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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百五話 敵軍の歌姫、蒼き流星

               第百五話 敵軍の歌姫、蒼き流星
「困ったわ」
フレイはシャワールームでぼやいていた。ミリアリアも一緒である。
「御水がこれだけしかないなんて」
見れば盥に二つである。それだけだった。
「これじゃあ髪の毛なんて洗えやしないわ」
「仕方ないわよ」
ミリアリアがぼやくフレイに対して言う。
「今は御水もないから。もうすぐ一杯手に入るっていうけど」
「一杯!?」
「ええ、普段はこの艦でも御水を作れるらしいけど今は一杯人がいるでしょ?」
「ええ」
それが民間人のことであるのは言うまでもない。彼女達もまたそうだからである。
「だから。節約してるのよ」
「そうなの」
「まあ、我慢は今だけよ」
そう言ってフレイを宥める。
「こうやって身体拭けるだけでもね。まだましよ」
「それでも」
「替えの下着、持ってるわよね」
「一枚だけなら」
「よかった。じゃあ脱ぎましょ」
「うん」
二人は服を脱ぎはじめた。フレイはピンク、ミリアリアはライトブルーであった。
「貴女、結構胸大きいのね」
ミリアリアはフレイの身体を見て言った。
「そうかしら」
「そうよ。まあラミアス艦長も凄いけどね」
「あの人は確かにね」
それはフレイも認めた。
「胸だけじゃなくてプロポーション全体がね」
「そうよね、まるでモデルみたい」
「あの副長さんも以外と胸大きいし」
「そうなの?」
「あれっ、気付かなかったの?私すぐにわかったけれど」
「それは気付かなかったわ」
「私、どうもあの人のことに目がいくのよ」
「へえ。何で?」
「何故かしらね。声も似てる気がするし」
「あまりそうは思わないけれど」
ミリアリアはそれには首を傾げさせた。
「また二人そんな人に会いそうだし」
「そういえばサイもそんなこと言ってたわね」
「そうなの」
「あとあのデュオって子」
「ああ、あの子」
「何か敵に声が似てる人がいるってぼやいてたわ。それも二人も」
「何か変な話よね」
「そのうち誰が誰の声かわからなくなったりしてね」
「まさか」
そんな話をしながら束の間の休息の時を取っていた。その頃クルーゼ率いるザフト軍は的確にアークエンジェルの動きを掴んでいた。
「木馬、いや」
クルーゼは自分と同じ白い軍服の金髪の美女と会っていた。そして話をしていた。
「足付きか。あれは」
「はい。流石に木馬ではまずいかと」
「そうだな、ふふふ」
「それでクルーゼ隊長」
「わかっているよ、タニア君」
「はい」
その女の名をタニア=グラウディスという。ミネルバの艦長でありミネルバ隊、即ちグラウディス隊の隊長でもある。クルーゼの同僚なのだ。
「彼等は今デブリ帯に向かっている」
「はい」
「そしてロンド=ベルにも救援を入れているようだな」
「おそらくは」
「そうか。ではこれが今のところ最後のチャンスだな」
「攻撃を仕掛ける」
「そうだ。ことは至急を要する」
「ですね」
「すぐにデブリ帯に向かおう。ところでハイネだが」
「彼が一体」
「怪我は思ったより深くはないのは前に話したと思うが」
「ええ」
「この傷が癒えたらそちらに転属させてもいいか」
「こちらにですか」
「そうだ、今そちらは赤服は三人だな」
「はい」
シンとレイ、そしてルナマリア。その三人である。
「こちらはハイネを入れて五人だ。一人回しても構わない」
「宜しいのですね」
「しかもシホもいる。大丈夫だ」
「それでは御言葉に甘えまして」
「四人と四人。それで丁度よくなるな」
「それではその様に」
「うん。ではすぐにデブリ帯に向かおう」
「了解しました」
クルーゼ隊もデブリ帯に向かうことになった。だがここで思わぬ事態を知ることになった。
「隊長」
「どうした!?」
そこにアデスがやって来たのだ。彼は少し狼狽していた。
「実は」
そしてクルーゼに囁く。
「何っ」
クルーゼはその囁きを聞いて声をあげた。
「それは本当なのだな」
「間違いないです。あそこに」
「わかった、丁度いい」
そして頷いた。
「今そこに行くと決めたところだ」
「何事ですか?」
タニアが気になって問う。
「重要なお話の様ですが」
「うむ、デブリ帯にラクス=クライン嬢が慰霊祭に行かれてな」
「ラクス嬢が」
「そう、それで戦闘に巻き込まれ行方不明らしい」
「なっ」
それを聞いてタニアもまた声をあげた。
「それは由々しき事態では」
「そうだ。だからこそ余計に行かねばならなくなった」
クルーゼは言う。
「デブリ帯にな。それでだ」
「はい」
「少しここにいるクルーの一人と話をしなければならなくなった」
「彼ですね」
タニアにはそれが誰かわかった。
「そう、彼だ。話は終わったしここは」
「わかりました、ではこれで」
「うむ」
タニアはミネルバに帰った。そしてクルーゼはまず自室に帰る。アデスがそのクルーを呼んでいた。
「連れて来ました」
「御苦労、では入れてくれ」
「はい」
アデスが彼を部屋に入れる。アスランが中に入って来た。
アデスはアスランを入れると退室した。彼はまずは敬礼をした。
「楽にしたまえ」
「はい」
まずは彼をリラックスさせる。それから話をはじめた。
「我々はこれからデブリ帯に向かうことになった」
「デブリ帯にですか」
「そうだ。君には何かと複雑な感情のある場所だと思うが」
「いえ」
アスランはここでは軍人として答えた。
「それはありません。私はあくまで命令に従います」
「そうか。では言おう」
「!?」
「今そこに慰霊団が向かっていたという報告が入った」
「慰霊団が」
「そうだ。そこにはラクス=クライン嬢がいた」
その名を聞いたアスランの目がピクリと動いた。
「そして彼女がそこでの戦闘に巻き込まれ行方不明になったのだ」
「なっ」
「デブリ帯にはあの連邦軍の新型戦艦も向かっている。ことは急を急ぐ」
「それでは」
「そうだ、君にはここで主役になってもらいたい」
クルーゼはあえてこうアスランに言った。
「彼女の婚約者としてな。いいか」
「・・・・・・・・・」
「我々が行かなくては話にならないのだ。そして」
彼はさらに言う。
「君がいなくてはな」
「彼女を助け、ヒーローのように戻れということですか?」
アスランはクルーゼに問うた。
「若しくはその亡骸を号泣しながら抱いて戻れ、か」
「・・・・・・・・・」
「どちらにしろ君が行かなくては話にならんとお考えなのさ」
「それは誰が?」
「君の御父上だ」
「父が・・・・・・」
「そう、ザラ国防長官は。これでわかったな」
クルーゼはまたアスランに言った。
