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TREMOLO(仮)  針滴×鳴門(ハリー憑依)

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入学前
  最近風邪がはやり出したのか、頭痛がする今日この頃。

 
前書き
はじめまして、荒畑です。
にじふぁんの住人でしたが、今はいろんな塒を転々としております。

長編は、こちらでお世話になります。
他サイト様だと引き締まります。 

 
乾いた風が頬を撫ぜた。
10月にもなると、前居たところでも葉の色付きはじめの趣を見せる。今は9月半ば。季節の変わり目とはいえ、頬にぶつかる風はひんやりと冷たい。


上着の袂を寄せ、行く道を急ぐ。向う先はこの先100Mの、喫茶店tremolo。
この通りで、今流行りの店だ。

石畳の小路と車道の境に僅かに出来た段差に溜まる、色付いた落ち葉が、風に踊らされて道をころころ転がって行く。
燃える色を灯したそれは、街灯に照らされ、灰色の小路に色を添える。

下ばかり見ていると、気付かなかったことに気づくこともある。

ザアッと、風が流れた。


子らが横を走って通り過ぎて行く。
何処か淋しげだと思っていた僕は、いなかった。


新たな年は、始まったばかり。







見えて来た店頭の赤いオーニングテント。その下に並べられた机と椅子にすでに人は居た。

「いらっしゃい、リナ。今日は遅いね。」
笑顔で声をかけると、相手は読んでいた本から視線を上げてこちらを見た。
「昨日言ってたじゃない。わざとこの時間に居たのよ。それにしてもミナト、寒そうねぇ。」


真昼に外出したため、暖かさに油断した僕の本日の着物は大変薄着だった。従って、今来ている分で凌ぐには身体を丸めるほか無い。

「あははは....かもね。明日はコートを持ち歩くようにするよ。」
それが止さそうね、と声をかけてもらい、僕は店のドアを開ける。
中には、店主がいつも通り、床掃除をしていた。

「おお、じゃ着替えたらいつもの頼むよ。」
「はい!」


着替えが終わって戻ると、カウンターに席を移し替えていたリナが、僕に向ってこう放つ。

「いつもいつも思うんだけどさぁ。あんた、どうして彼女作らないのよ。」

バーマンの格好に着替え終わった僕の姿は、リナの食指の範囲らしいのだ。


「僕には決めた人がいるからね。」
「じゃあ、その彼女とでいいから、家に嫁に来なさいよ! 美人2人を囲って両手に花にするから。」
お決まりの言葉に、お決まりの台詞。諳んじて言えるほど、同じ音を紡いでいく。
「駄目だよ。彼女は僕の隣で、両手は彼女で手一杯だから。」
そう苦笑していた僕。今じゃ、当たり前に慣れ過ぎて笑顔で応酬している。

と、ここで店長が、
「お前、まだそんなこと言って。さっさと、ハウスキーパー雇えよ。」
と間の手を入れるのも、
「こんな綺麗なもの見たら、欲しくなるのが人間の心理だと私思うのよね。」
と、これで一端この会話が終わることも。

これは一種の挨拶なのだろうか? そんなことを考えつつ、カウンターで仕込みを始める。

夜は、喫茶店からBarに変わる。
そして、僕はそこの切り盛りを任された、元は只のアルバイト。
今じゃすっかり

「今日もイケメンよ! マスター!!」
「ありがとう。」
囃し立てる野次に、とびきりの営業スマイルで応えた。

BAR TREMOLO。今日もいつも通り開店します。









今日、午前と昼に休みを貰って、役所に行ったのだ。

子どもを一人、引き取る為の手続きだった。意外と時間を要したのは、僕が日本からイギリスに籍を変えたことと、審査に大変手間取っていたのだ。
その上、僕は未だ若く、定職は有るものの、寂れた店で、何時潰れるともしれないようなところだとダメ出しをくらっていた。

やっと許可がおり、踏み切れると息込んでいたら、今度は現在の保護者が渋った。
旦那は大いに喜んで居たのだが、子どもと血縁関係にある夫人が猛反発したのだ。それはそれは、今までで考えられないほどに、凄まじい勢いであった。
福祉団体を通し、たまに顔を見せることで落ち着いたのだが、後で詳しく話を聞く必要がありそうだ。

団体の玄関前で別れる際、夫人は旦那の肩に抱かれるようにして帰って行ったのを見て、それを切り出した。
旦那は厭そうに僕を睨み付け、しかし、普段と様子の違う妻の安定の為に渋々了承した。
その間、夫人はうつむいたまま、顔を上げることはなかった。





