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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百七話 原種の胎動

                第百七話 原種の胎動
「であるからして」
アークエンジェルに戻ったキラは早速裁判を受けていた。その場所はオービットに移っている。
「被告は自分の行動がどれだけの意味を持っていたから全く理解していません」
ナタルが言う。オービットの会議室でアークエンジェル士官における軍事法廷が開かれていたのである。裁判官はマリュー、弁護人はムウ、そして検事はナタルであった。士官はこうした仕事もこなさなければならないのである。
「今の発言は類推に過ぎません」
ムウが発言する。
「議事録からの削除を求めます」
「削除を許可します」
そしてマリューがそれを認める。三人の間にはキラが置かれていた。
「ええと」
ムウが続ける。
「そもそも民間人を人質にとるというのはコルシカ条約四条に抵触すると思いますが」
「いえ」
だがナタルはそれを否定する。
「今回の行動は同条約特例項目C、戦時下における特例に相当します」
「えっ!?」
ムウはそれを聞き驚きの声をあげる。
「特例項目C!?知らねえよそんなの」
やはりこうしたことにはナタルは強かった。ムウでは分が悪い。
「ああ、しかし」
それでも彼はキラを弁護する。弁護人は当然の処置である。これを認められない者は法を語る資格がない。
「人質を解放した後、ザフトは部隊を後退させました」
さらに言う。
「これはあの部隊の第一任務がラクス=クライン嬢の捜索であり、我々も窮地を脱したということで」
「それは結果論に過ぎません」
ナタルにばっさりと切り捨てられる。やはり手強い。
「キラ=ヤマトには何か申し開きしたいことがありますか?」
マリューはキラに問うてきた。
「何故あの様な勝手なことを?」
「人質にするために漂流中の彼女を助けたわけじゃありませんから」
キラはそれに応えて述べた。
「そんなことは」
「そうだよなあ」
ムウがそれに頷く。
「するなら、彼女だよなあ」
「異議あり!」
「弁護には言葉を慎んで下さい」
「ううむ」
だがナタルとマリューの前に沈黙してしまった。
「では判決を下します」
そしてマリューは遂に判決文を出す。
「キラ=ヤマトの行動は軍法第三条B項に違反、第一〇条F項に違反、第13条三項に抵触するものであり」
淡々と述べる。
「当法廷は同人を銃殺刑とします」
「銃殺刑!?」
「何と」
ムウだけでなく傍聴席にいたライトも声をあげる。
「これは厳しい」
「俺達ってこの論理だと何回銃殺なんだ?」
「そういや御前敵に寝返ったことあったよな」
「まあな」
この三人はそんな中でもいつもの通りであった。
「それによ、命令違反なんかしょっちゅうで」
「少尉殿達はちとやり過ぎです」
ベンがそんな彼等に忠告する。
「ダグラス大尉がその度にカンカンなのですから」
「そういやあたしも元ポセイダルだしね」
「何かうちの部隊って結構やばいのが多いのね」
アムも結構命令違反が多い。
「全く。私も何かと問題児を引き受けることが多い」
「俺がその最初か」
アムロがぼやくブライトに突っ込みを入れた。
「まっ、男なら命令違反の十や二十」
「ロイ、貴方は二十じゃ利かないわよ」
「というのは品行方正なクローディア中尉の御言葉でしたっと」
「ふざけないの」
「続けて宜しいですか?」
マリューが面々に顔を向けて尋ねる。
「おっと、これは失敬」
「どうぞ」
「わかりました。それでは」
また裁判の判決が続けられた。
「しかし、これはあくまで軍事法廷のことであり同法廷は民間人を裁く権限を持ちえません」
マリューは言う。
「キラ=ヤマトには今後、熟慮した行動を求めるものとしこれにて本法廷を閉廷します」
「つまり無罪放免ってことか」
「よかったよかった」
「そんなこと言ったら俺達なんて今頃宇宙空間に放り出されてるからな」
「というか今すぐ飛び込んで来い」
ダグラスがドラグナー三人組に言う。その目は半分本気であった。
「あ、あの」
「要するにもう勝手なことをするなってさ」
ムウがキラに言う。
「まっ、もうすぐお前さんは一民間人に戻れるけどな」
「はい」
その言葉にこくりと頷く。これでとりあえずは終わりであった。
「ところで艦長」
ナタルはすぐに別の話題に入った。
「今後のことですが」
「まずは民間人はオービットに一時収容になったし」
「はい」
「私達はロンド=ベルに正式に入ることになったから」
「では次は」
「暗黒ホラー軍団との戦いよ」
「そうですか、彼等と」
「ザフトの追撃隊はプラントに帰ったしティターンズも地球に戦力を集中させているわ」
「はい」
「そしてネオ=ジオンは今は大人しいし。暫くは彼等を相手にすることになるわね」
「わかりました」
「まずは敵を一つ潰さなくちゃな」
「それが暗黒ホラー軍団というわけだ」
サコンが言葉を入れてきた。
「連中は連中で手強い。注意しておいてくれ」
「わかってるわ。けど」
「けど?何ですか」
サコンはマリューの言葉に顔を向けた。
「一つ気になることがあるの」
「それは一体」
「彼等は。バルマーとは関係がないのよね」
「そうですな、また別の勢力です」
大文字がそれに答えた。
「バームと同じく」
「そうなのですか」
「ただ、バルマーも今はなりを潜めていますし」
「ホラー軍団を叩くのなら今と」
「そうです、だからこそ我々は彼等との決戦に入ります。ただ」
「ただ?」
「どうも。彼等もそれを望んでいるようなのです」
「決戦をですか」
「ええ」
大文字は答えた。
「それがどうしてかはわかりませんが」
「はあ」
「それはそれで好都合ですし。そういうわけで」
「ホラー軍団との決戦ですか」
「何時彼等が来るかわかりません。御注意下さい」
「わかりました」
こうしてロンド=ベルは警戒態勢に入った。キラの件は終わり彼はアークエンジェルに戻っていた。そこでカズイ達に声をかけられた。
「キラ、大丈夫か!」
「皆・・・・・・」
四人がキラの下へ駆け寄ってくる。そして彼を囲んだ。
「何て言われたの?」
「トイレ掃除一週かとか?」
「おう、それいいね!」
ミリアリアとサイの言葉をたまたま聞いたムウが言った。
「やってもらおうかな」
「げっつ、藪蛇」
「まあいいじゃないか」
サイがここで言った。
「もうすぐ俺達も艦を降りるし大したことないさ」
「後さ、俺御前とあの子の話聞いたよ」
カズイが言った。
「えっ」
「あのイージスってのに乗ってるの友達なんだってな」
トールも。
「うん・・・・・・」
もう隠すことは出来なかった。こくりと頷く。
「正直言うと少し心配だったんだ」
