| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

トリコ~食に魅了された蒼い閃光~

作者:joker@k
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第八話 充実した生活

 あの絶叫の後、俺のことについて根掘り葉掘り聞かれ無人島生活を送っていたことをトムに話した。無論転生云々については話していない。

 最初は無人島生活に驚いていたが話終わると納得の表情で「強いわけだ」と一言。そりゃあ、八年間ずっと交友関係を誰とも築くことなく娯楽もなく世間の情報も得られない所で戦い続けたんだ。強さだけには自信がある。


 その後、まずはグルメIDを市役所のような場所で発行し、それを身分証明書に口座を開いた。まぁ案の定グルメIDの発行の際、いろいろと時間が掛かった。
 そりゃあそうだろうな、何せ国籍不明で戸籍もないのだから。しかしそこはトムがいろいろと世話を焼いてくれて事なきを得た。どうやら出身をジダル王国のスラム街と説明したらしい。そういえばジダルってIGO非加盟国でそこのスラム街なら戸籍がない説明もつくな。

 それだけではなく電話を四方八方にかけ、いろいろと掛け合ってくれていた……もうトムには頭が上がりそうもない。そう思うと同時に自分の記憶力に驚いた。ジダル王国が非加盟国とか意外と覚えてるもんなんだな。

 ついでにグルメクレジットも作った。正直ただのクレジットカードじゃねぇかと思っていたのだが、どうやら加盟店のグルメ全般の買い物においてポイントやら特定の加盟店での料金割引などお得なクレジットカードになっているようだ。

 俺は恐らく、というか絶対に多額のお金をこれで払うことになるので上限無しのブラックカードが良いのだがまぁ無理だ。ついこの間まで戸籍もなかった野郎にいきなりブラックにはできないだろう。

 実際はそんな理由とは関係なしにそういう特別なカードはクレジット会社が優良顧客に付与するためどの道できない……はずだったが何と我らがトムさんの計らいでブラックは無理だが特別にプラチナカードを手にすることが出来た。何と贔屓にしている取引先の系列がこの会社らしくそこのお偉いさんが取り計らってくれたようだ。凄いよ、トムさん。

「うちは貧しい小売も多く抱えてるが、大手の会社相手にも商売してるからな。といっても大量の食材は無理だから質の良いものを少量、取引してるんだ。だから良い食材を期待してるぜ、ライデン」

 ニヒルに決めた笑顔に不覚にもドキッとしてしまった……こういう格好良い漢になりたいものだ。そしてそのまま背を向けながら人脈は大事にそして多いに越したことはないっと名言をおっしゃってトムさんはご帰宅になられた……トムさんの背中がやけに大きく見えた。

 それから十分も経たない内に鰐鮫のお金が振り込まれた。出来たばかりの通帳を見ると見たこともない数字の桁が並んでいる……この大金で何ヶ月もつのやら。俺が常人なら一生遊んで暮らせるほどの大金なのにだがグルメ細胞のせいで一年ももたないな。


 とりあえず、近くのホテルへとチェックインを済ませる。無論スイートルームだっ!と張り切って行ったが予約もせずに行ったため見事満室。ですよねぇーと思いながら運良く次に高い部屋をとれた。これぐらいいいだろ。八年も洞窟で過ごしてたんだ、これぐらいの贅沢したって罰は当たらん。

 カードキーを通し部屋に着くとそこは開放感と高級感に満ち溢れた一室となっていた。

「――あぁ、そうだ。そうだよな。これが人が住むべき空間なんだ」

 薄暗く湿った感じもない。塩害の心配もない。常に野生に襲われる警戒をしなくてもいい。素晴らしい空間だ。高層ホテルのため大きなガラス張りから見える景色も絶景だ。寝室に行くとこれでもかと大きいクイーンサイズのベットがあり、そこに寝転ぶとふわふわで心地よい。獣臭もしない。感動のあまり涙がホロリと落ちる。

「さすが、五つ星ホテルなだけあるな……そういえばここはホテルグルメと同じランクなんだよな。こんな高級ホテルの料理長を二十五歳で取り仕切る小松って……すごっ」

 いつかホテルグルメも行きたいものだが、小松はいるのだろうか。というか今は原作の何年前だ。トムが原作から見るにまだ幼い感じが残ってたから当然原作開始前だと思っていたが、実際はどうなんだろう。
 所詮俺の見た目だけの判断なのでもしかしたらもうすでに原作は開始されているのかもしれない。やはり一ファンとしては野次馬根性を発揮し原作キャラに会ってみたいものだが。そう思えるのも今の強さを手に入れたおかげかもしれないな。

