FAIRYTAIL-ダークブリングの力を操りし者-
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第十四話 食事会という名の交流会にて
マグノリアからオニバス、クヌギ、オシバナの街を越えた先にクローバーという街がある。その街では例年、地方ギルドマスター連盟の定例会が開かれているがその他にもギルド間の交流を深めるために食事会が開かれることがある。
食事会と言っても格式溢れるものではなく立食パーティ形式で気軽に皆で話し合う形をとっている。定例会もマカロフ曰く同じようなものらしいのだが実際内容は異なる。定例会は評議会での決定事項などが報告されてたり、各ギルド同士の意思伝達を円滑にすることを目的としているが食事会はただ単に交流が目的らしい。
そんな今回の食事会に俺はマカロフの付き添いとしてS級に昇格したエルザと共に参加していた。定例会とは違いギルドマスターの他にも同行者がいる。大体がそのギルドの有望株で現に実力のある者達らしい。ナツやグレイも将来的には期待できるがまだ時期尚早だろう。次の食事会に連れて来られるのはミラジェーンあたりだな。
俺は受付で貰った参加ギルドが記載されている書類を見ると妖精の尻尾以外にも青い天馬、蛇姫の鱗などの有名ギルドが名を連ねていた。ご丁寧にもその書類には各ギルドの紋章が載っているので誰がどのギルドの人かだけは分かるようになっている。
会場はすでに人がごった返しておりフェアリーテイルは遅れての到着だったようだ。テーブルの上には色とりどりの料理が並び、地元で愛されているお酒が用意してあった。食欲をそそるな。俺はさっそくテーブルの上に置かれている料理を小皿に手に取りながら、お酒を注いだ。
フェアリーテイルと仲の良いギルドとの挨拶があるらしいが、それはエルザに任せれば良いので俺は気兼ねなく食事をしながら辺りを見渡す。会場にいる人達の第一印象はキャラ濃いな、の一言に尽きる。特にあれは何だ?背中に白い羽をつけたスキンヘッドのオカマは一際目立つ。その隣にいるホスト風で残念な背格好と顔をしている男も凄まじいキャラの濃さだ。ただその二人とも色物というだけではなく見れば相当な実力者ということがわかる。
その他にも実力者はいたが一番俺の目を引き付けたのがラミアスケイルの紋章を付けた男だ。かなりの強者、それも俺が苦戦するであろうほどの。そういえばラミアスケイルで有名な男がいたな、名前は確か……岩鉄のジュラだったか。次期聖十大魔道の候補にも上がっていたはずだ。
ギルドに置いてある魔法週刊誌で書かれていたが多分こいつがそうなのだろう。……俺の名前も候補に上がっていたが魔導士じゃないしな。その週刊誌の予想ではジュラが筆頭候補みたいだ。実力、実績、素行どれをとっても問題なしの評価になっていた。
俺の口元はいつもの如く自然と吊り上り好戦的な視線をジュラに送っていた。その視線を瞬時に察知しその男がこちらに振り向く。俺は食事を一端止めて、グラス片手に岩鉄のジュラがいるテーブルへと歩いていく。ジュラは俺に対して多少の警戒心を見せつつ俺が何者か分かったのかすぐに友好的な笑みを浮かべた……自分で言うのも難だがもう少し警戒した方がいいぞ。
「初めまして、ジュラ・ネェキスと申す。お主はルシア殿……でよろしいか?」
「よく分かったな。ルシア・レアグローブだ。よろしく」
「うむ、ルシア殿は有名だからな。全身黒ずくめに鋭い眼光、そして金髪とくればすぐに分かる」
「あの岩鉄のジュラに知ってもらえているとは俺も有名になったもんだ」
「私からして見れば、あの金髪の悪魔に知ってもらえていたことの方が驚きだ」
どうやらお互い様のようだ。差し出された手を握り返し友好の握手を交わす。なるほど、誠実で実力もある。あの蒼髪三下野郎よりよっぽど聖十魔道士に相応しい人物のようだ。だからこそ手合わせ願いたいが、まぁ無理だろうな。いずれ戦う機会が来ることを祈るしかないだろう。
