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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第46話 変身、仮面ライダーBLACK

 空には朝日が昇り、時刻はお昼前に差し掛かった頃、此処喫茶店アミーゴには一人の客が来店していた。

「……」

 客は青年であった。年からしてまだ20は行ってない位。恐らく19歳である。そう思わせる少年っぽさが見受けられた。
 だが、その少年の顔からは年不相応と言える気迫が漂ってくる。そして、その気迫をマスターである立花籐兵衛は感じていた事がある。
 そう、その人間もまたこの店の常連であった。

「どうだい? 家のコーヒーの味は」
「はい、とても美味しいです」

 愛想笑いを浮かべながら尋ねる立花のおやっさんに青年は同じように愛想笑いを浮かべて返す。しかしその笑みは何処か悲しげにも見えた。

「そうだろ、そうだろ」

 その笑みの裏にある真相を特には触れようとせずおやっさんはそう頷き、再びコーヒーカップを磨き始める。綺麗な布を手に丁寧に磨いていく。慣れた手つきであった。
 ふと、青年は回りを見回す。どうやら客は自分一人の様だ。

「最近物騒な話が多いからなぁ。めっきり客も減っちまったんだよ」
「そうなんですか…」
「全く、悪の組織だかなんだか知らないが、こっちとしちゃ大損だよ。早く平和になって欲しいもんだ」

 溜息混じりにおやっさんがそう言う。それを聞いた青年は苦笑いを浮かべた。

「大変ですね」
「全くだ! 実は前は何時でもやってくる常連が居たんだけどなぁ。最近はめっきり姿を見せやしない。おまけに家の宿六も突然帰国しちまうしってんで、人手不足ったらありゃしない!」

 何故か愚痴が始まっていた。流石にこれ以上聞いてるのは不味そうな気がしてきた。年寄りの長話は時に半日位続く危険性がある事は噂話でだが知っていたのだ。

(適当に隙を見て店を出た方が良いかな?)

 このままだと変な感じに話を振られる気がする。今の光太郎にその愚痴に付き合う気は余りなかった。
 席を立とうとテーブルに両手を掛けた時、ふと羽織っていたジャケットから音がした。
 軽快なメロディーがジャケットの中から流れ出てくる。どうやら内ポケットの中にそれがあるようだ。

「僕の携帯が鳴ってる。一体誰からだろう?」

 光太郎はジャケットの内ポケットの中から小振りの携帯電話を取り出した。型は一昔位の折り畳みタイプであり、以前父から買って貰う際にこの型が気に入ったのでこの型にして貰ったのだ。
 携帯を開こうとした時、光太郎はふとおやっさんを見る。店内で携帯を鳴らした挙句話し込むのは店によってはマナー違反になる。もしかして怒っているのではと不安になりながらもおやっさんの顔をうかがった。
 おやっさんは別にそんな事は気にせず呑気にパイプを咥えて燻らせている。

「どうしたんだい。早く出てあげなさいな。こっちは気にしなくて良いからさ」
「あ、すみません」

 おやっさんの了解を得て光太郎は改めて携帯を開いた。パッと画面が光り電話を掛けてきた主の名前が表示される。

「八神はやて……はやてちゃんからか」

 そう呟きながらも、通話ボタンを押し耳元に近づける。

「もしもし?」
【あ、光太郎兄ちゃん? 私や、八神はやてやで。元気にしちょる?】

 耳元に近づけた携帯から聞こえて来るのは幼い元気そうな少女の活発な声であった。その声を聞いた途端、何故か光太郎は自分自身がにやけている事に気づいた。
 八神はやてと知り合ったのはもう5~6年近く前になる。
 南光太郎の両親は彼が生まれて間も無く謎の事故で他界してしまった。その為知り合いである秋月家に養子として招かれたのだ。其処の主は光太郎を実の息子同然に育ててくれた。そして、其処の息子である秋月信彦とはまるで兄弟同然の様に育ったのだ。
 そして、光太郎と同じようにはやてもまた秋月家の養女として引き取られたのだ。
 彼女もまた幼い頃に両親を事故で亡くし、更に原因不明の病のせいで両足が麻痺して動かないらしく、車椅子の生活を余儀なくされていたのだ。
 当初秋月家に来たばかりのはやては塞ぎこんでいたが、光太郎や信彦が明るく接してくれている内に元の明るさを取り戻し、今では年の離れた妹同然の様な間柄となったのだ。
 それから間も無くして、はやては入院を兼ねて海鳴市の元々住んでいた家に移り住み、光太郎達と離れ離れで暮らす様になり、手紙やメールでのやりとりが主となってしたっていたのだ。それが近年携帯を手にした事により電話でのやりとりが増えた事によりより一層近くに感じられるようになったのは記憶に新しい。
 そのはやてが電話を掛けてきたのだ。