「これは政治でもある。戦争は政治の一手段だ。だからこそ」
「私もまた。政治的に使われると」
「そう嘆くことはない。割り切ることしかない話だからな」
「はい」
その言葉には納得するしかなかった。戦争と政治のことは叩き込まれている。彼もまた部下を率いる将校としての待遇を受けているからである。
「そのうえで言う話だ。いいな」
「わかりました」
アスランは敬礼する。クルーゼはそれを見てまずは満足して頷いた。
「よし。それでだ」
「はい」
話は別の内容になった。今度はアスランに問うものであった。
「先のヘリオポリスでの戦闘だがシン=アスカから報告があった」
「何と」
「君はあの戦闘ではあまり積極的に戦闘に参加しなかったそうだが」
「それは・・・・・・」
アスランはハッとしてそれについての説明をはじめた。
「思いがけぬ事態がありまして」
「思いがけぬ事態」
「そうです。あのガンダム、ストライクに乗っているパイロットですが」
「そのパイロットがどうかしたのか?」
「キラ=ヤマト。私の月の幼年学校での友人でした」
「友人か」
「そして・・・・・・コーディネイターでした。我々の同胞です」
「成程、そういうことがあったのか」
クルーゼはそれを聞いてまずはまた頷いた。
「君らしからぬ行動だと思ったが」
「申し訳ありません、報告が遅れました」
アスランは弁明した。
「すぐに報告書にして」
「いや、それはいい」
だがクルーゼはそれはよしとした。
「敵のパイロットにコーディネイターがいるとなれば厄介な話になるからな。今は政治的な事情もあって伏せたい」
「左様ですか」
「だが、これだけは肝に銘じておきたまえ」
「!?」
クルーゼはあえてアスランに言った。
「例え相手が君の友人であったとして」
「はい」
「同胞であったとしても今敵ならば我々は彼を撃たなければならない」
「ですがあいつもコーディネイターです」
アスランはキラを庇った。
「話せばわかります、自分がナチュラルに利用されているとわかったら」
「だが」
しかしクルーゼは言う。
「聞き入れない場合はどうするのだ?」
「!?」
アスランに問うていた。
「その場合は。どうするのかね」
「その時は・・・・・・」
アスランの脳裏にキラの優しい笑顔が思い浮かぶ。だが言わなくてはならなかった。今彼は軍人なのだから。言わなくてはならなかった。
「私が撃ちます!」
そして言った。強い決意の顔と共に。
(ほう)
クルーゼはその言葉を聞いて心の中で思うものがあった。だがそれは隠している。
「君の決意はわかった」
そしてアスランに対して言った。
「今後に期待しよう」
「はっ」
アスランは敬礼した。だが彼の心境は穏やかではない。
(キラ・・・・・・)
彼を撃たねばならないことに暗澹たる気持ちになっていた。だがそれをどうすることも自分では出来なかったのであった。だからこそ暗澹になっていたのだ。
アークエンジェルはデブリ帯に到着した。彼等がそこで見たのは廃墟であった。
「これは・・・・・・」
「まるで墓標だな」
ムウがそれを見て言った。
「あの巨大な柱が。まるで墓石だ」
「そうね」
それにマリューが応える。
「何か。凄く不吉な感じが」
「ここで二十万以上死んでいるんだ。それも当然か」
「ティターンズ、相変わらずひどいことをしますね」
ノイマンがここで言った。
「こんなことをするなんて」
「それがティターンズってやつさ。いや、ブルーコスモスか」
ムウはそんなノイマンに対して言う。
「手段は選ばない。それでどれだけ人が死のうともな」
ナタル達を中心としてクルーを出し水や氷を調達する。それはかなり順調にいっていた。
「しっかし、ひでえもんだぜ」
デュオがその中で言った。皆宇宙服を着ている。
「あちこち残骸だらけでよ。核ミサイルで攻撃を受けただけはあるな」
「それだけではない」
そんなデュオにトロワが声をかけてきた。
「もっと見たくないものもあるぞ」
「遺体ですね」
「そうだ。集団自決している者達もいた」
「惨い話ですね」
「それを見たトールやミリアリア達は呆然としていた。仕方ないことだがな」
そう語るウーヒェイの声も苦々しいものであった。
「奴等に正義はない」
「そうだ。だが今は」
「わかってますよ、水ですね」
カトルはヒイロに対して言葉を返した。
「そっちは順調ですけれど」
「物資はどうなんだい?」
「キラのガンダムで護衛しながら行っている」
「そうか。そちらも何かあるといいな」
「オービットに辿り着くまで。持たなければいけないからな」
水、そして物資の回収は続いていた。キラもまたその中でガンダムに乗って周囲の警戒にあたっていた。
「キラ、そっちには何かいたか?」
「いえ」
メビウスで出撃しているムウに応えた。
「何もないです」
「そうか、こっちもだ。とりあえずザフトはいないな」
「はい」
「だが気を着けろよ。今は連中だけじゃなくて暗黒ホラー軍団の奴等もいるからな」
「あの宇宙人達ですか」
「そうだ、奴等は今ロンド=ベルと激しくいがみ合っているからな。用心した方がいい」
「わかりました。・・・・・・んっ!?」
キラはここでレーダーに反応を見た。それは敵のものではなかった。
「これは一体」
「どうした!?」
「救命ボートです。中に誰かいるかも知れません」
「誰なんだ!?一体」
「わかりませんが回収します。いいですね」
「ああ、人命第一だ。若し中に誰かいたらな」
「はい」
キラはそのボートを回収した。そしてアークエンジェルに戻った。早速そのボートを開けることになった。
「しかし、まあ何だな」
ナタルはその報告を聞いてキラに言った。
「つくづく君は落し物を拾うのが好きらしいな」
「!?」
だがキラにはその言葉の意味はよくわからない。キョトンとした顔を見せた。
「じゃあ開けますね」
マードックが言った。
「ああ、頼む」
「中に誰かいればいいですけれどね」
「生きてな」
あれだけの惨事があった場所である。まさか、と誰もが危惧した。ゆっくりと扉を開ける。するとピンク色の丸いものが飛び出してきた。
「!?」
「これは一体」
「ハロハロ」
それはそう言いながら飛んでいた。見ればピンク色のハロであった。
「これってまさか」
「ああ、ハロだよな」
アークエンジェルの面々もハロのことは知っていた。
「アムロ=レイ中佐が中に?」
「そんなわけねえだろ」
キラにマードックが突っ込みを入れた。
「あの人が何でこんなとこにいるんだよ」
「そうですよね」
「別の人だよ。けれど、誰なんだ?」
「ハロ、周りに迷惑をかけてはいけませんよ」
遂に中から誰か出て来た。
「!?」
「誰だ!?」
それはピンク色の髪を持つあどけない顔立ちの美少女であった。長いスカートを履いている。
「宜しいですね」
「ワカッタ、ワカッタ」