「サイ・・・・・・」
「でもよかったよ。御前ちゃんと帰ってきたもんな」
「また一緒にな。友達同士」
「うん」
今度は明るい顔で頷いた。キラには友人達がいた。だから彼等に包まれる場もあったのであった。これは彼にとって幸いであった。
「あとヘリオポリスの民間人だけどな」
「どうなるの?」
キラはトールに尋ねた。
「地球に行くことになったよ。日本にね」
「日本かあ」
「!?どうしたんだ?」
「地球に行っても戦争はあるしさ」
キラは悲しそうな顔でこう述べた。
「それに日本は今」
「あの長官のことか」
カズイが言った。彼等も三輪のことは聞いていた。三輪はあまりにも有名になり過ぎていた。
「相当過激な人なんだろ?スペースノイドを差別しているし」
「そうらしいな、ティターンズに入らなかったのが不思議な程だって」
サイもそれは知っていた。
「そんな人のところに行くのは」
「大丈夫じゃない?日本には岡長官や大塚長官もいるし」
ミリアリアも話に入って来た。
「三輪長官だって好き勝手出来ないわよ」
「どうかな、あんな横暴な人だし」
それでもカズイはまだ不安であった。
「越権行為だってしょっちゅうなんだろ?この前だってザフトがいる街に無差別攻撃を仕掛けようとしてイゴール長官に止められたっていうし」
「少なくとも民間人を大事にする人じゃないよな」
「そうだね」
「けどこのままオービットにいるわけにもいかないしな」
トールが述べた。26
「やっぱり何処かに。な」
「それで日本に」
「仕方ないさ」
そんな話をしていた。するとそこにフレイがやって来た。そしてキラの側まで来た。
「キラ」
「フレイ・・・・・・」
キラはフレイに顔を向けた。
「あの時は御免なさいね」
「えっ」
「パパの乗ってた船が撃沈された時だけど」
「あの時・・・・・・」
「貴方に酷いこと言って・・・・・・御免なさい」
そしてキラに謝罪した。
「貴方は一生懸命戦って私達を守ってくれたのね。それなのに私」
「いいよ、そんなの」
だがキラはそれを許した。人を許さない様な彼ではなかった。
「気にしていないから」
「そうなの」
「それに僕の方こそ」
キラは俯いて言った。
「君のお父さんを守れなかったし。あのザフトのガンダムに」
シンのインパルスが船を沈める場面がキラの頭の中にフィードバックする。何度思い出しても嫌な光景であった。あの一撃でフレイの父だけでなく多くの者が命を落としたのだから。
「だからね」
「君達ここにいたのか」
そこにナタルがやって来た。
「バジルール少尉」
「すぐに食堂に入ってくれ」
「食堂に!?」
「そうだ。そしてそこで待機だ。追って除隊の手続きとなる」
「除隊?」
「私達軍人だったの?」
カズイとミリアリアがそれを聞いてキョトンとした顔になった。キラやトール達も同じである。戸惑った顔を隠せないでいた。ナタルはそんな彼等に対して言う。
「例え非常時とはいえ民間人が戦闘行為を行えばそれは犯罪となる」
「そういえばそうだったよな」
トールがそれを聞いて頷く。
「ほら、あれ」
「ゲリラだったよな、確か」
サイがそれに応える。
「そう、それ」
「正規の軍服を着ていないし階級もないとな。そうなるよな」
ゲリラは戦時法において認められない存在である。若し見つけたならば捕虜にする必要すらないのだ。
「それを回避する為の措置として日付を遡ったのだ」
「そうだったんですか」
「もっともロンド=ベルはどうもその辺りはルーズだがな」
「まあ確かに」
「一般市民でも普通に戦闘に参加してますしね」
「あれは。あくまで協力という形だがな」
ナタルは首を傾げながら述べた。
「勝平君達やグッドサンダーチーム、コープランダー隊等はな」
「ダバさんや今入って来たエイジさん達はどうなるんですか?」
「彼等はバルマーから脱出して来た協力者という形だ」
ナタルは答えた。
「一応軍人扱いにもなっている」
「そうだったんですか」
意外と複雑なロンド=ベルの内部事情であった。
「GGGやチーフさん達もそうらしい」
「ロボットもですか」
「マサト君もな。協力者という形だ」
「はあ」
「皆一応士官扱いだ。なおクワトロ大尉は階級は大尉ということになっているが実際には大佐扱いとなっている」
「やっぱりジオンの赤い彗星だからですか?」
「そういうことだ。何しろジオンでの階級は大佐だった」
「ですね」
「けどシャア=アズナブルじゃないんですよね、あの人」
キラがよりによって確信をついてきた。
「えっ!?」
サイ達はキラのその言葉を聞いて顔を顰めさせた。
「いやキラ、あれは」
「誰がどう見ても」
「シャア=アズナブルはア=バオア=クーで死んだ」
これがナタルの返答であった。
「今ここにいるのはクワトロ=バジーナ大尉、扱いは大佐だ。それでいいか」
「はあ」
「少なくとも大尉はそう言っておられる。またキャスバル=ズム=ダイクンでもないそうだ」
「何かもう世界の皆が知ってるんですけど」
それでもトールが突っ込みを入れた。
「あれが誰かって」
「それは言うな。一応わからないことになってるからな」
「はあ」
「まあとにかく君達だが」
ナタルはキラ達に話を戻してきた。
「君達はあの日以前に志願兵として入隊したことになっている」
「そうだったんですか」
「そうだ。まあこの部隊ではあまり意味がないが」
「ですかね」
「食堂に集まってくれ。いいな」
そう言って去ろうとする。だがここでフレイが声をあげた。
「あの」
「君は戦っていない以上、特別な手続きは必要ない」
「いえ、そうじゃなくて」
だがフレイは言った。
「私、軍に志願したいんですけど」
「!?」
「フレイ・・・・・・」
「ふざけた気持ちで言ってるんじゃありません。父が撃たれてから私色々と考えました」
フレイは言う。
「もうこんなのは嫌だ…こんなところにいたくないとそんな思いばかりでした。でも、やっとこんな生活から解放されるとわかった時何かとてもおかしい気がしたんです」
「おかしい?」
「これでもう安心でしょうか。これでもう平和でしょうか?」
フレイを見るナタルに対してさらに言葉を続けた。
「そんなこと全然ないですよね。世界は依然として戦争のままなんです!」
「それは確かにそうだが」
「私、全然気付いてなかっただけなんです。父が戦争を終わらせようと必死で働いていたのに」
「それは・・・・・・」
「君とは関係が」
「本当の平和が。本当の安心が戦うことによってしか守れないなら」
サイやナタルが止めようとしてもさらに言う。
「私も父の遺志を継いで戦いたいんです。私の力など何の役にも立たないかも知れませんけれど」
「そうなのか」
「はい」
そしてこくりと頷いた。その時ちらりとキラを見た。
(口ではああ言ったけれど)
彼女はまだキラを許したわけではなかったのだ。憎しみに心を支配されていたのだ。
