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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百九話 暗黒の支配者

              第百九話 暗黒の支配者
ダカールの一角。既にダカールのすぐ北にまでザフトが迫ってきていた。
「チッ、ネオ=ジオンがいなくなったと思ったら今度はザフトかよ」
街を巡回している兵士達がぼやいている。
「楽にならねえな」
「全くだぜ。敵の指揮官のな」
「ああ、バルトフェルドって奴だろ」
「あのおっさんかなり手強くてな、前線じゃ苦戦してるらしいぜ」
「じゃあここも危ないかな」
「さてな、ミスマル司令もいるし大丈夫だと思うがな」
「どうかね」
「まあいざとなったら神ファミリーのキングビアルもいるからな。何とかなるだろ」
「そうか、困った時の何とやらだな」
「そういうことだな」
そんな話をしながら街を見回っている。そんな一角にあるバーの中に一人の白いスーツの若い男がいた。
彼はカウンターに座りバーボンのグラスを持っている。時折それを粋な動作で飲みながらにこやかに笑っていた。
「おや、兄さん」
そんな彼にバーテンが声をかけてきた。
「何かやけに上機嫌だね」
「待っている人がいましてね」
彼は笑いながらそれに答えた。
「それでですよ」
「彼女かい?」
「いえいえ」
だがそれは右手を横に振って否定した。
「じゃあ仕事か」
「そういうことです。そろそろ来る頃だと思いますが」
「やばい仕事じゃないだろうね」
「さてそれはどうでしょうね」
悪戯っぽく笑ってバーテンに顔を向けた。
「そんなに僕が怪しく見えますか?」
「そうだね」
バーテンはそれに応えて彼を見た。それから考える顔をして述べた。
「いい悪いに関わらず何かでっかい仕事をしているね」
「ふふふ」
それには笑って否定も肯定もしなかった。
「それ絡みだね、今も」
「よくおわかりで」
「まあこの仕事してたらね」
彼はグラスを拭きながら言った。
「何かと読めたりするんだよ」
「そうみたいですね」
「じゃあ話はここでかい?」
「いえ、お酒はもう堪能させて頂きましたので」
彼は言う。
「また別の場所で」
「そうかい、じゃあいいさ」
「はい」
男はそのままバーボンを飲んでいた。ボトルを開けたところで店に青く長い髪の漆黒のスーツの男が姿を現わした。
「来ましたね」
男はそのスーツの男を見て面白そうに笑った。
「イングラム=プリスケン」
それは確かにイングラムであった。彼はゆっくりと男の方にやって来た。
「ここにいたのか」
「探されましたか?」
「いや、気でわかった」
イングラムは男にそう返した。
「だから然程探しはしなかった」
「左様で」
「どうする?ここで話すかそれとも」
「場所を変えますか」
男は軽く笑ってイングラムにそう言った。
「ここじゃ何ですから」
「わかった。では」
「はい」
男は札を一枚置きそれをグラスの下に挟んだ。そしてイングラムと共に部屋を後にしたのであった。
二人はそのまま路地裏の誰もいない場所にやって来た。そして向かい合った。
「孫光龍」
イングラムはまず男の名を呼んだ。
「今は。何を考えている」
「今ですか」
「そうだ」
イングラムは言った。
「御前が何かを考えていない筈はない」
「また心外な言葉ですね」
孫は自身を見据えるイングラムに軽い声で返した。
「僕が悪巧みをしているような」
「では言い直すか」
イングラムはすぐに言葉を訂正してきた。
「ガンエデンは。どう動くつもりなのだ」
「どうって決まってるじゃないですか」
孫は軽い声で返した。
「ガンエデンの本来の仕事をするのですよ」
「本来の仕事」
「ええ、地球を守ることをね」
彼は言い切った。
「果たされるのですよ」
「そして孫光龍」
イングラムはその言葉を受けて孫を見据えた。
「貴様もか」
「無論そのつもりですが」
孫は飄々とした様子でそれに返した。
「それが何か」
「・・・・・・信用できると思うか」
「おやおや」
剣呑なものを含んだイングラムの声を笑って返した。
「またそんな。僕を信用しないので?」
「貴様のことを知らないとでも思っているのか」
「ほう」
孫はイングラムのその言葉に声をあげた。
「では僕が何者かも」
「アクラブ」
イングラムはその名を口にした。
「これでいいか」
「ふふふ、よく御存知で」
「確かに敵は減った」
ガイゾックもドクーガも滅んだ。他にも多くの敵がロンド=ベルの前に潰え去った。だがそれでも戦乱は続いている。イングラムもまた多くの敵を相手にしているのである。
「しかし地球はまだ安全ではない」
「はい」
「地球内の勢力だけでも相当なものだ」
「そうですね。しかしそれを全て倒した時」
「その時か」
「そうです、ガンエデンは動きますよ」
「地球を守る為にか」
「その通りです。その時にまた御会いしましょう」
「果たしてどういった形で地球を守るのか」
「それはまだ秘密です」
「だが一つ言っておこう」
「何をですか?」
「地球だけでどうにかならないこともあるのだ」
「もう一つの地球ですか?」
「ガンエデンはそのことに気付いているのか」
「さてね。貴方が見ているのとは違うかも知れませんね」
「因果。それを忘れるな」
イングラムは最後にこう言った。
「因果地平の彼方にいて世界を見る者」
「宇宙ではなく?」
「全ての世界のだ。俺も貴様もその中にいるのだ」
「何か深い意味のようですね」
「貴様はわかっていると思うがな」
「また何のことかわかりませんが」
「まあいい。貴様の相手は俺ではない」
イングラムは言った。
「俺の相手は」
「誰なんでしょうねえ、一体」
「それも見極めているつもりだ」
そして踵を返した。
「その時貴様ともまた会うだろう。違う姿で」
「おやおや」
「例えイングラム=プリスケンでなくなろうともな。俺は世界を守る」
そこまで言って姿を消した。孫はその姿を見送って呟いた。
「どうやら彼にも退場してもらわないといけないようですね」
これまでに見せたことのない邪な笑みであった。何か得体の知れないものがそこにはあった。
地球圏にある暗黒ホラー軍団の本拠地は金星にあった。そこに何者かがモニターに現われ四天王に問うていた。
「四天王よ」
「ははっ」
四天王は彼に恭しく頭を垂れる。それはダリウス大帝、ゼーラの支配者であった。
「戦況はどうなっておる?」
「狙い通りオルバンは地球人の手により撃破されました」
デスモントが報告した。
「そして今はロンド=ベルという地球人共の部隊と対峙しております」
「左様か」
「はい」
「後は奴等を倒せば全ては終わりです」
続いてアシモフが述べる。
「それが済めばこの地球圏にいる全ての者は我等の兵力として利用出来ましょう」
「そして」
