八条学園騒動記
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第百六十七話 酒のないロシアその三
「どんなのかはね」
「見てみてね」
「どんなのが出て来るのかな」
「あとロシアンパンケーキ」
そういったものもあるのだという。
「これはわかるかしら」
「ジャム?」
「ジャムがあるの?」
皆それを聞いてすぐに察した。
「上にジャムをかけるパンケーキ?」
「それ?」
「そう、それよ」
まさにそれだというのである。
「それはどうかしら」
「何か平凡?」
「ロシアにしては」
何気に随分と失礼な言葉である。なおこの時代もロシアという国は何事につけても恐怖に値する国家とされている。民主主義になってもロシアなのである。
「けれど何か面白くないわよね」
「そうだよね、ロシアだし」
「美味しそうではあるけれど」
「美味しいわよ」
それは保障するアンネットだった。
「フレンチケーキもロシアンパンケーキもね」
「じゃあ僕フレンチケーキ」
「私はロシアンパンケーキ」
皆メニューを決めてきた。そうして中には。
「ロシアンケーキ」
「それを貰うわ」
「よし、それね」
ロシアンケーキと聞いてここぞとばかりに微笑むアンネットだった。
「それでいいのね」
「ええ、それでね」
「頼むよ」
ロシアンケーキを頼んだ彼等は言う。
「畏まりました」
ここではウェイトレスに戻る。
「それではこちらの席に」
「接客は普通なんだな」
「意外っていうか」
「だって。ロシア人よ」
ここではまた素に戻るアンネットだった。客達の後ろを振り向いて言う。
「ロシア人は素朴で親切で無欲なのよ」
「それがなあ」
「嘘っぽいよなあ」
「ロシア人っていったら」
ここで彼等がイメージするロシア人が語られていく。
「お酒が」
「だから酒乱って」
「まあお酒飲んで暴れる人は確かに多いけれど」
アンネットもそれは否定できなかった。酒乱は人類の永遠の問題の一つである。
「それでもよ。皆いい人達よ」
「そうなんだ」
「そうよ。だから私もよ」
今の話の展開はかなり強引なものであった。
「いい人だから。安心しなさい」
「まあ接客はまともだし」
「あとはメニューをね」
「楽しませてもらうから」
こうしていよいよそのロシアの紅茶とデザートを味わうことになった。まず出て来たものは。
「フランスケーキは何か」
「普通のケーキじゃないか」
「何処にでもある」
それはまさに何処にでもある苺ケーキであった。何の変哲もない。
「味もまあ変わらないし」
「っていうかケーキよね」
「全然同じ」
「けれど」
しかしなのだった。ここで話が動いた。
彼等がもう一つ頼んだそれである。クッキーの様なものの上にジャムやドライフルーツ、それにチョコレートが乗せられている。そうしたものが出て来たのである。
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