(貴方も志願するのよ。パパを守れなかった貴方も。そして)
心が悪魔に支配されているのに気付かなかった。それはフレイの心の中にあった、誰もがその中に潜ませている悪魔であった。今彼女はそれに支配されていたのであった。気付かないうちに。
(同じコーディネイターと戦って死ぬのよ。そうじゃないと許さないから)
その時だった。ふらりと小さな女の子がやって来た。
「あっ、ここにいたんだ」
「!?」
皆その女の子に顔を向ける。赤い髪の可愛らしい女の子であった。
「お兄ちゃん」
「僕!?」
「そう、お兄ちゃんだよ」
女の子はキラに対して言った。
「ここに来るまで私達の為に戦ってくれたんだよね」
「ま、まあそうだけど」
キラは戸惑いながらそれに答えた。
「けど。何?」
「それでね、御礼に」
「うん」
女の子は折鶴を出してきた。
「これ、あげる」
「僕に?」
「今まで守ってくれたから。その御礼に」
「御礼に」
キラは戸惑いを隠せなかった。そんな少女を見てフレイは咄嗟に思いついた。そしてそれをすぐに実行に移した。
「私もキラみたいに戦いたいんです!」
「フレイ!」
「何の罪もない人達を守る為に!そして戦争を終わらせて皆が安心して暮らせるようになる為に!」
「軍に入るのだな?」
「はい」
ナタルの言葉に強い声で頷いた。
「そのつもりです」
「わかった」
ナタルはそれを聞いたうえで応えた。そして言った。
「本人の意志であるならこちらとしては断る気はない」
「はい」
「では私に付いて来い。手続きをしよう」
「よろしくお願いします」
フレイはナタルについて行く。後にはキラ達と女の子が残された。キラは女の子に尋ねてきた。
「君の名前は?」
「エルっていうの」
女の子は名乗った。
「これから宜しくね」
「うん、こっちこそ」
「私達日本に行くことになったから」
「うん、そうらしいね」
「だから折鶴なの。大事にしてね」
「わかったよ、それじゃあ」
「なあ」
トール達はトール達で深刻な顔になっていた。
「どうする?」
「どうするって言われてもなあ」
サイはトールの言葉に困った顔をしていた。
「フレイも参加したし」
「けど俺達は」
志願するべきかしないべきか迷っていた。だがここで警報が鳴った。
「敵部隊発見、敵部隊発見」
「あの声は」
「命さんか」
「総員出撃用意!」
「敵!?」
「今度は一体」
「暗黒ホラー軍団だ」
そこにやって来たマイヨが彼等に言った。
「暗黒ホラー軍団が」
「そうだ。彼等との戦いも本格化している。激しい戦いになるぞ」
「戦いって」
「また」
「何はともあれ我々は行く」
マイヨは言った。
「地球を守る為にな」
「地球を」
「大尉殿、こちらです」
「うむ」
マイヨはプラクティーズと合流した。そしてナデシコに向かって行く。キラ達はそれを黙って見送っていた。だが彼等も決意していたのであった。
出撃前であった。アークエンジェルも出港にかかろうとしていた。ブリッジは人手が足りない。マリューがそれに困っていた時不意に四人やって来た。
「すいません」
「遅くなりました」
「貴方達」
マリューはサイ達に顔を向けた。
「どうしてここに」
「志願兵です」
ナタルがマリューに答えた。
「志願兵って」
「非常時ですから私が許可しました」
将校の権限を使ったのだ。
「そうだったの」
「はい、ですから俺達も」
「このまま艦橋で戦わせてもらいます」
「いいけど。ロンド=ベルはかなり大変らしいわよ」
「わかってますって」
トールが笑顔でマリューに答えた。彼はそう操縦席にいた。カズイ達もそれぞれの場所についていた。
「それは承知のうえですから」
「じゃあ艦長」
「わかったわ。それじゃあ」
マリューも彼等を受け入れた。そして指示を出した。
「出港用意」
「出港用意」
ミリアリアが復唱する。こうしてサイ達も戦場に立つことになったのであった。
アークエンジェルも入れた八隻の戦艦は出撃した。出港してすぐにマクロスのブリーフィングルームに主だった者達が集まったのであった。
「いいのかよ、本当に」
そのマクロスのブリーフィングルームで甲児がキラやカズイ達に顔を向けていた。
「うん」
「もう決めたから」
「お、俺も」
トール、サイと比べてカズイの返事は今一つ頼りないものであったが。
「やっぱり。逃げるのってよくないと思いましたから」
「そうだったの」
さやかがそれに応えた。
「はい、アークエンジェルも人手不足ですし」
「で、あんたもなのね」
アスカがキラに顔を向けて尋ねた。
「うん」
「ったく、またウジウジして」
「別にウジウジしてなんか」
「してるわよ。そんなので戦えるのかしら」
「何だ、アスカって誰にもつっかかるのかよ」
ジョナサンがそんなアスカを見て言った。
「この前ケーン達に突っかかったと思ったらよ」
「アスカはいつもああよ」
カナンがそれに答えた。
「ほお」
「いつものことだから。気にしないといいわ」
「だったらいいけどな。まあ俺には関係ないか。こっちに来ない限りはな」
「そんなのでやっていけるの、あんた」
「やっていけるって」
「そんなので死んでも知らないからね。死ぬなら一人で死んでよね」
「そんな・・・・・・」
「ちょっとアスカ」
見るに見かねたシンジが間に入ろうとする。
「そんなこと言ったらキラ君だって」
「あんたは黙ってなさいよ」
アスカはさらに言った。
「折角新しく来てくれた人もいるのに」
「おう、宜しくな」
見ればシローの側に三人いた。
「テリー=サンダースジュニアだ」
「カレン=ジョシュワよ」
「ミケル=ニノリッチ。これで〇八小隊が揃ったね」
「ああ、久し振りだな」
「ヘンケン隊長の隊からだ。宜しくな」
「宜しくね。けどいいの?」
「何がだ?」
サンダースがアスカに顔を向けた。
「いえ、向こうも大変なのにと思って」
「まあヘンケン艦長も大変だけどな」
「向こうにはアポリー中尉とロベルト中尉、スレッガーさんにリュウさんがいるけどね」
「渋い顔触れね」
「まあそうだな。それに今ギルバートン提督の艦隊もいるし」
「今のところはそんなに激しい戦闘はないからね。あっちも戦艦六隻にパイロットも一杯いるし」
「ふうん」
「それで俺達が回ってきたんだ。宜しくな」
「ええ、こっちこそね」
アスカは三人に挨拶を送った。
「で、モビルスーツは何なの?」
「俺はパラス=アテネだ」
「あたしはハンビラビ」
「で、僕がメッサーラ」
「あら、ティターンズのモビルスーツばかりね」
「まあ捕獲した機体をそのまま」
「性能は高いよ」
ミケルとカレンがエマに応えた。
「ガンダムは隊長だけ」
「ちょっと寂しいなあ」
「何かそう言われると済まない」
シローは少し苦笑いを浮かべた。
「そういえばガンダムも二機来ているそうだけど」
「ブイは俺が乗る」
「トマーシュ」
