真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第75話 董卓陣営に会うも、へぅ~君主は居らず
廃城の戦を終えた私達は死者を火葬にして弔うことにしました。
自軍の兵士達の遺体を火葬にする前に、彼らの遺髪を一人ずつ小袋の中に入れさせ、その袋に兵士の名を書かせました。
この遺髪は彼らの遺族に渡すつもりでいます。
黄巾賊の兵士達の死体は効率的に処理するため10人位ずつ死体の山を作り纏めて火葬にし、自軍の兵士達の遺体は一人ずつ火葬にしました。
黄巾賊の兵士達の遺体は野ざらしにすべきという将兵達もいましたが、私が周囲に疫病が発生することを将兵達に丁寧に説くと納得してくれました。
本音言えば私も黄巾賊の兵士達の遺体は野ざらしにしたい気分ですが、5万人の死体を野ざらしにしたら間違いなく疫病が発生すると思います。
私達は遺体の火葬を全て終えると広宗に向かって進軍しましたが、広宗まで後50里を切ったところで、前方に砂塵が立ち上っているのを確認しました。
「敵襲か?冥琳、用心して陣立てをしておいてくれ」
「正宗様、畏まりました」
冥琳は馬を翻して将兵達に指示を出し始めました。
前方を見ていると先行していた斥候がこちらに向かって馬を駆けてきました。
彼は私の元に来ると下馬し、片膝を着き拱手をして報告をしました。
「劉将軍、董東中郎将の名代を名乗る者がお目通りしたいと申しております」
「董東中郎将・・・・・・。わかった、その者を通せ」
董卓の名代ということは賈駆の可能性が高いですね。
「冥琳、陣立ては不要だ! 味方の官軍だ」
私は後方で陣立ての指図をしていた冥琳に声を上げて言いました。
前方の砂塵の中を進軍してくる官軍の牙門旗は「賈」、「張」、「呂」の3つです。
自軍から300尺位の地点で前方の軍は進軍を止め、賈駆、張遼、呂布が馬を駆けてこちらにくると、下馬して私に挨拶をしてきました。
「劉将軍、遠路はるばるご苦労様です。私は董仲穎の名代、賈文和と申します。後ろに控えるは董卓配下の張遼、呂布でございます」
ツンデレな賈駆が私に敬語を使って丁寧な挨拶をしてきたことに違和感を覚えました。
良く考えてみたら、私は左将軍でした。
それなら、彼女の態度は当然ですね。
「賈文和、ご苦労。董東中郎将の姿が見えないが・・・・・・。何かあったのか?」
董卓がいないのは何となくわかりますが、そのことを聞かないとそれはそれで変なので聞くことにしました。
「董仲穎は体調を崩しまして、先に涼州へ帰還いたしました。劉将軍にお目通りせずに帰還したこと謹んでお詫び申し上げます」
賈駆は私に平伏して謝りました。
「賈駆、面を上げよ。体調が優れぬなら仕方が無い。董東中郎将には十分養生するようにと伝えてくれ」
私は下馬すると賈駆の前で膝を着き、優しく声を掛けました。
「りゅ、劉将軍の寛大なお心に感謝いたします。これは董仲穎より預かりし印綬にございます。お預かりください」
賈駆は私の行動が意外だったのか、動揺しながら私に軍の印綬を手渡しました。
「確かに受け取った。ところで、今回の引き継ぎの兵数は?」
「はっ! 2万でございます」
「2万か・・・・・・」
「黄巾賊との戦で損耗してしまい・・・・・・。申し訳ございません」
賈駆は頭を下げて謝っていました。
彼女ならもっと損耗を押さえることが出来たでしょうに・・・・・・。
敢えてしなかったのでしょう。
「気にすることはない。勝敗は兵家の常だ。お前達が悪いのではない。後のことは私達に任せて、涼州へ帰還してくれ」
私は立ち上がり、賈駆、張遼、呂布の顔を順番に見ると呂布と視線が合いました。
彼女は私を凝視していましたが、私は視線を賈駆に戻しました。