「急にどうしたんだい?こんな朝早くに電話を掛けてくるなんて珍しいねぇ」
【何言うとるんや? もう朝御飯も食べ終わる頃の時間やでぇ。光太郎兄ちゃん寝ぼけてるんとちゃう?】
「あ、あはは……そ、そうだそうだ。そうだったねぇ。いやぁまだ寝ぼけてるのかなぁ僕」

 携帯で話してる相手と共に笑い出す光太郎。こうして話している時だけは自分の境遇などを綺麗さっぱり忘れられる事が出来る。出来る事なら永遠に忘れ去りたい事だ。だが、出来る筈がない。それが南光太郎と言う人間なのだから。

【それはそうと、今日光太郎兄ちゃん家に来れる? ちょっとしたサプライズを用意しとるんや】
「サプライズだってぇ! それは楽しみだなぁ。後で寄りに行くよ」
【ほな、待ってるからね。後信彦兄ちゃんも一緒に来てやぁ】
(信彦!)

 その名を聞いた時、光太郎の顔が強張った。今この場に居るのは光太郎一人しか居ない。何故なら信彦は―――

【光太郎兄ちゃん?】
「え? あ、なんでもないよ。分かった。信彦と一緒に行くよ」
【ほな、楽しみに待っててやぁ】

 一通り会話を終え、光太郎は通話ボタンを切った。画面に通話を切った事を知らせる画面を見ながらも携帯を折り畳み内ポケットへと仕舞い込む。

「随分楽しそうだったねぇ。彼女かい?」
「いえ、年の離れた妹みたいな所です。血は繋がってないんですけど、本当の妹同然の様に接してきた良い子なんです」
「そうかい、いやぁ若いって良いねぇ。私も若い頃なんかオートバイをブイブイ言わして可愛い子ちゃん達にちやほやされてたもんだよぉ」
「は、はぁ……」

 何処か会話の軸がずれてるような感覚に光太郎は戸惑った。かく言うおやっさんはと言えば楽しそうに昔話を話している。今そんなおやっさんに無碍に話しを止めさせると言う事など出来そうにない。それをするのはちょっと可愛そうにも思える。
 しかし、だからと言ってこのままずっと昔話を聞き続けているのも時間の無駄にも思えてくる。

「ご、ご馳走様。美味しかったです」
「ん? もう行くのかい? また何時でも来な。家はオートバイ乗りなら大歓迎だからさ」

 驚いた。青年は自分がオートバイ乗りだとは名乗った覚えがない。一体何を見て分かったのだろうか。
 だが、今は詮索する気になれず、青年は扉の方に向う。
 カランと扉の鈴が鳴り、誰かが入ってきた。青いシャツに白いジャケットとズボンを身に纏った青年だ。
 年的には自分と同じ位。そんな青年が入ってきたのだ。

「……」
「退けよ、店に入れないだろ?」
「あ、すみません」

 気がつくと自分が青年の前に立っていた事に気づき、南光太郎はそっと退いた。
 そして入れ替わりで店から出て行くのに対し、入ってきた青年は席に座る。
 
「いらっしゃ……ん? お前は風見じゃないか。久しぶりだなぁ。ところで本郷達はどうした?」
「おやっさん、その事でお話が……」

 席についた風見が重く沈んだ顔のまま淡々と話しを始めた。そしてその話を、おやっさんこと立花籐兵衛は黙って聞き続けていた。



     ***




 店から出て来た光太郎は先ほど自分が入った店を見た。

「気さくなマスターに良い雰囲気の店だった。また来たいな」

 そう呟いていた時、懐に入れてあった携帯が音を鳴らす。

「ん? 今度は誰からだ?」

 再び内ポケットの中から携帯電話を取り出す。またはやてから電話だろうか?
 そう思いつつも画面を開く。しかし、その画面に書かれている名前は全く違い、予想外の人物からであった。

