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FAIRYTAIL-ダークブリングの力を操りし者-

作者:joker@k
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第九話 初依頼とカナ・アルベローナ

 
前書き
注意:この話は長い! 

 



 普通、初依頼というものは簡単な依頼を受けることになっている。依頼とはどういうのものなのかをそれで学ぶわけだ。ゲームに例えるならチュートリアル。
 そんな俺の初依頼はカナ・アルベローナと共に受けることになった。彼女のほうが年下だが、ギルドでは先輩ということになる。
 カナと以前出かけた時に約束したのが、一緒に依頼を受けに行こうというものだ。俺としても初めての依頼は誰か経験者と行きたかったので了承した。何か暗黙のルールなどあるかもしれないからな。

 依頼内容は希少な酒を盗まれたので取り返して欲しいというものだ。報酬はかなり高く50万Jと破格な値段らしい。しかも、その盗んだ相手によってはさらに報酬を吊り上げても良いと記載されていた。

 実はこの依頼は前日からカナが受けたがっていたのだが、何か裏がありそうで手を付けられずにいた。そこで俺に白羽の矢がたったわけだ。実力がラクサス以上ならば申し分ないだろうとのこと。初依頼にしては難易度が高いと思うが。

 しかし、何故こんな美味しい依頼が今まで残っていたのかというとカナがクエストボードの見えにくい位置に隠していたらしい。隠していたといってもクエストボードには確かにその依頼書は張り出されているわけで、見つけられないほうが悪いという理論武装をしていたが、どうなんだそれ。




 そんなこんなでマグノリアから少し離れた街に到着した。規模にしては村に限りなく近い街と言ったところか。街にしては小さく、村にしては大きい、まだ発展途上なのだろう。
 依頼主の家はすぐに見つけることができた。何せこの街の中ではかなり立派な方の家だったからだ。

 大きな門の前に執事服のようなものを着込んだまだ歳若い使用人であろう人に出迎えられ、その依頼主の部屋へと案内された。家の中は成金趣味という感じではなく品の良い調度品や絵画が飾られていた。

 それにしてもこの使用人中々やるな。歩いているときに身体の軸が全くぶれていない。これは戦う者特有の軸のぶれのなさだ。
 その使用人が突然立ち止まり、ドアをノックした後失礼しますと一言。丁寧に開けられた扉からは壮年の男性が窓を眺めながら佇んでいた。恐らく今回の依頼主であろう人物は俺達二人を見て一瞬眼を細め不安の色を出したが、すぐにその表情を引っ込めた。まぁ、子供二人じゃ不安にもなるだろう。依頼主はソファーに座り、俺達にも座るよう声を掛けた。

「初めまして、私が依頼主のブランクです」

「フェアリーテイル所属ルシア・レアグローブだ」

「同じくカナ・アルベローナよ。よろしく」

 俺達の挨拶を微笑ましそうに見ながらも、少し困ったような表情だ。やはり心配なのだろう。どこかで俺達の実力、もしくは観察力を披露し信頼を得なければならない。この依頼人のブランクの俺達への評価を上げてもらう必要がある。そうでないと情報をそんな簡単に渡してくれるはずがないからな、例え依頼した側だとはいえ。

「それで、依頼というのは希少な酒を取り戻して欲しいという依頼だったが」

「えぇ、実はこの屋敷にあるお酒を盗まれてしまいましてね」

「そいつほどの実力者がいるというのにか?」

 俺はブランクの傍らに佇んでいる先ほどの執事を指差すと驚いた表情でこちらを見返してきた。まるで何故わかったと言わんばかりに。さっそく信頼を得るチャンスだな。

「そいつの佇まいだけでわかる。恐らく蹴りを主体とした戦闘を得意としているんだろう。足技主体で戦う者特有の筋肉のつき方をしている。魔法もそれなりにってところか。……どうだ?多少の不安は拭えたか?」