ハロは少女の方を向いて答える。どうやら彼女のものらしい。
「貴女は?」
キラが彼女に問う。
「誰なのですか?」
「私ですか?」
「はい」
「私はラクスと申します」
「ラクス?」
「はい、ラクス=クラインです。ここはザフトの船ではありませんの?」
「ラクス=クライン!?」
ナタルがその名を聞いて驚きの声をあげる。
「まさかザフト最高評議会議長シーゲル=クラインの娘の」
「御父様のこと、御存知なのですか?」
ラクスはナタルに何気なく返事を返した。
「やはり」
「それじゃあ」
「そしてこちらが御友達のハロですわ」
「ハロハロ」
ラクスはにこりと笑ってハロを手で指し示した。
「マイドー」
「宜しくお願いしますね」
「う、うむ」
さしものナタルも思わぬ客に戸惑いを見せていた。どうしていいかわからなかった。
「とりあえず部屋に案内するか」
「部屋に」
「まさかとは思うが」
ムウはナタルに囁いた。
「コーディネイターだから問答無用、って考えてないよな」
「それは・・・・・・」
チラリと考えたのは事実だ。それが人道的にどうだとしても。だがムウはそれを制止したのであった。
「とりあえずは保護しておくんだ、相手は一般市民だしな」
「一般市民・・・・・・」
「そうだ、コーディネイターでもな。それを忘れるんじゃねえぞ」
「・・・・・・了解です」
ナタルは思い詰めた顔でそれに頷いた。自分が何を思っていたのかそれで思い知らされた。苦い思いであった。
「じゃあキラ」
「はい」
キラに声をかけた。
「空いている部屋に案内してやってくれ、いいな」
「わかりました。じゃあラクスさん」
「はい」
ラクスはにこにことしている。
「こちらへ。御部屋に案内します」
「有り難うございます」
「まあ暫くはこれでいいさ」
ムウはキラとラクスの背を見送って言った。
「軟禁ってやつだな。体のいい」
「軟禁ですか」
「そうさ。まあとんでもない御客さんなのは変わらないがな」
「このままオービットまで行けばことでしょうか」
「まっ、洒落にはならないな」
ムウはそう言葉を返した。
「下手をしなくても外交問題だ」
「やはり」
「今それをここで言っても仕方ないがな。とりあえずは軟禁ってことでいいだろう」
「わかりました」
結局はナタルも一般市民の命を無下にすることは出来なかった。彼女はそこまで冷徹になれなかったし、また倫理があった。だからこそ結局はムウの言葉に頷くのであった。
ラクスは部屋に案内された。暫くして食事も持って来た。
「食事、ここに置いておきますね」
テーブルの上にトレイを置く。
「後で下げに来ますから。他にも御用件があればインターフォンで」
「有り難うございます」
ラクスはまずはキラに礼を述べた。
「けど。外に出てはいけませんの?」
「ええ、ここは連邦軍の軍艦ですし」
キラはそれに申し訳なさそうに答えた。
「コーディネイターのことも。よく思っていない人もいますから」
「そうですの。けど」
「けど?」
「貴方は親切にして下さりますのね」
「僕も、同じですから」
キラは俯き、暗い顔になりこう述べた。
「同じ?」
「はい、コーディネイターなんです、僕も」
「左様ですの。けれど貴方が優しいのは貴方だからではないのですか?」
「えっ!?」
キラはラクスのその言葉に顔を上げた。
「貴方だからではないのでしょうか。優しいのは」
「それは」
「御名前、教えて頂けますか?」
「キラ=ヤマトです」
彼は名乗った。
「キラですね」
「はい」
「わかりましたわ。それではまた」
「はい」
キラは部屋を去った。そして居住区に戻った。その頃食堂では少し騒ぎになっていた。
「コーディネイターの娘を保護したって!?」
フレイがラクスの話を聞いて驚きの声をあげていた。
「それ、本当なの!?」
「ああ、そうらしいぜ」
トールが彼女に答える。
「そんな、そんなのアークエンジェルに入れていいの!?」
彼女はコーディネイターに偏見を持っていた。そして今それを露わにしていた。
「遺伝子操作された人間なんて。一緒にいるのだけでも嫌だわ」
「けれどフレイ」
そんな彼女にサイが言う。
「キラもコーディネイターなんだぞ」
「えっ!?」
その言葉に思わず顔を上げる。
「それ、本当なの!?」
「ああ。けれど君のシャトルを救助したのもキラなんだ。キラは悪い奴じゃない」
「サイ・・・・・・」
「それは君もわかってると思うけれどね」
「・・・・・・・・・」
フレイはその言葉に俯いてしまった。確かにそれは感じていたからだ。
「そうね、キラは大丈夫よ」
ミリアリアも言った。
「キラは私達の友達だから」
「ああ、大丈夫だよ」
トールがそれに応える。だがその中でカズイは少し複雑な顔をしていた。
「けどなあ」
「どうしたんだ、カズイ」
「俺達はキラがコーディネイターってことに慣れちまってるけど。連邦軍の中にコーディネイターがいるっているのはな。やっぱり問題なのかもな」
「ロンド=ベルは少し違うみたいだけれどな」
サイがここで言った。
「ロンド=ベルは、か」
「ああ。あそこは他の星の人達や他の世界から来た人達も大勢いるしな」
「バイストンウェルにマーズ、デューク星にビアル星、ペンタゴナ、それにボアザンに」
「バルマーの人もいるっていうし。あそこは別だけどな」
「それを考えるとコーディネイターも小さな話だろうけど」
「実際はな」
「ああ」
そんな小さなことにもあれこれ揉めるのもまた人間であった。フレイもそうした意味で人間なのであった。
「ところで俺達もさ」
「そうだな」
フレイを除く四人は互いに頷き合った。
「やれることをやろう」
「艦長にお話してみましょう」
「ああ」
「行くか」
そして食堂を後にした。彼等は彼等で思うものがあった。
この時マリューはオービットと連絡を取っていた。大河が応対に出ていた。
「そうか、大変だったのだ」
「はい、何とか無事でしたが」
マリューがそれに応える。
「そして今からそちらに向かうということで」
「うむ、既にロンド=ベル本隊がそちらに向かっている」
「ロンド=ベルが」
「アルスター事務官との合流も兼ねてな。救援に向かっている」
「彼等がですか」
「そうだ、安心していい。またハルバートン提督から連絡があったが」
「はい」
「アークエンジェルは今後ロンド=ベルと合流してはという話だが。どうするかね」
「ロンド=ベルとですか」
「そちらにとっても都合がいいと思うのだが」
大河はこう述べた。
「そちらには確かコーディネイターの少年もいる筈だ」
「ええ」
その言葉にこくりと頷いた。その通りだからだ。
「確か、キラ=ヤマト君だったね」
「その通りです」
「彼の様な存在がいるのならロンド=ベルにいた方が都合がいい。彼の今後はまだわからないがね」
「御好意に甘えさせてもらってもいいのですね」