オデロが褐色の肌の少年に顔を向けた。トマーシュ=マサリク、ウッソやオデロの旧友である。
「御前もこっちになったのか」
「ああ、宜しくな」
「それでガンダムもか」
「あれ、もう一機のガンダムは?」
ウッソが尋ねた。
「一機はトマーシュとして」
「もう一機は」
「ガンダムファイターらしいぞ」
サンダースがそれに答えた。
「ガンダムファイター」
「また変態の登場なのね」
アスカがそれを聞いて露骨に嫌悪感を顔に浮かべていた。
「おい、誰が変態だ!」
ドモンが早速それに喰らいつく。
「ガンダムファイターを何だと思っている!」
「実際に変態じゃないの!」
だがアスカも負けてはいない。
「素手でモビルスーツを叩き潰しておいて何処がまともなのよ!」
「あんなもの誰でも出来る!」
「出来るわけないでしょーーーが!」
「あの、素手でモビルスーツって」
キラがそれを聞いて恐る恐るシンジに尋ねた。
「それ、本当のこと?」
「モビルスーツどころか使徒だって倒してたよ」
「嘘・・・・・・」
「残念ながら嘘じゃないのよ、これが」
「艦長!?」
「残念、私よ」
声が似ていたが違った。そこにいたのはミサトであった。
「私も最初見た時は我が目を疑ったけどね」
「そんなことしたの誰なんですか?」
「マスターアジアっていう訳わかんねえ爺さんだ」
宙が言った。
「マスターアジア」
「東方不敗って名前なんだけどな。サイボーグの俺よりすげえ」
「嘘でしょ、そんなの」
キラにも信じられなかった。
「そんなの人間じゃ」
「信じたくはないけどそうなのよ」
リツコも言った。
「科学では証明出来ないけれどね」
「そんなに」
「それに。とても素敵な方」
レイは頬を赤らめさせて呟いた。
「逞しくて躍動感があって。とても凛々しい方よ」
「そうなんですか」
「まあ、マスターアジアが前に出たらやることは一つよ」
ミサトはキラに対して言った。
「逃げなさい」
「逃げるって」
「相手は普通じゃないからよ。相手になるのは・・・・・・いないわよ」
「そんなに・・・・・・。ロンド=ベルが」
「とにかく尋常じゃない強さなのよ。スピードと攻撃力が」
「はあ」
「そのうちあの人とも決着つけなければならないけど」
「どうなるのかしらね」
「とりあえず足止めとかはできねえの、そのおっさん」
ムウがミサト達に尋ねた。
「洒落にならない怪物みたいだけど」
「どうかしらね」
「一撃で敵まとめて倒したりするし」
「何かかなり厄介みてえだな」
「だから困ってるのよ」
「しかも敵なのよ」
「ううむ、参った」
「まあこっちにも助っ人が来てくれるけれど」
「助っ人!?」
「ゲルマン忍者がね。何者かわからないけど」
「ゲルマン忍者ねえ」
ムウはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「また胡散臭いのみたいだな」
「だがかなり頼りになるぞ」
「そうなのか」
凱の言葉に振り向く。
「俺もタケルも助けられたからな。オービットでのバルマーの戦いに」
「へえ」
「正体はわからないが凄い頼りになるぞ」
「味方か。じゃあそれに越したことはないな」
「案外アスカの生き別れのお兄さんとかだったりして」
「ちょっと、止めてよ!」
アスカはドモンとの喧嘩を中断してミサト達の方を振り向いた。一瞬エクソシストに見えた。
「あんな人間外の存在肉親になんかいないわよ!」
「またえらく凄い物言いだな」
勇がそれを聞いて呟く。
「そうですよね。彼女って好き嫌い激しいんですね」
サイがそれに頷く。
「まあな。けどあれで本当はいい奴なんだ」
「そうなんですか」
「アスカはいい娘だよ」
ヒメも言った。
「自分に素直でないだけで」
「ちょ、ちょっと何言ってるのよ」
ヒメの言葉に顔を赤くさせていた。
「あたしは別にそんな」
「ほらね、優しいんだよ」
「うう・・・・・・」
「ツンデレってやつですか?」
「上手いことを言うな」
ヒギンスがトールの言葉に頷いた。
「言われてみればそうか」
「何だかんだでエイジの面倒も見てるしな」
「エイジさんは少し違うのよ」
アスカは言った。
「タケルさんと同じで。何か」
「タケルさんとですか」
カントはそれを聞いてふと呟いた。
「言われてみれば感じが似ていますね」
「確かにな。あれ、そのタケルとエイジは?」
「今コスモクラッシャー隊と一緒に偵察に出ていますよ」
「そうか」
ナッキィがカントの言葉に応えた。
「敵は何時出て来るかわからないからな」
「暗黒ホラー軍団ですよね、次の敵は」
「ああ」
勇がキラに答えた。
「あれはあれで厄介な敵だからな」
「敵はザフトだけじゃなくて」
「他にも一杯いるからな、覚悟しておけよ」
「はい」
キラは勇のその言葉に頷いた。そしてブリーフィングルームで作戦の打ち合わせを聞く。彼等が打ち合わせを終えた頃にはタケルとエイジは本隊とは少し離れた場所で偵察にあたっていた。
「今のところレーダーに反応はありません」
ミカが報告した。
「ミノフスキー粒子もありません」
「じゃあここには敵はいないのか」
「そうね」
ナオトに応えた。
「けれどこの近くにはいるでしょうね」
「そうだな」
ケンジがそれに頷いた。
「それは間違いない」
「だとすれば何処にですかね」
「それがわかれば苦労はしないさ」
ナオトはアキラにそう返した。
「敵も馬鹿じゃない。そうおいそれとは見つかりはしないだろうな」
「やれやれだな」
「まあそうぼやくな。敵が出たら出たで大変だ」
「暗黒ホラー軍団ですか」
そのコスモクラッシャーに同行しているエイジが言った。
「彼等も必死ですからね」
「何か知ってるの、エイジ兄ちゃん」
「ああ、バルマーにいた頃聞いたんだ」
彼はナミダに対して言った。
「彼等の母星にブラックホールが近付いてきている。それで必死に移住先を探しているってね」
「そうだったんだ」
「彼等にも彼等の事情があったということか」
ケンジはそれを聞いて考える顔になった。
「物事は何事も簡単にはいかないな」
「けどそれで地球が侵略されるのは話が別ですよ」
「そうだな、連中の事情はあるにしろ」
アキラとナオトがこう述べた。
「それはそれ、これはこれだ」
「他の誰もいない移住先ならともかく」
「それもあるにはあるのですが」
エイジはまた述べた。
「じゃあどうして」
「バルマーが手を回して妨害しているのです。とくに外銀河方面軍が」
「外銀河方面軍といえば」
「エイジがいた軍じゃないの?」
「ええ、そうです」
エイジはその言葉に答えた。苦い顔になっていた。
「暗黒ホラー軍団はバルマーとも対立していましたから」
「彼等を滅ぼす為にか」
「はい。下手に攻め滅ぼすよりも手間がかからないと。その軍の司令が判断して」
「そちらの司令は誰だ?」
「ハザル、ハザル=ゴッツォです」