【秋月総一郎】

「この番号は……父さん!」

 それを見た時、南光太郎の脳裏にはあの時の光景が浮かび上がった。そう、悪夢の瞬間を…




     ***




 それは今から数日前の事であった。南光太郎と秋月信彦の二人は秘密結社ゴルゴムに拉致され、改造手術を施されたのだ。

「肉体改造は終わった。後は脳改造を行い人間の時の記憶を消し去るだけだ」

 其処には以前南光太郎を追い回していた三人の異形の姿があった。どうやら改造手術も最終段階に差し掛かったようだ。其処へ背広を着た壮年の男性が飛び込んできた。

「待ってくれ! それじゃ約束が違う。息子達の記憶を奪わないでくれ!」
「秋月教授。最早この二人は貴方の子ではない。我等ゴルゴムの世紀王ブラックサンと、シャドームーンなのだ。直ちに脳改造を開始する」

 真ん中に居た白面の異形から閃光がほとばしる。それが二人の額に当たると二人は苦しみもがいた。改造手術の最終段階である脳改造が行われていたのだ。
 肉体改造は既に終わった。後は脳を改造し完全な世紀王へと生まれ変わらせれば全てが完了する。

「うわぁぁぁぁ! 信彦ぉぉぉぉぉ!」
「うおぉぉぉぉ! 光太郎ぉぉぉぉ!」

 二人が互いの名前を呼び合う。だが、どうにもならない。その時だった。

「止めてくれぇぇぇ!」

 見兼ねた男が白面の男に飛び掛った。その際に光太郎に向けていた閃光の矛先がずれ彼の拘束を解いてくれたのだ。
 晴れて自由の身になれた光太郎は自分を助けてくれた男を見た。

「と、父さん!」
「光太郎、逃げるんだぁぁ! 私と信彦には構うな! 逃げてくれぇぇぇ!」

 男が叫ぶ。光太郎は一瞬躊躇した。だが、今の自分ではどうする事も出来ず、信彦と父秋月教授を残し一人ゴルゴムアジトを逃げるのであった。




     ***




(父さん、無事だったのか)

 安堵した表情を浮かべ、光太郎は携帯のスイッチを入れて耳に傾ける。

「父さん?」
【光太郎。それに出てるのは光太郎か?】

 この超えは間違いなく父秋月教授の声であった。それを聞いた光太郎の顔に笑みが浮かぶ。

「何言ってるんだい父さん。当たり前だろ? それより無事で良かった。信彦は?」
【光太郎、お前に話しておきたい事がある。近くのロッジに来てくれ。一人でだ、良いな!】
「ま、待ってくれよ父さん。そんな急に…」

 電話は途中で切れてしまった。とても切羽詰った声であった。
 光太郎の顔が戦慄する。恐らく父は何かを伝えようとしているのだ。恐らく、何か重大な事を。

「急ごう!」

 急ぎ父の元へと向った。町のはずれにある使い捨てられたロッジ。其処は既に閉鎖されており手入れも行き届いていないせいか所々で錆びた鉄の匂いや誇り臭さが鼻にきた。
 
「父さん、来たよ!」

 ロッジ内に入った光太郎は声を発した。すると、光太郎の目の前にゆっくりとその男性は姿を現した。
 間違いない。養父、秋月教授こと秋月総一郎であった。

「父さん、無事で良かった」

 光太郎と養父は互いがこうして再会出来た事を心から喜んだ。しかし、その後すぐに光太郎の顔は強張った。真相を知りたかったのだ。
 あのゴルゴムと言う組織は一体。そして、養父である秋月総一郎とゴルゴムの関係とは一体。

「父さん、教えてくれ。ゴルゴムって一体何なの? 父さんとどう言う関係なの?」
「それは……」

 光太郎の問いに養父は黙った。顔を俯かせ答えを渋っているようにも見える。だが、すぐに顔を上げて光太郎を見た。

「奴等は、遥か昔から人類を影から支配してきた恐るべき組織だ。そして……私は、そのゴルゴムのメンバーなんだ」
「な、なんですって!?」

 光太郎は驚愕した。まさかあの優しかった父がゴルゴムのメンバーだったとは。
 そんな光太郎を他所に養父は話を進めた。

「あれは、忘れもしない今から19年前の事だった。日蝕の闇が町を覆い、その闇の中で私の息子、信彦が生まれた。そして、私の親友である南にも息子が生まれた。光太郎……お前の事だ」

