八条学園騒動記
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第六十四話 円卓会議その三
「それがどうかしたか?」
「音楽選ぶわよ」
彼女は音楽について指摘するのであった。そこが問題であるというのだ。
「音楽か」
「ラテンだからね。明る過ぎる曲だと」
そこが問題だというのだ。彼女の指摘は中々鋭かった。
「かえってムードも。崩れるわよ」
「アルゼンチンタンゴとかならどうかな」
ウェンディの言葉に対してマルコはそう言ってきた。
「あれとかだとムードもよくなるよ」
「ああ、それはいいな」
アルゼンチン人のマチアがその言葉に笑顔になる。見ればラテン系のメンバーは皆マルコの言葉にしきりに頷いていた。賛成らしい。
「やっぱりあれはな。そうした場面のムードにいい」
「そうだろ?だから」
「じゃあそれも候補だね」
ピーターはまたメモを取った。
「これで二つか」
「もっと保険が欲しいな」
「そうね」
皆また話をする。かなり真剣になっていた。
「それにしてもマチアもセンスがいいわね」
ダイアナは満面に笑みを浮かべていた。彼女もチリ人でラテン系である。だから同じラテンのマチアの言葉に賛成しているのであった。
「中々いい感じじゃない」
「そうさ。それだから」
マチアも笑顔になって述べる。
「提案してみたんだが。よかったな」
「そうね。それで」
ダイアナは彼の話に頷いたうえでまた言うのだった。
「他に候補は」
「もう一つ提案してみようか」
ここでまたマルコが言う。
「もう一つ?何かあるの?」
「ああ。しっとりとしたのが続いているしな」
彼は考える顔で述べる。
「そのうえでだ。もう一つ決め手に」
「しっとりとね」
「しっとりで極めていきたいんだよな。何か」
マルコは笑いながらこう述べた。
「こういう場面ってな」
「あんたって意外とロマンチストなのね」
ダイアナは今彼女の意外な側面に気付いたのだった。
「少し驚いたわ」
「驚いたのかよ」
「だってねえ。いつも陽気だし」
マルコは明るい少年で知られている。だから皆こう思っていたのだ。それはダイアナも同じだったのである。
「しっとりって感じじゃなかったから」
「否定してえけれど否定できねえ」
マルコは本音をそのまま出した。
「苦しいな。こういうのって」
「まあそれでもいいじゃない」
だがダイアナは彼のそんな一面を笑って認めたのであった。
「それで誰かに迷惑かけているわけじゃないし」
「それもそうか」
「そうよ。それでよ」
話を戻しにかかってきた。
「どうするの?これから」
「これからか」
「何か考えてる?次の候補地」
「それだよなあ」
彼はあらためて思索に入る。腕を組んで真剣な顔になるのだった。
「並木道にカフェに」
「もう一押しが欲しいわ」
「公園なんてどうだ?」
彼はふと言ってきた。
「公園!?」
「あの駅前のな。あそこならムードがいいだろ?だから」
「ああ、あそこね」
ここで急にナンシーが話に参加してきた。
「あそこはいいわよ。ムードならもう最高よ」
「なっ、推薦もあったぜ」
マルコはそんなナンシーを手で指し示して述べる。
「じゃあこれで決まりだな、もう一つの候補地がな」
「ええ。けれど」
だがダイアナはここであることに気付いたのだった。
「一つ気になることがあるんだけれど」
「何だ?」
「あんたじゃないわ」
そうマルコに述べる。そして視線を向けるのは。
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