「はい、バルマー及び宇宙怪獣に向かう」
「そうだ、兵は幾らあっても足りぬ」
「わかっております」
「ロンド=ベルは今宇宙の基地において集結しております」
今度はキラーが言った。
「あと一歩で殲滅できます」
「全ての兵ならばか?」
「はい、次の戦いで終わらせるつもりです」
最後にダンケルが口を開いた。
「今我等が持っている全ての兵で以って」
「では期待しているぞ」
「はい」
四人はダリウスの言葉に頭を垂れた。
「お任せ下さい」
「地球を手に入れればゼーラの復興も成ったも同然」
ダリウスは最後にこう言った。
「間もなくわしも小バームへ向かう」
「はっ」
「わしの到着前にロンド=ベルの存在をこの宇宙から抹消せよ、よいな」
「御意」
そして金星から全ての兵で以ってオービットへ向かう。ロンド=ベルと雌雄を決する為に。
「ところでリュウさんよお」
「何だ?」
ラーディッシュと共にロンド=ベルに入ったリュウは同じく加わったカイに顔を向けた。
「今リガズィに乗ってるよな」
「ああ」
「それよりさ、メタスの方がいいんじゃねえか」
「セイラさんのメタスにか」
「リュウさんってどっちかっていうとサポート向きだからさ」
「それにセイラさんはああした戦闘機タイプの操縦が得意ですし」
ハヤトも言った。
「そっちの方がいいかも知れませんよ」
「俺がメタスか」
リュウはそれを聞いて考える顔になった。温厚で話のわかる彼である。別に悪い顔はしてはいなかった。
「何か合わないような気もするがな」
「機体のタイプ的にはピッタリだと思うぜ」
「そうですよ、ですから」
「まあ待ってくれ」
だがリュウはここで二人を止めた。
「俺の一存じゃな。決められない」
「それもそうか」
「セイラさんにもお話して」
「そういうことだ、セイラさんがうんって言えばな」
「まあ大丈夫だろ」
「セイラさんもメタスに合ってますけどね」
「俺はどうも誰かをフォローするのが合ってるみたいだな、アムロといい御前等といい」
「へへっ、頼りにしてますよ」
「何だかんだで皆リュウさん頼りにしてますから」
「やれやれ」
顔は苦笑いだがそれでも嫌な気はしない。リュウは気のいい男である。だからカイもハヤトも彼を慕っているのである。そうした意味でロンド=ベルにとって貴重な存在となるのであった。
「けどセイラさんはアムロとは距離置いてますね」
「そういやそうだな」
カイはハヤトの言葉でそれに気付いた。
「あのチェーンって娘のせいかな」
「そうかな、やっぱり」
「あの奥手なアムロがねえ」
スレッガーは何処か楽しそうな顔をしていた。
「変われば変わるものだな」
「まあ俺達もかなり変わったしな」
「カイ、御前はそんなに変わっていないぞ」
「ハヤトはかなり変わったな」
「まあ結婚もしましたし」
「実は俺もな」
「あっ、そうらしいですね」
皆リュウの言葉に顔を向けた。
「皆変わるんだな、やっぱり」
「そうですね、フラウも」
「カツも大きくなったしな」
「お互い老けるわけだ」
「ははは、確かに」
かってのホワイトベースのクルーも健在であった。ロンド=ベルはさらに賑やかになるのであった。
しかしそんな明るい会話も終わる時が来る。暗黒ホラー軍団の大軍がオービットまでやって来たのだ。
「やはり来ましたね」
シーラはもうグランガランの艦橋に入っていた。
「数は」
「五千です」
「おいおい、またふざけた数だな」
トッドがカワッセの報告を聞いてまず言った。
「何だよ、その数。ティターンズとロシアでやり合った時より酷いじゃねえか」
「それだけ敵も本気ということなのでしょう」
シーラはトッドにそう返した。
「ですが私達も」
「はい」
モニターが開きそこからエレが姿を現わした。
「勝たなければなりません」
「地球の人々の為にも」
「だが奴等には切り札がある」
「あのでっかい十字架ね」
「ああ、デスクロスだ」
ショウがチャムに応えた。
「あれで大空魔竜がかなりのダメージを受けた」
「あれをオービットにやられるとかなり危ないな」
「それは防がないといけないよね」
「ああ」
ニーとキーンにも応える。応えながら彼等も出撃する。
九隻の戦艦とマシンが勢揃いする。もうオービットの前にはホラー軍団の全軍が展開していた。
「さて、と」
勇がその大軍を見据える。
「これだけの数だ、大変な戦いになるな」
「そうだね、けれど負けないよ」
ヒメがそれに応えて言った。
「簡単に言ってくれるな」
「だってあの人達焦ってるから。落ち着いていけばいいよ」
「焦ってる!?」
ピートがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「ヒメ君、それはどういうことだね」
「詳しいことはわかりませんけど」
ヒメは大文字に言葉を返した。
「感じるんです、あの人達何か凄く」
「ふむ」
「だとすればそこに付けこむ隙がありますね」
「そうだな。全軍防御に徹するんだ」
サコンも言った。大文字はすぐに決断を下した。
「来る敵を纏めて倒す、それでいいな」
「了解!」
サンシローがそれに頷く。
「じゃあ片っ端からやってやるぜ!」
「暗黒ホラー軍団ともこれで最後だしな」
リーも言う。
「ですから余計気を引き締めないと駄目ですし」
「最後に敵を周りに派手に大立ち回りってのは駄目かよ」
「すぐにそうなりますよ、ヤマガタケさん」
ブンタはそう言って彼を宥める。
「ですから落ち着いて」
「わかったよ、それじゃあ」
「はい」
全軍迎撃態勢を整える。そこに暗黒ホラー軍団が来る。そして両軍の最後の戦いがはじまったのであった。
「照準を間違えるなよ」
ラーディッシュの艦橋ではヘンケンが迫り来る敵の大軍を見据えていた。そして砲撃態勢を整えさせる。
「敵の数はどんどん減らしておかないとな」
「エマ中尉も見ていますしね」
「っておい」
エレドアの言葉に顔を顰めさせる。
「今はそんな時じゃ」
「照準セット完了ですよ、艦長」
「う、うむ」
どうやらエレドアの方が上である。あっさりとかわされてしまった。
「撃て!」
「了解!」
ラーディッシュの主砲が唸る。その砲撃でいきなり数機消え去る。
「よし!」
「全軍攻撃を仕掛けろ!」
ロンド=ベルはその射程を生かしてまずは遠距離攻撃を仕掛ける。それによりホラー軍団のマシンは次々と撃ち落されていく。とりわけモビルスーツの活躍が目立った。
「行くぜハヤト!」
「ああ、カイ!」
二人の量産型ニューガンダムからファンネルが放たれる。彼等もニュータイプ能力を持っていたのだ。
そのファンネルでまだ射程に入っておらず進むだけのホラー軍団のマシンを撃墜していく。その技量は流石にアムロ程ではないが見事なものであった。
「腕は落ちてはいないようだな」
ブライトはそんな彼等の活躍を見て満足そうに笑った。
「心配していたが何よりだ」
「まあ勘はまだ完全じゃねえけど」
