八条学園騒動記
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第二十七話 草原の料理その四
「これは牛乳じゃないな」
ダンが言ってきた。
「この味は」
「馬乳よ」
ナンは彼に答えた。
「だって牛はモンゴルじゃいないから」
「ああ、そうだったわね」
ジュディはそれを聞いてすぐにわかった。
「モンゴルでの放牧は羊だからね」
「そういうこと」
「そうなの」
それを聞いたパレアナがジュディに問うてきた。
「モンゴルって」
「牛って農業に使ってたじゃない」
「ええ」
今でもかなり使う。この時代の農法はかつての農法も取り入れた機械と生物両方を使ったものなのである。だから牛も使われるのである。他には水田に魚や鴨を放してそれに寄生虫を食べさせたりする。農薬も使うがそうした生物を使う方が遥かに多くなっている。
「モンゴルじゃ農業ないから」
「そうか」
「そうよ」
ジュディが応える。これでわかった。
「馬のお乳もいいものでしょ」
ナンは笑って皆に言う。
「他にもあるし」
「他にもあるの」
「そうよ、ビャスラグとか」
「今度は何なの?」
「チーズよ」
ナンはその質問にも答える。
「他にもバターとかヨーグルトもあるし。モンゴルじゃ乳製品が主体なのよ」
「へえ」
「だからか」
ジョンが納得したように頷く。ナンはそれを見て問うてきた。
「何か納得するものでもあったの?」
「いやさ」
ジョンはナンに応えて述べる。
「ナンの身体の強さだよ。乳製品を食べているからなのか」
「勿論今はそれだけじゃないけれどね」
彼女はにこりと朗らかな笑みを浮かべて述べた。
「お肉もそうだし野菜や果物も食べるし」
「食生活は変わらないのね、私達と」
「今はね。やっぱり遊牧民でもね」
笑いながら述べる。
「それでもやっぱり乳製品とお肉が多いけれど」
「成程」
「あと血も飲むし」
「血をか。そうだったな」
ギルバートはそれを聞いて少し嫌そうな顔をした。イスラムの戒律では血を飲んだりはしない。連合ではそこはかなりアバウトになっているがどうやら彼は動物の血は好みではないらしい。しかし連合では動物の血を飲んだりするのもわりかしポピュラーである。
「モンゴルでは飲むのだったな」
「飲むだけじゃなくて料理にもするし」
「ふうん、そうなんだ」
彰子はそれを聞いてやけに納得していた。
「それも元気が出るよ。美味しいし」
「そうなのか。それでだ」
「うん、いい頃ね」
ダンに応える。見ればもう肉が煮えてきていた。
「食べて。モンゴルの郷土料理チャンスンマハッよ」
「骨付き羊肉の塩茹でね」
「そうよ。そのまま食べていいから」
パレアナに応えながら今度はペットボトルをどんどん出してきた。
「それでこれと一緒にね」
何か白く濁った飲み物であった。一見すると濁酒に見える。
「それ何?」
「馬乳酒」
そう答える。
「モンゴルっていったらこれでしょ。皆どんどんやって」
「いいな、それは」
ダンはその酒を見て目を細めてきた。
「肉に酒か」
「そういうこと」
「ううん」
しかしアンはそれを見て困った顔を見せてきた。
「じゃあ私はお肉はいいわ」
「あれっ、嫌いだった?」
「違うわよ。戒律よ」
彼女は言う。ユダヤ教では肉と乳を一緒に食べることは禁じられているのである。こうしたところがかなり厳しいのがユダヤ教なのである。だからイスラエルではチーズバーガーは食べられないのである。
「チーズとお酒だけもらうわ」
「わかったわ」
それににこやかに応えてアンにもお酒を渡す。そしてチーズも。
「じゃあまあお肉だけれど」
「意外とあっさりしてるな」
ダンは骨のところを掴んで手に取る。それを口にしてから述べた。
「塩味だけで」
「そうでしょ。これが本来の味なのよ」
ナンは彼に応えて言う。
「それはそれで美味しいでしょ」
「ああ」
彼はその言葉に頷く。
「ただ、胡椒はしてあるな」
「それはね。本当はしないんだけれど」
「じゃああれ?」
ジョンも肉を食べている。肉と酒を楽しみながら言ってきた。
「本当に塩だけだったの」
「昔はね。塩もない場合があったと思うわよ」
「うわ」
皆それを聞いてかなり引いた。そんな料理なぞ考えられなかったからだ。
「それはかなり」
「お醤油もそうなの?」
彰子は日本人らしく醤油を出してきた。和食は醤油だけでもいけるのである。刺身はそれに山葵で充分だ。しかしモンゴル料理に果たしてそんなものがあるのだろうか。ナンはその言葉にも答えた。
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