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八条学園騒動記

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第九十一話 鼻が頼りその一


                     鼻が頼り
 かくしてアンジェレッタの恋人が誰か探すことになった三人と一匹。まずはレミが動いた。
「とりあえずね」
「ああ」
「何をするの?」
「あの用心深いアンジェレッタにどうにか気付かれないようにするかよ」
 それを二人に対して話す。
「どうにかしてね」
「考えがあるの?」
「ええ、あるわ」
 真顔で二人に答える。
「ちゃんとね」
「で、どうするの?」
 ジョンが彼女にあらためて問うた。
「まさかラッシーがただアンジェレッタの周りでうろうろするってわけじゃないよね」
「それじゃすぐにわかるわよ」
 笑ってそれは否定するのだった。
「そんな馬鹿なことはしないわ、絶対にね」
「じゃあもっと手が込んだやり方なんだな」
「ええ。まずはね」
 マチアに応えると共に説明をはじめた。
「私がアンジェレッタのところに行くわ」
「その本人のところへか」
「そう。それで彼女と普通に色々と話をして」
 まずはそれからはじめるというのだ。つまり彼女の関心や注意を自分に向けさせるというのだ。これがレミの作戦であるというのである。
「それでその間にジョンとラッシーが」
「匂いを嗅いでおくと」
「それでどうかしら」
 ここまで話して二人に問うた。
「この作戦で。いけると思う?」
「そうだな。悪くないな」
 マチアが腕を組んで考える顔でレミのその提案に答えてきた。
「オーソドックスなやり方だけれどな」
「オーソドックスだからいいのよ」
 ここでレミは楽しげに笑ってみせた。
「オーソドックスが一番難しいのよ。わかる?」
「そうなのか」
「そうなのよ、案外ね」
 それをまたマチアに述べる。
「それに何だかんだで効果があるしね」
「オーソドックスが効果があるか」
「逆に奇襲は思ったより効果がないのよ」
 レミはこうも言うのだった。
「見破られた時のダメージは大きいしね」
「オーソドックスだと見破られないのか」
「見破られてもダメージは小さいわ」
 答えながらにこりと笑ってみせた。
「そのうえすぐに次の策を出せるしね」
「次の策か」
「奇襲だとそれが失敗したら終わりじゃない」
 また随分と色々考えているのがわかる言葉が続く。話を聞いていると彼女がそうした戦術や駆け引きが得意なことがわかる。それもかなりの域に達していた。
「そうでしょ。失敗しても後が続くようにしないとね」
「それで終わりにしないでか」
「若しもの時の次の策も考えてあるわよ」
「ラッシーを使ってだよね」
「勿論」 
 にこりと笑ってジョンに言葉を返す。
「ラッシーがキードックなんだから。頑張ってもらうよ」
「キードッグね」
「キーマンだと人になっちゃうじゃない」
 これはいささか言葉遊びめいていた。
「だから。キードッグなのよ」
「そうだね。そうなるね」
「それで。マチアはね」
「ああ、俺か」
 今のところ何も出番がなさそうなので自分からそれを言おうとしていた。しかしそれよりも前にレミがその彼に対して言ってきたのであった。
「練習をしておいて」
「練習?」
「ええ、バイオリンの」
 こうマチアに対して告げるのだった。
「いいわね、それで」
「教室でか」
「いつもしてるじゃない」
 こうもマチアに告げる。
「だからよ。御願いね」
「それも戦術のうちか」
「ええ。アンジェレッタの注意をそちらに逸らす為のね」
 一つではないということなのだった。
「それに」
「それに?」
「この作戦が失敗した時の後の次の作戦への伏線よ」
「伏線か」
「若しもよ」
 前置きの口上を口にしてきた。 
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