「やることはやりますから」
「期待しているぞ。じゃあアムロ」
「わかってるさ、ブライト」
彼等も攻撃に移る。ラー=カイラムの主砲が唸る。
「撃て!」
「行けっ、フィンファンネル!」
二人の攻撃は驚くべき射程であった。後方の敵を狙って放たれる。
主砲が敵を纏めて光に変えフィンファンネルがその急所を貫く。やはりこの二人の攻撃は恐ろしいまでの力があった。
「アムロの奴、やっぱり凄いな」
ハヤトがそれを見て呟く。
「あいつには勝てないかな」
「おいおい、俺達は俺達でやれることをやるんだろ」
カイはコンプレックスを思い出すハヤトに声をかけた。
「アムロはアムロ、御前は御前だぜ」
「そうか」
「そうさ、じゃあ敵がまた来てるからよ」
「ああ」
敵はかなり減ったがそれでも数が桁違いだ。さらに突き進んでくる。
中距離になる。戦艦の主砲やファンネルからビームライフルやミサイル主体に移った。
「ガトリングミサイル!」
ボルテスがミサイルを放つ。その横ではダイモスがその腕に手裏剣の様なものを出す。
「ファァァァァァイブシュゥゥゥゥゥタァァァァァァッ!」
それで迫り来る敵を落としていく。今のところ戦局はロンド=ベルに圧倒的なものであった。
だがそれでも数が違う。何千機も迫ってきていたのだ。
「しつこい奴は嫌われるって言ってるでしょ!」
アスカが激昂した声をあげながら自身のエヴァのATフィールドを取る。
「邪魔よ!消えなさい!」
それを横薙ぎにして敵を潰す。かなり荒っぽい攻撃であった。
「アスカ、また無茶しよるな」
「無茶上等よ」
トウジに言い返す。
「っていうか全然減らないじゃない。あたしもう十機は撃墜してるわよ」
「僕もう二十機いってるよ」
「わいも十機はな」
「それでも全然減らないじゃない、どういうことよ」
「それだけ数が多いということだな」
マイヨがそれに応えた。
「大尉」
「私もこれだけの数を相手にしたことはそうはない」
「そうなんですか」
「だが、最後まで退くつもりはない」
マイヨはやはりマイヨであった。
「この程度の敵!何ということはない!」
「ううん、やっぱり本物は違うわね」
アスカですらマイヨの前には唸るだけである。
「どっかのナヨナヨしたのとは大違いね」
「な、何で僕の方に」
キラはアスカの視線を感じて言った。
「自分でわかってるじゃない」
「そんな」
「わかったらさっさと戦いなさい」
「もうやってるよ」
既にストライクは洒落にならない数の敵を前にしていた。ビームライフルを連射している。
「けど、それでも」
「言い訳はいいのよ!」
アスカが怒鳴った。
「そんなのいいから一機でも撃墜しなさい!いいわね!」
「う、うん」
そのあまりもの剣幕の前に思わず黙ってしまった。
「ったく、あんなナヨナヨした男って見てるだけでイライラするのよ」
「つうか御前誰にも噛み付いてへんか?」
「タケルさん達には別に何もないわよ」
「そういやそうか」
「あの人はまた特別だからね」
「ほお」
「アスカがそんなこと言うなんて」
シンジもキョトンとしていた。
「常識を無視した奴はもっと嫌いだけれど」
「またそれかい」
彼女のマスターアジアに対する拒絶感は何処までも根強かった。
「全く、人間ですら怪しいのが多過ぎるわ、最近」
「そんなこと言ってるとアスカ」
またシンジが声をかけてきた。
「何!?」
「アレンビーさん来るよ」
「あっ、じゃあ道あけてっと」
すぐに横に動く。そこにアレンビーがやって来た。
「悪いね、アスカ」
「別にいいわよ。じゃあやっちゃって!」
「ああいくよ!ビームフラフープ!」
その手からフラフープを投げる。それは華麗な動きを見せながら敵に迫る。そして次々に両断していったのである。
後には爆発が残る。華麗にして強烈な攻撃であった。
「うわあ、何時見ても凄いや」
「やっぱりアレンビーさんはああじゃなくちゃね」
アスカはアレンビーの活躍を満足げに眺めながら言った。
「アレンビーさんはいいんだ」
「何よ」
「あの人は駄目で」
「・・・・・・絶対に受け付けないわ、あれは」
「じゃあ忍者は」
「ドイツに忍者なんていないわよ」
少なくともアスカの記憶にはない。
「しかもあれ大昔の軍服だし」
「そうだよね」
「覆面だし。あんなのどう考えても変態でしょ」
「変態ね、あの人が」
「アレンビーさんだってそう思うでしょ」
「少なくとも強い人だとは思うね」
「まあ強さも尋常じゃないけど」
「あたしも全然歯が立たなかったし」
「嘘っ」
「嘘じゃないよ。ドモン以外のシャッフル同盟もね。皆やられてるから」
「まあそうだろうね」
シンジもそれには頷くものがあった。
「あんな理不尽な強さだから」
「あんた何で納得できるのよ」
「っていうか納得するしかないじゃない」
シンジは身も蓋もない言葉をアスカに返した。
「実際にそうなんだから」
「あんた何かガンダムファイターに好意的よね」
「格好いいし」
「あっきれた。あれの何処が格好いいのよ」
「そう?素敵よ」
レイも言った。
「あのマスターアジアさん。颯爽としていて逞しくて」
「・・・・・・綾波の男の人の趣味っておじさんだったんだ」
「そこが突っ込む場所じゃないでしょ!相手は人間じゃないのよ!」
「人間だよ、れっきとした」
「素手で使徒を破壊したり、構えとったら後ろで爆発起こる人は人間って言わないのよ」
「まああの人とも何時か会うだろうし」
「子供守って車に撥ねられてとかになったらいいのに」
「車より速く走られるのに?」
「ああ、思い出したくもないわ、それも」
彼女は完全にマスターアジアを人間とはみなしていなかった。
「コーディネイターとかそんなのはあたしとっちゃどうでもいいのよ」
「ガンダムファイターは駄目なんだ」
「ガンダムファイターじゃなくて人間じゃないでしょ、あれは」
「あんなに素敵なのに」
「ああ、だったらマスターアジアと結婚したら?」
「・・・・・・いいの?」
またレイの頬がぽっと赤らんだ。
「若しそうなったら私」
「ううん」
そんなレイを見てリツコは何とも困った顔をしていた。
「こんなこと予想していなかったわね」
「あの娘が恋愛感情持っちゃうなんてね」
「それもそうだけれど」
ミサトに応える。彼女の戸惑いはそれだけではなかったのだ。
「あの人を好きになるなんてね」
「まあちょっち予想外ね」
「ちょっち?」
「・・・・・・完全によ」
ミサトもこれには同意であった。
「あの娘ってああした人が好みだったなんて」
「貴女はどうなの?」
「私はああした人は」
ミサトはタイプの話を振られて困った顔になった。
「年下かアムロ中佐みたいなタイプならね」
「アムロ中佐ねえ」
リツコはそれを聞いて考える顔になった。
「競争率高いわよ」
「べ、別にそれは」
「あと加持君」
「最近何かお付き合いが減ってるけど」
「そもそも出番がね」
