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八条学園騒動記

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第百二十五話 鏡の間その七


「セーラに聞きましょう」
「そうね。とにかく今は見てるだけね」
 アンがアンジェレッタのその言葉に頷く。
「見守りましょう」
「そういうこと。さて」
 その蝋燭の火が灯された。その火は何故か青い。
「青い火!?」
「赤じゃないの」
 その青い火が余計に不気味に見える。異形の髑髏に奇妙な蝋燭が立てられそしてそこに青い炎が宿る。確かに異様な光景である。
 しかもその髑髏が三つだ。その髑髏が何時の間にか描かれている魔法陣の前に置かれた。そうして髑髏を置いてから三人はまた呪文を唱えはじめた。その呪文もまたかなり変わったものだった。
「!?この言葉って」
「何処の言葉!?」
 皆また顔を顰めさせるのだった。
「銀河語じゃないのは当然だけれど」
「マウリア語でもないわよな」
「そうだよな」
 マウリア語はかつてヒンドゥー語と呼ばれた言語である。マウリアでの公用語とされている。もっともマウリアではこのヒンドゥー語の他にも様々な言語があり方言扱いとなっている。この辺りは銀河語が公用語でありながら各国の言語も残っている連合と同じである。
「何処の言語!?」
「マウリアにも色々な言葉があるけれど」
「かなり大昔の言葉だな」
 タムタムが顔を顰めさせて述べた。
「これは」
「ってタムタム」
「わかるのかよ」
「いや、わからない」
 コミカルな程素直に皆に答えた。
「けれどそれでもだ」
「かなり古い言語なのはわかるんだな」
「ヒンドゥー語じゃないのは間違いない」
 彼はそれはまず前提として語った。
「マウリアの言語はそれこそ無数にあるがその中でもこの言葉を使っている民族はいない筈だ」
「いないって!?」
「マウリアにも!?」
「多分な」
 なおマウリアの民族数について正確に把握するのは不可能だとされている。二千億の統計人口の他にも三百億はそこにない人口がいると言われているからだ。マウリアは連合から見ても想像を遥かに超えた国家なのだ。
「今はいない筈だ」
「今はなの」
「あくまで多分だ」
 タムタムも今一つ自信はないようであった。
「俺もマウリアに今どんな民族がいるのかよくわからない」
「まあマウリアだから」
 セドリックの何気ないような言葉は核心でもあった。
「どういった人がいてもおかしくはないよ」
「そうだな」
 タムタムもそれに頷く。
「しかし。何はともあれだ」
 彼はあらためてセーラ達を見る。
「今はその言語の呪文を信じよう」
「魔界の扉を封じる為にね」
「そういうことだ」
 やはり話はこれに尽きた。
「俺達が今できるのは見守ることしかない」
「歯がゆいって言えば歯がゆいけれどね」
 アンもこうは言っても今はどうにもできなかった。何しろ彼女達は呪術やそういった類を使うことができないからだ。これで何かしろという方が無理であった。
 その間に呪文の詠唱は終わった。すると。
 鏡が紫に輝いた。そのうえで不気味な咆哮が聞こえてきた。
「これってまさか」
「鏡から!?」
「間違いないな」
 残念ながらその通りだった。咆哮は鏡から聞こえていた。まるで野獣の咆哮であった。しかもそれは地の底から響くような恐ろしさがあった。 
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