「さもないと。厄介なことになる」
「厄介なこと」
「連邦軍にも色々な考えの人間がいる」
大河はあえてこう言った。
「我々と同じ考えの人間ばかりではないということだ」
「はい・・・・・・」
マリューは俯いてそれに答えた。三輪の様な者のことを言っているのは明白であった。三輪の異常なまでの地球至上主義、他者への、異質な者への攻撃性は彼女も知っていた。
「だからこそ、来てもらいたい」
「わかりました、それでは」
「うむ」
こうしてアークエンジェルはロンド=ベルに加わることになった。だが合流は容易にはいかなかった。
「艦長、大変です」
志願して艦橋に入ったサイから報告があがった。
「どうしたの?」
「ロンド=ベルが戦闘に巻き込まれました」
「戦闘に」
「A15宙域で暗黒ホラー軍団の部隊と交戦に入りました。足止めを受けています」
「そんな・・・・・・」
「チッ、こんな時に暗黒ホラー軍団かよ!」
「少しは出番ってのを考えるだわさ!」
甲児とボスが目の前の暗黒ホラー軍団の軍勢に対して悪態をつく。そこには四天王もいた。
「フン、そちらの事情なぞ知ったことか!」
「我等には我等の都合があるのだ!」
デスモントをアシモフがそれに返す。彼等は四隻のそれぞれの戦艦を前に出してきていた。
「デスモント、アシモフ、キラー、あれをやるぞ」
ダンケルが他の三人に対して言う。
「あれをか」
「うむ、攻撃目標はあの青い戦艦だ!」
キラーに応えて大空魔竜を指差す。
「グランド=クロス、仕掛ける!」
「うむ!」
「ここで仕留める!」
「四隻の戦艦、こっちに来ます!」
「何だと!ピート君、すぐに迎撃だ!」
「クッ、間に合いません!」
「何だと!それでは!」
「受けてみよ、グランド=クロス!」
「これで終わりだぁっ!」
ロンド=ベルは激戦に入っていた。とてもアークエンジェル、そしてアルスター事務官の護衛に向かうことは出来なかった。そしてそれが一人の少女の運命を暗転させてしまった。
アークエンジェルはヒイロ達とムウ、そしてキラを出撃させる。しかし出撃しようとするキラのところにフレイがやって来た。
「キラ!」
「どうしたんだい、フレイ」
キラはもうパイロットスーツを着ている。だがフレイはそれに構わない。
「パパが、パパがこっちに来ているって本当なの!?」
「ああ、そうらしいけれど」
キラはそれに答えた。
「だったらお願い!パパを助けて!」
フレイはそれを聞いて叫ぶ。
「パパがいないと私・・・・・・」
「わかってるさ、フレイ」
キラはそれに応えた。
「キラ」
「大丈夫だから、ねっ」
「お願いね、本当に」
「うん、じゃあ行くから」
「ええ」
彼等も出撃する。既にアルスター事務官のいる艦隊は敵の攻撃を受けていた。
「やらせるかぁっ!ナチュラル共!」
イザークが叫ぶ。攻撃を仕掛けているのはクルーゼ隊とミネルバ隊であった。
「貴様等如きに!」
デュエルがビームを放つ。それでモビルスーツ達が次々と破壊されていく。
「うわあっ!」
「つ、強い!」
「おいおいイザークよ、頑張ってるじゃねえか」
「ディアッカ」
そこにディアッカのバスターがやって来た。ニコルも一緒である。
「俺にもちょっとやらせてくれよ。折角の遠距離戦だしな」
「フン、獲物は自分で見つけるんだな」
「わかったぜ、じゃあ仕掛けるか!」
「サポートします!」
ニコルは攻撃を仕掛けるディアッカのフォローに回る。ディアッカはその間にそのライフルを一つにした。
「グレイトッ!数だけ多くてもな!」
攻撃が拡散されて向かう。それで連邦軍のモビルスーツやバルキリーを次々に倒していく。アスランはそれから少し離れた位置で攻撃態勢に入っていた。
「敵艦捕捉・・・・・・よし!」
イージスが奇妙な形に変形した。まるで爪の様に六本の爪を持つ禍々しい腕だった。
「これで!」
その中央には巨大な砲門があった。それでビームを放つ。
「!!」
そのビームは戦艦を貫いた。一撃であった。それを受けた連邦軍の艦艇が一隻轟沈した。恐るべき威力であった。
「なっ・・・・・・」
「戦艦が一撃で」
「ほう、中々の威力だな」
クルーゼはその攻撃をヴェサリウスの艦橋から見ながら呟いた。今回彼は出撃してはいなかった。
「戦艦を一撃で葬り去るとはな」
「あれがスキュラですね」
「うむ」
彼はアデスの問いに答えた。
「流石はガンダムだ。見事な力だ」
「ですが宜しいのですか?」
「何がだ?」
「ラクス様の捜索に来てこの様な」
「何、構わんさ」
クルーゼはそれに応えてこう言った。
「ここにいる彼等を放置していればラクス様の御身に危機が降りかかるからな」
「左様ですか」
「うむ。それに暗黒ホラー軍団も最近活発だしな。ここは積極的に仕掛けるべきだ」
「わかりました、それでは」
「うむ」
「隊長」
ここでブリッジクルーから報告があがった。
「どうした?」
「新手です、足つきです」
「ほう、来たか」
「クルーゼ隊長」
タニアがモニターに姿を現わしてきた。
「どうしたのだ?」
「足つきには我々が向かいます」
「いいのか?」
「はい、ですから隊長は今目の前の敵を」
「いや、待ってくれ」
だがクルーゼはそれを制止した。
「!?どうかされたのですか?」
「最早目の前の敵は大した戦力ではない」
「はあ」
「ここはそんなに戦力は要らない」
「では」
「こちらのガンダム四機もそちらに向かわせよう」
「ですがそれでは」
「話は最後まで聞いてくれ」
クルーゼはこう述べて笑った。
「目の前には取って置きの戦力を向かわせよう」
「取って置きの」
「シン=アスカをな。これなら構わないだろう」
「彼一人でですか」
「残るは戦艦一隻だけだ。彼ならば容易い」
「では」
「うむ、我々も足つきに向かう。それでいいな」
「はい」
タニアはそれに頷いた。
「それでは」
「うむ、行こう」
二隻の戦艦がアークエンジェルに向かう。既にアークエンジェルは戦闘態勢に入っていた。
「来たわね」
マリューが艦橋でそれを見ていた。
「ガンダムも四機います」
「四機!?」
「一機足りないな」
ミリアリアの報告にマリューだけでなくナタルも声をあげた。
「一機は。どうやら」
艦橋で戦局に関して細かい話が為されていた。その時ラクスのいる部屋に誰かが入って来た。
「どなたですか?」
「ハロ?」
ラクスとハロはその何者かに顔を向ける。それはフレイであった。
「貴女は」
「来て」
フレイは何か意を決した声で彼女に言う。
「私と一緒に」
「何でしょうか」
「いいから」
その間にもアークエンジェルはアルスター事務官の場所へ向かう。だがその目の前にクルーゼとタニアの隊が立ちはだかる。当然であるかの様に。
「やはり来たな」
ウーヒェイがそれを見て呟く。
「予想通りってな!ガンダムまでいやがるぜ!」