そんなことがあった昼。その後、荷物を持って新居に向かう。

テラスハウスの借り暮らしに、正式に増えた同居人。彼の荷物は鞄一つだけ。数日分の服と日記と辞書。だが、これから増えるだろう。


「ただいま。」
鍵のかかっていないドアノブを不用心だと思いつつ開けると、スープのいい匂いが空腹に一撃入れた。

「おかえり。」
「ただいま。いい匂いだね。」
「ちょっと待ってて、温め直すから。」
「ん。あ、飲み物とか」
「頼む。」

息もぴったり。足りないところに手が届く。違った、ま、僕らに痒い死角は無い。

当たり前だ、影分身と本体なのだから。

テーブルに並べられた昼食は、眼で見るだけでもおいしそうだ。
これで、白米さえ在れば。それが何よりの憂い。

「首尾は?」
「渋られたよ。あれは、かなり重要な秘密がありそうだ。」
「聞き出せそう?」
「代わりにやっといて。」
「ラジャー。そっち行っていい?」
「構わないよ。聞き耳立てれて手間が省ける。」
「必要ないだろ?」

手についたパンくずを、手で叩き落とし、コーヒーの入ったマグカップに手を掛けた。
「最近、こうしているせいか、君を息子のように思うよ。」
「……嫌な冗談だな。」

歪んだ表情に、何のリアクションも返さず熱いコーヒーを啜る。
しばらくたっても何の反応も無い。

「…………まじかよ。」
頭を抱えた。

「いまなら、大家さんの気持ちが分かる気がする。」

「やめてくれ。…………これ以上頭痛の種は要らない。」

常に出しっぱなしにしていた影分身に、とうとう自我が芽生えたらしい。
それも、全ては福祉団体経由で来た探偵擬きの目を欺くためだったのだが、

「今までこういうことあったか?」
「無いね。おそらくは、動力がチャクラじゃないせいなんだろう。」
自問自答にこうやって会話が成り立つ。

「チャクラじゃない力か……。」
「これが、ハリーの力なんだろう。」
「あの夫婦が忌避する原因も、これが関わってるんだろうな。」

長い息を吐いた。
ハリーが持つ、知らない力。

固有のものか、はたまた

「この世界の特定の者だけが持つ、特殊な力か…………。その場合、厄介なことに成らなきゃいいが。」

己だけなら、人知れず封じてしまえばいい。異端は排斥をくらうだけだ。

だが、他にも居るのであれば、有事の際、身を守る為に行使しなければならないかもしれないのだ。

「せめてもの救いは、チャクラとそう扱い方が変わらなかったことだな。」

練る作業が減って、それが違和感と言えばそうなのだが、発動は問題なくできた。
まぁ、練った方が術の威力が上がるし、性質を変えるには、必要だったが、今のところそれを必要としない。


「今夜、電話しておく。」


今からだと、まだ立ち直ってないかもしれない。が、こういうことは余り日をおくことも出来ない。

「頼んだ。夜は店においで、デザート用意しておくからさ。」
了承と、夕飯の話題を持ち出してくる自分の分身に、本当に大家さんが乗り移ったのではないかと、心配になった。

「要らん。」
子ども扱いされることに、かなりの不満がある。なんせ、相手は

「ダメだよ! 子どもはちゃんと食べないとー。」
「…………………はぁ」


これが自分。







遅い昼食後、部屋を掃除していた。
分身体のミナトは、あの後借りた本を返しに図書館に寄って、バイトに向かった。

当然、帰りは夜中。夜風は冷える。

「これじゃどっちがガキだか」

あいつの座る椅子に掛けられたものを掴む。




コートを持って、夕飯を食べにtremoloへ。
店の扉を開けると、数々の羞恥プレイが押し寄せた。

とりあえず、ニヤニヤしてだらしないあいつは伸す。


まだ居たリナと店主からは撫でられ、ミナトにはコーヒーゼリーにホイップとチェリーをトッピングされたものを給仕される。
衝動的にグシャグシャにしていいか?


夕飯が終わると、リナが送るというので素直に従う。近くだし、自分の外見が子どもであるため逆らえない。

別れ際、ミナトにだけ解るように、口パクで、『おぼえてろ』と、三ピンな言葉を吐き捨てた。

 
 

 
後書き
駄文失礼しました。
感想をお待ちしております。

あと、理想郷でも出店予定です。 
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