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八条学園騒動記

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第百話 天本破天荒博士その四


「やはりこうした時は両方に声をかけてな」
「できれば両方に来てもらうのですか」
「そうことだ。そうしよう」
「ですが署長」
 ここで部下の一人が彼に言って来た。
「一つ問題があります」
「んっ?何だ?」
「連合軍と日本軍の関係です」
 問題はそれであった。
「その関係はどうなのでしょうか」
「そういえば連合軍の指揮系統は」
「どうなっていたのでしょうか」
 警官である彼等はそこまでよく知らないのであった。人間は自分の所属する場所以外のことにはどうしても知識が疎くなるものである。
「確かこうした場合にはその国の国家元首の指揮下に入ったな」
「そうでしたか」
「ああ、確かそうだ」
 署長はこう部下達に対して答えた。
「そしてどちらもその地位は一緒とされる」
「一緒だと」
「その国の国家元首が双方を指揮するからな。我が国だと」
「名目上は天皇陛下で実際は首相ですね」
「そういうことだな。さて」
 ここまで話されたうえでまた署長の言葉が述べられる。
「その辺りは首相の判断だな」
「まあ首相にまでなりますと」
「我々には雲の上のお話になりますね」
「この学園の理事長は首相と親しかったな」
 言うまでもなく八条義統のことである。彼は八条グループの重鎮でもあるのだ。今は彼の父が総帥となっていた弟や妹達も経営に参加している。
「確かな」
「ええ、それはその通りです」
 このことは連合において非常によく知られていることだった。八条グループは古くからある巨大企業グループであり第二次世界大戦前は大財閥でもあった。この時代では連合はおろかマウリアやサハラにも進出している連合でも指折りの巨大企業グループなのである。
「さて。理事長にそれを連絡するか」
「理事長にですか」
「駄目か?」
「いえ、それよりもですね」
 部下の一人はここで署長に対して言うのだった。
「国防省に連絡した方が早いのでは?」
「国防省というとだ」
「中央政府のです」
 ここがかなり重要なポイントであった。
「中央政府国防省に。如何でしょうか」
「ああ、そうか」
 中央政府国防省と聞いてわかった署長だった。
「理事長は国防長官だからな。だからか」
「はい、それにです」
 ポイントはさらにあった。
「軍隊が動きますから。やはりここは国防省に連絡するのがいいかと」
「そうだな。それではな」
「ええ。連絡しましょう」
「それでいいかと」
「後は理事長と首相の話になるな」
 署長は部下達の話を聞きつつこれからのことを考えていた。
「我々ができるのはこれまでだな」
「そうですね。これで」
「後は。イレギュラーがあればいいですが」
「あの博士そのものがイレギュラーの様な存在だからな」
 署長の身も蓋もない言葉だった。
「だからこれ以上イレギュラーを期待してもいいイレギュラーとは思えないのがな」
「悪いイレギュラーですか」
「イレギュラーといっても様々だ」
 これはこの通りだった。
「あの博士はその中で最悪だがな」
「何かどうしてこの世に存在しているのかわからないですね」
 博士はそこまで異様な存在なのだった。
「無茶苦茶過ぎて」
「全くだ。人間なのかも怪しいな」
 彼等は頭を抱えるばかりだった。対策は打っておいても自分達でそれが上手くいくとは思っていないことが悲しい。何はともあれ話は動くのだった。それでも。 
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