「デュオ、油断しないで下さいよ!」
「あのザクもいる」
トロワはレイとルナマリアのザクを見据えていた。
「だが。あのガンダムがいない」
「そういえば」
ムウがヒイロの言葉にハッとなる。
「あのやけに気性の荒いらしいガンダムがいないな」
「一体何処に」
そのガンダムはいた。今戦艦に向かっていた。ムウはそれを見て叫ぶ。
「あれだ!」
「あれって!?」
「あの戦艦にアルスター事務官が乗っている!やらせるな!」
「けどどうやって!」
「キラ、御前が・・・・・・」
言おうとしたところだった。アークエンジェルの艦橋にフレイが姿を現わした。ラクスを連れている。
「その娘は」
「フレイ、一体何を」
ミリアリアとサイが彼女に声をかけようとする。だがフレイはそれより前に叫んだ。
「コーディネイターに言って!」
「えっ!?」
「パパの船撃ったらこの娘殺すって。そう言って!」
「おい、一体何を」
「止めろよ、フレイ」
カズイとトールも声をかけようとする。だが彼女はそれに聞かない。
「早く!さもないと!」
「おい、どういうことなんだこれは」
ムウが艦橋の異変に気付いて声をあげる。
「何であの娘が艦橋なんかに」
「レーダーに反応です!」
ここでカトルが叫ぶ。
「また一機、姿を現わします!」
「敵か!?」
「それともロンド=ベルか!?」
ヒイロとトロワがそれを聞いてカトルに問う。
「いえ、これは」
「何処にもないマシンだな、また」
ムウもレーダーを見ていた。そのうえで言う。
「これは一体」
蒼いマシンが姿を現わした。そのマシンはすぐにアークエンジェルに通信を入れてきた。
「地球の人達ですか!?」
「!?」
モニターに一人の少年が姿を現わした。彼は言う。
「僕の名前はアルバロト=ナル=エイジ=アスカ!貴方達の為にバルマーから来ました!」
「何だって!?」
「バルマーから!?」
アークエンジェルの面々もバルマーのことは当然ながら知っている。その名に呆然とする。
「貴方達が地球の政府、連邦政府の人達ですね」
「そうだけれど」
マリューがそれに戸惑いながら答える。
「けれど貴方は」
「詳しい話は後です!今は貴方達を援護します!」
その少年エイジは言った。
「それでいいですか!?」
「いいも何も」
マリューは判断を下しかねていた。
「いきなり言われても」
「何か胡散臭い気がします」
ナタルは彼の申し出に反対であった。
「副長」
「バルマーの罠かも知れません」
「それは」
その可能性は否定出来ない。だが今は。
「そんな悠長なこと言っていられる場合でもないぜ」
ムウが言った。
「今はそれよりも目の前の敵を何とかしないと」
「しかしそれは」
「わかりました」
マリューは決断を下した。
「ええと」
「エイジと呼んで下さい」
「わかったわ、エイジ君」
マリューはそれに応えた。
「じゃあ援護を頼むわ。宜しくね」
「はい、わかりました」
彼はすぐにムウ達と合流する。そして戦いに向かった。
「キラ!御前は事務官の船に向かえ!」
ムウがまた彼に指示を出した。
「そしてあのガンダムを退けろ!いいな!」
「はい!」
キラはそれに従い事務官のいる艦に向かおうとする。だがその前にイージスがやって来た。
「キラ!」
「アスラン!」
二人は顔を見合わせた。そして対峙した。
「引いてくれ、アスラン!」
キラは言う。
「君とは戦いたくないんだ!」
「御前こそ投降するんだ!」
アスランはそれに言い返す。
「コーディネイターの御前がどうして連邦軍に!」
「守りたいものがあるから!」
「そして同胞と戦うのか!」
「友達の為に!」
「くっ!」
これ以上の話は無理だった。キラは突き進む。アスランはその前に展開する。
そこにエイジが来た。有り得ない程の瞬発力であった。
「君は」
「キラです」
キラはエイジの問いに答えた。
「キラ=ヤマトです。今はこのガンダムに乗っています」
「ガンダムか、話には聞いているよ」
「知っているんですか?」
「バルマー軍にいたからね。情報は聞いていたよ」
「そうだったんですか」
「地球のことも大体聞いていたけど。もっと複雑になっているみたいだね」
「ええ、まあ」
キラはそれに応えた。
「ちょっと。事情が変わりまして」
「それはバルマーも同じだしね」
「えっ!?」
「詳しい話は後だ。今は目の前の敵を何とかしよう」
「はい」
「君は早く戦艦の方へ向かうんだ、ここは僕が引き受ける」
「お願いできますか?」
「任せてくれ。このレイズナーなら」
「そのマシン、レイズナーっていうんですか」
「うん。じゃあここはね」
「わかりました。それじゃあ」
「待て、キラ!」
アスランは戦艦に向かおうとするキラを止めようとする。だがそこにエイジのレイズナーが来た。
「彼に頼まれたからね」
彼はレイズナーの機動力を生かしてアスランを足止めする。
「ここは行かせない!」
「クッ!このマシン!」
アスランはレイズナーと対峙して言う。
「かなりの機動力だ!これは」
それはイージスの機動力をも凌駕していた。アスランも振り切ることは出来ない。キラはその間にアルスター事務官の戦艦に向かう。だが。
既にシンは攻撃態勢に入っていた。ビームライフルを構えている。
「連邦軍の戦艦なら!」
彼は険しい形相で叫ぶ。
「このインパルスの敵になるものか!覚悟しろ!」
「やらせない!」
「パパ!」
キラがその前に向かおうとする。フレイは父の乗る艦を見据えていた。しかし。全ては間に合わなかった。シンのビームライフルが放たれた。
それは連射された。キラのストライクにも匹敵する動きと速さであった。一瞬で戦艦に続け様に攻撃を浴びせる。そしてその中の一つが艦橋を貫いていた。
エンジンも。それで戦艦は炎に包まれた。銀河の闇の中に四散し、消え去っていった。
「戦艦モントゴメリー撃沈です」
ナタルが苦い顔と声で報告する。
「生存者は・・・・・・」
「えっ、それって・・・・・・」
フレイはナタルの言葉を聞いて呆然とする。
「パパが・・・・・・パパが死んだの?」
「・・・・・・・・・」
誰もそれに答えない。いや、答えられなかった。彼女にとって父が死んだということはあまりにも酷な現実であったからだ。だが。それは現実であったのだ。
「パパが・・・・・・守るって言ったのに・・・・・・」
気を失いその場に崩れ落ちる。サイが彼女を介抱する。だがどうしようもなかった。
「ストライク!来たか!」
アルスター事務官の乗る戦艦を沈めたシンは次はキラに顔を向けてきた。
「今度こそ貴様を!」
「くっ、何故アルスター事務官を、フレイのお父さんを撃った!」
「これが戦争だからだ!」
シンの目は吊り上がっていた。形相がまるで鬼の様であった。
「戦争で人が死ぬのは当然だ!御前等だって俺達の仲間を殺した!」
「違う、僕は!」
