髑髏天使
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第五話 襲来その十五
「どうやら君は。僕が思っていた以上の相手だったね」
「その言葉、受け取っておく」
「どうも。最後にね」
彼は今度は周りの烏達に顔を向けた。見れば彼等は心配そうに烏男を見ている。しかし彼はその彼等に対して穏やかな声を出して言うのだった。
「君達、悲しむことはないよ」
こう友人達に告げた。
「少しもね。だってこれは決まっていたことだから」
「決まっていたことか」
「魔物だって死ぬんだよ」
髑髏天使に対しても言った。
「絶対にね」
「不老不死ではなかったのか」
「まさか」
このことは笑って否定してきた。
「そんなわけないじゃない。生きていれば絶対に死ぬさ。絶対にね」
「異形の者であろうともか」
「神様になれば死なないかもね」
また神という言葉を出してきた。
「神様ならね。けれど僕はただの魔物だから」
「死ぬか」
「長生きするだけさ」
烏男の言葉ではこうである。
「君達人間より長くね。それだけだよ」
「そういうものか」
「そうだよ。だから僕も死ぬ」
人間の多くと違うのは死というものを無機質に受け止めているというところであろうか。少なくとも生に執着しているようには見えない。
「それだけのことなんだよ」
「しかし御前の友人達は違うようだが」
見ればまだ烏男の側にいる。心配そうに声まで立てている。
「別れを惜しんでいるのか」
「僕だって別れたくはないさ」
これは烏男の本心であろうか。
「けれどね。こうなったら仕方ないよ」
「では。死ぬのだな」
「うん」
髑髏天使の言葉にこくりと頷く。
「それじゃあね。ただ、一つ言っておくよ」
「何だ?」
「僕だけじゃないよ」
彼が言うのはこのことだった。
「僕の前にも何人かと闘っているね」
「ああ」
その通りだった。既に幾つかの闘いを経ている。既にそれ等の闘いから多くのものを見てきているのは隠しようのない事実であった。
「これからもそうだから」
「わかっている。それが髑髏天使の宿命だな」
「そういうことだよ。そしてその果てには」
「その果てには?」
「・・・・・・御免」
だがここで烏男の言葉は止まった。
「さようならだよ。これでね」
「・・・・・・そうか」
烏男は途中で言葉を切ってしまった。そうして紅蓮の炎と化して燃え尽きてしまった。赤い空に見えるその炎は十字架を思わせるものがあった。
髑髏天使はその炎をまだ見続ける烏達を見ていた。だがやがて彼等に背を向け水の上をサイドカーで走りその場を後にした。背に烏達の悲しげな鳴き声と前に今まさに大地に完全に落ちようとする赤い夕陽を見ながら。一人戦場を後にするのであった。
第五話 完
2008・10・6
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