 その話は知っている。以前聞かされたからだ。それから間も無く、光太郎が3歳の頃に両親は謎の事故で死亡。光太郎はその後彼に引き取られ、それから信彦とは兄弟同然の仲となったのだ。

「お前達が生まれた頃、私と南は古代遺跡の発掘をしていた。だが、作業は思うように行かず、資金繰りが難しくなっていた時、ゴルゴムとか言う組織から資金援助の申し入れがあったんだ」
「ゴルゴムが…援助を?」
「だが、これには思いがけない交換条件があった」
「その交換条件とは?」
「ゴルゴムのメンバーになる事だ」

 大方予想通りであった。
 養父は悩みに悩んだ末、その援助を受ける事となった。

「だが、親友の南はそれを断った…そのせいで」
「まさか、僕の両親を殺した事故はゴルゴムの仕業…何故父さんはそんな悪魔の組織のメンバーなんかになったんですか!」
「ゴルゴムに一度目をつけられたら逃げることなど出来はしない! 南も、それに…彼等もゴルゴムに入っていれば死ぬ事はなかったんだ」
「彼等?……まさか!」

 光太郎は蒼白した。嫌な予感が頭の中を過ぎったのだ。
 そんな光太郎を前に養父は頷く。

「そうだ、君と信彦にとっては妹同然だった八神はやて。その子の両親を殺したのもゴルゴムだ。八神は私の古い友人であり、ゴルゴムは彼等にも目をつけた。だが、やはり彼等はそれを断った。そのせいで…奴等は悪魔の集団なんだ!」

 光太郎の中に沸々と怒りが込みあがって来た。自分と信彦はそのゴルゴムに売り渡されたような者だったのだ。

「貴方は…貴方はそんな悪魔の集団に俺と信彦を売ったんだ! それにはやてちゃんの両親までも…」
「光太郎、分かってくれ! 今の地球の未来はもう滅びの運命しかない! 生き延びる為にはゴルゴムに従うしか道はないんだ! 私は、お前と信彦だけは世紀王となって生きていて欲しかった!」
「冗談じゃない! 父さん、僕はね…奴等に改造されてしまって人間じゃなくなったんだ。此処にある金属だって、僕が軽く握っただけで壊せてしまうんだよ。こんなの人間じゃないよ!」

 目に涙を浮かべて光太郎は訴える。だが、養父は諦めたような目で淡々と語る。

「良いんだよ。これからの時代人間は奴等に選ばれた人間だけが生きられる。人類が存続するにはゴルゴムに淘汰されるしかないんだ」
「そんなの間違ってる! 人間の自由を奪って、何が存続だ! そんなの、此処の廃墟と同じだよ! 俺は嫌だ! 父さんが戦わないなら、俺が戦う! ゴルゴムから人間達の自由を守り抜いてみせる!」
「馬鹿な事を言うんじゃない! 幾らお前でも一人でゴルゴムに対抗出来る訳がないだろう! 今からでも遅くない。考え直せ光太郎!」
「お断りだ! 奴等の言いなりの王様になるなんて真っ平だ! 俺は、俺は人間として生きたい! 父さんこそ目を覚ましてくれ!」

 互いに激しい言い争いになった。養父の言葉も分かる。だが、光太郎は人間として生きたかった。人間を捨てたくなかったのだ。
 だが、このままではこの世界に待っているのは破滅しかないと養父は言う。その破滅の運命からせめて二人の息子だけは守りたい。儚い親心が感じられたのだ。
 その時、光太郎は外に何か居る気配を感じ取った。嫌な気配だった。
 とても親しみのある気配ではない。まるで、あの時自分を追って来た三人の神官と同じ不気味な気配が感じられた。

「父さん、此処は危ない! すぐに逃げて!」

 そう告げた時、突如天井から何かが現れた。
 それは雲の姿を模した異形であった。色合いからしてジョロウグモを連想させる不気味な姿をしている。
 その異形が糸を使いターザンの如く突如として二人の目の前に姿を現す。
 そして、あっと言う間に目の前に居た養父を連れ去って行った。

