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とある完全模写の物語

作者:廃音
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信じた先にあるもの

「どういうつもりだい?光輝」

 とある高層ビルの屋上に件の三人は居た。

「言った通りだ。あの男に一日だけ時間を預けた」

「それがどういうつもりだと聞いているんだ!」

 神堂の答えに珍しく声を荒げるステイル。それ程事態は緊迫しており、インデックスに残された時間は少ないのだ。

 その事については神堂も火織も重々承知している。寧ろ神堂と火織も今すぐインデックスの記憶を消したいのだ。恐らくそろそろインデックスは能力の副作用が出始める時間だろう。そうなれば苦しむのは彼女だ。記憶を消す俺達もかなり辛いが、彼女が苦しみ、死ぬよりはマシだ。と此処にいる三人は皆同じ意思を持っている。

「俺はあの男に希望を掛けた。あの不思議な力を持つ男に」

「君はっ…!」

 神堂の言葉にスイテルは顔を歪め、拳を強く握り締めた。

「待ってください!」

 今すぐにでも神堂を殴りそうな勢いのステイルの前に火織が割って入る。

 今回の件は神堂の独断ではなく、火織も神堂の考えに賛成しているのだ。

 二人とも頭の中では理解している。自分達がどれだけ愚かな行動を取っているのか、どれだけやってはいけない事をしているのかは。だが神堂は賭けずにはいられなかった。あの不思議な力を持つ少年に、曲がらない信念を持ったあの少年に。

「君達はどう言う事をとったのか分かっているのかい?…今も!今こうしている間にも彼女は苦しんでるかもしれないんだぞ!?それは君達も分かっているだろう!」

 ステイルの悲痛な叫びに神堂と火織は何も答えられない。

「なのに見ず知らずの男に一日時間を与える?馬鹿げてるとは思わなかったのかい?」

 インデックスの記憶は持ってあと三日。確かにあと三日の猶予はある。そう考えれば一日の時間はまだ大丈夫かもしれない、と考えてしまうかもしれない。

 だが決してそうではない。この三日間の猶予と言うのは持って三日と言う意味であり、三日間立たなくとも、インデックスが死んでしまう可能性は充分にあるのだ。

 だからこそステイルは一日と言う大きな時間を見ず知らずの少年に託した神堂に腹が立っているのだ。自分達の大切な仲間が死ぬかもしれないと言うのに。

「お前の言いたい事は分かっているつもりだ…俺が今回愚かな選択を取ったと言う事も分かっている」

「なら…!」

「ステイルだって何となく分かってるだろう?あの男は何処か普通の人間とは違うと言う事が」

「…」

「それが何かは俺にも分からない。だが…あの男は信用に値すると俺は判断した。だから俺はあの男にかけてみる事にしたんだ」

 神堂が言っている事は滅茶苦茶だろう。

 自分がそう感じたから信じてみる。それがどれだけ信ぴょう性のない言葉か。それは今日宝くじが当たりそうだから、宝くじを買ってみる、とほぼ同じだろう。

「責任は全て俺が取るつもりだ。だから…ステイルも一日だけ我慢してくれないか?…頼む!」

「!!」

 人に頭を下げる、と言う事を決してしない神堂が頭を下げた事にステイルは驚く。ステイル動揺、火織でさえも目を丸くして驚いている。

 そしてそれを見たステイルは考える。

 確かにステイル自身もあの少年には何かを感じていた。あの不思議な力も込みで、あの少年が普通の人間とは何処か違う、と言う事を。

 それは決して今回の賭けに値する事ではないが、それでも神堂と言う自分が信用している人間がこうもあの少年を信用しているのだ。人を信じる事があまりない神堂が、今日始めてあったばかりの少年を信じる。それがどれ程珍しい事か。…つまりそれだけあの少年には何かがあると言う事だ。

「分かったよ」

「ステイル…」

「一日だけだからな!それ以上の猶予は与えない」

「ああ。分かっている―――ありがとう」

 神堂に礼を言われ、どこが複雑そうな表情を浮かべるステイル。

「君が僕にお礼を言うなんてね。明日は矢の雨でも降るんじゃないか?」

 ステイルの言葉に思わず笑ってしまう火織。

 実際神堂が人に礼を言う事は少ない。先程人に頭も下げないと言ったが、人に礼をすることも少ない。単純に礼儀がなっていない、と言うよりは信用しない人間には近寄らないだけなのだが。

 それでも、ずっと一緒にいるステイルと火織でさえも神堂に礼を言われた事は数える程度しかないのだ。ましてや先程頭を下げられたのは始めての事。

「失礼な奴らだな。俺だってお礼と言う時は言うさ」

「君はそれが少ないから驚いているんだよ」

「むぅ…」

 ステイルの言葉に思い当たる節が幾つもある神堂は言い返せない。

「それじゃあ僕は行かせてもらうよ」

「…?何処に行くんだ?」

「君の部屋だよ。僕はそこで待機させてもらう事にする。光輝はどうするんだい?」

「俺はあの男の元に行ってみる。何をするか自分の目で見ていたいからな。火織は?」

「私は光輝に付いていきます。私も気になりますので」

 これで全員がこれからどうするか決まったのだが、火織の言った言葉を聞いてステイルがニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

「神裂は何時も光輝の隣にいるね。そんなに光輝の事が好きなのかい?」

「なっ!!」

 一気に顔を赤くする火織。

「な、なな、何を言い出すんですか貴方は!」

 誰がどう見ても動揺を隠せていない。

「だって本当のことだろう?現に君は―おわッ!」

 現に君は光輝にべったりじゃないか―そうステイルは言おうとしたのだろうが、その言葉を言い切る前に、ステイルの眼前を何かが通りすぎる。

 ステイルは嫌な予感を持ちながらも火織の方に視線を向け、そこで見たのは、七天七刀を手に持ち構えている火織の姿だった。

 戦闘に慣れているステイルでさえも見えない程の速度を持つ攻撃。これが聖人と呼ばれる特殊な力をもった人間の力だ。

「い、いい加減にしないと本当に斬りますからね!」

 当然冗談で火織はそう言っているのだろうが、七天七刀を向けられたステイルからすれば本当に斬られると思ってしまい、ステイルは直ぐ様背後を見せ、ビルから姿をくらませた。

 それを見た火織は大きくため息を零し、チラリと横目で神堂の方を確認する。

 しかし、神堂の様子は先程となにも変わらず、至って普通。特に取り乱した様子はなにもない。

 それを見た火織は何処か安心した気持ちになるが、それと同時にモヤモヤとした何かが胸を奥に渦巻く。

(この人は本当に…)

 鈍い。

 これは何時も火織とステイルが感じている事。

 神堂は基本女性から好意を向けられてもそれに気付く事はあまりない。余程過激な行動に出られた時には流石に気づくが、今のような火織の行動程度ではまず気づかない。つまり鈍感な男と言う事だ。

 …それも仕方がないと言えば仕方がないのだが。

 神堂が身を置く周辺の都合上、恋愛と言うものに関わった事が彼には一度もないのだから。最も、それが鈍感につながるのかと言われればなんとも言えない所。

「どうした?早く行くぞ?」

「…分かりました」

 これは今に始まった事じゃない。そう火織は自分の中で思いながら神堂の後に続くのであった。

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後書き
後日更新…かな? 
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