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八条学園騒動記

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第二十七話 草原の料理その三


「あるじゃない」
「あるじゃないって何だ?」
 ダンはそれに問う。
「何もないんじゃ」
「羊がいるじゃない」
 ナンはにこにこと笑って述べる。
「羊毛か?そんな訳ないよな」
「羊の毛は服にするのよ。皮もね」
「そうだよな」
 羊はただ食べるだけではない。羊毛は実に貴重な資源なのである。今でも羊の放牧はそうやって利益を得ているのである。それは誰もが知っている。
「それで羊?」
「だから糞よ」
 ナンは述べてきた。
「糞!?」
「そう、それを燃料にするのよ」
 彼女は言う。
「わかったかしら」
「ああ、成程ね」
 それを聞いてジュディが頷く。
「羊のうんこを燃やしたらね。そうなるわね」
「流石に今はしていないわよ」
 笑ってこう言う。
「もっといい固形燃料が一杯手に入るしね。羊のうんこは肥料に売るのよ」
「そういうわけね、わかったわ」
 パレアナもそれで納得した。
「そういうのならね」
「そういうことなのよ」
「草原の生活って中々凄いんだね」
 ジョンも他の皆もそれを聞いて頷くことしきりであった。
「そういうわけでもないわよ。今じゃノートパソコンや携帯テレビもあるしね」
 意外と贅沢ではある。
「別にね」
「それでナンちゃん」
 話が一段落したところで彰子が声をかけてきた。
「何?」
「料理のことだけれど。何なの?」
「まあ中に入って」
 ここで彼女は皆に声をかけてきた。
「まずはね。それで話をしましょう」
「そうね。何か結構寒いし」
 パレアナが言ってきた。
「中でね」
「そう。すぐに食べ物出すから」
 ナンも言う。
「食べながら話しましょう」
「了解」 
 こうしてパオの中で話をすることになった。パオの中はかなり広く皆が入られた。中は簡素なもので部屋の端に携帯用のパソコンにテレビ、電話の他はさしてない。折畳み用の椅子や机、そして寝袋といった程度である。やはり簡素だ。ナンはそこで一匹の犬と一緒にいたのであった。
「テムジンっていうのよ」
 ナンはその大きく何処か狼に似た犬の頭を撫でて言った。
「狼犬なのよ」
「へえ」
 皆それを聞いて声をあげた。
「狼の血を引いてるの」
「そうよ。モンゴルだからね」
 片目を瞑って述べてきた。
「狼なのよ」
 モンゴルでは狼は神聖な生き物であるとされている。モンゴル帝国のことを書き記した元朝秘史では蒼き狼と白き牝鹿こそがモンゴル人の祖先であるとしている。なおナンの犬のテムジンは言うまでもなくモンゴル帝国の開祖チンギス=ハーンの若き日の名前である。
「賢いんだから」
「その名前でわかるよ」
 ジョンが笑顔で言ってきた。
「いい名前だよね」
「そうでしょ。太祖の名前だからね」
 ナンは胸を張って言ってきた。
「賢くならないわけがないわ」
「そうだね」
 どうやらナンもトップブリーダーのようである。遊牧民の生活に犬は欠かせない。だから彼女も犬を大切にしているのであろう。
「それでさ」
 またパレアナが言ってきた。
「食べ物は?」
「うん、これね」
 パオの中央にある鍋を指差してきた。かなり巨大な鍋である。その中には羊の骨付き肉がかなり入れられていた。
「これがメインよ」
「やっぱりそれね」
「そういうこと。どう?」
「かなりいいわ」
 ジュディが合格を出してきた。他の皆も何も言わないところを見ると合格なのだろう。
「けれど煮えるまでには時間がかかるみたいね」
 だがここでパレアナが言ってきた。
「その間どうするの?」
「これ食べて」
 ナンはその言葉に応えるとすぐにあるものを出してきた。どれも白い食べ物であった。
「チーズ?」
「まあそうよ」
 皆にそれを手渡して述べる。
「ホロートっていうの」
「ホロート?」
「簡単に言うと乾燥チーズよ」
 ナンはそう説明してきた。
「そう言えばわかるかしら」
「ああ、そう言えばそうだね」
 ジョンがそれに応える。
「そんな感じで」
「そうでしょ。美味しいから」
「うん」
 食べてみる。それは独特の味がして確かに美味かった。だがふと気付くことがあった。
 
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