真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第89話 桃色注意報
許攸が私の元を訪ねてから、1週間程して桃香、愛紗の2人が私の元に訪ねてきました。
私は玉座に腰掛け、2人を黙って見ています。
北郷が居ませんがどうしたのでしょう。
この場には、揚羽、冥琳が同席しています。
「桃香、督郵の許攸から仔細は聞いているが、お前の言い分を聞かせて貰おうか?」
私はだいたい想像がついていますが、一応、桃香達の言い分を聞くことにしました。
「正宗さん、ごめんなさい!」
私が桃香に詰問すると、彼女は頭を深々と下げました。
「謝罪するということは、許攸を半殺しにしたことは認めるのだな」
私は冷静な態度で言いました。
「劉将軍、お待ちください! 許攸を半殺しにしたのは、桃香様では無く、北郷です」
関羽は桃香の横に進み出て、腹立たしそうに言いました。
「愛紗ちゃん、いいの。私が県尉なんだから、北郷さんの行為を止めれなかった責任は私にあるの・・・・・・」
桃香はいつになく元気がありませんでした。
「北郷が許攸を半殺しにしたのか?」
「そうです! 許攸は桃香様が賄賂を拒否したことを逆恨みして、冤罪を陥れようとしました。北郷は自分に罪が及ぶのではと考え、許攸が逗留する宿を兵士達を唆して襲撃し、彼女を亡き者にしようとしました。私達が北郷の行動に気づいた時は、時既に遅く、許攸は北郷の襲撃で半殺しの状態で、強姦されかけておりました。その後、桃香様は許攸に取り繕うにも会話にならず、私達は少数の兵のみを引き連れ、山野を通って劉将軍の元に参りました」
この話を聞いて、強欲な性格とはいえ許攸に悪いことをしたなと思いました。
彼女は金に汚く傲慢な性格ですが、それ以外を除けばそれなりに役に立つ文官です。
どうしたものでしょうか?
「先ほどから気になっていたが北郷は何処にいる」
今回の事件をしでかした本人が居ないので、2人に尋ねました。
「劉将軍に許攸の件を釈明しに行ったら、更に酷い労役を課されると憤って、襲撃を行った兵士を連れ逃亡しました」
関羽は青筋を立て声高に私に言いました。
「逃亡した兵の人数は? それと何故、北郷を取り押さえなかった」
私は厳しい表情で桃香と関羽に言いました。
「逃亡した兵は30人です。北郷を捕らえなかった理由ですが・・・・・・」
関羽は私の言葉に口を噤み、バツが悪そうに桃香を見ました。
「私が逃がしました」
桃香は関羽は黙ると覚悟を決めた表情で言いました。
「桃香、お前は何を言っているのか分かっているのか? 北郷の行動のお陰で私は危うく破滅したかもしれないのだぞ」
許攸が汚職官吏だったので、彼女を脅迫するだけで済みましたが、そうでなければどうなっていたか。
その場合、このようなことは起こらなかったでしょう。
しかし、北郷の暴走は看過できる限度を超えています。
許攸を襲撃し半殺しにして、未遂とはいえ強姦を働こうとは賊と同じです。
男だけの石切り場に押し込めていた反動でしょうか。
「北郷さんは最低の行為をして、正宗さんに凄く迷惑を掛けました。本当なら罪を償うべきだと思います。でも、正宗さんのことだから、北郷さんも襲撃に加担した兵士さんも死罪にするんじゃないかと思って・・・・・・」
桃香は頭を俯けて、私に言いました。
「それで北郷や襲撃に加担した兵士達に恩を売ったつもりか? 許攸の件を収拾したのはこの私だ。お前が彼らを逃がすなら、許攸の件はお前が収拾すべきだった。違うか?」
私は桃香の言葉に激怒して、桃香を怒鳴りつけました。
「正宗さん、ごめんなさい・・・・・・」
「申し訳ございません!」
桃香と関羽は深々と頭を下げました。
「桃香、不始末を起こした以上、安喜県の県尉の官職を返上し、印綬を渡して貰うぞ。北郷を逃亡させた件は私は知らなかったことにしてやる。だが、情けを掛けるのもこれが最後だ」
私は桃香の所行に怒りを覚えましたが、冷静に言いました。
「分かっています。これが県尉の印綬です」
桃香は腰袋から印綬を出しました。
「冥琳、その印綬を預かってくれ」
私が冥琳の声を掛けると、彼女は桃香から印綬を受け取りました。
