八条学園騒動記
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第七話 音楽は一つにあらずその二
「ちょっとね。マチアに提供した曲の方で」
「ああ、マチアにも曲提供してるの」
「そうなの。だから」
「わかったわ。それじゃあまた今度で」
「そうさせて」
そうルビーに答える。
「しかしマチアに曲提供してるとは意外ね」
「そうかしら」
今度はダイアナに応える。
「だってね、ヘビメタのあたしにも曲提供してくれて」
「小説も書いて漫画のアイディアも私やアンに出してくれるし」
ルビーも言う。
「多芸多才ってやつね」
「そうね。そこでクラシックまでって。やっぱり凄いわ」
「好きだからよ」
それがウェンディの返事だった。
「どれも好きだからできるのよ」
「好きだから、か」
「そういうこと」
「成程ね」
話を聞いた後でダイアナは納得したように頷いた。
「そういうことならわかるさ。あたしにはね」
「有り難う」
「けどさ、ウェンディ」
「何?」
「マチアと付き合ってるとかそんなのじゃないよね」
「マチアとは単なるお友達よ。クラスメートだから」
「クラスメート、ねえ」
今一つ曖昧な言葉で納得出来ないものもあるがそこはあえて言わなかった。
「まあいいわ。けれどあいつと付き合うのは考えものだよ」
「別に付き合ってはいないわよ」
「いや、そこで真面目に言われると」
どうにも困ってしまう。ダイアナはつい苦笑いを浮かべた後でまた言った。
「ただね、まあ聞いてよ」
「ええ」
やや強引に話を元に戻す。
「あいつと結婚したりしたら因果が出るよ、後で」
「因果って?」
「あんた達はいいんだよ。ただ」
「ただ?」
ダイアナは話すにつれ苦笑いから思わせぶりで少し意地悪い笑いを浮かべてきた。
「あんた達の子供に因果が出るんだ」
「何なの、それ」
ルビーもダイアナの話に興味を持って来た。そっと身を乗り出す。
「教えて、よかったら」
「ああ。呪いさ」
「呪い」
ルビーとウェンディの言葉が重なった。
「子供の髪の毛にね」
「髪の毛に」
急に教室の外から駆けて来る物音が聞こえてきた。
「何といってもあいつの額は」
「ちょっと待てーーーーーーーーーーっ!」
教室の扉をバン、と開けて背中にバイオリンケースを背負う少年が登場した。
「ダイアナ!今何を言おうとしている!」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーーーーーーーン」
「いきなり古い古典的アニメを出すな!そんなので誤魔化されてたまるか!」
黒茶色の髪に青灰色の目をした少し小柄な少年がそこにいた。茶色のネクタイのないスーツを着て黒い靴を履いている。わりかしお洒落で顔立ちも子供っぽくてそれでいて元気のいい顔をしている。だが額が結構広かった。
「俺が禿だと言いたいのか!」
「誰もそんなの言ってないわよ!」
「言おうとしてたじゃないか!」
少年は反論する。彼がそのルチアで本名をルチア=ペトモローラという。吹奏楽部に所属していてこのクラスの一員でもある。実は額のことをかなり気にしている。
「言っておくが俺は禿じゃない!」
ムキになって主張する。
「それをまず言っておく!」
「あんたそれいつも言ってない?」
ダイアナは彼にそう突っ込みを入れる。かなり醒めた態度である。
「よっぽど気にしてるのね」
横目でルチアを見て言う。左手で頬をつきながら。
「そうじゃなきゃそんなに言わないわよ」
「ううっ、別に気にしては」
「ルチア君、そのね」
ルビーが彼をフォローしようとして言う。
「あの、髪の毛は今は幾らでも治療法が」
「だから違うんだ!」
余計に話が悪化した。
「俺は禿じゃない!これは元からだ!」
「つまり元からそうだってことね」
「おい、まだ言うのか!」
ダイアナはあくまできつかった。
「そもそもさ」
「何だ!?」
「あんたの親戚で禿げているのいるの?」
「いや、いない」
それはすぐに否定した。
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