それから他愛無い会話をジュラと交わしていると突然エルザがこちらに走りより俺の背中に隠れた。いきなりのことに少し驚いたが振り返りエルザの顔を覗くと苦虫を噛み潰したような何とも言えない顔をしていた。……珍しいな、こんな顔をしているエルザは。ジュラも目を丸くしどうしたんだとばかりにこちらを見ている。俺も気になったのでエルザに話を聞こうとしたとき、その原因が現れた。
「メェーン! 恥ずかしがらずに出ておいで、僕のマイハニー!」
その場に鳴り響くは甘い声。辺りにはその声の主が付けているであろう香水の香りが漂い、革靴独特の床を歩く時の音がコツコツと聴こえる。エルザからその声の主に視線を変えたとき俺は全身に電気が走った。ラクサスの電撃にも勝るとも劣らないと言っても過言ではないだろう。そう、あまりに合っていないのだ。声と香りから予想される顔と目の前に佇んでいる男の顔が。というより俺が会場に入り一番最初にキャラが濃いと思った男の一人だった。
「あなたの為の一夜でぇす。隠れてないで出ておいでハニー」
「……エルザ、人の趣味にどうこう言うつもりは無いが、うんその何だ、意外な男の趣味しているんだな」
「ち、ちち違うぞ! ルシア誤解しないでくれ!」
俺の背に着いているマントを涙目になりながら引き千切れそうなほどの力で引っ張るエルザも珍しい。……一応丈夫に作られているが破らないでくれよ?まぁからかうのもこの辺にしておこう。あまり度が過ぎるとエルザが鬼のようにキレるからな。その時の状態を『鬼のエルザ』と呼んでいる。……最近ギルド内でも浸透してきた二つ名だ。
「もっと、もっと私にあなたの香りを!」
「私に近寄るなぁぁー!!」
鼻をヒクヒクさせながら奇妙な小走りでエルザに近寄ったが一夜は右ストレートで見事返り討ちにあっていた。匂いフェチなのか?それともエルザはそんなに良い匂いがするのか?……正直少し興味深いが右ストレートは喰らいたくない。
一夜が吹き飛んだ拍子に出来た穴は意外と大きく、外の冷たい風が部屋に入り込んできた。もう風が寒くなるような月になったかと月日の流れが早いなと考え深く思っていたとき外の異変に気がついた。
近くにいたジュラも気がついた様子で俺と目を合わす。別に何が見えたとか気配がした様子は一切なかったが今までの戦闘で磨かれた勘で俺は察知した。すぐにDBを発動させ、周囲を見渡すとぼやけているが大勢の人間がこの会場を取り囲んでいる。こんな状況になるまで気がつかなかった自分に腹が立つがその怒りはこの敵意を持っている奴らにぶつければ良い。
「ルシア殿もお気づきになられたか……かなり高度な魔法で隠蔽されていたようだ」
「みたいだな。俺達やギルドマスタークラスでも気がつかなかったとなると大物でもいるかと思ったんだが見渡したかぎり雑魚しかいないようだ」
「なんとっ! そんなことまで正確なことが分かるのですか?これは心強い。私は探査系は少し苦手でしてな」
「この程度の連中なら俺やジュラの脅威になる奴はいないさ。この結界魔法も恐らく高額なラクリマを使用したんだろう。といっても俺達に気がつかれない程の魔法だ。今までかなりの時間と魔力をそのラクリマに注いだんだろうな。でなければこんな雑魚共に遅れを取るなど割りに合わない」
「どういたそうか。マスターたちにお伝えするべきか、それとも……」
「なに、折角の食事会だ。この良い雰囲気をぶち壊す必要もないだろ。俺一人で十分だ。ジュラはこの建物に被害が出ないよう守ってもらいたいんだが」
「……ルシア殿にばかり面倒をかけて申し訳ない」
「気にするな。腹ごなしには丁度いいだろう」
そういえばいつもならエルザが俺と共について行こうとするが珍しく声を掛けられないなと思いエルザを見てみると、一夜とまたしても壮絶なやり取りをしていた。……一夜はもう復活してたのか。大したものだ。
俺は気を取り直して会場の外へと跳び出る。
周囲に張られている結界を打ち破るためデカログスを取り出し第四の封印剣ルーン・セイブと第六の真空剣メル・フォースの合わせ技で広範囲に張られていた結界魔法を封印した。このルーン・セイブは物質以外のものを斬る剣で主に魔法防御に用いられる剣である。一見最強に見えるこの剣だが魔法の大きさ、強さにより消費するDBPも上がるため強力な魔法の場合あまり連続では封印できないのが難点だ。