「私達も気をつけないとねえ」
「ええ」
「何か怖い話してますよ」
「どうしたの、カズイ君」
アークエンジェルではマリューがカズイに顔を向けていた。
「いや、ゴラオンの艦橋でミサトさんとリツコさんが」
「あら、面白そうね」
「艦長」
そちらに顔を向けたマリューを隣にいるナタルが嗜めた。
「わかってるわよ、けど」
「だといいのですが」
「何か葛城三佐のことは気になるのよ」
「そういば私も」
実はナタルもそうした存在がロンド=ベルにいる。
「ナデシコのミスマル艦長が」
「ですよね」
ここでユリカがモニターに現われた。
「私もバジルール中尉好きですよ」
「いや、別に好きや嫌いの問題ではなく」
「他人の気がしません」
「あれっ、どっちがどっちを話してるんだ?」
トールが二人の会話を聞いて目をしばたかせる。
「ええと、あっちがバジルール中尉で」
「これがユリカさん!?」
ミリアリアもそれは同じである。アークエンジェルのクルーにもどちらがどちらかわかりかねていた。
「今度一緒に遊びませんか?」
「貴女と!?」
「はい、ナデシコのプールで」
「ううむ」
「バジルール中尉プロポーションいいですし」
「わ、私は別に」
何故かその言葉に戸惑いを見せる。
「そんなことは」
「まあまあ」
「まあままあではなく」
どういうわけか顔を赤らめさせていた。
「水着もありますよ」
「そういう問題ではなく」
どうも生真面目なナタルはユリカが苦手であった。
「私は任務があるから」
「非番の時にですよ」
「ううむ」
「いいじゃないですか、たまには」
「しかし」
それでもナタルは戸惑ったままであった。
「私は」
「いいのじゃない、たまには」
「艦長」
「骨休みが必要よ、貴女にも」
「はあ」
「これから戦いはもっと激しくなっていくでしょうしね」
「今よりもですか」
「グラビティ=ブラスト発射します」
モニターの向こうではルリの声が聞こえてくる。
「はい、やっちゃって下さい」
ユリカはそちらに顔を向ける。そして指示を出していた。
黒い光が放たれ敵を薙ぎ倒していく。相変わらず恐ろしいまでの威力であった。
「艦長、こっちにも来ました!」
「ここはバリアントです!」
ナタルは戦闘の時の顔に戻っていた。
「ええ、わかったわ!」
「バリアント照準用意!」
「了解、バリアント照準用意!」
「狙いは!?」
「正面の敵一個小隊です!」
「待て、もう一個いた筈だ!」
「今ウーヒェイが全滅させました!」
サイとのやり取りが続く。
「そうか!ではその残り一個小隊を叩く!」
「はい!」
「バリアントてーーーーーーーーーーーっ!」
ナタルの手が振り下ろされる。そしてバリアントの激しい砲撃が浴びせられホラー軍団のマシンがまとめて撃ち抜かれていく。光が貫くとその直後に光球となった。そして炎となって消えていった。
「流石ですね」
今度はルリがナタルに声をかけてきた。
「連邦軍の名家バジルール家の御息女だけはあります」
「いえ、そのような」
ルリの言葉に謙遜する。
「御父様や御兄様の名に恥じないです」
「父や兄を御存知なのですか」
「はい」
ルリは答えた。
「先の戦いからです」
「そうでしたか」
「バジルール中将には木星での戦いでお世話になりました」
「どうもです」
「そしてバジルール少佐にはパフェも頂きましたし」
「パフェ!?」
それを聞いたナタルの眉がピクリと動く。
「ホシノ少佐、今何と」
「バジルール少佐にラビアンローズの喫茶店でおごっていただいたのです」
「そうですか、またあの兄は」
どうやら彼女は兄に対してあまりよくは思っていないようである。
「よい方ですね」
「そうでしょうか」
「紳士的で」
「表面的にはそうですが」
実は彼女の兄は女好きで有名なのである。ナタルは兄のそんなところが嫌いなのだ。
「また御一緒したいとお伝え下さい」
「御気をつけ下さいね」
「!?」
「出来れば御友達と御一緒で」
「何かよくわかりませんがわかりました」
その金色の目を少しパチクリさせながら述べた。
「ではまたプールで」
「はい・・・・・・んっ!?」
言われて暫くしてから気付いた。
「何時の間に決まったのだ」
「勝手に決められたみたいね」
「艦長、そんな悠長なことは」
「また来ました!」
そこへミリアリアから報告が来た。
「今度は三個小隊です!」
「中尉!」
「はい!今度はローエングリンです!」
「攻撃ライン上に味方機なし!」
「よし!」
ナタルはミリアリアの報告を聞き頷く。
「一番二番てーーーーーーーーーーっ!」
今度はローエングリンを放つ。楽しい話の間にも攻撃が行われる。ロンド=ベルは圧倒的な兵力を前にしても機体の能力とパイロットの技能、そして戦術で圧倒的に勝っていた。それで以ってホラー軍団を寄せ付けなかった。
だがそれでも数は力であった。ホラー軍団はオービットを取り囲もうとしていた。それ自体はロンド=ベルにとっては脅威ではない。だがホラー軍団は切り札を出そうとしていたのである。
「よし!」
デスモントが会心の顔で頷く。
「今だ!デスクロス=フォーメーション!」
四隻の戦艦が同時に動く。そして十字を作る。
「これで決着を着けてやろう!覚悟せよロンド=ベル!」
「クッ、遂に仕掛けてきたか!」
「あれを出されるとオービットも!」
「もう遅いわ!」
キラーが叫ぶ。
「今度は以前のよりも遥かに強力ぞ!」
アシモフも言う。
「ロンド=ベル!御前達の負けだ!」
最後にダンケルが彼等はデスクロスでオービットを粉々にするつもりであった。
だがそこに。二人の戦士が姿を現わした。
「あれは!」
「まさか!」
ゴードルとギメリアであった。そこに二人の戦士がいたのだ。
「わかっているな、リヒテル」
「うむ」
そこにいたのはリヒテルとハイネル。ボアザンとバーム、それぞれの誇りを背負う戦士達であった。
「デスクロス現象を発生させている敵艦は四隻、内二隻を破損させればあの攻撃は使用出来ない筈」
「やらば仕掛けるぞ!よいな!」
「うむ!」
「ハイネル兄さん!」
「リヒテル!」
「健一よ、ここは我等に任せよ!」
「竜崎一矢!我等も!」
「どうして御前がここに」
「正義、正しきことへの罪滅ぼしだ」
リヒテルは一矢に言った。
「その為に今我等は戦っている」
「正しきことに」
「そうだ、自星の民を苦しめこの宇宙に不幸と争いをまき散らす者達よ!」
「我等の鉄槌を受けるがよい!」
二人はそれぞれ二隻の戦艦に突貫する。そしてそこに攻撃を浴びせたのであった。
それにより二隻の戦艦から火の手があがる。それで動きが止まった。
「うおっ!?」
「ぐっ、デスクロス発生装置をやられた!」
キラーが呻き声と共に言った。
アシモフ「こちらもだ!おのれプリンス=ハイネル!」
アシモフもまた。4
「どういうつもりだうぬ等!」
デスモントが問う。
「リヒテル提督!御主まで!」
「全ては宇宙の為!