 これは商談ではない、ただフェアリーテイルの一員としてきちんと役割を果たせるかどうかで評価が決まる。ならば、不敵にそして堂々としていれば依頼者は安心を得ることができる。強さもしくは、観察眼があることを示せれば完璧だろう。そして今それを運よく達成できた。

「これは失礼しました。あなた方を見くびっていたようですね。しかしこれで私も安心だ。では、さっそくで申し訳ないのですが依頼についての詳細をお話いたします」


 話を纏めるとこのブランクという人物は醸造酒を作っており、特にこの人が作るワインはかなりの人気があるらしい。所謂ブランド品。
 そしてこの屋敷に盗賊が十名ほど侵入してきた。その内八名はここの優秀な使用人達で捕らえることに成功したが残り二人を取り逃し、希少なお酒を一本その二人が盗んでいったということだ。その八名を尋問しているが、中々情報を掴めないという。

 理由は特殊な魔法具によるもの。ある情報を捕らえられた人間が話そうとすると強力な痛みを与えられ強制的に気絶してしまうらしく、きちんとした解除法がなければ取り外すこともできないため難航しているとのこと。

 そして今俺達はその盗賊が捕らえられた部屋に案内されている。この家、いや屋敷が広いため少しその部屋まで時間が掛かるようだ。その道中カナは依頼人のブランクに疑問に思っていたことを質問していた。

「でもその盗まれたお酒って相当高く売れるんでしょう? 厳重に保管してたってことよね? だとすると、元々この屋敷内の情報が筒抜けだったんじゃない?」

 なるほど、さすが十歳とはいえ、ギルドの先輩だ。確かにその通りだ。だとすると内部に裏切り者がいる可能性もあるということか。

「……いえ、厳重には保管はされてなかったのですよ。実はその盗まれたお酒、ワインというのは売っても大した金額にはなりません。せいぜい五万~十万と言ったところでしょうか」

「え? 確かにワインにしては高いと思うけど、わざわざ危険を冒してまで盗むかしら?」

「そのワインは私にとって希少、いや大事なワインなのですよ。実は今は亡き父が私のために作ってくれたワインなのです。父が一人で作業し作り上げたのですよ。そしてそのワインを私が十五歳になったら一緒に飲むのが夢だったのです。残念ながら父は私が十五歳になる前に亡くなってしまいましたが」

 希少、というより思い出が詰まった大事なワインだったってことか。この依頼人からしてみれば希少だろうな。何しろ彼にしてみれば世界でたった一つだけのワインなのだから。

「そんな大事なお酒を盗まれたっていうの!? だったらこんなゆっくりしてられないじゃない!早く取り戻さないとお父さんから貰った大事なお酒がっ!」

「落ち着け、カナ。焦っても仕方がないだろう。しかし、何故盗賊たちはそんなワインを盗んだんだ? ブランクにとっては希少だが盗賊たちには意味を成さない酒だろ?」

「恐らくですが、間違った噂を聞きつけたのでしょう。世界で一つだけの希少なワインをあのブランクが所持している、とね。ワインは貴族や王族などに高く売れますから。それも世界で一つだけと聞けば払う金額もそれなりの額となりましょう」

 つまり、勘違いということか。だとするとこのブランクはとんだ災難に見舞われたってわけだ。ただ気になるのはそれだけじゃない。カナの様子がおかしい。確かにそんな大切な物ならば早急に取り戻さなければならないが、カナの態度は少し異常だ。まるで自分のことのように。何かあるのだろか、カナの過去に。

「この部屋です。お入りください」

 その部屋には八人の男達が拘束されており、その内四人は気を失っている。残りの四人は意外にもまだ元気はあるようだ。どちらにしてもDBがあれば特に問題はないけどな。尋問の必要すらない。俺は透視のDBドーブレビスタを発動させる。すると所属ギルドの名前が浮かび上がってきた。

