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八条学園騒動記

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第六話 赤い髪の漫画家さんその一


                  赤い髪の漫画家さん
 イスラエル出身の長く後ろで二つにした赤毛に緑の目の女の子はアン=エザク。漫画が大好きで部活も漫画研究会に所属している。クラスでもよく漫画を描いている。
「ねえ小式さん」
「私!?」
 いきなり彰子に声をかけてきた。かけられた彰子は机の上でネームを描いているアンに顔を向けてきた。
「そうよ。相談があるのだけれど」
「相談って」
 澄ました顔のアンに穏やかな顔の彰子という組み合わせは少し妙な感じがしないわけでもない。だが二人はそれは気にはしていなかった。
「今度の新作だけれど」
「うん」
「主人公のモデルにしていいかしら」
「私が漫画に出るの!?」
「ええ」
 こくりと頷く。
「どうかしら」
「うん、よかったら描いて」
 彰子としては断る理由がない。二つ返事であった。
「どんなふうにしてもいいから」
「わかったわ。じゃあ」
 それを聞いてネームに顔を戻す。そのままノートに色々と書いていく。
「ああ、アンもう書いてるのね」
「うん」
 そこに黒髪に赤い肌を持つ小柄な女の子がやって来た。ルビー=ハイマー、キューバから来ている女の子だ。アンと同じく漫画研究会に所属していて一緒に描いている。
「小式さんから許可出たし」
「そうなの。いいの、小式さん」
「私は別にいいよ」
 そんなことは気にしない彰子である。断る筈もなかった。
「アンちゃん、好きなように描いていいからね」
「わかったわ。それじゃ小式さんはヒロインでお金持ちのお嬢様」
「うわあ、凄くいい役」
「ルビーがその親友でスポーツ万能、と」
「実際の私は運動苦手だけれどね」
 そう言って苦笑いを浮かべる。実は彼女は運動が不得意なのだ。スポーツで有名なキューバ出身でもだ。
「あとレミも出して」
「悪いね、出してもらって」
「いいのよ。それでお笑い担当は」
「きっと蝉玉ね」
「どういう意味よ、それ」
 蝉玉はルビーに言われてむっとした顔を見せる。
「だっていつも騒がしいんだもん」
「私は別にそんな」
 言われるとかえって腹が立つ。自覚はあったとしてもだ。
「蝉玉は彰子のライバル役よ」
「あら、それは意外ね」
「だってお笑い担当はいるから。それは」
「それは!?」
「委員長」
「何だとっ、この僕が」
 眼鏡をかけ服装も髪形もキチンと整えた生真面目というよりは堅苦しく、堅苦しいというよりは暑苦しい黒髪の少年が声をあげてきた。彼がこのクラスの委員長であるギルバート=フォン=ザクロイド。マレーシア出身だが何でも先祖がドイツ出身のアメリカ人で改宗してムスリムになり華僑の奥さんと結婚して日本に移住してそこから子孫がマレーシアに移住してタイ人とまた結婚してそこからオーストラリアに移ってまたマレーシアに戻って今度はベトナム人の奥さんを貰ったのがルーツという今度聞いたら絶対に本人でも間違えそうなルーツの持ち主である。
「何故僕がお笑い担当なんだ、言ってみたまえエザク君」
「何となく」
 それに対するアンの返事は素っ気無いものであった。
「気分でそうしたの」
「馬鹿な、僕がどうして」
「似合ってるよな、マジで」
「そうだね」
 スターリングは茶色でソバカスのある青い目の少年の言葉に頷いていた。彼はトム=ドビンズ。カナダ出身でやはりこのクラスの一員である。
「僕ならこう熱血格闘漫画の主人公とか」
「熱い漫画は今は描かないの」
「ならロマンスものとか」
「気が向かないわ」
「ファンタジーとか」
「コメディタッチならいい?」
 アンはギルバートの方を振り向くことなく言葉を返していく。
「どちらにしろ出すから。いいわね」
「何で僕には許可を取らないんだ!どうしてだ!」
「まあまあギルバート」
 ルビーが彼を宥める。
「落ち着いてね。漫画なんだし」
「クッ、アン君は僕を何だと思っているんだ」
「クラスの学級委員」
「それはそうだが」
「だったらそれでいいじゃない」
「よくない!話はまだ」
「それでねルビー」
「うん」
 意識してかしてないか。ギルバートを放っておいてルビーと話をはじめた。
 
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