リヒテルはダンケルに応えて言う。
「貴様等をこのままやらせるわけにはいかぬ!」
「馬鹿な、かっての協力者であった我等に」
「ほざけ!余はもう知っておる!」
「何っ、まさか」
「我がバームの民達を貴様等の兵にしようという企み!知っておるわ!」
「おのれ、何処でそれを」
「余は小バームでハイネルに見せられたのだ」
リヒテルは語る。
「貴様等とオルバンが我等の民を洗脳しているのを」
「クッ!」
「嘘だというのなら違うと言ってみせよ!できぬのなら余がここで貴様等に裁きを下す!」
「裁きだと!戯言を!」
デスモントのこの言葉が返事であった。
「貴様等如きが我等に逆らうなぞ!」
「笑止千万よ!」
キラーとアシモフも言った。
「デスクロスが使えぬのであればそれはそれでいい」
そしてダンケルが断を下す。
「総攻撃だ!全軍でな!」
「うむ!」
「おいおい、また芸がないな」
「大軍に策なぞいらないっていってもね」
ビルギットとアンナマリーがやって来る大軍を前にして言う。
「数が多くてもそれだけでは!」
「シーブック、こっちは任せて!」
「わかった、セシリー!」
二人は向かい合ってヴェスパーとビームランチャーを構える。
「これで!」
「やってみせるわ!」
二条の光が敵を貫いていく。その周りで次々に誘爆が起こっていく。やはりヴェスパーとビームランチャーの威力は絶大なものであった。
「あれが噂のF91かよ。こりゃまた」
カイがそれを見て言う。
「すっげえ威力だね」
「カイ、悠長なこと言ってる場合じゃないぞ」
そんなカイをハヤトが注意する。
「デスクロスをプリンス=ハイネル達が退けても敵はまだまだ多いんだからな」
「わかってらって。それじゃあ」
またファンネルを出す。
「まとめて始末するか」
またしてもそのファンネルで敵を撃ち落していく。近くに寄ってきた敵はオーラバトラーやザンボットが纏めて斬り払っていく。やはり暗黒ホラー軍団は数を頼み過ぎた。質ではロンド=ベルに大きく劣っていたのだ。それが出て来ていた。押している筈が次第に押されてきていたのだ。
「グッ、まずいぞ」
「このままでは」
四天王もそれに気付き焦りはじめた。だがここで援軍が多量にやって来る。
「だが数はこちらが圧倒している」
ダンケルが他の三人に言った。
「ならばそれで押し切るのみ!」
「十倍で駄目ならば二十倍か!」
「そうだ!このままオービットごと押し潰す!」
「ならばやってみせよう!どのみちロンド=ベルを倒せば地球は陥落したも同然!」
「その後でまた兵力を回復させてくれる!」
こうして力押しが続けられた。再び雲霞の如きホラー軍団の大軍がロンド=ベルに襲い掛かって来た。
「力押しで来るか!」
ハイネルはそれを見ても動じてはいない。
「来てみるがいい!」
リヒテルもまた。
「我がバームの民には最早指一本触れさせはせんぞ!」
そしてその剣と爪で目の前の敵をことごとく切り裂いていく。その姿はまさに鬼神であった。
「ハイネル兄さん!」
「リヒテル!」
健一と一矢は二人に対して叫ぶ。
「兄さんの心!」
「御前の覚悟、確かに受け取ったぞ!」
「竜崎一矢、余は」
「馬鹿野郎!」
何か言おうとするリヒテルに言う。
「ここまで来て御前達をむざむざ死なせはしない!」
「竜崎・・・・・・」
「ハイネル兄さん。俺達の敵は一つ。あの暗黒ホラー軍団だ!」
「健一」
ハイネルは健一のその声に確信した。
「どうやら余の進む道は御前と重なったようだ」
「そうと決まれば話は早い!」
万丈が言う。
「よし、行くぞ皆!」
「地球の、いや宇宙の平和の為にも奴等を絶対に許してはいけない!」
一矢と健一も再び。
「地球とバーム、そして全ての星々の平和の為に」
サンシローとピートが前に出た。他の大空魔竜隊のメンバーも。
「行くぞ皆!ここで暗黒ホラー軍団と決着をつける!」
「ロンド=ベル総攻撃!」
大文字のこの戦いでの最後の指示が飛んだ。
「オービットを守り、暗黒ホラー軍団を撃破せよ!」
「了解!」
「ここまで来たらもう何もねえ!やってやるぜ!」
ダンクーガが断空砲を放つ。それが総攻撃の合図であった。
「これだけ数が多いとかえってやるやすいぜ!」
ムウのメビウスが数個に分かれた。
「これで纏めて撃墜してやるぜ!」
そしてそれがそれぞれの敵を狙う。メビウスの周りにいる敵を全て倒していく。
「いっけえ、サイフラァーーーーーッシュ!」
マサキのサイバスターもそこにいた。その緑の光で周りの敵を炎に変えていく。
「数が多くてもな、勝てるわけじゃねえんだよ!」
「うんうん、タマにはいいこと言うニャ」
「全くだぜ」
「ちぇっ、俺って活躍しても褒められないんだな」
「そんなことないよ、マサキ」
急に目の前にシモーヌのザインが現われた。姿を消していたようであった。
「あんたの力、頼りにしてるからね」
「おだてたって俺は未成年だから酒は出ないぜ」
「あれっ、ばれてるみたいだね」
「どうせならベッキーにでも言いな、後でな」
「じゃあそうさせてもらうわ」
ベッキーはその後ろで派手に砲撃を続けていた。最早数があまりにも多く単に砲撃するだけで敵を薙ぎ倒している状況であった。
「よし、今だ!」
派手な総攻撃から数分。遂に敵の数の底が見えてきた。それを見た大空魔竜隊が動いた。
「今だ皆!」
「ああ!」
サンシローにリーが応える。
「丁度今四隻集まっていますし」
「纏めて始末してやるぜ!」
ブンタとヤマガタケもそれに続く。
「正面は任せましたよサンシローさん!」
「わかった!」
ブンタに応える。
「俺は上に!」
「そして俺は左だ!」
リーとヤマガタケも動く。ブンタは右に動いていた。
サンシローは正面に。まずはガイキングの顔が開いた。
「フェェェェェェェェイス=オープン!」