「……所属ギルド、ジャッチメント?」

「「なっ! 何故それを!?……あ、しまった……ぎゃぁぁあああ」」

 ……恐ろしくお茶目な奴らだな。それに魔法の道具が発動してやがる。発動が遅いと思うが、特定のキーワードを言わなければ即座には反応しないのだろう。だが、これでブランクも今の情報を信頼してくれるはずだ。傍らにいた依頼人のブランクと使用人は何故こんなやつらから聞き出せなかったんだとばかりに額に手をあてている。どんまい。

「確かそのギルドの名前聞いたことがあるわ。たぶん闇ギルドの連中ね」

 俺もワカバ達から教えてもらったな。確か非公式のギルドのことを闇ギルドというらしい。その名に恥じず、あくどい事をやっていると聞いた……面白くなりそうだ。強い奴がいればいいんだが。

「ジャッチメントですか。私も聞いたことがありますね。確かこの街を少し離れたところにある巨大な建造物をそのギルドの根城にしているという噂があります。そしてこの街を担当している検束魔導士との黒い繋がりも噂されていますが、これはかなり眉唾な噂ですね」

 検束魔導士か。確か評議院に属する魔道士で違法行為を犯した魔道士を検挙・拘束する権限を持っている奴らだったな。つまり、闇ギルドを捕らえる側の立場の人間だ。警察みたいなものか。

 しかし、検束魔導士と闇ギルドが繋がっていたとしたらやっかいだな。眉唾な噂だといいが……嫌な予感しかしない。とりあえずその本拠地とやらに乗り込んでみるか。俺とカナは早速そのギルドの本拠地へ向かうためブランクの屋敷を後にした。
 ブランクは最後まで俺達のことを心配そうな顔で見送っていたが。



 街から少し離れた森の中に隠れるように立てられたギルド。フェアリーテイルのギルドより大きいかもしれない……闇ギルドに負けてるのか。要塞のように周囲からの侵入は簡単に許してはくれなさそうだ。さて、このまま堂々と正面から行くのもいいが、あの検束魔導士との噂も気になる。ワインを探しつつ暇があれば証拠集めもするとしようか。

 ワインが盗まれてからすぐにフェアリーテイルに依頼したということは、盗まれてからまだそれほど日は経っていない。ワインの価値を調べてから売りに出すはずだ。ということはまだ売却もしくは自棄になってワインを飲んだりはしていないはず……だと良いんだが。

「中々進入できそうな所ないわね。どうする?もう真正面から」

「落ち着けカナ。真正面には見張りがいるだろ。さっきから焦りすぎだ」

「……」

「俺に任せろ」

 地底潜行のDB【サブマリーンソイル】土の中を潜水艦のように移動することができる。カナはうわっと驚きながらも、俺のいつもの不可思議能力だと気がつき静かになった。DB使用者に触れていれば能力を共有することができるため俺はカナをおんぶしながら地面に潜り込み、見張りにばれないようにギルド内に進入した……ちなみにペッタンコだった。大きく実ることを祈ろう。


 中ではバカ騒ぎしておりフェアリーテイルとそれほど変わらないなと思ったが、聞こえてくる話の内容は胸糞悪くなるものばかりだったのですぐにその考えを改めた。
 ギルド内に入ってからは壁抜けのDBを使用している。これは壁はもちろん床や天井を自在に行き来することができる。

 俺は酒場状態になっている広場を抜け、このギルドのマスターの部屋と思わしき場所へ侵入した。というより部屋の前の扉に札が掛けてあった。もう少し隠せよ。一瞬罠かとも思ったのだが、部屋に入ると広く豪華な内装だったため、正真正銘マスターの部屋だとわかった。中には誰も居らず今は出払っているようだ。そして意外にも目的の物はすぐに見つかった。

「あ、あれ! ルシアあれ見て!」

 カナが指を指した先にはブランクに事前に見せてもらったワインの写真と同じ物が鎮座していた。机の上に堂々と置くなよ。それにしても意外と小さいんだな。カナが抱え込めばすっぽりと隠れきれてしまう程に。

「あぁ、まさかこんな堂々と置いてあるとはな。罠かと疑ったがそれはないみたいだぜ。まぁギルドの中まで進入者が入ってくるとは思わないか。ギルド自体要塞のように侵入しづらかったからな」

