インフィニット・ストラトス~黒き守護者~
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嵐が通り過ぎて
『……………』
俺が屋上に降りたとき、その場にいる全員が固まっていた。
「? 何でみんな固まっているんだ?」
「………おい」
後ろにいる織斑先生から声がかけられる。
「何ですか?」
「何ですかじゃない。どうして敵を逃がした」
「まともに避難も終わっていない寮の屋上で、あれ以上の戦闘行為を行えと? どうやら今更な避難しかできないみたいですし。それにちゃんと返しておいた方がうるさくないでしょう?」
それだけ言うと俺は自分の部屋に戻ろうとした。
「―――待ちなさいよ」
凰に止められる。
「何だ?」
「何だじゃないわよ! 今のはどういう意味よ! どうしてアンタが襲われんのよ!」
いきなり質問をぶつけてくる凰に俺は呆れた。
「お前らには関係ないことだ」
「関係ないことないわよ!」
「じゃあ、言い直す。お前らみたいな雑魚には関係ないことだ」
そう言うと同時にそこから跳んだ。
「―――聞き捨てならないな。私たちを雑魚扱いするとは、それほど自分の腕に自信があるのか?」
ボーデヴィッヒがワイヤーブレードで俺がいた場所を攻撃していた。
「ああ。冗談抜きでお前らを絶望に落とせるほどのな」
そう答えてその場から移動しようとするが、
「なら、それを証明していただかないと困りますわ」
「そうだね。いくらなんでも、ね」
オルコットがビットを飛ばし、デュノアが既に銃を構えていた。
「………いいぜ。俺が単独でそっちは俺に勝てると思っている人間が集まって1対多のバトルだ。まぁ、専用機持ち限定で尚且つ1年生だけ。強制参加ではなく希望者だけだ。その条件が呑めるなら―――三日後の日曜日、9時に第三アリーナに集合だ」
「いいだろう」
ボーデヴィッヒから許可ももらったので、自分の部屋に向かう。
『………やはり、三日を与えたのは彼らのためですか?』
セバスが俺に語りかけてくる。
(ああ。三日は少ないだろうが、その間にアイツらは俺を包囲する陣を完成させるだろう)
『それを完膚なきまでに破壊するつもりですか?』
(ああ。まずは狙撃手のオルコットを後ろにして前衛が一夏と篠ノ之、その後ろに凰、そしてデュノアとボーデヴィッヒが遊撃だろう)
どうせならアリーナではなく海上の方がよかっただろうか?
『いえ、むしろあの人たちが危険かと。どうせあなたは完膚なきまでに武装を潰して装甲も使えないほどにするでしょうから』
(よくおわかりで)
『あなたが私を開発して既に6年ですからね』
俺が誘拐されたのは11歳になる2、3ヵ月前なのだが、セバスはその前に開発した。当時は将来のための事務仕事補助AIの予定だったが、今ではハッキングをはじめをとする情報収集などを担当している。あれ? 大差無いな。
ちなみにだが、篠ノ之束の居場所を把握できるのはこいつのおかげである。そしてISのコアを俺に渡したのもこいつの仕業である。最初にコアを手に入れたのも。
(とにかく、俺は明日、明後日は休む。ハデス、フォローを頼んだぞ)
『……了解』
『……なるほど』
そして俺は二日は休んだが、その時に色々な噂が立ったらしい。
■■■
シャワーを浴びて二日溜まった汗を流す。
『……久々ね、そのあなたを見るのは』
ジャージに着替えた俺を見てシヴァはそう言った。
「ああ。今まで日寄っていた分は取り戻したからな。セバス、アリーナの確保は?」
『ちょうどいい具合に開いていましたので確保しました』
『織斑千冬を説得しておいたわ。今回の模擬戦に立ち会ってくれるそうよ』
それは助かる。なんて言ったって今回は事が事だからな。実力の差をはっきりさせるための戦いだ。
『でも、あまりやりすぎないでよ。いつ襲撃されるかはわからないのだから』
「だったら全員潰すまでだ。今回は遠慮なんてしない」
『(ヤバい。久々な悪のオーラにドキッてした!)』
シヴァが急に顔を背けて体を小刻みに震えるのを見て、何故か悪寒が走った。
「……何だろ、風邪か?」
『……気にしない方がいい。今回の戦闘には支障はないだろう』
「ハデスがそう言うなら大丈夫だろうな」
―――コンコン
急にドアがノックされ、俺はドアを開けると、
「……簪」
「……ちょっと、会いに来た」
お前は俺の彼女かと突っ込みたくなった。まぁ、誘拐される前は執事だったから別に違和感はないが。
「何か用? 一応、対戦相手とはあまり話したくはないんだけど」
「………大丈夫。私は参加しないから」
それを聞いて俺は内心で安堵する。本当は出た方が体裁的にもいいんだが、簪はそれをしない。俺が完全に本気を出した時の恐怖を知っているから、それ故だ。まぁ、俺も最初から簪を数に入れていないし、出ないことも予測していた。
「……まぁ、予想通りだ」
「………やっぱり、祐人には敵わない。それに、危ない」
「そりゃあ、あれだけ暴れれば、な。あれ以降は取り入れようとする女子が増えたが全員断ったし」
あれは酷かったな。まぁ、口下手な簪の代わりに俺がよく断った。
そう思っていると同時に少し虚しくなってきた。
「……簪」
「……何?」
「……しばらく、抱きかかえさせて欲しい」
「……わかった」
発言はあれだが、俺に悪意がないと察したのか簪は許可を出した。
俺はお言葉に甘えて簪を抱き寄せ、しばらくはそのままでいた。
そして同時に、再び虚しくなった。
幼なじみとして、彼女が成長してくれたのは嬉しい。だけど執事として、彼女の成長を見れなかったのがどうしても悔しい。そう思ってしまう。
だから無意識にだろう、俺は簪を撫でていた。
「……祐人」
「あ……悪い」
「気にしないで」
そのまま、俺に抱きついてスヤスヤと寝息を立てた。
(そういえば、簪はよく俺と寝ていたっけ)
更識家では俺たちは異性ということもあって部屋を用意されていたのだが、俺の日頃の行いもあったか、簪はよく俺の隣で寝ていたのだ。曰く、「俺の隣だと安心して寝れる」とか。
(久しく、一緒に寝ていなかったっけ………)
思えば、俺はどこかに行くときでも誰かが隣に寝ていた。
だが今はそれはどうでもよく、仕方がないから簪も連れていくか。
(今日のことは許可しているし、別にいいか)
寝ている簪を背負って、俺は第三アリーナに向かった。
「………教えてやるよ、絶望に陥った人間の力を」
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