八条学園騒動記
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第九十一話 鼻が頼りその十
「だからだよ。ああ、いい意味もあるぜ」
「あったの。ならいいけれど」
「それでもな。あのクラスじゃあんた達の悪口ばかりだ」
こうも言う。
「それも凄いぜ。エウロパとサハラみたいなものだ」
「エウロパとサハラみたいって何なんだよ」
「そんなに言ってるの」
マチアもジョンも今の表現には閉口する。エウロパとサハラといえばお互い犬猿の仲である。互いにいがみ合い衝突し合い罵り合っている。それは連合とエウロパの関係よりも酷い。連合にしろエウロパを敵視することにかけてはかなりのものであるがそれでもなのだ。
「馬鹿だの阿呆だの変態だのな」
「あいつ等性格悪いからね」
レミの言葉である。
「悪口しか言えないのよ、頭も悪いし」
「本当に嫌いなんだな」
「大嫌いよ」
本当に一言で感情を全部表現してみせた。
「好きになれって方が無理よ、あんな奴等」
「向こうも同じこと言ってるぜ」
「特にラビニアがでしょ」
「ああ、やっぱりわかるか」
ジョバンニはラビニアの名前を聞いて笑った。
「その通りだよ。あいつが特にな」
「あいつは特に性格が悪いのよ」
「全くだ」
「あんな性格の人見たことないよ」
「ワン」
マチア、ジョンだけでなくラッシーまで答える。一声鳴くその顔が不機嫌そうに見えるから不思議だ。
「それでどうしてあんなクラスに出入りしていたの?」
「ああ、本を貸していたんだ」
「本をなの」
「ちょっとな」
こうジョンに答えた。
「あそこの奴にな。同じアルゼンチン人のよしみでな」
「へえ」
「といっても漫画だけれどな」
それは言うのだった。
「貸していたんだよ。それを返してもらっていたんだ」
「そうだったの」
「そいつとだけだな、仲がいいのは」
ジョバンニは腕を組んで答える。
「よく考えたらな」
「あんたもあのクラスは嫌いなの?」
「いや、それは別に」
首を横に振って答える。
「ないな。好きでも嫌いでもない」
「そうなんだ」
「別にな。そういう感情はないさ」
そういうことらしい。
「そいつともあまり深い付き合いじゃないしな」
「ふうん」
「で、まあそれで教室を出たところで」
「私達と会ったのね」
「そういうことだよ」
こうレミ達に語るのだった。
「けれど意外だったよ」
ジョバンニはここでまた言う。
「まさかアンジェレッタのことを知ってるなんてな」
「匂いだよ」
ジョンが笑ってジョバンニに教えた。
「匂い!?」
「そうだよ。匂いなんだ」
「あっ、そういえば」
「ワン」
ラッシーに気付いたところでそのラッシーが鳴いた。
「ああ、そういうことだったんだな。俺の匂いでか」
「鋭いわね」
すぐにそれを察したジョバンニに対してレミが言う。
「そこまでわかるなんて」
「わかるさ。犬といえば鼻だろ」
ジョバンニは笑った。何処か大人びた、それでいて知的で勝気な感じのする笑みだった。
「だからさ。わかるんだよ」
「そうなの」
「そうさ。それでな」
彼はさらに言う。話は彼のペースになってきていた。
「話はやっぱりあれか。俺とアンジェレッタのことか」
「ええ、そうよ」
レミが答える。
「もうわかってるけれどあんたアンジェレッタと付き合ってるのよね」
「ああ」
あっさりと認めた。今更という話だったからだ。ジョバンニにしても認めなかったらどうかという話ではない。だから気軽なものであった。
「そうだよ」
「そう、やっぱりね」
レミはわかっていたが一応頷いた。
「それならわかったわ」
「で、俺が話すことは」
「馴れ初めだろうな」
マチアが言う。
「あんたとあいつの。それでいいか?」
「俺は別に構わないさ」
ジョバンニは何でもないといった態度で答えた。
「じゃあそれを話すな」
「ああ、頼む」
「御願いするわ」
三人と一匹はジョバンニからアンジェレッタとの出会いと付き合うようになった経緯を聞く。自然とその話に引き込まれていくのだった。
鼻が頼り 完
2008・5・5
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