「それにギルド自体に魔法を使って侵入しようとすればバレる結界魔法が張られてたしね。つくづくルシアのDBだっけ?それのデタラメさがわかったわ」

 俺のは魔法じゃないからな。しかしそんな魔法が掛かっていたのか。これからは透視のDBで一度見ておこう。魔法に掛からないとはいえ無用心すぎたか。それに魔法によるという条件ではなく、侵入者が立ち入ればと設定されていれば危なかったな。これで学べてよかった。

 そしてカナは長方形のクリアケースのようなモノで覆っているワインを持ち、笑顔を浮かべていた。できれば検束との繋がりがある証拠品も見付けておきたいが、透視のDBを使ってもまったく見つからない。まぁついでみたいなものだし無ければ無いでいいのだが。その件に関しては無実だったのかもしれない。とりあえずこれで脱出すれば無事依頼は解決だが……。

「誰だっ!」

 後ろを振り向けば、このギルドの一員であろうモヒカンが俺達を目撃し声をあげた。普段の声量で話してればそりゃバレるよな。これも教訓か。カナもあちゃーとした仕草で天を仰いでいる。続々と登場する雑魚を一先ず片付けるか。俺は魔剣デカログスを取り出し、剣の切っ先を何十人といる相手に向けて一言告げる。


「さて、お前ら何秒もつかな?」

 子供相手に油断せずに一斉に襲い掛かってきたのは賞賛しよう。慢心せずに挑むその姿勢は見事。だから俺も見習おう、全力でヤってやる。


――第三の音速の剣【シルファリオン】


 スピードに特化した超軽量の剣で高速度での移動と攻撃が可能となり、その速度は一振りで七つの斬撃を放つことができる。軽量な分攻撃力は落ちるがこいつら相手なら何の問題もない。俺は縦横無尽に駆け巡り、敵を次々と切り刻んでいく。
 カナも魔法の札(マジックカード)と呼ばれる特殊なカードを用いて俺を援護してくれる。遠距離タイプのカナとなら相性は抜群に良い。最後の敵一人はカナのマジックカードで敵を吹き飛ばし、俺がとどめの蹴りを喰らわせそいつごと壁を蹴り飛ばした。

「楽勝! ねっ?ルシア」

「だな。カナのおかげだ」

 カナはクリアケースごとワインを掲げながら嬉しそうにしている。そんなカナを見つめながらブランクに良い報告ができそうだなと一息ついたとき、突然カナの背中から血が噴出した。

「カナッ!!」

 スローモーションのように倒れるように見えた俺はすぐにカナの元へ駆けつけようとしたが、カナの背後に現れた大柄な中年の男がカナの首筋に風を纏った手刀を宛がい俺の行動を阻止した。

「おっと、動いてもらっては困るよ。彼女の首を刎ねなくてはいけなくなるからね。さて自己紹介をしようか。侵入者に対しても紳士な対応をすべきだからね。僕はこのギルドのマスターの」

「てめぇの薄汚ねぇ名前なんぞどうでもいいんだよ。さっさとその手を離せ」

 俺は怒気を表現するかのように床をひび割れるほど脚で踏みつけ、相手に命令するように指さした。

「やれやれ、君はどうやら、今どちらに主導権があるか理解できてないみたいだね」

 男はさらにカナの首筋に手刀を近づけ首の皮一枚を切りつけ、血を滲ませた。距離が遠すぎるためシルファリオンの攻撃でも間に合わないかもしれない。相手の動きを封じさせるDBも持っているが、それを行使するにもやはり距離が問題となっている。

「まったく、下劣な侵入者風情にこの様とは我々には強者(つわもの)が必要ですね。今後の課題は強者を集めることでしょうか。まぁそれは後でいいとして君達を殺して検束の連中に報告しておけば綺麗に解決ですね」

