中にいくつもの切り傷を負う。
血の流し過ぎで少し立ちくらみがするが、だが構っていられない!
「みんな! 悪いけどもう形振り構っていられないわ! 第二波が来る前に私はアレを破壊する!」
『えっ!?』
全員の声が敵味方問わず聞こえるが今は構っていられない!
もしかしたら世界が滅ぶかもしれない緊急事態!
即座に私のもっとも頼りにする宝具を剣の丘から検索、
「――投影、重装」
その呪文とともに、手に黒い洋弓を投影。
だがまだ続きがある。
「―――I am the bone of my sword―――……!」
新たに投影したのは、アイルランドの英雄、フェルグスが所持していた「硬い稲妻」の意味を持つ魔剣。
それを刀身から柄に至るまで全体がねじれた歪な剣に変化の魔術で改造したモノ。それを弓に番えてジュエルシードに向かって構える。
さらに矢にはありったけの魔力を注ぎ込み、弦が切れるのではないかと思えるほど引き絞る。
おそらく今私がしようとしている事は全員理解しているようだが、宝具の存在は教えていないためフェイト達だけでなくなのは達も驚愕の表情をしている。
全員が矢から発せられる桁外れで凶悪なほどの魔力に恐怖を感じている中、
「みんな! 衝撃に備えなさい! 派手にぶっ飛ばすわよ!」
全員に警告をした後、この矢がジュエルシードに中るイメージをしっかりと確立し、なにも障害がない事を再確認し、
「“偽・螺旋剣”!!」
真名開放とともに私は弦から剣を放つ。
それは高速をゆうに軽く突き抜け放ってから一瞬でジュエルシードまで達した。
だがジュエルシードを破壊したとしても周りの飽和状態の魔力はどうにもならない。
「なら、こうするしかないでしょ! 壊れた幻想!!」
最後のワードを唱えた瞬間、カラド・ボルクに宿る内なる幻想が開放して盛大に爆発する。
それの影響で周りの魔力も巻き込まれ霧散した。
鷹の目で解析を試みて確認したがジュエルシードはどうやら跡形もなく消滅したようである。
「よかった…被害を最小限に……っ、あれ…?」
私は体に力が入らないことを認識した時には余波で受けた時に負った傷から流れていた血の池の上に倒れてしまっていた。
全員が私を呼ぶ声が聞こえたが、もう意識が…イリヤ、ごめんね。体、傷つけちゃった…。
それを最後に私の視界は暗くなった。
◆◇―――――――――◇◆
「シホちゃん!」
「シホ!」
「お姉様!」
ジュエルシードが跡形もなく消え去った事が分かるとなのは達三人がすぐに駆け寄りシホの容態を確認していた。
フェイト達もシホの事が心配らしくその場に止まっていた。その顔には不安の表情がありありと浮かんでいた。
ユーノとフィアットがシホに治癒魔法をかけている間、なのはは涙を流しながらシホの手を握っていた。
「シホちゃん…死んじゃダメだよ! やっと家族になれたのに、シホちゃんがいなくなっちゃったら…!」
なのはの言葉は当然フェイト達にも響いてきていた。
それでアルフは先程シホから少しだけ聞いた『戦地を渡り歩いていた私には…』という言葉が気がかりでしょうがなかった。
「なぁ…シホはお前達の家族じゃないのかい?」
「今は家族…でも、シホちゃんは私のうちに来る前はずっと一人ぼっちだったみたいなの…」
「そういえば話していませんでしたね…」
アルフの問いになのはは震える声で答え、そこに治癒魔法をかけていたフィアットが意味ありげな言葉を発した。
「…お姉様はこの世界の人間ではありません。かといって他の次元世界出身というわけでもない…」
「どういう、こと…?」
フェイトはなのはと同じように震えながら聞いた。
聞きたくないと本能が告げているがどうしても聞きたかった。
「私達の世界で言うなら次元漂流者。
お姉様の世界では平行世界と、言っていました。
それはこの世界と似ているようでまったく違うもしもの世界…。
お姉様はその世界で理由は聞いていませんが世界全体の組織から追われるはめになり、お姉様の師匠に当たる人達によってその世界の魔法の力によってこの世界に飛ばされてきたそうです」
フィアットのその重い言葉は、だが全員に衝撃を与えるには十分だった。
だがそこで治癒魔法に加えてアヴァロンの効果も相まってだいたい傷も塞がり目を覚ましていたシホが体を無理に動かして、
「…ダメじゃない、フィア。それはなのは達には内緒って言っておいたでしょ?」
「お姉様! 良かったです…でも、ごめんなさい。だけどどうしても伝えておきたかったから…」
「そう…。まぁ別にいいわ。みんな、私は大丈夫だから…気にしないで。
それとこんなに派手に事をやらかしたんだからどこかの組織が感づくかもしれない…。
だからフェイト達は早くここから逃げなさい…」
フェイトとアルフは少し戸惑ったがシホの有無を言わさずの視線に、
「シホ…ごめんね。それと、守ってくれてありがとう…」
「体は大事にしろよ?」
二人は少し名残惜しそうにしながらも転移魔法で撤退していった。
それでシホ達も帰ろうということになったけど、シホを支えているなのはが、
「後で、ちゃんとお話聞かせてね?」
「ええ…話せる範囲でなら構わないわ」
そうしてシホ達は帰路についた。
だけどシホはやはり無理をしていたらしくすぐに布団に横になってしまった。
血で汚れてしまった服は火葬式典で排除済みであるから問題ない。
しかし勘が鋭い高町一家は「なにかあったのか?」と思ってシホの所に向かおうとしたけどなのはが必死に言い訳をして事なきを得た。
それで顔だけでもと、シホの部屋を覗いた一同はシホの安らかな寝顔に安堵の表情を浮かべた。
後書き
ジュエルシードを破壊してしまいました。
話には特に影響はございません。一個ジュエルシードが減るだけですから。
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