八条学園騒動記
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第五十九話 兄その六
「これもいけるが」
「それも好きよ」
七海はまたにこりとして述べた。
「お酒に合うわよね」
「琉球の酒にな」
やはりダンはそれであった。
「かなり合う」
「焼酎にも?」
「勿論だ。やるか?」
「ええ、もらうわ」
ダンの向かいの席が空いていたのでそこに座る。そうしてから盃を手に取ってダンの酌を受ける。それだけでもう雰囲気は出来上がっていた。
「まずは一杯ね」
「焼酎もいいものだな」
「そうでしょ」
七海はにこりと笑ってダンに応える。
「程よい強さでね」
「俺はこれなら幾らでもいける」
ダンも意外と酒豪であった。
「それこそな。何処までも」
「強いのね、あんたも」
「御前もな」
またニヤリと笑って七海に告げる。
「かなりのものらしいな」
「泳いでいるとお腹が減るのよ」
水泳部である。そこを言ってきた。
「だからよ。幾ら飲んでも食べても」
「足りないか」
「そういうこと。これは本当よ」
それを態度でも示す。次から次にとミミガーだの足てびちだのを食べていきそれから酒をぐいぐいと飲む。どうやら彼女もかなりいけるくちのようだ。
「だから今だって」
「しかしだ」
ここでダンは注意するような口調になった。
「何?」
「まだ次があるんだぞ」
こう忠告してきたのだった。
「次がな。わかっていると思うが」
「ええ、勿論よ」
当然と言わんばかりに言葉を返す。焼酎をぐい、と一口で飲んだ後に。
「彰子ちゃんのお兄さんのお料理よね」
「さて、何が出るか」
ダンは楽しげな笑みを浮かべるのだった。
「京風だ。果たして何か」
「京都っていると何だったっけ」
そういうのには疎い七海はダンに尋ねた。
「私ちょっと知らないんだけれど」
「多いのは豆腐だな」
「豆腐なの」
「あとは鱧だ」
これも欠かせない。京都で夏といえば鱧であった。祇園祭は鱧が食べられるという理由から鱧祭とも言われているのである。京都人にとって鱧とは特別な存在なのだ。
「吸い物に刺身に揚げ物にな」
「お吸い物」
それを聞いた七海の言葉が止まった。
「何か美味しそう」
「お吸い物好きか?」
「大好き」
今にも喉を鳴らさんばかりの言葉であった。
「それもかなりね」
「そうか、それは意外だな」
「そうなの」
「いや、そう思っただけだ」
これは単にダンのイメージだけの言葉であった。七海に対する。
「単にな」
「ふうん」
「それで何が好きなんだ?」
ダンはそこも七海に尋ねるのだった。
「吸い物が好きとしてもだ」
「鯛ね」
好みとしてはオーソドックスであった。実にいい。
「やっぱりあれが一番じゃないかしら」
「そうだな。あれはいい」
ダンもそれに同意して頷く。
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