ナオトの問いに返す。
「ハザル=ゴッツォか」
「はい。傲慢で残忍な男です。しかも卑劣で」
「おいおい、何かとんでもない奴だな」
「最低の男みたいだな」
「少なくとも人間的には最低です」
エイジはそれは認めた。
「ですが。バルマー十二支族ゴッツォ家の出身で」
「ちょっと待って」
ミカはここであることに気付いた。
「何か?」
「今ゴッツォって言ったわよね」
「ええ、それが何か」
「それってユーゼス=ゴッツォと同じ一族ってことなのかしら」
「その通りです」
「そうだったの」
「あのユーゼスと同じ一族だったのか」
「ユーゼスは元々宰相であるシヴァー=ゴッツォの血縁者でした」
「宰相の」
「そしてハザルはシヴァーの嫡子。そういう事情だったのです」
「そうだったの」
「それで艦隊司令に」
「はい。バルマーは霊帝と十二支族が全てを支配する国家ですから」
「そうだったのか」
「それで司令に」
「で、そいつは司令としてはどうなんだ?」
ナオトがまた尋ねた。
「無能なのか?」
「いえ、残念ながら有能です」
エイジは渋々ながらそれも認めた。
「司令官としては着実に戦功を挙げています」
「人間的には最悪だが能力はあるってことか」
「はい」
「厄介な相手だな」
「そういう奴に限ってとんでもない作戦を実行に移すからな」
「今までも一般市民を巻き込んだ無差別攻撃も数多く行っています」
「やっぱり」
「それにより多くの犠牲者を出していますが何しろ功績を挙げていますので」
「しかも宰相の息子か」
「将に怖い者なしだな」
「その側近にいるル=カインという男も危険です」
「ル=カイン」
「十二支族の血縁者でありグラドスの貴族の一人です」
「グラドス!?」
「バルマーの殖民惑星の一つです。簡単に言うとギシン星と同じです」
「ギシン星と」
「はい。バルマーは本星以外にも多くの惑星を持っています。そのうちの一つなのです」
「そうなのか」
「グラドス人達は帝国のエリートとして極めて高いプライドを持っています」
エイジは述べた。
「自らを選ばれた高貴な存在と自負し、平和を愛すると称しているのです」
「おいおい、バルマーなのにか」
ナオトがそれを聞いて苦笑を浮かべた。
「そいつ等も結局侵略に加担しているんだろ?」
「それでもです。彼等はそう主張しています」
「盗人猛々しいってのはこのことだな」
「まあそうですが」
「そのグラドス人は本当に平和を愛するのかい?」
「いえ」
アキラの問いはすぐに否定された。
「それどころか。ハザルの無差別攻撃にいつも進んで加担しています」
「何て奴等なの」
ミカもそれを聞いて顔を顰めさせた。
「平和を愛するって言いながらそんなことするなんて」
「何だよ、嘘っぱちじゃないか」
ナミダも抗議の声をあげる。
「それで彼等はハザルの軍の主力なんだね」
「そうなります。高級将校のかなりの部分を占めています」
今度はタケルに応えた。
「バルマーの中ではバルマー人として遇されていますから」
「そうなのか」
「それで」
「僕はその無差別攻撃に反対しました」
エイジの声が苦いものになった。
「武器を持たない一般市民を殺戮し、その全てを破壊するというハザルとル=カインの作戦に反発してそして」
「地球に来たのか」
「はい。それに僕の母さんは地球人でしたし」
「そうなのか」
この告白にはコスモクラッシャー隊も驚きを隠せなかった。
「エイジ、君は」
「そうです、地球人とグラドス人のハーフなんです」
彼は今全てを明らかにした。
「健一さん達と同じ様な理由で」
「ここにもそうした二つの星の間にいる人間がいたとはな」
ケンジは感慨を込めて呟いた。
「そしてロンド=ベルに入って」
「戦うというのか」
「僕は決めたんです。地球とグラドスが正しい関係になる為に戦おうって」
「グラドスがか」
「へっ、俺は願い下げだな」
だがエイジの話を聞いたナオトは顔を顰めてこう言った。
「ナオト」
「聞いてりゃ碌でもねえ連中じゃねえか。そんな奴等と仲良くしたいなんて思わないな」
「ですね。俺もです」
アキラも同じ意見であった。
「平和を愛するなんて言いながら一般市民を平気で攻撃するなんて」
「最低よ。そんな奴等死んじゃえばいいのよ」
ミカも。多くの者がギガノスに嫌悪感を抱いていた。
「普通の人達っていないの?」
「あまり」
エイジはナミダの問いに申し訳なさそうに首を横に振った。
「彼等は自分達こそが最高だと思っているんだ。バルマー人の中でも特に」
「そうなの」
「ええ。だから彼等はそうした非人道的な作戦にも平気なんです」
「何処が平和を愛するんだよ。それで」
「僕に言われましても」
「何はともあれ彼等の相手をする時は用心すべきだな」
ケンジは冷静な声でそうまとめた。
「一般市民を攻撃対象にする様な連中だからな」
「そうですね」
「出て来たら片っ端からぶっ倒してやるぜ」
「レーダーに反応です」
ナオトが威勢よく言ったところでタケルから報告があがった。
「敵!?」
「暗黒ホラー軍団か」
「おそらく。どうしますか?」
「すぐに本隊に連絡をとってくれ」
ケンジはミカに言った。
「暗黒ホラー軍団を発見、すぐにこちらに来てくれと」
「わかりました。タケル、用意はいい?」
「ああ何時でも」
タケルはミカに頷いた。そしてガイアーが光った。
「六神合体・・・・・・!」
他の五体のマシンが姿を現わした。そしてガイアーと合体しゴッドマーズになった。
「それがゴッドマーズ」
エイジはゴッドマーズの姿を見て声を漏らした。
「ギシン家の誇る二体のうちの一つ」
「もう一体は兄さんが」
「兄さん!?」
エイジはタケルが兄と言ったことで眉を動かした。
「まさか」
「ああ、マーグは俺の兄さんだ」
「やはりそうだったのか」
エイジはそれを聞いて納得したように頷いた。
「ギシン家の双子のうちの一人は君だったのか」
「兄さんを知っているのか」
「彼のことは帝国でも有名だ」
「そうだったのか」
「十二支族ギシン家の当主でしかも銀河辺境方面軍の司令官だからね。かなり有名だよ」
「兄さんはそんなに有名だったんだ」
「バルマーでも屈指の超能力者として。霊帝からも戦力として期待されているらしい」
「戦力として」
「そう、貴重な戦力としてね」
「兄さんは本当は戦いを望んじゃいないのに」
タケルは戦力という言葉に悲しみを覚えた。
「何故そんなふうに」
「それがバルマーなんだ」
エイジの言葉も悲しみを帯びたものになった。
「人はあくまで駒に過ぎないんだ。霊帝のね」
「霊帝の」
「だから僕はバルマーを逃れた」
エイジの言葉は悲しみを深くさせていく。
「そしてここまで来たんだ」
「そうだったのか」
「地球はそのバルマーに狙われている。それを忘れないでくれ」
「ああ」
「そして今は目の前の敵を倒そう。ケンジさん」
