髑髏天使
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第五話 襲来その七
「それだけじゃからな」
「烏男のことは知っているのか」
「弓矢を使う奴じゃな」
「そうだ」
「元々はイギリスにおった」
ここで魔物の国籍まで述べてみせる博士であった。
「そこで妖精の様なものとして扱われておったのじゃよ」
「妖精か」
「意外か?」
「ああ」
博士の問いに対して頷く牧村であった。
「確かにな。あれが妖精か」
「妖精といっても色々じゃ」
こう答える博士であった。
「中にはああしたものもおる。悪い妖精や変わった妖精もな。多々おるのじゃよ」
「そうなのか」
「そうじゃよ。妖精といえば幻想的じゃが結局は妖怪と同じなのじゃ」
「妖怪と」
牧村は今の博士の言葉に周囲を見回した。丁度その妖怪達が周囲で遊んでいる。見ればその遊ぶ姿は確かに西洋の妖精のそれを思わせる。
「起源もな。あっちの妖精はケルトの神々のなれの果てじゃ」
「ではこちらの妖怪は」
「神様のなれの果てだったり物が魂を持ったりな」
その辺りは色々であるらしい。
「この鬼なんかはじゃ」
「どうも」
赤く大きな身体をした毛むくじゃらの鬼がぺこりと牧村に挨拶をしてきた。青鬼もいる。どうも身体は大きいが心は大人しく優しいらしい。
「山の神のなれの果てじゃよ。土蜘蛛にしろじゃ」
大きな蜘蛛が牧村の足元で楽しく一杯やっている。豆腐小僧等と一緒に。
「まつろわぬ神とか一族とか。そういうものなのじゃよ」
「民俗学の話だな」
「柳田邦男とかののう」
博士は日本民俗学の巨人の名前を出してきた。
「そういう世界の話じゃな」
「妖精もそれと同じようなものだったか」
「何も難しく考えたり特別に考えたりすることもないのじゃ」
博士はこうも彼に話す。
「日本もイギリスもそうした意味では同じじゃよ。それでじゃ」
「あの烏男はイギリスでは妖精だったのか」
「その通り。最初の虎人は中国から、半漁人はブラジルじゃ」
「それはわかる」
博士の言葉に頷く牧村であった。
「外見でな」
「鋭いのう。蛇男はベトナムで蟷螂人はタイじゃ」
「熱帯だな」
「それぞれわざわざ日本に来ておる。正体は当然人の姿ではない」
博士はこのことははっきりと言う。
「むしろ人の姿は仮初めじゃよ。変えようと思えば変えられるものなのじゃよ」
「変えようと思えばか」
「そうじゃ」
「奴等はそうなのか」
牧村は博士の話をここまで聞いて不意に思いはじめたのだった。
「奴等は」
「!?どうしたのじゃ?」
「では俺はどうなのだ」
自分に対しての思いであった。
「俺は髑髏天使になる」
「うむ」
「ならば俺は奴等と同じだな」
「そうなるかもな」
博士は素っ気無く彼に答えた。
「変わることを同じというのならばのう」
「そうだな。だとすると俺は奴等と」
「魔物と同じだと思うのか?」
「違うのか?」
博士に顔を向けて問う。
「それは。今思ったが」
「それはどうかのう」
しかし博士は牧村の今の言葉には首を捻って答えてみせた。
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