「こ、光太郎ぉぉぉ!」
「父さん!」

 養父を追って外に出た光太郎。其処はロッジのすぐ横に立て垂れた一番高い電波塔に居た。蜘蛛の姿をした異形が養父を糸で雁字搦めにしたまま掴んでいた。その高さは実に40メートル近くはある。あの高さから落ちたら普通の人間ならば一溜まりもない。

「我等ゴルゴムを裏切った者の末路はこうなる。よく見ておけ!」

 異形がそう告げた後、無情にも養父を掴んでいた手は離された。

「父さぁぁぁん!」

 急ぎ光太郎が救いに向う。必死に走りその手で受け止めようと飛び出した。
 だが、光太郎の努力も空しく養父は頭から地面に激突してしまった。
 致命傷であった。もう彼は助からない。虫の息のまま、養父は光太郎脳でを掴んだ。

「父さん!」
「こ、光太郎……の、信彦を……た、頼む……」

 そう一言告げた後、養父は静かに息を引き取った。光太郎は涙を流し叫んだ。最愛の父が殺された。もうあの父の優しい笑顔を見る事はない。
 其処へ先ほどの蜘蛛怪人が現れる。それも一体じゃない。数は恐らく6体は居る。

「ブラックサン、キサマもこうなりたくなければ大人しくゴルゴムに戻れ! そして世紀王となるのだ!」
「黙れ! 悪魔共。俺は最早世紀王じゃない! 俺は、俺は貴様等悪魔から人間の自由を守る黒き仮面の戦士だ!」

 立ち上がり、構えを取る。力強く、悲しげな構えであった。

「変、身っ!!」

 光太郎が叫ぶ。腰に改造人間の証である赤い宝玉が納まったベルトが姿を現す。世紀王の証であるキングストーンを内臓したベルトだ。そのキングストーンが光太郎に力を与えその姿を黒き戦士へと変えていく。

「俺の名は…仮面ライダー…仮面ライダーBLACK!」
「おのれ、構わん! こうなれば力尽くで捕えるのだ!」

 蜘蛛怪人達が一斉に襲い掛かってきた。
 仮面ライダーとなった光太郎は決死の戦いに挑んだ。されど、幾ら常人を超えた力を持ったとしても、その使い方が分からなければ意味がない。
 加えて、多勢に無勢、しかも相手は口から糸を吐きこちらの動きを封じ込める戦法を使ってきたのだ。

「くっ……なんて頑丈な糸なんだ!」
「諦めろブラックサン! これだけの数を相手に貴様一人でどうにかなる筈がない!」

 数での有利さがクモ怪人達の中に余裕を生んだ。しかし、光太郎の目にはまだ諦めの表情は浮かんでいない。それどころか、更に怒りの炎が燃え上がってきていたのだ。

「許さない! お前達悪魔によって両親を殺された俺とはやてちゃん、そして父さんの無念を……その無念を晴らす為にも、俺は絶対に負けない!」

 光太郎の中に沸々と湧き上がる感情。それは自分を改造し、その運命をネジ曲げたゴルゴム達への激しい怒りと、全世界の人類を守りたいと言う使命感であった。その心が光太郎の中に力として湧き上がってきたのだ。
 そして、光太郎にはまだ心強い仲間が居た事を、この時のクモ怪人達はまだ知らない。

「来い、バトルホッパー!」

 ライダーの目が赤く発光しだす。突如、空を切り裂くかの如く緑のボディ色を持ったバイクが疾走してきた。愛機バトルホッパーだ。バトルホッパーはライダーの体を絡めていた糸を断ち切りクモ怪人達を跳ね飛ばす。

「おのれ!」

 クモの子を散らすとはこの事だとの如く、クモ怪人達は一斉に散らばる。それを逃がすまいとライダーはバトルホッパーに跨りロッジ内を爆走した。
 逃げ惑うクモ怪人達を追い回し、跳ね飛ばしていく。