そしてその一振りにより隠れていた連中が一気に姿を現した。数百人はくだらないであろう大人数だ。連中の掲げている旗のような物に様々なギルドの紋章が描かれていた。恐らく闇ギルドの連合隊だろう。いくつか見覚えのある紋章もある。いかに雑魚とはいえこれならば少しは楽しめるだろうと思いつつ、結界魔法を破られて驚愕の表情を浮かべている奴らに俺はニヤリと笑い出迎えた。
side out
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
side ジュラ・ネェキス
ルシア殿が何処からともなく取り出した大剣を常人には到底目視できない速度で一振りした途端、周囲に張られていた強力な結界魔法が消えた。
……正直ありえないの一言に尽きる。あれ程の高度な魔法をいとも簡単に打ち破ったことも驚きだが、それ以上に魔力を使わずただ剣を振るっただけで魔法をかき消したのが異常だ。
それに剣を振るった瞬間、形状が変わった。換装の魔法だろうか。いやしかし魔力が使われておらず、交換したというより形状が変わったような気がする……謎が多い人物だが先程少し話をした時のことから考えるに決して悪い人物ではなかろう。
それにあの偉大なマスターマカロフがいるギルドの者だ。言葉遣いは乱暴だったが良い人柄だった。ならば私は私の務めをしっかりと果たさなければルシア殿に申し訳がたたぬ。
「やはり、今年も来おったか。懲りぬ奴らじゃの」
振り返ればフェアリーテイル、ブルーペガサス、クワトロケルベロスのマスター達がまるで見物するかのように外を覗いていた。……いきなり声を掛けないで欲しい。正直驚いた。
「……お気づきでしたか。それにしても今年もとは?」
「こういう奴らは結構な頻度でマスター達が集まる時に襲って来るんじゃよ。まったく、はた迷惑な奴らじゃな……まぁ今回は良いモノが見れそうじゃ。最近のルシアがどれだけ強くなったか見れるんじゃし――無粋な輩もいるようじゃがな」
「あら、あれが金髪の悪魔くん? 良い男の子じゃない!?」
「てめぇんとこで最近噂の金髪の坊主かい? さすがにあの人数じゃ厳しいんじゃないのか?」
「なぁに、黙って見ておれ。あれでも十五歳でワシのギルドでS級にまで上り詰めた男じゃ」
マカロフ殿が少しも心配の色を出していないことから察しゴールドマイン殿も黙ってしまわれた。私自身はルシア殿の心配というよりも戦い方に興味がある。先程の一振りから見ても普通の戦闘方法ではなさそうだ。
「ほれ、ルシアが動くぞ」
悪魔の様な形相で襲撃者達をあざ笑いならが余裕の表情で左手を腰にあて、もう一方の手にはまた先程とは違った禍々しい剣を持ち、ただそこに佇んでいた。闇ギルドが一斉に放った数百と迫る魔法に対しても彼は避けようともせずただそこに佇んだままでいる。何故?という疑問は一瞬のうちに打ち払われた。
――――咆哮
耳を劈く、人間の声量では出せないような悪魔を声がこの場に響き渡る。ただそれは魔力も何も含まれていないただの咆哮。ただそれだけで数百の飛翔するかのように飛んできた魔法を打ち消した。悪魔の叫びのように聴こえたその咆哮は地割れを引き起こしルシア殿の付近にいた者たちは文字通り天を舞った。
「……ありえん」
ゴールドマイン殿が目を丸くしながら言った一言はよくわかる。一つ一つの魔法は大したモノではないが、何百という魔法が一斉に向けられたのならばそれは脅威だ。それを回避するにしろ防御するにしろルシア殿のレベルならばやってのけるとは思っていたが、その方法がただの咆哮など予想もつかない。
さすが、フェアリーテイルの悪魔と呼ばれることだけのことはあるし、マカロフ殿が自慢げにしていたのもよくわかる。隣にいるそのマカロフ殿の顔を窺うと……
「嘘じゃろ……」
……驚愕していた。驚きすぎて顎が外れてしまっているが大丈夫だろうか。どうやらマカロフ殿も予想外の出来事だったようだ。再び戦場に目を向けるとそこには悪鬼羅刹が暴れていた。
一振りすれば何十人と人が飛び、大地を踏めば地響きが起きる。まるで闘争心以外の心を封じてしまったかのように、周囲にいる人間達を罰する悪魔のようだ。
