八条学園騒動記
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第七十五話 明香の願いその五
「羊で。最近食べていなかったし」
「そうね」
彰子は妹の提案に対してあらためて考える顔になるのであった。6
「それじゃあやっぱりそれかしら」
「ええ。それで次は」
話はさらに進む。素材を買って終わりというわけにはいかないのである。
「ラムにするかマトンにするかだけれど」
「私はどちらでもいいわ」
彰子はこう答えてきた。
「羊の匂いも気にはならないし」
「そうなの」
「あれいい匂いじゃない」
彰子にとってみればそうなのであった。そのにこりとした満面の笑みがそれを明香にもはっきりと教えているのであった。明香にもそれがわかる。
「特に焼けた時なんかね」
「そうね」
そして明香も姉のその言葉にまた微笑んで頷いてみせる。
「確かに。あの匂いはね」
「明香も好きなんだ、やっぱり」
「ええ、好きよ」
その微笑みのままそれを認めてみせる。
「だって。本当に美味しそうな匂いだから」
「そうよね。特に焼いたら」
話がさらに進む。
「いい匂いがさらに」
「煮てもいいわよ」
話は調理法にも及ぶ。何でも料理できるのが羊のいいところである。かつて羊は古代中国では最高級の肉とされてきた。『美』という言葉が羊からきていることはあまりにも有名である。
「私はどちらというと焼いた方がいいかな」
「そうなの」
「どっちかというとだけれどね」
これは彰子だけでなくこの時代の日本人の羊に対するオーソドックスな嗜好であった。この時代は日本人も羊をかなり普通に食べるようになっている。肉食が完全に普及している証拠である。
「やっぱり焼いた方が」
「そうなの」
「その中でもジンギスカン鍋」
この時代でも人気メニューの一つである。
「やっぱりあれじゃないかしら」
「あれね」
明香もまんざらではないようであった。
「それじゃあ」
「明日はそれにしようかしら」
「そうね。けれど一応その前に」
明香はここで自分の鞄から携帯を出すのであった。そうしてすぐにメールを打つ。
「お母さんにメール?」
「ええ」
そう姉に答える。
「ジンギスカン鍋でいいかって」
「そうね。一応断った方がいいわね」
妹の行動に賛成してまた微笑んでみせる姉であった。
「やっぱり」
「そうね。だから」
メールしているのであった。それからすぐに返事が返って来た。
「それでどうなの?」
「それでいいみたい」
母から返って来たメールを見ながら姉に対して答える。
「マトンで」
「マトンなのね」
「それにお野菜も」
注文が何気に増えていた。
「モヤシに人参に」
「何に使うのかしら」
彰子はモヤシに人参と聞いて少し考える顔になるのであった。
「スープかしら」
「多分そうだと思うわ」
携帯を折って元に戻しながら姉に答えた。
「やっぱりその内容だと」
「生姜はお家にあったわよね」
「ええ」
それはあるのは二人共わかっていた。何気に欠かせない香辛料である。
「それと卵も」
「じゃあスープはあれかしら」
ここで彰子は少し考える。
「中華風のトリガラで」
「多分そうだと思うわ」
妹も姉と同じ予想になっていた。
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