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久遠の神話

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第十三話 想いの為にその十二


「その方が缶詰にするにはいいからな」
「だからなのね」
「それでだ。後は」
「後は?」
「調理したソーセージの缶詰に沢庵の缶詰もある」
「何か缶詰が多いのね」
「非常食だからか」
 広瀬も真深の言葉に考える顔になって述べた。
 そうしてだ。こう言うのだった。
「美味そうだがそれでもな」
「何か今一つよね」
「バリエーションがないな」
「それじゃあ飽きないかしら」
 真深は話を聞いてだ。そのことが心配になったのだ。
「自衛隊の人達も美味しいもの食べたいわよね」
「それは誰でもそうだな」
「そうよね。それでもなの」
「種類はあまり多くはない」
「ううん、その辺り辛そうね」
「後はお握りだな」
 まさに国民食だ。日本人はこれなくしては生きられないと言ってもいい。
「これは欠かせない」
「あっ、お握りあるのね」
「やはりこれがなければな」
「そうよね。お握りさえあれば」
 真深もお握りと聞いてだ。笑顔になって言うのだった。
「全然違うわよね」
「そう。お握りさえあればだ」
「日本人って安心できるわよね」
「それもいつも食べてるらしい」
「だったら安心かしら」
 話を聞いてだ。こう言う真深だった。 
「確かにおかずの種類は少ないけれど」
「お握りさえあれば」
「そうそう。自衛隊の人達も大好きなのね」
「そうみたいだな。あとは」
「後は?」
「航空自衛隊と海上自衛隊の食事はいいそうだ」
 つまりだ。美味いというのだ。その二つの組織のものはだ。
「だが陸上自衛隊のそれはだ」
「よくないのね」
「書かれていた。お世辞にもな」
 オブラートに包んでも仕方のないものがそこにあった。
「よくないらしい」
「ううん、それって可哀想ね」
「士の人が順番で作っているらしい」
「士って?」
「兵隊さん達のことだ」
 自衛隊ではそう呼ばれているのだ。建前として軍隊ではないとだ。今でも公ではそう主張されている。
「その人達が持ち回りで作っている」
「じゃあお料理を知らない人でも」
「順番なら作る」
「確かにそれだとね」
 真理もわかった。まさにそれならばだ。
「美味しくないわよね」
「だから陸自さんの食事はよくない」
 つまりまずいというのだ。
「そうした事情でだ」
「わかったわ。そうなのね」
 真深は同情する顔になって答えた。
「何か陸自の人って」
「可哀想か」
「御飯が美味しくないってそれだけで不幸なことじゃない」
「そうだな。確かにな」
「そういうことも書いてあるのね」
「特に食事に詳しい」
 実際にその本を見せながら話す広瀬だった。
「そうしたことにだ」
「そういう本って珍しいんじゃないかしら」
 真深は彼の話を聞いてそう思い実際に言った。
「やっぱり」
「そうだな。どうしても兵器の話になるからな」
「それでもその本はなのね」
「食事や生活について詳しく書かれている」
「生活。そうよね」
「勿論自衛官にも生活はある」
 考えてみれば当然のことだった。自衛官も人間だからだ。
 その本にはだ。そうしたことも書かれているというのだ。
「特に船の中だが」
「海上自衛隊の」
「潜水艦の生活についても書かれている」
「潜水艦の生活?」
 そう言われてもだ。真深にはぴんとこなかった。
 それでだ。こう広瀬に尋ねたのだった。
「それってどんな感じなのかしら」
「読みたいのなら貸すが」
「お願いできる?」
「本は一人が読むものではない」
 広瀬はこうも言う。
「誰もが読んでそうしてだ」
「知識や教養を備えていくものよね」
「そういうものだ。それなら」
「後で貸して」
「そうさせてもらう」
 笑顔で答える彼だった。口調は変わらないがそれでもだ。顔色は明るかった。その顔でだ。彼は真深と共にいてだ。そのこと自体を楽しんでいた。


第十三話   完


                        2011・11・1 
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