今度はケンジに通信を入れた。
「本隊の到着は」
「あと二分だそうだ」
「二分」
「それまでは持ち堪えるぞ」
「はい」
「ゴッドマーズが敵を引き付けます」
タケルが前に出て来た。
「この程度の数なら」
「この程度って言っても千は下らないぞ」
「大丈夫ですよ、こっちからは仕掛けませんから」
「いえ、無理は禁物です」
だがそこにエイジのレイズナーが出て来た。
「エイジ」
「タケルさんの身体には中性子爆弾が埋め込まれているのでしょう?若しものことがあれば」8
「しかし」
「僕も行きます」
エイジは言った。
「何、時間を稼ぐだけですから。やってみせますよ」
「そうか、頼めるか」
「はい、じゃあコスモクラッシャー隊の皆さんも」
「ああわかった」
「二分、持ち堪えてやるぜ」
「フン、僅か三機ではないか」
「見たところゴッドマーズにコスモクラッシャー、そしてあれは」
「バルマーの兵器の一つだな」
ダンケルがキラーとアシモフに言った。
「バルマーの」
「そうだ、レイズナーとかいったな」
「何故バルマーの兵器が地球に」
「さてな、それはわからんがあれは厄介だぞ」
「そうなのか」
「機動性が半端ではない。注意することだ」
「うむ、わかった」
「ではこちらからは積極的には仕掛けずに」
「こちらに敵が来ていることだしな」
「敵がか」
「うむ」
デスモントが同僚達に答えた。
「レーダーに反応だ。二分後にここに来るな」
「そうか、ではここはまずは派手に動かずに」
「敵の主力に向かう。よいな」
「うむ」
ホラー軍団はまずはあまり動かなかった。円盤が少し前に出ただけである。これはコスモクラッシャーとレイズナーによって何なく撃墜された。
「どうやらこちら側の軍に気付いているようですね」
「どうやらそうみたいだな」
ケンジはエイジにそう答えた。
「どうやら助かりそうか」
「はい」
「待って下さい、レーダーに反応」
「敵か!?」
「新手か!?」
「いえ、これは」
ミカはレーダーを見ながら言う。
「この反応、モビルファイターです」
「モビルファイター」
「まさかあの爺さんが」
「いや、有り得るぞ」
ナオトはアキラに対して言った。
「モビルファイターは宇宙でも普通に動ける。ドモン達がそうだろう」
「そんな、それじゃあ」
「クッ、こんな時に!」
「タケル、一体どうしたんだ」
エイジは歯噛みするタケルを見て声をかけてきた。
「今来ているのはそんなにとんでもない奴なのか」
「一言で言うと怪物だ」
「怪物」
「素手でマシンを破壊したりするのよ」
「素手でマシンを!?馬鹿な」
ミカの言葉を否定しようとする。だがその彼にケンジが言った。
「いや、残念だが本当のことだ」
「まさか」
「東方不敗マスターアジア、それが彼の名だ」
「その男はそんなに強いのか」
「ああ、非常識なまでにな」
「一人でバルマーの一個艦隊は軽くやっつけられそうだよな」
ナオトとアキラの言葉は嘘を言っているものではない。エイジにはわかった。
「そんな、じゃあ化け物か」
「そうだ、あれは化け物だ」
ケンジも同じことを言う。
「ゴッドマーズでも相手にはならないかもな」
「俺の超能力でもあの人には勝てない。ここで来られたら」
「来ました!」
ミカが叫ぶ。
「間違いありません!ガンダムです!」
確かに戦場にガンダムが現われた。しかしそのガンダムは幸運なことにマスターガンダムではなかった。
「あのガンダム何か変だよ」
まずナミダが言った。
「やけに細長いよ」
「そういえば」
「あのガンダムは一体」
「ロンド=ベルの戦士達か!」
見ればかなり異様なガンダムであった。手には錫杖を持ち、下半身は何と鐘である。見たこともないようなシルエットのガンダムであった。
「そ、そうだが」
ケンジがその中にいる奇妙な眼鏡の男に応えた。
「貴方は一体」
「拙僧はネオ=チベットのガンダムファイターキラル=メキレル」
「ネオ=チベットの」
「左様、この度義によりロンド=ベルに加わることになった」
「じゃあロンド=ベルに加入することになった二機のガンダムのうちの一機は」
「このマンダラガンダムである」
「マンダラガンダム」
「また凄いデザインだな、おい」
「義により助太刀させてもらう。よいか」
「こちらは構わないが」
ケンジはその異様なシルエットに戸惑いをまだ覚えていた。
「敵は多い。大丈夫なのか」
「心配は無用、拙僧とてガンダムファイター」
「あの」
エイジがタケルに囁いた。
「ガンダムファイターって皆ああした人達なのか?」
「まあ個性的なのは事実だね」
「そうなのか」
「他にも忍者もいるし。それで滅茶苦茶に強いから」
「宇宙は広いんだな」
「まあ彼等は特別だから。マスターアジアとかは本当に信じられないよ」
「何か見たいような見たくないようなだね」
「我が目を疑うのは覚悟しておいてくれ」
「ああ、わかったよ」
「では参る!」
キラルは向かって来る数機のホラー軍団の円盤の前に出て来た。そして身構える。
「キラル殺法、曼荼羅円陣!」
その後ろに曼荼羅が現われる。そしてそこから無数の炎が放たれた。
「極楽往生!」
炎が円盤達を襲い焼き尽くす。瞬く間にその円盤達を一掃してしまっていた。
「南無阿弥陀仏!」
そして錫丈を横にし印を結ぶ。見事な術であった。
「強い・・・・・・」
「確かに」
ミカとケンジはマンダラガンダムの思わぬ強さに呆然としていた。
「では参ろうぞ!地球を護る為に!」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「何か」
「もうすぐ援軍が来てくれる。積極的に前に出る必要はないんだ」
「左様か」
「ああ、だから来る敵の相手をすればいい」
「レーダーに反応です」
ミカがまた言った。
「この反応は・・・・・・ロンド=ベルです」
「これでよし」
「さあ、本格的な戦いはこれからだ」
「!?あれ」
ロンド=ベルが戦場に到着した。早速雅人がマンダラガンダムを見て声をあげた。
「何か変なガンダムがいるよ」
「あれはネオ=チベットのマンダラガンダムよ」
レインがそれに答えた。
「マンダラガンダム」
「また訳のわからねえガンダムが出てきやがったな、おい」
「あんなのガンダムじゃないわよ」
ニナが忍に対して言った。
「ガンダムファイターってどうなってるのよ」
「確かにな」
コウがニナの言葉に頷く。
「あそこまで違うと」
「キラのガンダムはそれを考えるとオーソドックスだよな」
「ガンダムっていっても色々なんですね」
キラはキースの言葉に応えて述べた。
「あんな凄いガンダムもあるなんて」
「凄いのはガンダムだけじゃねえしな」
リュウセイが言った。
「中身もまた。とんでもねえからな」
「素手で使徒を倒すんですよね」
「思い出したくもない話ね」
「素敵だったわ、本当に」