「何が違う!このユニウス=セブンでも!地球でも!そして月でも!」
シンは叫ぶ。
「大勢の人間を殺している!御前だって同じなんだ!」
「僕は、僕は・・・・・・」
「違うというなら見せてみろ!御前が違うということをな!」
シンはキラにも攻撃を浴びせる。二機のガンダムが対峙する。
「見せないというのなら・・・・・・ここで!」
「クッ!」
キラは攻めることが出来ない。シンの言葉にそれを阻まれてしまっていた。だがシンは違っていた。なおも攻撃を続ける。そこに迷いはなかった。
「殺してやる!」
「僕は・・・・・・僕は・・・・・・」
殺す、その言葉にキラは反応した。そして叫ぶ。
「死ぬわけにはいかない!皆を守る為に!」
「今守れなかったのにか!」
「ウッ!」
「俺は守ってみせる!父さんも母さんも!」
シンはキラに叫ぶ。
「マユも!何があっても守る!」
その胸の中には携帯電話があった。何故か彼はそれをいつも持っていた。
「その為には!目の前の敵は!」
「クッ!」
「誰であろうと!殺してやる!」
「この殺気!」
キラはシンのインパルスのビームサーベルをかわした。
「何処まで・・・・・・何処まで強くなるんだ!」
「あんたが何もしないのならいい!だが、敵である以上倒す!」
「僕だって、倒されるわけには!」
キラもビームサーベルを抜いた。
「皆を・・・・・・皆を守る為に!」
「じゃあそれを見せてみろ!」
「見せるつもりはない!ただ・・・・・・守る為に戦う!」
キラはビームサーベルを振り下ろす。だがそれはシンにより受け止められた。
「!!」
「この動き・・・・・・!」
二人は互いの動きを見極めていた。その技量も。
「やっぱり、強い!」
「俺の動きをだと!?アスランですらまともには受けられなかったのに」
シンはザフトきってのエースである。その技量はアスランよりも上だ。アカデミーにおいてモビルスーツや戦闘機を操らせて彼に勝る者はいなかった。コーディネイターの中でも天才と言えるものであった。
「それを受けるとは」
「手強い、けれど」
二人は間合いを離した。再び攻撃に入る。
「だが。一撃位で!」
「ここは退くわけにはいかないんだ!皆がいるから!」
「死ねぇっ!」
「うおおおっ!」
二人はまた斬り合う。その実力は伯仲していた。だが二人はあまりにも熱くなり過ぎていた。エネルギーのことを忘れてしまっていた。
「!?」
二人は同時にコクピットで警告を受けた。エネルギー切れへの警告だった。
「チッ、こんな時に」
「下がるしかないんだね」
二人はそれに頷くしかなかった。そして下がる。その時に互いを見据えた。
「あの連邦のガンダム、まさか」
「何て手強さなんだ、それに凄い殺気だ」
シンとキラは互いを忘れられなかった。それはキラとアスランともまた違っていた。互いの守りたいものの為に戦う、その根底にあるものは同じでも二人はあまりにも違っていた。
キラとシンが下がったその時にアークエンジェルとヴェサリウス、そしてミネルバのレーダーに反応があった。タリアにルナマリアの妹であるブリッジクルーであるメイリンが報告する。
「レーダーに反応です、その数多数」
「まさか」
「はい、ロンド=ベルの様です。どうしますか?」
「ロンド=ベルの全軍よね」
「レーダーに反応する戦艦は七隻、おそらくは」
「わかったわ。今のこちらの戦力では」
ロンド=ベルの相手は無理だ、それはすぐにわかることであった。タニアはモニターのスイッチを入れた。
「クルーゼ隊長」
「わかっているさ」
クルーゼがすぐにモニターで応えた。
「流石に今の戦力では彼等の相手は出来ない」
「では」
「うむ、一時撤退する」
クルーゼは断を下した。
「そして後方で補給を受けよう。それでいいな」
「はい」
「では全軍撤退だ」
すぐに指示が出された。それを受けてザフトのモビルスーツは撤収していく。戦場に残ったのはアークエンジェルとその面々であった。
「何とか助かったわね」
マリューは退いていくザフトの戦艦とモビルスーツを見て安堵の息を漏らした。
「ロンド=ベルも来てくれたし」
「こちらロンド=ベル」
そこにロンド=ベルから通信が入ってきた。
「そちらは連邦軍第八艦隊所属のアークエンジェルか」
「はい」
マリューがそれに応える。
「私はラー=カイラム艦長ブライト=ノアだ。今から諸君等と合流したい」
「わかりました。それでは」
アークエンジェルはロンド=ベルト合流した。まずはこれで難を逃れたのであった。
マリューはラー=カイラムに来た。そしてブライト達と会う。
「はじめまして」
「うん」
マリューが敬礼し、ブライトが返礼する。そこにはマリューの他にアークエンジェル、そしてロンド=ベルの主だった者達がいた。
「来て頂き有り難うございます。おかげで助かりました」
「いや、我々も遅れてしまって申し訳ない」
「暗黒ホラー軍団との戦いですか?」
「そうだ、最近彼等の活動が活発化していてな。それで」
「そうだったのですか」
「そちらは何とか退けたが。アルスター事務官は」
「はい」
「残念なことだった。ところで五機のガンダムだが」
「四機のガンダムが敵に奪われました」
ナタルが報告する。
「それは聞いている」
「そして。敵もまたガンダムを投入してきています」
「ザフトのガンダムをか」
「はい、かなりの戦闘力です。それによりアルスター事務官のガンダムが」
「そうだったのか」
「彼等は今は退きましたがまた来るものと思われます」
「そうだろうな。だが今はオービットベースに戻ろう」
「はい」
「諸君等の参加を歓迎する。宜しくな」
「有り難うございます」
こうしてアークエンジェルとそのクルーそしてエイジはロンド=ベルに加わった。戦いはとりあえずは大きな山場を越えたのであった。
しかし。キラはそうはいかなかった。
「嘘つき!!」
アークエンジェルに帰投したキラにフレイが叫んだ。ヒステリック気味だった。
「大丈夫って言ったじゃない!僕達も行くから大丈夫だって!」
「・・・・・・・・・」
キラはそれに何も答えられない。守れなかったのは彼が最もわかっていることだったから。
「何でパパの艦を守ってくれなかったの!何であいつらをやっつけてくれなかったのよ!!」
フレイは言い続ける。キラは沈黙したままだ。俯いて何も語りはしない。そこへサイ達がやって来る。
「フレイ!」
サイがまず二人の間に入ってきた。
「キラだって必死だったのよ」
ミリアリアがキラを庇って言う。
「だから」
「落ち着くんだ、フレイ」
トールも二人の間に入った。
「気持ちはわかるけど」
「キラだってさ、仕方がなかったんだよ」
カズイも。彼等は必死にキラを庇っていた。
「あんた自分もコーディネイターだからって本気で戦ってないんでしょ!!」
