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八条学園騒動記

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第百六十八話 お客は色々その二


「上品ぶっていてもね」
「何かそれじゃあたかが知れてるわね」
「普通お皿は」
「こうするのが当然でしょ」
 言いながらベンが自分が洗ったその皿を奇麗にゆすぐのを見ている。
「今のあんたみたいにするのがね」
「そうだよね、やっぱり」
「常識じゃない」
 また言うのであった。
「そんなのって」
「シャワーを浴びた後は」
「泡を全部じっくりと落とす」
 レミは断言さえしてみせた。
「そうじゃないととてもね」
「だよね。何でエウロパではそんなことするんだろう」
「ああ、それはな」
 ここで、であった。丁度メニューを作り終えたタムタムが二人のところに来た。そうしてそのうえで彼等に対して言ってきたのである。
「今はそれはしていない」
「していないんだ」
「ちゃんと水で流してるのね」
「身体もお皿もな」
 どちらもそうしているというのである。
「ちゃんと水で泡を流し落としている」
「じゃあこの話って」
「デマなの?」
「デマかというとそうでもない」
 それもまた否定するタムタムだった。
「それもだ。違う」
「じゃあどういうことなんだろう」
「それって」
「地球にあった頃の話だ」
 その頃だというのだ。
「地球にあった頃のイギリスはそうしていた」
「泡を拭くだけで」
「それで終わりにしていたのは」
「地球にあった頃だけだ」
 またこう話すのだった。
「少なくとも今じゃない」
「地球だった頃の話だったんだ」
「まさかって思ったけれど」
「地球にあった頃は水を奇麗にする技術もまだ弱かった」 
 まずは技術的な問題もあった。
「それにイギリスは水が少なかったからだ」
「ああ、それでなんだ」
「泡を長し落とさなかったのね」
「今みたいに砂漠でも水が好き放題使える時代でもなかった」
 それはあくまで今だからの話しなのだった。
「だからそうなっていた」
「別に怠け者とかそういうのじゃ」
「なかったの」
「必要にかられてだったということだ。そもそも」
「そもそも?」
「今度は一体」
 タムタムの話をさらに聞く二人だった。その間も手を止めてはいない。
「欧州の水の悪さは全土の問題で風呂にしてもだ」
「だから何年にも一度なんて話だったんだ」
「年に四回も贅沢だったのね」
「そういうことになる。水も贅沢なものなんだ」
 タムタムはこうも述べた。
「今のこの時代の俺達とは違うということだ」
「成程」
「そういうことね」
 二人はそれを聞いて納得したのだった。
「それでなんだったんだ」
「わかったわ」
「少なくとも今はそういうことはない」
 あらためて言うタムタムだった。
「そしてだ。今から」
「今から?」
「どうするの?」
「メニューを出して来る」
 話は自然と仕事のそれに戻っていた。
「それじゃあな」
「うん、じゃあ」
「そっちも御願いするわね」
 二人は今は平和にタムタムを見送った。そうしてタムタムが店に出ると。そこには一見しただけで普通ではない客も大勢座っていた。 
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