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八条学園騒動記

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第十六話 物持ちはいいけれどその五


「あんた今何て言ったんだい?」
「これの使い方知らないの?」
「嘘でしょ、それって」
「いや、本当に」
 ジミーは答える。
「その、あれの時に使うのは知ってるよ」
 それを言うと顔が少し赤くなった。
「けれどさ。細かい使い方は」
「そ、それはね」
「ちょっとね」
 ロザリーとジュディはその言葉に彼女達も顔を赤らめさせて互いに見合わせた。実は二人も細かい使い方は知らないのである。
「知らないの?」
「だ、だから」
「それは」
「実は私も」
 アンジェレッタはあっけらかんとして述べた。
「知らないんだけれど」
「何だ、三人共知らないのか」
 ジミーはそれを聞いて少し残念そうであった。
「そりゃあさ」
 ロザリーはバツの悪そうな顔を作ってきた。
「だってねえ」
「私達まだ高校生だしさ」
 ジュディも言う。
「知ってる子は知ってると思うよ。けど」
 アンジェレッタも同じであった。実は三人はまだそこまでいっていないのである。
「けれどあんただってそうだろ」
 ロザリーは質問をジミーに返した。
「そんなこと言うんだからな」
「悪いかよ」
 ジミーも渋々それを認めた。
「俺だってそんなの知らねえよ」
「そうよね」
「逆に知ってたら怖いわよ」
「そう思わない?」
「って言いながらどうしてこっち見るのよ」
 ダイアナが四人の視線に気付いた。
「だってダイアナと」
「あとフックは」
「俺もかよ」
 フックにまで視線は向けられていた。ダイアナもフックも苦い顔をしている。
「知ってるわよね」
「知ってると思ってるの?」
「うん」
「違うの?」
「残念でした」
 だがダイアナの返事は意外なものであった。
「知らないわよ。それで勿論」
 処女だというのである。非常に意外であった。
「嘘・・・・・・」
「本当よ」
 ダイアナは少しムキになっていた。
「キスまでよ。知ってるのは」
「俺それも知らない」
 意外ともてないフックであった。プレイボーイだからといって経験があったり豊富であるとは限らないようである。そういうものなのかも知れない。
「キスの味ってどんなのか。知りたいんだけれどね」
「何とまあ」
「あんた達も知らないなんて」
「そういうことよ。これでも遊ぶ相手は選んでるんだから」
「俺は誰でもいいけれどね」
「ふうん」
「ところでよ」
 ふとジミーが言った。
「ダイアナ、御前今キスはしたって言ったよな」
「あっ」
 それを言われて自分でも気付く。
「し、しまった」
 ギクリとした顔で目を驚かせていた。何か目の中に大きな星が見える。
「キスはあるんだよな」
「言われてみれば」
「そうよね」
 ジュディとアンジェレッタもそれに気付く。
「相手誰だ?」
「何だ、やっぱりそういうこと知ってるじゃない」
「隠すなんてずるいわよ」
「そ、それはその」
 急に元気がなくなりあたふたとしだした。
「誰なの?」
「どうやって知り合ったの?」
 ロザリーや蝉玉まで参戦してきた。皆興味津々である。
「教えて欲しいわね」
「そうよね、どういう経緯かね」
「何回かも」
「いや、それはね。その、あのさ」
 ダイアナもこうなっては容易に逃げられない。それがわかっていても必死に逃げようとする。
「まあプライベートだし」
「言えないっていうの?」
「ずるいんじゃない、それって」
「そのさ、いいじゃない。まあ」
「よくないわよ」
「ねえ」
「さあ、聞こうか」
「うん」
 何時の間にかダンやトムまで来ていた。
「詳しいことを」
「是非」
「参っちゃったなあ、こりゃ」
 一人教室の中で苦い顔を浮かべるしかなかった。その頃グラウンドではフランツが相変わらずタムタムと共にランニングに専念していた。
「男だったら!」
 いきなり訳のわからないことを叫んでいる。
「一つに賭ける!」
「それは歌か?」
 タムタムがその横で走りながら問う。
「そうだ!」
 フランツは大声でそれに答える。
「いい歌だろう」
「何か勘違いしているような気がするがな」
「そうか?」
 この男にとってはクラスの喧騒も他のことであった。相も変わらず一人の世界を進むだけであった。それがいいか悪いかは別にして。


物持ちはいいけれど   完


                   2006・11・16 
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