 とりあえず名残惜しいが寝室から出て、懐かしさすら憶えるリモコンを手に取りテレビをつけ、ついでにルームサービスを頼む。少し面白かったのが電話対応してくれた人の反応だ。さすがにメニューに載っている物を個人で全て頼むのは珍しいのかな。珍しいのだろうな……高級ホテルの従業員が慌てていたのだから。支払いはチェックアウト時に同時に支払われるとのことだ。一つ大人の知識が増えたぜ。

 如何にも高級そうなソファーに座り、食事をテレビを見ながら待ちわびる。番組を見ていくと大半がグルメに関するものだった。料理講座や市場の中継、バラエティですらグルメを中心とした企画だ。さすがトリコ世界、食を中心に回ってるな。テレビチャンネルを葉巻を吸いながら回していると興味深い番組があった。

 それは新種の食材発見のニュース。若き新星達がまたも大活躍という画面右上にテロップが出されている。今やこの世界では毎日のように新種が発見されているとのことだ。それを数多く発見しているのがこの若き新星達という。早くその期待の新人の顔見せろやと思いながらテレビを見続けているとジリリリリっとベルのような音が鳴った。何だこの音はと思い身構えていると、続いて扉の方でノックする音が聞こえてきた。

「あっ……もしかしてルームサービスか」

 扉を開けると従業員がワゴンを持ち列をなしていた。もう出来たのかという驚きとさすが五つ星ホテルなだけあってこれだけのワゴンと人数がいながらも廊下はまだまだスペースがあることの二重の驚きを体験しながらもやはり他の部屋の人達に迷惑になってしまうのですぐに入ってもらうことにした。

 続々と入室してくる従業員は素早くテーブルメイキングをしてくれた。その椅子に座り、まだワゴンが全て入ってきていないが食事を開始する。テーブルマナーなど知らないので思うがままに口の中に放り込む。いずれマナーも覚えなきゃな。さっそく目の前のスパゲティを食す。

「うおっ! 何だこれ美味いな。濃厚でまろやかな風味、それが麺によく絡んで実に美味ィ!」

 すると絶賛している俺の傍らに佇んでいた従業員がそっと俺に向かって話だした。

「栗ウニのパスタでございます。当ホテルでも自慢の一品でございましてこれを食べるためだけにこのホテルに来てくださるお客様もいらっしゃいます」

「あっこれスパゲティじゃないのか。未だによくわかってないんだよな。パスタとスパゲッティの違い」

「スパゲティはパスタの一種でございます。スパゲティーは断面は円。太さは様々ございますが、2,0mm弱ですね。これと混合しがちなスパゲティーニは線が細く断面は同じく円。太さの種類もあり、1,7mm前後でございます」

「はぁ~さすがに物知りですね」

「恐縮です」

 この人はこういう説明役の人か何かなんだろう。高級ホテルともなるとやっぱり親切だなと思いつつやはり人との会話は楽しい。続々と運ばれてくる料理も美味しく、やはり料理人が手を加えてるだけあって今まで食べたことのある品でもまるで違った味で楽しめた。

 白毛シンデレラ牛など美味しすぎて五百グラムをペロリと平らげてしまう。何より嬉しかったのはお寿司だ。ストライプサーモンの脂がのった炙り寿司は最高だ。そのストライプサーモンから極僅かに取れるらしい金色イクラのお寿司も絶品。やっぱり米だよな、米。

 骨付きコーンや生姜豚、ロースバナナを輪切りにしその上にキャビアを載せた一品も瞬く間に胃の中へと消えていく。ホワイトアップルのシャーベットやアップルパイのデザートも美味しく頬が緩んでしまう。食が進むな。そんな大食感な俺の食べっぷりを見て従業員が戸惑いつつ話しかけてきた。

「ラ、ライデン様はもしかして美食屋でございますか?」

「うん? あぁそうだが……何で分かったの?」

「それ程の量をお食べになる方は美食屋家業を営んでいると方だと相場が決まっております。以前いらっしゃった方もライデン様程ではございませんが、多くの品をお召し上がりになられていました」

 なるほどね。美食屋は勿論食材を捕獲することも大事な仕事だが食することも大事な仕事だからなぁ。身体が資本な職業だし。特にグルメ細胞持ちの奴らなんかは食べることが一番の成長へと繋がるからね。まぁ成長の幅がない人はあれだけど。

「ご馳走様でした。美味しかったよ、テーブルマナーは今度覚えてくるわ」

「そう言っていただけると料理長も喜ぶでしょう。テーブルマナーは大事なことでございますが一番のマナー違反は料理をお残しになることだと私は思います。最近はテーブルマナーを守っても全て食べ終えずにいるお客様も残念ながらいらっしゃいます。その点から言えばライデン様は大丈夫でございましょう」

「そりゃあ勿体無いな。なら残った品は全部俺の所に持ってきてくれよ……ん?これもマナー違反か」

 その従業員は微笑みながら俺に深く一礼をした。恐らく俺の冗談だと思っているのだろうが割と本気だったんだが。まぁいいか。食後の一服にあの島から持ってきた最後の葉巻を咥え火を点ける。

