八条学園騒動記
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第二百二十一話 ニホンオオカミその七
「今度からね」
「農学部もですね」
「ええ、時々行きましょう」
ナンシーはホットコーヒーを飲みながら後輩に話す。白い店の中にそのコーヒーだけが黒い。全てが白の中での黒であった。
「あそこにね」
「そうですね。ニホンオオカミですか」
「いいわよね」
笑顔で言うナンシーだった。
「何かね」
「そうですね。格好よかったし」
「それでいて可愛かったし」
「これも」
後輩はここでぬいぐるみを出してきた。先程貰ったそれをだ。
「いいですよね」
「そうね」
ナンシーもそのぬいぐるみを出してきて見ながら話す。
「可愛いわよね」
「格好よくないですか?」
「私にはそう見えるわ」
そうだというのだった。
「可愛くね」
「そうですか。可愛くですか」
「私はそう思うわ」
これがナンシーの見たそのぬいぐるみだった。どちらも全く同じぬいぐるみだ。しかしそれでも彼女は可愛いと言い後輩は格好いいと言うのだ。
「そこは違うわね」
「そうですね。捉え方は」
「それでも。何か」
また言う彼女だった。
「いいわね」
「はい、このぬいぐるみ」
「ずっと持っていましょうね」
「ええ、それは」
「絶対にね」
こう後輩に話した。
「そうしましょう」
「先輩ってそういえば」
後輩はナンシーの今の言葉にふと気付いたように話した。
「あれですよね。ぬいぐるみお好きですよね」
「わかるの?」
「わかりますよ。前からぬいぐるみあればすぐ買いますし」
「女の子だから」
ナンシーはそこに理由をつけて言い訳にするのだった。
「だからよ」
「女の子だからですか」
「そうよ。女の子はぬいぐるみが好きなのよ」
少しバツの悪い顔になって話す。
「それでなのよ」
「それでなんですか」
「ええ、そうよ」
また言うナンシーだった。
「それでなのよ」
「じゃあ女の子は皆ぬいぐるみが好きなんですか」
「少なくとも私はね」
言葉のトーンがやや下がった。
「そうよ」
「成程、じゃあ今度からは」
「今度からは?」
「プレゼントにぬいぐるみを入れますね」
そうするというのであった。
「それ駄目ですか?」
「駄目じゃないけれど」
ナンシーの顔は今度は困ったものになった。そうしてそのうえで彼に対して話すのだった。本当にいささか困った感じになっている。
「ただ」
「ただ?」
「恥ずかしいわね」
ここで顔が赤らんだ。
「やっぱり。そういうのって」
「恥ずかしいですか」
「ええ」
小さくこくりと頷いた。
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