「あの・・・・・・。正宗さん、厚かましいお願いなんですが、私の義勇軍の皆を預かって貰えないですか? もう、私の力じゃ義勇軍の皆を養うのは無理なんで」
桃香は私に申し訳なさそうに言いました。
「義勇軍を預かってくれということはいずれ返してくれということか? お前は自分の兵士を私に養わせる気なのか?」
桃香の願いに胃痛を覚えましたが、私は声をひねり出して言いました。
「先ほどから聞いていれば、貴様は何様のつもりだ! 本来ならば、罪人を逃がした罪で貴様を罰するところを正宗様はお見逃しなされるのだぞ」
冥琳は厳しい表情で桃香に言いました。
「それを分かっています。でも、私じゃ義勇軍を維持するのは無理なんです」
桃香は俯きながら言いました。
「劉玄徳、あなたは分かっていません。何故、正宗様があなたの兵を養わなければいけないのです。兵というのは金食い虫です。あなたはそのことを自覚なされていますか? あなたの兵を正宗様が預かるということは、3000人の食客の面倒を見るということと同じです。それもいつ出て行くか分からない人達です。正宗様のために命を捨てる覚悟がある兵士達ならいざ知らず。あなたの為に命を捨てる兵士達を面倒見るのはどう考えてもおかしいでしょう」
揚羽は怜悧な瞳で桃香を凝視して言いました。
「揚羽殿の仰る通り、面倒を見れぬというなら、義勇軍を解散しなさい。解散するというなら、治安維持の観点から、兵士達が故郷に帰れるように資金を出すことを考えても構わない」
冥琳は揚羽の発言に同調して意見を言いました。
「桃香、義勇軍を解散するか、維持できる規模に縮小しろ。私とて金が湯水のようにある訳ではない」
私は暗に義勇軍は預からないことを桃香に伝えました。
「わかりました・・・・・・。義勇軍の規模を縮小することにします。残りの兵士さん達のことは故郷に帰れるようによろしくお願いします」
桃香は俯いていて表情は伺えませんが、泣いているようでした。
彼女を見ていると言い知れぬ罪悪感を感じるのですが、これが劉備マジックでしょうか?
関羽も今回のことは仕方なしという表情をしています。
関羽が哀れに感じてきました。
「桃香、今後はどうするのだ。伝手は無いのだろう?」
私は桃香達の今後が少し心配になり、今後どうするのか尋ねました。
「ま、正宗さんに・・・・・・、こ、これ以上・・・・・・迷惑を掛けれないので・・・・・・」
桃香は涙を拭きながら言いました。
「洛陽に行き盧植殿を訪ねるといい。彼女は朝廷で尚書の官職にあるから、仕事を紹介してくれるだろう。私からも添え状を書いてやる」
私は月華に申し訳ないと思いましたが、彼女の名前を出すことにしました。
洛陽にいれば武官の仕事があると思います。
「盧植先生をですか?」
桃香は顔を上げ、泣き腫らした目で私を見ました。
「桃香、お前の恩師だろう。彼女なら仕事を紹介くらい、してくれると思うぞ。洛陽までの路銀は私の私費で面倒を見てやる」
桃香は教え子ですし、同郷なので、月華も悪し様にはしないでしょう。
「あ、あの・・・・・・。正宗さん、どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」
桃香は涙を拭きながら頬を染めて私を見ていました。
「今回のことは首謀者が北郷であるし、お前だけに責任があるわけではない。それに援助はこれが最後だ。私に感謝する気持ちがあるなら、早く出世をしろ」
私は痛む胃を擦りながら言いました。
「はい、正宗さん。頑張ります! そして、正宗さんにきっと恩返しをします」
桃香は頬を染めたまま私に元気良く言いました。
「私も劉将軍のご厚恩に感謝いたします」
関羽も私の申し出に喜んでいるようです。
はぁ・・・・・・、私は甘いですね。
私は力無く項垂れました。
「桃香、洛陽への仕度があるだろう。兵数は維持できる人数を連れて行け、分かったな」
「はい!」
桃香は凄く嬉しそうに私に応えました。
揚羽と冥琳は私をジト目でしばらく凝視すると、2人揃って溜息を付きました。
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