だがフレイはそれでも叫び続ける。彼女はもう止まらなかった。
「・・・・・・・・・」
コーディネイターという言葉にも。俯くだけだった。何も言えはしなかった。
「パパを・・・・・・パパを返してよ!」
「フレイ・・・・・・」
フレイは泣いていた。泣くしかなかった。だがもう父は帰っては来ない。誰にもどうすることも出来なかったのだ。
キラは何も言わず自室に戻る。カズイ達はそんな彼を必死に励まそうとするがそれはどうにもならなかった。ロンド=ベルの面々もそれを見て複雑な顔をしていた。
「コーディネイターか」
ケンジがまず口を開いた。
「話は聞いていたが」
「はじめて見ますね」
「ああ」
ナミダの言葉に頷く。
「しかし、案外変わらないな」
「そうですね」
それにアキラも同意する。
「普通の人間、ナチュラルですか。それと変わらないですよね」
「そうだな。何処もな」
「当然だろうな。ニュータイプでも他の星の人間でも超能力者でもさ。結局は一緒なんだよ」
いつもは斜に構えたアキラが珍しくまともに述べた。
「人間なのさ」
「キラをそう認めてくれるんですか?」
それを聞いたサイ達がコスモクラッシャー隊の面々に声をかけてきた。
「君達は?」
「俺達、キラの友達なんです」
トールがケンジに答える。
「ヘリオポリスから一緒で」
「今はアークエンジェルに乗り込んでます」
「そうか、ずっと彼と一緒だったんだな」
「はい」
「それで。彼はどうなんだい?」
ケンジは逆に彼に問うてきた。
「えっ!?」
「どうって」
「いい奴かい?それとも」
「キラは悪い奴じゃありませんよ」
それに答えたのはカズイであった。
「いい奴です、コーディネイターでもいい奴です」
「そうか、それならそれで充分だ」
「充分って」
「知ってると思うがこのロンド=ベルは色々な人間がいてね」
ケンジは彼等に説明する。
「中には他の星の人間もいれば地下世界や他の世界から来た人間もいるんだ。当然ニュータイプや超能力者もいる。サイボーグだってね」
「コーディネイターだけじゃないんですね」
「そうさ、タケルだってな」
「ああ」
アキラがここで頷く。
「超能力者でしかもバルマー人だ。それでも俺達の仲間なんだ」
「バルマーの人でもですか」
「問題なのは心だ。それさえしっかりしていればいいんだ」
「俺達はそう思っている。だから安心してくれていいぜ」
「そんな小さなことにはこだわらないさ」
「そうなんですか」
サイ達はケンジとアキラ、ナオトの言葉に励まされた。
「それじゃあ」
「ああ、彼を歓迎する」
「お兄ちゃん達も宜しくね」
「君は」
トールはふとナミダに顔を向けた。
「赤石ナミダっていうんだ。コスモクラッシャー隊の一員だよ」
「そうか、子供もいるんだ」
「この部隊は私達と同じ年代の子もいるって聞いたけれど」
「私もよ」
ミカが名乗り出てきた。
「宜しくね」
「うん」
「こちらこそ」
キラの気付いていないところで彼を受け入れる準備も整っていた。そして他の面々も他の面々で同じであった。中には変わった受け入れられ方の面々もいた。
「何か不思議よね」
「ええ、そうね」
ミサトとマリューはビール缶の山を周りに置き話をしていた。既にかなり寄っている。
「私、何か貴女とは他人の気がしないわ」
「私も」
二人はビールを飲み合いながら話をしている。
「何でかしらね、初対面なのに」
「気が合うわよね」
「ええ」
二人は頷き合う。そのタイミングも、おまけにプロポーションも互いに見事なものであった。
「アムロ中佐や宙君が気になったり」
「なるわ」
「そこも似てるわよね」
「何でかしらね」
「他人だとは思えないわ」
「そうそう」
「ずっとね、変だと思っていたのよ」
ミサとは言う。
「ブライト大佐やリョウ君とかがね。どうも声が似ている人間が多いって」
「うちのサイ君もそっちの勇君見て言ってたわ」
「全然違うタイプじゃない」
「それでも似てるって」
「私達も。何だかね」
「本当に。奇妙な程馬が合うわよね」
「ビール好きだし」
「幾らでも飲めるし」
「年下の男の子、好きでしょ」
「わかる?」
「わかるわよ。うちの部隊そういう子一杯いるから」
「最高じゃない、それって」
「中にはトランクス全然洗ってない子も多いけど」
「うわっ、ズボラね」
「まあ私もだけどね、ズボラなのは」
「私もね」
「そこまで一緒なんてもう信じられないわ」
「世の中そっくりな人は三人いるっていうけど」
「奇遇よね、本当に」
「それじゃあ葛城三佐」
「ミサトでいいわ」
ミサトはわざとくだけて言う。
「って貴女の方が年下なのよね」
「ええ」
ミサトは二十九歳、マリューは二十六歳である。その差はある。
「けれどまあいいわ、ミサトで」
「いいの、それで」
「私もマリューって呼ぶから。それでいいわよね」
「わかったわ、それじゃあ」
「もう一人の私に」
「乾杯っ」
二人はまたビールを飲みはじめた。そのままどんどん飲んでいく。その時ムウはムウでミリアルドと不思議な顔をして会っていたのであった。
「ライトニングカウントだったよな」
「うむ」
ミリアルドはムウの言葉に頷く。
「そちらはエンデュミオンの鷹か」
「おっ、知っててくれたんだね」
「名前はな。連邦軍のエースの一人だと」
「一応はね。モビルアーマーに乗ってね」
「そうか」
「あんたのことも聞いてるよ。何かと大変だったってな」
「迷ってきた時は確かにあった」
ミリアルドはそれを認めた。
「だが。今は違う。全てはわかった」
「それで今ここにいるんだな」
「そうだ」
「俺とは事情が違うな。俺は何か成り行きでここに来ちまったけど」
「だが貴官の参加を歓迎する」
ミリアルドはうっすらと笑ってこう述べた。
「これから。宜しく頼む」
「ああ、こちらこそな」
ムウも笑い返した。二人は同時に手を差し出し合った。それから握手をする。固い握手であった。
そしてもう一組。複雑な状況になっている面々がいた。
「あんな人でも艦長やってたんだ」
「呆れた話だ」
フレイとナタルはそれぞれこうコメントしていた。
「何かあったんですか?」
ノイマンがそれに尋ねる。それにナタルが説明する。
「ナデシコの艦長だが」
「ああ、ミスマル司令のお嬢さんですね」
「そうだ、彼女だが」
「全然違うんですよ、ナタル副長と」
「私とか」
「じゃあ私ですか!?」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
何故かノイマンも二人の会話に戸惑いを見せていた。
「ええと、そちらが副長でそちらが」
「どうかしたのか?」
「何で戸惑ってるんですか?」
「えっ、いやそれは」
ノイマンはその理由を二人に話した。
「何か声が。あんまりにもそっくりなものでして」
「そういえばそうだな」
「似てるとこありますね」