続いてビームを放つ。そしてミサイルを。
「ガイキングミサイル!」
それは四天王の四隻の戦艦を襲う。それで終わりではなかった。
「デスファイアァァァァァッ!」
炎も出した。そこへ他の三機の攻撃も加わる。
「これで!」
「終わりにします!」
「サンシロー!止めだ!」
「よし!」
顔は閉じられていた。そこに右手に持つ光の球が放たれた。
「ハイドロブレイザァァァァァァァッ!」
大きく揺れ動く戦艦達に今最後の一撃が浴びせられた。光の球は荒れ狂い彼等を撃ちのめす。それが止めとなったのであった。
「グ、グググ・・・・・・」
デスモントが艦橋で苦悶の声を漏らす。
「我等がここで」
「倒れるというのか・・・・・・」
ダンケルとアシモフもまた。
「ダ、ダリウス大帝・・・・・・」
最後にキラーも。
「お許し下さい・・・・・・」
それが四人の最後の言葉であった。戦艦達は次々に爆発し四天王の墓標となった。こうしてホラー軍団四天王は戦場に散ったのであった。
「終わったな」
「ああ」
サンシロー達は互いに頷き合う。
「他の敵も全て倒した」
「これでホラー軍団も終わりだ」
「さて、それはどうかな」
「!?」
突如戦場に声がした。
「四天王を倒したがまだゼーラは生きているぞ」
「おいおい、まさかラスボスってやつか!?」
ムウがそれを聞いて言った。
「お決まりのパターンってのはアンコールと同じだな」
バサラもまた。その彼等の前に巨大な魔神が姿を現わしたのであった。
「貴様は一体」
「我が名はダリウス」
鉄也に応えて言った。
「ゼーラ星の支配者よ」
「ゼーラ星の」
「そうだ、わしはブラックホールの脅威にさらされたゼーラ星人がその事態を打開するために造り上げたもの」
「何っ、それじゃあ」
「そうだ、言わば人造の神だ」
「人造の神だと!?」
サコンがそれを聞いて声をあげる。
「結局ゼーラ星はブラックホールに飲み込まれゼーラ星人は宇宙の漂流者となった」
「そうだったのか」
「それで地球まで」
「ゼーラの民の為にも地球はわしのものとさせてもらうぞ」
「馬鹿を言えってんだ!」
それはすぐに豹馬によって否定された。
「母星を失ったのなら何故平和的な手段で移住を希望しない!」
健一も言う。
「あげくに同じ苦難を抱えたバーム星人を利用しようと考えるとは許すまじ…ダリウス!」
「ゼーラの繁栄のためなら他星の事など知ったことではない!」
それがリヒテルに対する、そしてロンド=ベルに対する返事であった。
「その傲慢が争いを呼ぶことを何故理解出来ない!」
「やめておけ一矢」
「鉄也」
「壊れた機械が人の言葉を聞くものか」
ああ、こうなったらあいつを叩き壊してこの戦いを終わらせてやるぜ!」
甲児がダリウスを見据える。
「愚かな。わしに勝てると思っているか」
「ダリウス、俺達が教えてやる」
サンシローはダリウスを見据えて言った。
「御前の様な悪党に勝利などないことをな!」
「これまでの戦いぶりに敬意を表し我が軍門に下れば生命だけは保証してやろうと思ったが」
サ「ふざけるな!」
それは即座に撥ね付けられた。
「貴様なんかに地球を渡してなるか!」
「こちらは親切心から言ってやったのだが」
「何が親切だ!」
今度は神宮寺が言い返す。
「貴様のそれは傲慢と言う。
「ならばわし自らの手で御前達を叩き潰してくれるわ!」
「ダリウス!この地球は貴様の好き勝手にはさせん!」
大文字の言葉も何時になく強かった。
「行くぞダリウス!ここで決着をつけてやる!」
サンシローを先頭に突っ込む。ホラー軍団との戦いの最後の幕が開いた。
ダリウスは剣を手にロンド=ベルに立ち向かう。一人ではあっても流石にゼーラの支配者だ。その力は並大抵のものではなかった。
「ゴーバズーカ!」
「甘いっ!」
ゴーショーグンが放ったバズーカの弾丸をかわす。そしてダイターンキャノンは切り払う。
「へえ、やるじゃないの」
万丈がそれを見て言う。
「僕のダイターンの攻撃をこうも簡単にとはね」
「ゴーショーグンの攻撃もあっさりとね」
「ちょっと真吾、落ち着いてる場合じゃないわよ」
「あれだけの数を退けたと思ったら今度はやたらと強いラスボス登場とはね。お決まりのパターンもここまでくれば」
「まあここは踏ん張りどころってやつだ」
真吾はあらためて言った。
「これだけの数に囲まれて五分と五分なんてのも凄いけれど」
「立場が変わっちゃったわね」
「これもまた形勢逆転ってね」
キリーが茶化して言った。
「だが思ったより手強いのは事実だな」
「さて、どうしようか」
「何か真吾と万丈君が話したらどっちがどっちかわからないけれど」
「まっ、そこは御愛嬌ってことで」
「フハハハハハ!この程度か!」
ダリウスは高らかに叫んでいた。
「噂に聞こえたロンド=ベル!わしの相手ではないか!」
「何の!まだだ!」
竜馬がそれに応えて叫ぶ。
「俺達を甘く見るな!」
「そうだ、まだ勝負は終わっちゃいない」
隼人も言う。
「仕掛けるかリョウ、隼人」
「いや、待ってくれ弁慶」
「どうしたんだ、リョウ」
「いや、俺だが」
「おっと、サンシローだったか」
「声が似ているんでわからなかったか?」
「あ、ああまあな」
弁慶は戸惑いながらそれに返した。
「一瞬誰かと思ったぜ」
「まあそれは置いておいてだ」
隼人が言った。
「サンシロー、何か考えがあるのか?」
「一気に決めてやる」
サンシローは強い声で言った。
「俺が」
「いや待てサンシロー」
血気にはやる彼をサコンが止めた。
「どうしてだ、サコン」
「御前はさっきの四天王との戦いで疲れが残っている。万全の調子じゃない」
「そうだ、一人では無理だ。しかし」
ピートも言う。
「大空魔竜もいればどうかな」
「大空魔竜も」
「そうだ、あれをやるぞ」
