八条学園騒動記
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第二百四十八話 記事その八
「今ってね」
「今ですか」
「お月様がないから」
上を見上げる。するとだ。
月はない。この星の月は幾つもあるがどの月もだ。出てはいなかった。
「だから。暗いわね」
「そうですね。確かに」
「こうした時にこそね」
ナンシーの話がここで変わった。
「出て来るのよ」
「変質者がですか」
「そう、月のある夜ばかりじゃないから」
昔からよく言われている言葉だった。
「だからね」
「じゃあ余計に用心しないといけませんね」
「もうすぐ私の部屋だけれどね。それでもね」
「はい、気をつけないと」
そんな話をしていた。その矢先だった。
不意にだ。二人の前にだ。
何かが出て来た。それは。
得体の知れない巨大な生き物だった。変質者どころではない。
その巨大な生き物の姿は暗がりの中なのでよくは見えない。それが一体どういう存在なのか二人は識別できなかった。しかしだ。
身の危険を察した。それでだった。
ナンシーはすぐにだ。後輩に対して言った。
「逃げて」
「逃げてって?」
「これ、危ないわよ」
こう彼に言うのだ。
「何かはよく見えないけれど」
「いえ、ここは」
「いえって?」
「僕が食い止めますから」
後輩は無意識のうちにナンシーの前に出た。そのうえでだ。
彼女をその謎の生き物から庇いながらだ。こう言うのだった。
「先輩は今のうちに」
「逃げろっていうの?」
「お部屋、もうすぐですよね」
前にいる謎の生き物を見ながらだ。後ろにいるナンシーに話す。
「それでしたら」
「今のうちに逃げろっていうのね」
「僕も後から追いかけますから」
だからだ。そうしろというのだ。
「先輩は今のうちに」
「駄目よ、そんなの」
そう言う後輩にだ。ナンシーは必死の声で言い返した。
「そんなの絶対に駄目よ」
「絶対にって」
「そうよ。君一人で行かせてどうするのよ」
眉を思いきり顰めさせてだ。ナンシーは言うのだ。
「自分が盾になるつもりでしょ」
「盾にって」
「あのね、何かあった時は一緒よ」
ナンシーの考えはそのまま出ていた。出してしまったのだ。
「例え変質者が出てもね」
「それが出ても?」
「こういったものもあるし」
ナンシーは懐から色々と出してきた。三段式の特殊警棒にスタンガン、それに警報ブザーだ。その他にも匂い玉等色々とある。
そうしたものを出してだ。後輩に言うのだ。
「だから大丈夫だから」
「何か一杯持ってますね」
後輩はそのナンシーを後ろ目で見ながら述べた。
「全部護身用ですか」
「そうよ。君もこれ持って」
「警棒ですか」
「二本持ってるから」
見れば同じ特殊警棒をもう一本出してきていた。それを後輩に手渡してだ。
彼女はだ。また言うのだった。
「その他にも一杯あるから」
「じゃああの生き物も」
「ええ、二人でね」
意を決した顔でだ。後輩に言うナンシーだった。
「護身術は知らないけれど武器があれば」
「何とかなりますね」
「ええ、だからね」
そんな話をしてであった。彼等はだ。
謎の生き物に向かおうとする。見ればその生き物は。
異様に大きい。背の高い後輩よりもまだ高い。そしてしっかりとした身体をしている。足は四つの様だ。そして目が夜の中で光っている。
その生き物に二人で向かおうとする。そこにだ。
何処からかだ。女の子の声が聞こえてきたのだった。
「ああ、そこにいたのね」
「そこ?」
「そこっていいますと」
「全く。夜の散歩もいい加減にしなさいね」
声は次第に近付いて来る。そうしてだ。
謎の生物のところに来てだ。こうその生物に言うのだった。
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