甘く見ていた。正直彼と戦闘になったとしても私の方が分があると思っていたがとんでもない。もしあのルシア殿と対峙しているのが自分であったのならばと想像するだけでも身震いがする。何より戦闘中あれだけの威圧と殺気を浴び続けなければいけないというのが精神的に堪えるだろう。これほどの者とは……私もまだまだということか。
気がつけば何百人いた闇ギルド達が死屍累々としていた。よく観察すると誰も死んでいない。……がしかし皆かなりの重症だ。山のように積み重なった人間達による山の頂に立っていたのはまぎれもなく金髪の悪魔。この通り名は誇張でも何でもない。ただの事実だということをこの場にいる全員が理解しただろう。
フェアリーテイルの金髪の悪魔、ルシア・レアグローブの名は今回の一件で今まで以上に有名になるだろう。少なくともこの会場にいる全てのギルドが彼に一目を置いたことは間違いない。いずれは彼と共に戦える日がくればいいと思い、それ以上に彼と戦える日がくればいいとも思っている自分に驚く。……倫理や規律を何よりも重んじる人物と呼ばれるこの私がまさか戦いたい欲求がここまであるとは。これでまた一つ己を知り、強くなった気がする。
「いずれ、必ず」
あの時のルシア殿の好戦的な視線に答えるとしよう。
だが今はまだ修行あるのみ。私は騒がしくなった会場の中で一人そう決意した。
後書き
今回の話は青い天馬(ブルーペガサス)所属の一夜=ヴァンダレイ=寿はギルドマスター同士の食事会に同席した時、同じく食事会に出席していたエルザに一目惚れしている。という公式設定から生まれた話でした。
以下アットノベルス時代のあとがきをそのまま載せます。
さて、読者様からルシアは何故魔法を使わないのかという質問をいただきましてそれについてお答えしようと思います。まず第一にルシア君が保有する魔力総量自体少ないのです。たしかどこかの話で書いたと思うのですが(書いてなかったらすいません)ルシアの魔力は並と自身で言っていましたが実は並以下です。良くて中の下、悪ければ下の中ぐらいです。つまり戦闘で使用するにはあまりにも心もとないわけですね。
補助として使えばいいじゃんと思われる方もいらっしゃると思うのですが、効率の面から言ってもそれは間違いではありません。しかし、厄介なことにルシア君にはポリシーというか美意識や彼独自のこだわりがあります。それはいろいろとあるのですが、魔法に関しては使用しないということです。もちろん魔導二輪など娯楽や移動の際に使用するのは別ですよ。ただ戦いの中で使用したくないという想いが強いです。
DBマスターの称号を持っているからなのか、外見がルシアに似ているためDBしか使いたくないのか、それともDBという恩恵によるもの以外使うのは申し訳ないのか、理由については読者様の想像に任せます。ルシア君は理論や理屈は大事にはしますが、それ以上に自分の拘りや美意識を大事にします。理屈だけじゃないってことです。そこらへんは今まで読んで下さっていればそういう面が垣間見えた場面が時折あったことが分かると思います。例えば牢屋の時に、理性より本能が勝ち、勝負を仕掛けた場面など。本当ならばこの小説内で説明しなければいけないことなのですが、なにぶん作者の力量不足であとがきによる説明という暴挙に打って出てしまったわけです。なさけない。
そして、今回ルーンセイブ以外にも実はもう一つ新たな形状の魔剣が登場していました。
第9の剣 羅刹の剣「サクリファー」です。視点がジュラだったので名前は出てきませんでしたが、彼が禍々しい剣と称した剣こそこのサクリファーです。この剣は闘争心以外のすべての感情を封じ、文字通り羅刹の如き戦闘力を発揮する剣。そのため使用者の自我を蝕み、最終的には命まで奪ってしまいます。また、強い殺戮衝動に駆られることで、敵味方の区別もつかなくなっていきます。使用中はあらゆる身体能力が強化され、雄叫びによって魔法などを掻き消すことも可能。ルシアはこの剣を制御できますが、それでも長時間の使用は危険です。これにより身体能力が上がっていたのでジュラもそれがルシアの普段の実力だと勘違いしてしまったわけですね。
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