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八条学園騒動記

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第十三話 オフレコその六


「やれやれね」
 カトリは退散していく面々を見て少し拍子抜けした顔になっていた。
「折角ちゃんと言おうと思っていたのに。これじゃあな」
「まあ騒がしい面々が帰ったところで」
「練習再開しましょ」
「ええ、わかったわ」
 カトリは仲間達の言葉に頷いた。そして部活に戻ったのであった。
 部活が終わり下校時間になる。部室を出たところでカトリの携帯が鳴った。
「来たわね」
 にこりと笑って鞄から携帯を出して見やる。そしてメールを見て笑みを満足したものにした。
「了解」
 そのままそっと学校を出る。そのまま向かったのはロシア料理の店であった。
「おう」
「待った?」
「いや、今来たところだから」
「本当かしら」
 悪戯っぽく笑って首を傾げさせる。そこにいたのは意外にもマルティであった。
「案外待ってたりして」
「本当だよ」
 マルティは素っ気無く返す。
「今までフックと色々話していたから」
「またフックとね」
 それを聞いて変に納得したように頷く。
「好きね、本当に」
「男なら誰でもそうさ」
「そのわりには奥手じゃない」
 また悪戯っぽく笑って返した。
「またどうして?」
「恋は焦らず」
 マルティは静かに述べた。
「そういうことさ」
「そう。じゃあ今からゆっくりしましょ」
「うん、食べながら。ここに来たのは二回目だったっけな」
「三回目でしょ」
「そうだったっけ」
「ピロシキが美味しい店でしょ」
 カトリは言った。
「モスクワよ」
「ペテルブルグじゃなかったっけ」
「それはまた別の店よ。いいから入りましょう」
「そうだね。じゃあ」
 そんな話をしながら店に入る。すると。
 そこには先客がいた。何とあのナンシーだった。
「えっ」
「えって」
 何と彼女は彼氏と一緒であった。しかも一つのジュースを二つのストローで飲み合うといういちゃつきぶりであった。見ている方が恥ずかしくなる。
「あ、貴女まさかオフレコの時言おうとしたことは」
「貴女だって」
 カトリも彼女もそれぞれ言い合う。
「そういうことだったの!?」
「ってそこにいるの誰よ」
「えっ、そ、その」
 彼女は顔を真っ赤にしてその場に気付く。かなりパニクっていた。
「お、同じ部の後輩であ、あのその」
 何かアンを思わせる慌てぶりである。普段冷静な人間程慌てるとかなりのものになるようである。
「ちょっとね。美味しいお店を紹介してあげてて」
「そうだったの」
「ここいいから。それで」
「先輩後はいつみたいに僕の家で」
「ちょ、ちょっと黙っててよ」
「経験・・・・・・あるの?」
「ないに決まってるでしょ」
 彼女はそれを必死に否定する。
「キスだけよ」
 こほんと咳払いして言い繕う。それでも顔は真っ赤なままである。
「それだけならいいでしょ」
「そうだったの」
「それでね」
「ええ」
 取引に入った。
「お互い秘密にしておきましょう」
「そうね」
「私達は会わなかったわよね」
「うん」
「マルティもそれでいいわよね」
「ああいいよ。けれど」
「わかってるわよ」
 マルティとの取引にも応える。
「写真部との全面的な協力ね」
「そういうこと」
「そういうことならいいわ。まあ新聞部から口を利いてあげるわ」
「どうも」
「それにしてもね」
 カトリは少し笑っていた。
「貴女が年下趣味だったなんて」
「べ、別にいいじゃない」
 横に目を向けて言う。
「誰にも迷惑かけていないでしょ」
「まあね」
「可愛いからよ」
 自己弁護を述べる。
「その、色々とね」
「そうなんだ」
「悪い?」
「別にそうは言ってはいないけれど」
「じゃあいいわ。それにしても」
 今度は彼女の番であった。
「貴女がマルティとだったなんてね」
「意外だったって?」
「お嬢様だからね」
 彼女は言う。
「それがねえ。まあ柔道部のエースだけれど」
 学園きってのムッツリスケベというかハッキリスケベである。クラスだけでなく学園のそうした話の総元締めであるとまでされているのが彼マルティなのである。
「まさか」
「人間誰だってそうじゃないの?」
 彼女のそんな言葉にカトリは平然として返す。
 
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