「調子に乗るな、ブラックサン!」

 ロッジ内を走っていた時、天井に張り付いていたクモ怪人が口から糸を吐き出した。その糸は丁度ライダーの首回りに絡みつき締め付けだす。

「ぐぁっ!」

 呼吸が困難になった。咄嗟にハンドルから手を離し糸を取り外そうともがく。
 しかしその拍子に思い切り後方に引っ張られてしまいバトルホッパーから強制的に降ろされてしまった。
 そのまま地面へと叩きつけられる。だが、改造人間となった今の光太郎にその程度でダメージを負う筈がなく、すぐに立ち上がった。
 その回りを全てのクモ怪人達が集まり取り囲む。

「観念しろ、ブラックサン!」
「どうする? これだけの数を相手にどうすれば良い?」

 退路を塞がれ逃げ道もなくなった。それに此処は狭い屋内。バトルホッパーで走り回る事も出来ない。此処でケリをつけるしかない。
 されど、まだ自分にどんな能力があるのか分からない状態だ。どう戦えば良いかも光太郎は分からないのだ。

「キングストーンよ。俺の中に埋め込まれたキングストーン。俺に力を貸してくれ! 俺にこいつらと戦う力を!」

 光太郎が祈る思いで叫んだ。腰のベルトから激しい光が放たれだした。光太郎の体内に埋め込まれたキングストーンが光太郎の思いに反応して光を放ちだしていたのだ。
 その光が放たれると同時に光太郎の体全身に凄まじいまでのエネルギーが行き渡る感覚を感じた。

「この力は……キングストーンが俺に答えてくれたのか! よぅし!」

 拳を握り締めてライダーはクモ怪人達を相手に構える。回りを取り囲んできたクモ怪人達が一斉に飛び掛ってきた。取り押さえようとしたのだろう。回りに纏わりつき動きを封じようとしてきた。
 しかし、それをライダーは苦もなく払い除けてしまった。
 今のライダーにはクモ怪人達の怪力も撫でる程度にしか感じられない。

「ば、馬鹿な! これ程の力があると言うのか?」

 驚愕するクモ怪人達。そんなクモ怪人達に向かい仮面ライダーBLACKの反撃が始まった。

「受けてみろ! ライダーキィィィック!」

 空高く飛翔し目の前に居た一体の蜘蛛怪人にキックを叩き込む。それを食らった蜘蛛怪人のドテッ腹が吹き飛びバラバラになってしまった。
 その破壊力に残りのクモ怪人達は恐れおののきだす。だが、容赦などする筈がない。キングストーンの与えてくれるエネルギーが光太郎の全身に行き渡っていく。そのエネルギーを拳に集中させる。
 ライダーの両拳が赤く発光しだした。

「ライダーパァァンチ!」

 残りの五体にそれぞれ光り輝く拳を叩き付けた。キングストーンの凄まじいエネルギーを纏った一撃を諸に食らったクモ怪人達はそれぞれ後方へと吹き飛び無様に地面に倒れこむ。やがて、その体は光に包まれ、やがて炎となり消え去っていく。
 これがゴルゴム怪人の死ぬ瞬間なのであろう。そう思いながら光太郎はそれを眺めていた。

「お、おのれブラックサン! 我等ゴルゴムを侮るなよ……いずれキサマは後悔する……我等ゴルゴムを裏切った事を!」

 最期にそう言い残し、蜘蛛怪人達はその姿を消し去った。蒸発してしまったのだ。
 残ったのはライダーのみである。

「……」

 光太郎は無言のまま変身を解いた。そして、物言わなくなった養父の元へ向う。そっと見開かれた養父の目を閉じ、冷たくなった手を握り締めた。

「父さん、見ててくれ。俺は一人でもゴルゴムと戦う! 奴等にこの美しい星と人類の未来を渡しはしない!」

 誓いを胸に光太郎は立ち上がる。例え化け物の体になろうと人の心を持つ限り戦い続ける。その思いを胸に光太郎は一人孤独な戦いを決意した。
 だが、仮面ライダーBLACKこと、南光太郎の前には余りにも強大な敵がたちはだかっていた。負けるな光太郎。ゴルゴムから人類の未来を守り抜いてくれ!





     つづく 
 

 
後書き
次回予告

仮面ライダーブラックの登場を知った創星王は古の剣士を目覚めさせた。それは光太郎にとって驚異的な敵でもあった。

次回「強敵、剣聖ビルゲニア」お楽しみに 
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