「劉将軍のご武運をお祈り申し上げます。それではこれにて失礼させていただきます」
賈駆は私に挨拶をすると、張遼も頭を下げましたが、呂布だけ私を凝視していました。
「恋、あんた何をやっているの!劉将軍に失礼でしょ!」
私を凝視する呂布に気づいた賈駆が彼女を怒りました。
「お前、強い・・・・・・」
呂布は私に無表情のまま言いました。
「はっ?」
私はつい素っ頓狂な声を出してしまいました。
「劉将軍、申し訳ございません!この者の無礼をお許しください。このバカは変なんです。それでは失礼いたします。アンタ達さっさと帰るわよ!」
賈駆は張遼と呂布を引っぱりながら帰って行きました。
「正宗様、董仲穎は無礼極まりませんな!」
冥琳は私に近づいてくるなり開口一番に言いました。
「あれは賈文和が董卓を思ってのことだろう。それに私は気にはしていない」
「病であったとしても左将軍である正宗様に一度は面を通すのが筋ではありませんか?正宗様からお聞きした董仲穎の印象とは思えません」
冥琳は董卓が直々に印綬を持ってこなかったことが許せなかったようです。
「そう言うな。当の本人が良いと言っているのだから、これでこの件は終いするぞ。賈文和が董仲穎をあまり表に出したくないのは、彼女を表に出すことで要らぬ争いに巻き込まれることを心配してのことだ」
私は冥琳の目を見て言いました。
「ならば、涼州に引きこもっていれば良いではありませんか」
冥琳は私が董仲穎を庇うのが気に入らないような表情をしました。
「そうだな・・・・・・。多分、本人はそれを望んでいると思うぞ」
「正宗様、どういう意味です?」
「言葉の通りだ。董仲穎自身は出世しようなどと思っていない。だが、賈文和は董仲穎の出世を望んでいる。董仲穎は非力だが、聡明で心根がしっかりした娘だ。いざというときは人の為に命を投げ出すことも厭わぬだろう」
私は賈駆達が去っていた方角を見て言いました。
「正宗様は董仲穎を随分と買っているのですね。妬けてしまいます」
冥琳は軽く笑っていました。
「この先、私の手で董卓のことを救ってやりたいと思っただけだ。心配しなくても、私は冥琳を買っている」
私は冥琳を目を見て言いました。
「正宗様、ありがとうございます」
冥琳は微笑みました。
劉備陣営から張飛、趙雲、諸葛孔明、鳳統を引き抜いた状態では、反董卓連合時に彼女達が董卓を助け出すのは無理でしょう。
そうなれば、董卓に待っているのは悲惨な末路が待っています。
彼女は難癖をつけられただけです。
私は別に気にしないですが、中央の実権を涼州の田舎者が握れば、朝廷の内外で彼女に不満を抱く者が出て来るのは自明の理です。
それが分からない賈駆ではないと思います。
多分、董卓を相国に押し上げたのは、劉協が一枚関わっている可能性があります。
董卓は相国の就任を拒否できない状況だったというなら理解できます。
劉協のように知恵はあれど度胸はない愚者なら考えそうなことです。
どうせ、涼州の田舎者なら御しやすいという安易な考えで任官したに違いないです。
董卓達は中央に後ろ盾がないですから、拒否など選択肢にはなく受け入れるしかなかったんじゃないでしょうか。
もしそれが事実なら、しわ寄せを全て董卓に被せる劉協は救いようの無い馬鹿です。
それは追々分かって来るでしょうから、まずは目先のことを解決することにします。
「冥琳、朱里、雛里はいるか。董仲穎から引き継いだ兵の編成を早急に行ってくれ。それが終わり次第、広宗へ向かう」
「畏まりました」
「お任せください」
「お任せください」
冥琳、朱里、雛里は拱手をすると、足早に兵の編成作業に入りました。
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