キラの言葉にアスカとレイはそれぞれ全く違う反応を示した。
「あんな変態爺さん。二度と会いたくはないわ」
「また。会いたいわ」
露骨に顔を顰めるアスカに対してレイは頬を赤らめさせている。シンジもミサトもそんなレイを見て驚きを隠せない。
「綾波ってああした人がタイプだったんだ」
「何て意外なの・・・・・・」
「その前にあの人人間なのかしら」
リツコにとってはそれさえも疑問であった。
「使徒とかどっか別の世界から来た人じゃないわよね」
「生物学的にはこっちの人間って出てるじゃない」
「それはそうだけど」
だがリツコにもそれは安易に信じられるものではなかった。正確に言うならば認めたくはないことであった。
「あの人はね」
「そのあの人とも何時かは決着つけないといけないのよ」
「勘弁して欲しいわね、本当に」
そんな話をしながらエヴァを見守っている。エヴァ自体には別に異常はなくそのまま前線に展開していた。
暗黒ホラー軍団もロンド=ベルの戦場への到着は見ていた。そしてすぐに指示を出した。
「全軍攻撃だ」
「うむ」
四天王の四隻の戦艦は後方にある。そして円盤やマシンがロンド=ベルに向かう。とりあえずは普通の戦術であった。
「あのグランドクロスは使って来ないみたいですね」
「そうだな」
大文字はサコンの言葉に応えた。
「あの時はどうなるかと思いましたがね」
「それだけの切り札なのだろうな、彼等にも」
「じゃあ今はその切り札を出す時ではないと」
「決戦はもう少し先になりそうだな」
「そうですね、それじゃあ今は」
「戦力削減に努めるぞ、いいな」
「了解!」
皆それに頷く。そして攻撃にかかる。
ホラー軍団はまずは前方にいるレイズナーに攻撃を集中させる。だがレイズナーはその動きを見切っていた。
「こんなものっ!」
驚異的な機動力でその攻撃をかわす。あまりもの速さの為分身しているようにすら見える。
そして攻撃を浴びせる。だが致命傷を与えるだけで撃墜はしない。
「むっ」
それに最初に気付いたのはアムロであった。
「彼はまさか」
「はい、多分」
シーブックがそれに応えた。
「命を奪うことを怖れていますね」
「そうだな。コクピットも決して狙わない」
「命を」
キラがその話を聞いて呟いた。
「戦いでも敵の命を」
「敵であっても」
エイジはコクピットの中で呟いていた。
「命だけは・・・・・・!」
奪いたくはなかった。だから致命傷を与えて稼動不能にするだけだったのだ。彼はそうして敵を止めていた。
ロンド=ベルの他のパイロットは一気に攻撃に出ていた。クインシィとジョナサンも前に出る。
「私の前に出るとは!」
「迂闊だな、おい!」
二人は同時に攻撃を仕掛ける。二つのブレンが派手に乱舞して敵を屠っていく。二人の強さは全く衰えてはいなかった。
「ううむ、ライバルキャラは活躍するものなのか」
「あんたは別だけどね」
「な、何を言う!」
ギャブレーはアムの意地悪な言葉にムキになっていた。
「私とてライバルとして!」
「じゃあ早くやりなさいよ」
「ダバはもうバスターランチャーで敵の小隊を一つ潰しているぞ」
「ぬうう、何時の間に」
レッシィの言葉の通りであった。ダバは前線でバスターランチャーを手に見事な活躍をしていた。
「ならば私も!」
ギャブレーもバスターランチャーを構えた。そして派手にぶっ放す。
「これで!」
そして敵を薙ぎ倒していく。いささか三枚目であるがパイロットとしては腕は確かであった。
「ははは、どうだ、私の活躍は!クワサン殿も御照覧あれ!」
「本当に扱い易いよね」
「全くだ。少し言えばな」
「何か言ったか?」
「別に何も」
「さあ、行くぞ」
「うむ」
アムとレッシィの企みには気付かない。気付けば気付いたで騒ぎになるが。何はともあれ戦いは激しく行われていた。
「それじゃあこっちも仕掛けるとするか!」
ムウのメビウス=ゼロが突貫する。
「行けっ!」
メビウスが数個に別れそれぞれの個体で攻撃を仕掛ける。ムウだけにしか出来ないオールレンジ攻撃であった。
「中々やるな」
「クワトロ大尉には負けますよ」
軽い調子でクワトロにそう返した。
「やっぱり実績が違いますから」
「私なぞたかが知れたものだがな」
「いやいや、何を仰るやら」
「所詮私は老兵なのだからな」
「って、まだ二十代じゃ」
「ロンド=ベルではな。もう老兵なのだよ」
「そんなこと言ったら葛城三佐は・・・・・・ウワッ!」
「何か言ったかしら、フラガ大尉」
モニターにいきなりミサトが出て来た。顔はにこやかに笑っているがその額には青筋が幾筋も出ていた。
「い、いえ何も」
「だったらいいわ、それじゃあ」
モニターがぶち切れた。ムウはこの時敵よりも遥かに恐ろしいものを見ていた。
「おっかなかったあ」
「全く」
ミサトはグラン=ガランの艦橋で目を怒らせていた。
「何か軽い人も来たわね」
「けどよ、今の三佐」
「ええ、本気だったわよね」
シゲルとマヤがヒソヒソと話をする。
「さて、と」
ミサトは気を取り直して指示に戻る。
「アマノ少尉はそのまま右に回って」
「了解です」
「それでバニング少佐と合流して。〇八小隊も一緒に」
「わかった」
「それじゃあ派手にやるか」
〇八小隊も同行していた。そしてシローと共に息の合った戦いを見せだした。
「よし、チームワークはそのままだな!」
「いいねえ、この感じ!」
サンダース、カレン、ミケルはそれぞれ遠距離攻撃と遊撃に別れ敵を攻撃する。シローは別の小隊を狙っていた。
「俺はこいつ等を!」
敵のマシンを小隊単位でビームで撃つ。それで敵は薙ぎ払われていく。〇八小隊は久し振りに揃っても相変わらず見事な動きを見せていた。
その横ではプラクティーズがいた。彼等も息の合った動きを見せている。
「ウェルナー!ダン!」
「うむ!」
「やるぞ!」
二人はカールの言葉に合わせて動きはじめた。三機の青いマシンが連なった。
「まずは!」
最初はウェルナーが遠距離射撃を放つ。それで忽ち数機撃ち抜かれる。
「そして!」
今度はカールが。ビームライフルを放つ。それでまた数機。
「これで止めだあっ!」
残った敵はダンがレーザーソードで斬り払う。彼等も見事な連携プレイを見せていた。
「何か前の戦いの時よりも強くなっているな」
トマーシュはロンド=ベルの戦いぶりを見て思わず呟いた。
「俺も何か手持ちぶたさだな」
「おいおい、何言ってるんだ」
そんな彼にオデロが声をかけてきた。
「敵は多いんだからな、御前も頼むぜ」
「しかしな」
「ウッソやジュンコさんもいるけどな、俺達も頑張らなくちゃいけないんだ」
「それはそうだけどな」
「折角ガンダムに乗ってるんだ、やるぜ」
「ああ。ところでガンダムって言えば」
「ガンダムファイターは別に気にするなよ」
「違うよ、あのキラって奴だけどな」
「あいつか?」
「何気にいい動きをするな。あれがコーディネイターか」