 あっ……俺まだ未成年だった。ホテルのチェックインの際に十八歳って記入しちまった。やべぇと思いつつも従業員の顔色を伺うとにこやかに二十年物の水晶コーラをシャンパングラスに注いでくれてた。俺の名前を覚えてる優秀な人が年齢も覚えてないわけないもんな。スルーしてくれているのか。有難い。さすがにお酒は頼めないが。

 つけっぱなしにしていたテレビはいつの間にかニュースが終わりバラエティ番組になっていた。しまった、見逃したか。あの期待のルーキーとやらの名前や顔が観たかったんだけど。いや、この人に聞けばいいか。

「そういやぁ、さっきテレビで若き新星達がまたも新種の食材を次々と発見したって言ってたけど有名なの?」

「恐らくライデン様がおっしゃっているのはあの四人のことでございましょう」

 ……あの四人、ね。これはいきなりビンゴか。まぁそんな感じもしてたんだよな。確かトリコだけでも原作開始当初で六千種の新種を発見したんだっけか。さすが食のカリスマ。それにしてもこの人随分ともったいぶる言い方をするな。心なしか興奮してるようにも見えるし。

「今や世間で話題沸騰中の期待の新人。最近では四天王とも呼ばれはじめているのだとか。風の噂ではIGO会長一龍氏が自ら手塩にかけて育て上げている後継者。その名もトリコ、ココ、サニー、ゼブラの四人の美食屋達のことでございましょう。何より驚くべきことは四天王の全員が十代という若さ。これから今以上に活躍されることでしょう」

 握りこぶしを作り鼻息を荒げながら興奮した表情で語っているこの人は四天王のファンなのだろうか。先程までの冷静で知的な面が台無しだ。

「そ、そうか。って十代!? 正確な年齢って知ってる?」

「確かトリコ様とゼブラ様が同じ十六歳、その二つ上のココ様が十八歳、そして最年少のサニー様が十五歳だったかと。ライデン様とココ様は同じ歳にあたりますね」

 確か原作ではトリコの年齢は小松と一緒で二十五歳だったはず。小松が意外と年を重ねていたことに驚いた覚えがある。いや、料理長としてなら二十五は若いんだが。しかしそうなると今は原作の九年前ということになるな……激動の時代までまだ時間の猶予はあるってわけか。さて、俺はどう動くべきかな。

 注がれていた水晶コーラを楽しみながらこの先のプランについて考える。原作に介入するべきか、それとも影で見学しているべきか、全く関わらずにいるべきか。正直わからん。あと九年もあるしそんなに急いで結論を出す必要もないか。

 取り敢えず今の俺の現状を何とかしなければいけない。衣服や住居、そして少しは生物についての知識も深めていかなければならない……のだが勉強は苦手だ。トムのあの手際を見る限り俺も交友関係も広げといて損はないだろう。

 でもまずは満腹都市グルメタウンに行きたい。このホテルでこれほど美味しいものが食べられたんだ。同じ食材でも調理によってこれほど味や食感、香りが変わり美味しくなるとは予想だにしなかった。五つ星でこれだ。これ以上のレストランやホテルならどれほど俺を満足させてくれるのか今から楽しみでしょうがない。溢れ出そうな唾液を何とか抑え、水晶コーラを飲み干す。

「くぅ~~美味いッ! コーラなのにどこか品を感じさせる味だ。さすが二十年物なだけあるな。っとそういえばこの辺で服屋ってある?」

「えぇ、勿論ございます。古着から高級ブランドまでこの辺りでは購入できますが、美食屋専門店となると限られてきます」

 スーツの内ポケットから辞書程度の大きさのPCを取り出し、地図を見せてくれた。便利だな。俺も買っとくか。いや、携帯電話があれば事足りるか。あぁ携帯も買わなきゃ。

「美食屋の専門店なんてあるんだ。知らなかったよ」

「大自然の中で活動される美食屋は衣服の強度や利便性が何よりも重要ですので……ここでございます」

「どれどれ。おっ!結構近いな」

「この店が一番人気ですね。玄人ならばまずここでお買い求めになられるかと。完全オーダーメイド制ですので時間も掛かりお値段もそれなりにいたしますが」

「ん、オッケーオッケー。んじゃ早速行ってくるわ。教えてくれてヨンキューね」

 座っている両膝をポンっと叩き重い腰を上げる。お腹もそこそこ膨れたしお買い物でも行ってきますか。

「お気を付けて行ってらっしゃいませ」

 四十五度の綺麗なお辞儀で見送られた。うん、気分が良いな! 
 

 
後書き
今回の用語集

ヨンキュー。サンキューの上位語でありライデン作の造語である。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