髑髏天使
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第六話 大天その一
髑髏天使
第六話 大天
「それで最後まで聞くことはできなかったのじゃな」
「そうだ」
烏男との闘いを終えた牧村は次の日学校に来るとまず闘いの一部始終を博士に対して話した。博士は妖怪達と共にその話を聞いている。
「最後に何か言おうとしていたがな」
「ふむ、何だったのじゃろうな」
「それはわからないか」
「何分な。文献が実に多い」
見ればまたテーブルに本が置かれている。今度も随分と古い紙のものだ。
「これにしろじゃ。変わった紙じゃろ」
「紙・・・・・・なのかそれは」
「パピルスじゃ」
歴史の教科書に出て来る単語であった。
「古代エジプトのな。あれじゃよ」
「エジプトか」
「髑髏天使の歴史は古くてのう」
博士が今度言ったのはこのことだった。
「古代ギリシアやエジプトにも記録があるのじゃよ」
「エジプトにもな」
「インドや中国にもあるぞ」
見ればパピルスの他に今にも朽ちそうな木を紐でまとめたものもある。
「ほれ、中国のものはこれじゃ」
「それは確か」
「木簡じゃよ」
博士はその木の束に触れて述べた。
「中国の西周時代のものじゃよ」
「西周か」
「これを手に入れるのにも苦労したぞ」
苦労を思い出しての苦笑いとその手に入れた木簡をいとおしむ笑みと二つの笑みがあった。その二つの笑みが混ざり合っている。
「何分な。西周時代の資料は少ないのじゃ」
「そうなのか」
「何しろ古い。それに戦乱があった」
中国の歴史において紀元前一〇〇〇年から七百年辺りは歴史的に空白の時代なのだ。周は一度西から東に移っているがこれは異民族の襲撃を受けてのことだ。この際に様々な文献を消失している。それにより歴史的空白が生じてしまっているのである。
「だからじゃ。これも手に入れたのは奇跡に近かったの」
「それ程まで重要な文献なのだな」
「その通りじゃ。それでじゃ」
「うむ」
「読んでみると面白いことがわかった」
こう牧村に言うのであった。
「面白いこと?」
「うむ。この前話したが」
「天使のことか」
「そう、それじゃ」
やはりであった。博士は強い表情と声で牧村に対して語ってきた。牧村もそれを強い顔で受ける。
「天使じゃ。この前話したことじゃが」
「九つの階級があるのだったな」
「まずは天使じゃ」
最初はこれだった。俗に言われる天使とはこの階級を言う。
「今の君はそれじゃ」
「つまり最下級ということだな」
「まあはっきり言えばそうじゃな」
今の牧村の言葉には少し思うところがあったがあえて口に出さずに返した。
「天使は下の第三階級じゃからな。はじまりじゃよ」
「そうか、やはりな」
それを聞いても相変わらず表情をこれといって見せることのない牧村であった。元々階級や身分にこだわる男ではないのだ。これは当然だった。
「それでだ」
「うむ」
「その上が下の第二階級じゃが」
「それは一体」
「前に話したかのう」
博士はここで少し己の記憶を辿った。
「ほれ、大天使じゃが」
「大天使か」
「アークエンジェルというのじゃ」
キリスト教での正確な呼び名も彼に教えた。
「天使よりさらに上の力を持っておる」
「それは一体どういったものだ?」
「それがのう」
しかしここでは残念そうに首を横に振る博士であった。
「わしにもわからんのじゃ。まだな」
「わからないのか」
「済まんのう」
「別に謝る必要はないが」
別にそれにはこだわることのない牧村であった。
「まだ文献で読んでいる最中だな」
「そうじゃ。しかしな」
博士はふと手元の木簡に手をやって述べてきた。
「一つ気になることがあった」
「気になること?」
「古代の中国の文字じゃがな」
「甲骨文字か?」
「それとはまた違う」
殷、正確に言えば商の時代に使われていた文字である。骨や亀の甲羅に書き込みそこから占いを行って政治に使っていたのである。中国の最初の文字だとされている。
「商の文字と周の文字はまた違うからのう」
「違うか」
「昔の中国は国ごとによって文字が違った」
これは事実である。
「始皇帝の統一で文字も統一されたのじゃよ」
「貨幣や度量衡を統一したあの時にか」
「その通りじゃ。それよりも以前の文字でのう」
「かなり古いのはわかるが」
「その文字で気になるものがあったのじゃ」
また牧村に対して語る。
「天を表わす文字が何度か見えるのじゃ」
「天!?」
牧村はその言葉に目を少し鋭くさせた。
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