それにはナタルもフレイも同意であった。
「実はそれなのだ、問題は」
「問題はそれですか」
「そうだ、私とアルスター嬢だが」
「何かあの艦長さんと他人な気がしないんですよ」
「はあ」
ノイマンはまた二人がどっちかわからなくなった。声ではわかりにくい。話している口がどっちかで何とか判断をしている状況であった。
「それで、まあその」
「あんな能天気な人が艦長さんで。こんな部隊で大丈夫なのかなって」
「あれでかなりの名艦長らしいですよ」
「そうなのか」
「ええ、だってナデシコって前の戦争からの歴戦の強者ですよね」
「うむ」
ナタルもそれは知っていた。
「クルーも皆生き残っていて。それがその証拠ですよ」
「そういえば戦果は大きいな」
「不思議ですけれどね」
「そういうことですよ。外見はあんな感じでもやっぱり実力はあるんですよ」
「実力というよりは先天的なものか」
「副長と全然違いますね」
「私はそんなものに頼るのは好きではない」
生真面目なナタルらしい言葉であった。
「そもそも私は努力こそが」
「はい、努力するのは大切なことです」
「あれっ、貴女は」
そこにルリがやって来た。
「ホシノ=ルリです。どうか宜しくお願いします」
「ハッ」
「こちらこそ」
軍人であるナタルとノイマンはすぐに敬礼をした。彼等はルリの階級を知っているのである。
「堅苦しいことは抜きです。この部隊では階級は関係ありません」
「左様ですか」
「ナデシコの艦長も。努力されているのです」
「そうなのですか」
「はい。ですからここまで戦ってこられました」
ルリは言う。
「人の御覧になられないところで」
「だといいのですが」
「何かここって凄く熱い人もいるみたいだし」
「ドモンさん達ですか?」
フレイに応える。
「ええ」
「ガンダムファイターもいるとは」
「あの人達もまた、努力されています」
「そうなのですか」
「はい。そしてその努力が実を結んだ時」
ルリは話の本題に入った。
「大きな奇跡が実現するのです」
「大きな奇跡が」
「一矢さんもそうでした」
「ダイモスのパイロットの」
「はい。あの人は何があっても諦めず、エリカさんとの愛を手に入れられました。それが何よりの証拠です」
ナタル達に語る。
「くじけずに努力を重ねられて、です」
「何かホシノ少佐は違いますね」
「何がですか?」
「いえ、クールな方だと御聞きしていたので」
「それがこの様な熱い方だとは」
「私も。変わりましたから」
ここで微かに笑った。
「変わられたのですか」
「はい、ロンド=ベルの皆さんを見て」
「左様ですか」
「それがわかるまでに時間はかかりましたが。それでもわかってよかったです」
「はあ」
「あの彼もそれがわかると思います」
「キラ=ヤマトが」
「はい」
ナタルにまた答えた。
「何時かは」
「だといいのですが」
「それまでに何度も壁にあたると思います。しかし」
「それを越えてですね」
「皆、同じですから」
「同じ」
「そうです。コーディネイターでも誰でも同じ人間ですから」
「人間、ですか」
「はい、私も」
ルリはここでうっすらと微笑んだ。
「同じ。人間なんですよ」
「・・・・・・・・・」
ナタルとフレイにはその言葉は今はわからなかった。だがアークエンジェルもまた正式にロンド=ベルの一員となったのであった。彼等は迎え入れられた。それは事実であった。
そして。また一つ別の勢力が来ていた。
「アークエンジェルがロンド=ベルと合流した」
「ああ、聞いたぜ」
アレクサンドリア級巡洋艦とサラミス級が何隻かそこにいた。その中にはイライジャとロウもいた。
「それでオービットベースに向かっているそうだな」
「どうする?」
「どうするって?」
ロウはイライジャに聞き返した。
「決まってるだろ、俺達は仕事をしてるんだぜ」
「では行くな」
「ああ、軽く襲撃をかけてやるさ」
「わかった。ではこちらも準備をしておこう」
「スティング達にも声をかけておいてくれ」
「三人も出撃させるのか」
「あの連中がいないと話にならねえだろ」
それがロウの返事であった。
「今回の戦いは。連中が主力なんだからな」
「わかった、それではな」
「ああ。しかしな」
ロウの顔は晴れなかった。
「実際のところ、どうなんだ?」
「どうなんだとは?」
「いや、あいつ等だよ。かなり精神的に不安定だったけどよ」
「精神洗浄を行った。だから今は安心だ」
「あのベッドでだな」
「そうだが」
「メンテナンスベッドか。好きになれねえな」
ロウは露骨に嫌悪感を示していた。
「どっちにしろ、強化されてるせいだろ?」
「そうだ。あのベッドや様々なメンテナンスが無い限り彼等は生きることができない」
「嫌な話だな、おい」
「嫌か」
「連中は兵器扱いなんだろ!?それがどうして嫌な話じゃねえんだよ」
「だがそれが戦争だ」
「へっ、都合のいい言葉だぜ」
「三人はそれもわかってはいないだろうな。過去の記憶もまた」
「・・・・・・あいつ等孤児だったんだろう?」
「そうらしいな」
「せめてこれからは幸せに生きてもらいたいんだがな」
「だが強化は」
「ティターンズやネオ=ジオンの強化人間は救われたじゃねえか。ほら、あっちにいる」
「フォウ=ムラサメやプルツーか」
「ああ、あいつ等だ。あいつ等だってそうなんだからな」
「不可能に近いぞ」
イライジャはそう断った。
「あの三人は。投薬やメンテナンスベッドがなければ」
「普通の強化人間じゃねえってのかよ」
「・・・・・・・・・」
「おい答えろよイライジャ」
ロウは黙ってしまったイライジャに詰め寄る。
「黙ってちゃわからねえだろ」
「言わないでもわかるだろう。その通りだ」
「糞っ!」
「だが。俺達の知らない医療技術を持っている人間ならあるいは」
「救い出せるってのか」
「そんな人間がいればな」
「シュウ=シラカワ博士でもなきゃ無理か」
「だが彼はティターンズの敵だ」
「そうだよな。だがな」
ロウは言った。
「俺はあの三人救い出すのなら何だってしたい。ティターンズには未練も何もないしな」
「そうか」
「ああ、御前だってそうだろ」
またイライジャに対して言った。
「御前は本当は」
「待ってくれ」
だが彼はここでロウを制止した。
「それは言わない約束だ」
「おっと、そうだったな」
「とりあえずロンド=ベルはオービットまでにコロニーに潜入する。そこで何かと情報収集にあたろう」
「そうだな。三人のリラックスも兼ねてな」
「ああ」
彼等もまたコロニーに向かおうとしていた。そしてこれが。シンとステラ、二人を巡り合わせることになるとはこの時誰も思いはしなかったのであった。

第百五話完

2006・7・16  
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