「あれを」
「用意はいいか、サンシロー君」
大文字が彼に問う。
「あれならば例えダリウスとて」
「しかし」
「だがやってみる価値はある!」
ピートが戸惑いを見せるサンシローに対して言う。
「違うかサンシロー」
「大丈夫だ、必ず成功する」
「サコン」
「安心しろサンシロー君、ではピート君!」
「はい、博士!」
ピートが応えた。そして大空魔竜を突進させる。
「行くぞサンシロー!」
「わかった!こうなったら覚悟を決める!」
サンシローも意を決した。思い切って構える。
「ガイキングで受け止めてやる!」
「よし!」
「覚悟しろダリウス!」
今彼等の心が全てダリウスに向けられた。
「これで貴様を!」
「倒す!」
ピートとサンシローの息が完全に合った。
「ジャイアントカッターーーーーーーッ!」
「行っけええええええええええーーーーーーーーーーッ!」
ガイキングが大空魔竜を受け止める。そしてそれを思い切り投げる。ダリウスに向けて。
「ムウッ!?」
「そのまま体当たりだ!」
逆さになる大空魔竜の中で大文字が叫ぶ。
「そして一撃で決める!」
「はい!」
「これで!」
「おのれ、その程度で!」
避けられるものではなかった。ダリウスはそれを受け止めようとする。だが。
その衝撃力、破壊力はダリウスとて受けられるものではなかった。その直撃はダリウスを真っ二つにしてしまったのであった。
「ウ、ウグオオオ・・・・・・」
胸を派手に切り裂かれていた。最早動くことすらままならない。彼の敗北は明らかであった。
「このわしが」
彼は苦悶の中で言う。
「暗黒ホラー軍団が敗れるのか!」
「ダリウス、覚えておけ!」
サンシローはそのダリウスに対して言う。
「悪党が最後に負けるのは宇宙の真理だ!」
「む、無念!だが!」
それでもダリウスは諦めてはいなかった。
「わしは一人では死なん!」
急に動きはじめた。皆それを見てまずはいぶかしがった。
「何をするつもりだ、一体」
「不味いわ」
「どうした、カナン」
ヒギンズがカナンに問う。
「あの方向には確か小バームが」
「何だって!?」
「まさか!」
「フハハハハハハ!バームの民よ貴様らだけを生き延びさせはしない!」
「リヒテル!」
ハイネルはそれを見てすぐにリヒテルに声をかけた。
「承知!」
リヒテルもそれに頷く。そしてすぐに動いた。
そのままダリウスの両端を押さえる。突然の動きにダリウスも動きを止めてしまった。
「は、放せリヒテル、ハイネル!」
「ダリウス!バームの民を貴様の道連れにはさせんぞ!」
「死ぬのは貴様だけだ!」
「ハイネル兄さん!」
「健一、大次郎、日吉」
ハイネルは弟達の名を呼んだ。
「そなた等が余を兄と呼んでくれたこと、余にとっては無常の喜びだ」
「兄さん・・・・・・」
「そこまで」
「だからこそ安心しろ。余は必ず帰る」
「兄さん!」
「だからこそだ!そこで見ておくがいい!」
「悪が滅び正義が残る時を!」
「リヒテル!」
「竜崎一矢よ」
リヒテルは一矢を見据えていた。
「数多の勇者の中でも一際秀でたる勇者よ」
彼もまた今一矢と心を交あわせていた。
「また会うことになるだろう。銀河の為に」
「リヒテル・・・・・・」
「お兄様・・・・・・」
「その時の為に!今余はこのダリウスを葬る!」
「還って来るんだな!」
「無論そのつもりだ!だからこそ今は!」
「暫しの別れだ!さらばロンド=ベル!」
「また会おうぞ!」
「ボアザンと」
「バーム」
二人はそれぞれ言う。
「汝達の未来・・・・・・そして星々に永久の栄えあれ!」
彼等は同時に叫んだ。そしてそのままダリウスを連れて銀河の果てに消えるのであった。
「な、何と・・・・・・」
冷静なナタルも二人のあまりもの壮絶、そして見事な戦いに絶句していた。
「あれがプリンス=ハイネル、そしてリヒテル提督」
「立派ね」
マリューもあまりものことに言葉を失っていた。
「地球人とか、ナチュラルとかそんなものを越えて・・・・・・彼等は」
「彼等は全てを捨てて宇宙の為に」
「けれどそれは・・・・・・」
「いや、兄さんは生きている」
「健一君」
「俺にはわかるんだ。兄さんは約束を守る」
「兄上もです」
エリカも言った。
「兄上は誓いを破られぬ方です。ですから」
「帰って来るのね」
「はい」
「エリカさん」
マリューはエリカのその強い言葉を聞いて声をかけてきた。
「何か?」
「貴女は。強い人ね」
マリューにもそれがわかったのだ。
「そして美しいわ。貴女みたいな人だから一矢君も」
そしてさらに言った。
「そして貴女も。一矢君を愛したのね」
「有り難うございます」
「・・・・・・何故ここにいる皆が星を越えてわかりあえているかわかったわ」
マリューの目には涙さえあった。
「貴女や一矢君がいるから。そして」
「プリンス=ハイネル。ボアザンの誇り」
ナタルの目にも熱いものがあった。
「リヒテル提督。バームの翼」
「彼等の戦いに」
「ええ、敬礼を!」
総員ハイネルとリヒテルに対して敬礼する。そこに歓声が起こってきた。
「これは!?」
「聞こえるか、ロンド=ベルの戦士達」
メルビがモニターに姿を現わした。
「平和の到来を喜ぶ人々の声だ」
「平和を」
「今バームに平和が蘇ったのだ」
「遂に・・・・・・」
「エリカ」
一矢はエリカに言った。
「この喜びの声こそリヒテルに対して最高のはなむけになる筈だ」
「兄上の」
「バームを愛し、その未来の為に生命を懸けた男には…」
「はい、一矢」
エリカは涙ながらに頷く。
「兄のやったことは無駄ではなかったようです。いえ、私達が決して無駄にはさせません」
「エリカさん・・・・・・」
戦士達はそのエリカの強い心に打たれていた。
「はじめまして、平和解放機構の代表を務めておりますメルビと申します」
