髑髏天使
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第三十一話 赤眼その二十九
「本当にね。子供は何人でも欲しいわ」
「三人か五人じゃなかったのか」
妹の今さっきの言葉に突っ込みを入れた。
「早速変わるのだな」
「いいじゃない、別に」
居直ってさえしたのだった。
「それでも」
「とにかく子供は欲しいんだな」
「好きな人と結婚してね」
こんなことも言ってきた。
「そうよ。幸せな家庭を築いてね」
「なら築け」
兄の言葉とはいささか思えないぶしつけなものだった。
「ただしだ。相手は」
「わかってるわ。しっかりと選べよね」
「変な相手だったら俺が許さん」
「私を?」
「相手もだ」
両方だというのだ。
「許しはしない」
「斬るとか?」
「必要ならだ」
フェシングのその話にもなった。
「わかったな」
「物騒ね」
「物騒か」
「そう言わないで何なのよ」
未久は軽く笑いながら述べてきた。
「そんなこと言って」
「物騒でもそれでもだ」
「本気?」
「碌でもない相手とは付き合うな」
このことを言いたいのだった。要するにだ。
「わかったな」
「わからなかったらどうするの?」
「御前を斬る」
今度は妹に向けた言葉だった。彼女に対してもだった。
「わかったな」
「やっぱり物騒じゃない」
「物騒で結構だ」
「開き直るのはどうなのよ」
「それでもだ」
言葉の調子は変わらない。
「そんな相手とは付き合うな」
「しっかりと見てということなのね」
「人は選べ」
しっかりとしてぶれない言葉だった。
「下手な相手とはだ」
「絶対に付き合ったら駄目なのね」
「こんな言葉がある」
彼は不意にこんなことも言ってきた。
「妻の良し悪しは夫の人生を左右する」
「どっかで聞いた言葉ね」
「そしてだ」
言葉をさらに続ける彼だった。
「夫の良し悪しもだ」
「奥さんの人生を左右するのね」
「そういうことだ」
これが彼の言いたいことだった。飛躍はしているがだ。
「だからだ。交際相手は選べ」
「わかったわ。それは心得ておくわ」
「今の時点で既に心得てはいるな」
「それはね」
既にというのだった。
「わかっているから」
「わかっていればいい。それではだ」
「果物ね」
「食べるか。カロリーを使った」
「何処がよ」
今度はまた妹が言うターンだった。
「何でゲームしていてカロリーを使うのよ」
「気にするな。御前に関係のある話じゃない」
「私には?」
「そうだ。俺には関係のある話だ」
それでも彼女には関係はないというのだ。
「わかったな」
「わからなくても気にしないでしょ」
「その場合はそうする」
やはりこの辺りはであった。牧村らしかった。
「そういうことだ」
「わかったわよ。それじゃあね」
「下に行くか」
「私が斬るから」
自分から言ってきたのだった。
「行きましょう」
「それじゃあな」
「苺に林檎に」
その果物についても話が為された。
「後はオレンジよ」
「種類もあるんだな」
「とにかくお家にある果物全部だから」
それを食べるというのだ。
「種類はね」
「そういうことか」
「食べてそれで」
「食べてか」
「お勉強しないとね」
くすりと笑っての今の言葉だった。
「しっかりとね」
「ゲームは止めるのか」
「中学生は忙しいの」
何処か兄を小馬鹿にした様にして告げた言葉だった。
「わかったわね」
「わかった。俺も昔は中学生だった」
「大昔はね」
「ほんの少し前だ」
この辺りの認識はまさにそれぞれだった。主観と主観である。
「何はともあれだ。果物を食べてだ」
「勉強ね」
「またゲームをする」
それぞれ言ったうえで部屋を出た。そのうえで兄妹で果物を食べた。今牧村は人間の日常の中にいた。しかしそれは変わろうとしていた。
第三十一話 完
2010・2・17
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