「そうなんだろうな」
「邪魔するなら!」
キラはストライクで目の前の円盤の小隊にあたっていた。
「これで!」
ビームライフルを連射する。派手でいながら無駄のない動きで敵を次々に撃ち抜いていく。
爆発が起こる。彼はその爆発を見てあることに気付いた。
「あれっ、これは中に人がいない」
「ああ、そうしたものもある」
それに大介が答えた。
「無人機ですか」
「そうさ。バルマーや暗黒ホラー軍団がよく使うんだ」
「それで敵の消耗を図る」
「そういうことだ。だからこうしてた敵はすぐに撃ち抜いていい」
「はい」
「もっとも敵もそう簡単には死にはしない。何度でも来るから用心するんだ」
人を殺すことを躊躇うキラに対する言葉だった。彼はさらに戦いに入っていく。そんな彼を気遣う言葉であった。
「ふむ、今日はこの辺りだな」
ダンケルが戦局を見て言った。
「そろそろ引き揚げるべきだと思うが」
「そうだな」
アシモフがそれに頷いた。
「潮時だ」
「では下がるか」
キラーも言った。
「今日はほんの前哨戦だしな」
「だが次は違うぞ」
デスモントの目は戦意で燃えていた。
「決戦だ。わかっているな」
「うむ、今度こそな」
「ロンド=ベル、そして地球を」
「倒し、征服する」
「我等の未来の為に」
彼等は残った戦力を収容して戦場を離脱した。戦いはこれで終わったのであった。
「敵が逃げていきやがるな」
「終わったんですね」
キラは甲児に問うた。
「ああ、一応はな。けれど息の根を止めたわけじゃねえから」
「また来ますか」
「多分な。すぐにでも」
「そしてまた戦って」
「まっ、それが戦争ってやつだ」
ムウがキラに対して言った。
「そんなに深く考えることもないさ」
「はあ」
「俺だってここに来るまでにティターンズやらミケーネやらガイゾックやらと何度もやり合ったからな」
「フラガ大尉も大変だったんですね」
「前の戦いでBF団に基地襲われた時は死ぬかと思ったな」
「BF団っていうと」
「何かよくわからねえ正体不明の人間かどうかすら謎のボスとこれまた詐欺みてえに強え三つの僕におまけに変態みたいな能力と戦闘力の異常能力者が十人程いる組織さ。知ってるだろ」
「宇宙空間でも戦えるんでしたよね」
「まああの連中はな。特別だよ」
「コーディネイターじゃなくて」
「一応超能力者らしいな」
「超能力者ですか」
「その前に人間かどうかって疑問があるがな」
「マスターアジアって人みたいに」
「近いな」
「そうね」
ミサトも真剣な顔で頷く。
「BF団には常識が一切通用しないからな」
「常識がですか」
「俺の基地に来たのは赤い仮面を着けた忍者だった」
「十傑集マスク=ザ=レッド」
ナタルがその名を口にして青い顔になった。
「あのBF団きっての忍術の達人にして稀代の破壊者」
「ビッグゴールドなんか連れて来てな。基地はあっという間にボロボロになっちまった」
「迎撃出来なかったんですか?」
「ああ。てんで歯が立たなかった。モビルスーツもモビルアーマーも訳わからねえ忍術や手裏剣や刀でバタバタやられたしな」
「凄かったんですね」
「国際エキスパートから影丸が来てくれなかったら基地はそのまま全滅だったな」
「大変だったんですね」
「ひょっとしたら宇宙怪獣より強いからな」
「そんなに」
「言っておくが一人で来たんだぞ、奴は」
「まさか」
「十傑集一人で惑星一個を破壊することも可能だと言われている」
ナタルはキラにそう説明した。
「首領であるビッグファイアはそれこそ宇宙を破壊出来るとも言われているのだ」
「そんな人がいたのですか」
「あれ人なの?」
「疑問です」
ナタルはマリューにもそう返した。
「だが彼等も滅んだ。国際エキスパートとのバビルの篭城戦でな」
「だからいなくなったんですか」
「いたらこれどころじゃなかったわね」
マリューは深刻な顔になっていた。
「相手にするにはあまりにも異常なまでの強さだから」
「そうだったんですか」
「その時が一番死ぬかって思ったな。他にもゼントラーディやらドレイク軍とも戦ったけどな」
「私ともか」
「いや、あんたじゃなくてあの赤い髪の女。ありゃかなりいかれてたな」
バーンに応えて言った。
「ギリシアで死んだんだったな、確か」
「うむ」
「何度も死ぬかと思ったぜ」
「大変だったんですね」
「そうだな。何度も死線を彷徨ったぜ」
顔は笑っていたが目は笑ってはいなかった。
「その十傑集やら赤い髪の女以外にもな」
「それが戦争ですか」
「やらなきゃこっちがやられるってのは確かにあるな」
「そうですか」
「まあ今は勝った。またすぐに別の戦いがあるだろうけどそれは喜ばなくちゃな」
「喜ぶって」
「生き残ったことにな。それならいいだろ」
サンシローが話に入ってきた。
「帰ったら一緒にキャッチボールでもしようぜ」
「おっ、若き天才ピッチャーのボールをか」
「おう、黄金の左腕の力見せてやるぜ」
「他にもアムロ中佐や宙君もいるしね」
「御二人も野球を!?」
「って知らないのか」
サンシローはキョトンとするキラを見て思わず声をあげた。マリューやムウも少し驚いていた。
「アムロ中佐っていえば」
「弁慶君とバッテリーで」
「弁慶さんが野球部のキャプテンだってのは知ってますけど」
「って知らないの」
「私でも知っていますが」
ナタルも真剣な顔で応える。
「アムロ中佐といえば」
「申し訳ないですけど本当に何が何なのか」
「じゃあ俺のことも知らないのか!?」
「君も!?」
キラは勝平の言葉にもまだキョトンとしていた。
「レトラーデさんなんか鯉のチームでさ」
「懐かしいわね、何か」
「!?」
だがキラは余計にわからないといった顔をするばかりであった。首も傾げていた。
「悪いけれど本当に話がわからないけれど」
「野球とか知らないの?」
「僕一応鷲が好きなんですけど」
「リーグが違うの」
「ええ、それに何か昔の話みたいですし」
「巨人の栄光は昔になりけり、なのね」
「まあそんなものドブに捨てても構わんがな」
何だかんだで戦場の緊張は解けていた。ロンド=ベルはマシンを戦艦に収めてオービットに戻った。それを遠くから見る一つの影があった。
それはピエロであった。機械の。ピエロは銀河の中でロンド=ベルを見ながら何かを言っていた。
「機界最強七原種共同作戦」
遠くなっているロンド=ベルはそれに気付く筈もない。ピエロもそれがわかっているのか誰に言い聞かせるわけでもなく言っていた。
「条件全て完了。作戦開始よし」
そしてまた言った。
「成功の確率九九・九七パーセント。不確定要素ゼロ」
そう言い残して闇の中に消えた。後には何もいなかった。

第百七話完

2006・8・1 
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