「ロンド=ベル代表、エイパー=シナプス大佐です」
二人が挨拶を交えた。
「貴方達の協力がなければ今日の勝利は有り得ませんでした。心より感謝いたします」
「いえ、メルビ代表。平和解放機構の活動からは我々地球人も多くの事こと学ばせてもらいました」
「全てはあの二人の星を越えた想いが生んだものです」
「はい」
「あの二人の若者の姿は地球とバームの未来に希望を与えてくれます」
「ですがゼーラは」
「大佐」
「どうした?」
「今セーラ星人達が地球圏に向かってきているとのことです。話し合いの為に」
「そうなのか」
「ある人に救われて。そして来たのだと」
「左様ですか」
メルビはそれを聞いて顔を穏やかなものにさせた。そのうえでまた言った。
「我々バーム星人とゼーラ星人は改めて地球連邦政府との交渉の再開を希望します」
「その言葉、我々が責任をもって政府へと伝えます」
大文字がそれ応えた。
「しかし、御存知の通り地球圏は戦いの只中にあります」
ブライトがここで言った。
「今暫くのお時間を」
「了解しました」
メルビはそれに頷く。
「我々は小バームを固定し自衛に専念します。そして平和が戻った暁には互いに手を取り合い共に平和に進むことを希望します」
「その日までしばしの辛抱をお願いします」
「はい」
「では皆オービットに戻ろう」
大文字が最後に言った。
「そして次の作戦だ」
「了解」
暗黒ホラー軍団を倒したロンド=ベルは意気揚々としてオービットに帰る。バーム人とゼーラ人はまずは小バームとその周辺に待機することとなった。彼等とも平和への道が開かれたのであった。
「よいのですか、司令」
地球から遥か遠くに離れた場所で。ロゼはヘルモーズの司令室でマーグに問うていた。
「ゼーラ人の件は」
「彼等は戦う力を失っていた、これじゃ駄目かい」
マーグはロゼにそう返した。
「だから放逐したと」
「体面的にはそれでいいでしょうが」
だがロゼは難しい顔をしていた。その美しい顔が思案で微かに歪んでいた。
「ですが」
「地球にやったのがまずいというんだね」
「はい」
ロゼはこくりと頷いた。
「それは幾ら何でも」
「地球は今騒乱の中にある」
「それは」
「だからだよ。彼等の混乱の種をさらに増やす為にね」
「全てはそうした理由ですか」
「それでいいんだよ。彼等がバルマーに加わったならば」
「おそらくは消耗品として」
「使われることになるだろうね。彼等は外銀河方面軍に回されるという話だったし」
「ハザル=ゴッツォ」
ロゼはその名を口にして嫌悪感を見せた。
「あの方ならばそうしたことは」
「眉一つ動かさずにするだろうね」
マーグも言った。
「彼なら」
マーグもロゼもハザルという男を好いてはいなかった。嫌悪感がはっきりとあった。
「それを避ける為ですか」
「表向きには違うけれどね」
「地球に」
「だからといって今のボアザンやキャンベルも信用出来ない」
「どうやら謀反を企んでいるとか」
「ジャネラもズ=ザンバジルも野心家だからね」
マーグは彼等のことも信用してはいなかった。
「それは考えておいた方がいい」
「他には妙な勢力の話が入っていますが」
「妙な?」
「はい、プロトデビルンという勢力です」
「そんな勢力もあるのか」
「よくわかりませんが彼等に外銀河方面軍の艦隊が一個壊滅したそうです」
「艦隊が一個」
「はい、それで調べた結果多くの者が力を失っているそうです」
「ううむ」
「彼等のことはまだ詳しくはわかっていませんが」
「では彼等に関しての情報を集めてくれ」
「はい」
ロゼは敬礼をしてそれに応えた。
「宜しく頼むよ」
「わかりました」
「ところで怪我はいいのかい?」
「はい、それでしたら」
ロゼは答えた。
「もう大丈夫です」
「そうか、ならいいけれど」
「戦闘にも支障はないそうです」
「ではまた地球に戻るか」
「はい」
「また彼等と戦いにね」
「畏まりました。ところで司令」
「何だい?」
ロゼの顔に僅かだが緊張が走った。今までの凛とした顔が何か脆いものになっていた。
「今お時間はあるでしょうか」
「時間」
「そうです、あの、宜しければ」
その顔が少し赤くなり戸惑いも見えていた。
「少しの間私の部屋でお茶でも」
「お茶」
「はい。お菓子もありますが」
「そうだね。よかったら」
「本当ですか!?」
その言葉を聞いたロゼの顔が晴れやかになる。
「でしたら」
「うん。・・・・・・んっ!?」
だが世の中はそう上手くはいかない。マーグの側の電話が鳴った。
「ちょっと待ってくれ」
「は、はい」
電話を取る。
「私だ」
それから話をする。それが終わった時マーグはロゼに申し訳なさそうな顔をした。ロゼもそれを見ておおよその事情を悟ってしまった。
「ロゼ、悪いけれど」
「そうですか」
何時になく気落ちした顔になってしまった。
「また今度ね。急な用事が入った」
「では私も」
「来てくれるか」
「はい、艦橋ですよね。では先に」
「行ってくれるか。では私も後から行くから」
「はい」
「それまで頼むよ」
「わかりました」
ロゼは一礼してマーグの前から姿を消す。廊下に出て非常に落胆した顔になった。
「折角用意したのに。・・・・・・えっ!?」
そして自分自身のことに気付いた。
「私、どうしたのかしら」
その心の変化に気付いたのだ。
「私はあの人・・・・・・いえ彼の副官で監視役なのに」
自分の責務を思い出した。だがそれ以上のものを感じていたのだ。
「何かしら、この気持ち」
それが何なのか自分でもわかりはしない。だが。ロゼの心が大きく変わろうとしていたのは事実であった。

第百九話完

2006・8・14  
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