「ちっ、黒い噂とやらは本当だったみてぇだな」

「おやっ! 君達のような子供がその噂を知っているとは驚きですね。もう少し階級の高いものでないと聞けない噂のはずですが。それもこの街に住んでいるもの限定でね」

 まるで道化師の様に白々しく驚いた後、笑みを浮かべながら話しだした。
 しかしなるほど、こいつは俺達が何故このギルドに侵入してきたのかわかってないのか。カナを攻撃したのはこのギルドの状態から判断してのことだろう。ワインもカナの下敷きになって隠れて見えていない。

「クック、世の中隠蔽してしまえば割りとどうにかなるものですよ。評議院に報告する際に提出する資料など大して調べませんからね。評議院は検束の連中を疑うことはしませんから」

 俺達を殺す気でいるためか、簡単に口を割ってくれている。だがもう少しだ。もう少し時間を稼げばこいつはゲームオーバだ。そして、俺はあくまでも追い詰められている側を演じなければならない……。

「この街を支配し我が物とする。検束と協力関係にあれば評議院の法の神の元へは届きません。ゆえに私が裁き、私が法を下すのです!私がっ!この私こそがジャッチするのです!」

 自身の右胸に手を宛がいながら高らかに宣言するかのように叫んだ。狂ってやがる。全てを自分の思い通りに事を運び自身がまるで神になったかのように優越感に浸っている。吐き気がする。まるで楽園の塔にいた黒魔導士達のように妄信してやがる。しかも妄信している相手が自分自身とは手に負えないな。だが、それもこれまでだ。

「法の神が裁けないのなら俺がてめぇを裁いてやるよ。神がいねぇんだろ? ならそこは悪魔が断罪すべきだろう?」

「この状況で貴様に何ができッッがぁぁぁああああ!!」

 突如マスターのカナに向けていた腕が空中に浮かぶ剣によって切断された。

 物体浮遊のDB【スカイハイ】

 人や物を空中で操ることが出来る。俺は周囲で気絶していた雑魚共の武器を少し浮かし奴の背後に移動させた。勿論、気がつく危険性があるため床を強く踏みしめ地面にヒビをいれこちらに注目させ、あいつが自身に酔っている間に少しづつ移動させていた。

「カナから離れろ――第6の真空の剣【メル・フォース】」

 俺はすぐさまデカログスから突風を起こし、マスターを吹き飛ばし壁に衝突させる。すぐにカナの元へ駆け寄り、傷口を確認する。あまり深くはないがこのまま出血させたままでは危険だ。すぐに応急処置として接着剤のDB【グルー・ティアー】を発動させる。瞬間接着剤を噴射することができ、瞬時に硬化させることができる。これをカナの傷口に付け、これ以上の出血を防ぐ。

「貴様、この私に!神であるこの私の腕をぉぉぉ!」

「言っただろう? 悪魔がてめぇを裁くと。お前、いやこの闇ギルド【ジャッチメント】に判決を言い渡してやる。無論」

 俺は高速の剣シルファリオンで高速移動でマスターに近づき、魔剣を切り替える。
 第2の爆発の剣【エクスプロージョン】 斬れないが、爆発させて打撃ダメージを与えられる剣だ。

「闇ギルド【ジャッチメント】は有罪と処す」

「や、やめっ!」

 そのままこいつの顔面に剣を殴るようにして叩き付け、ギルドに爆発と爆音が響き渡った。殺しはしねぇよ。俺もフェアリーテイルの一員だからな。だが、他の奴らのように甘くはない。こいつの顔は爆発の影響で見れたものではなくなっていた。カナを傷つけた罰だクソ野郎。

 さて、では目的の物を探すか。あいつの部屋を探したがまるで見つからなかった。そして、黒い繋がりがある以上お互いを裏切らないために何か証拠の保持をしているはずだ。俺は気絶しているマスターに透視のDBを発動させた。すると

「なるほど、肌身離さず持ち歩いていたわけか」

 さきほど馬鹿みたいな宣言をした時、右胸に手を当てていたがそこに隠していたわけだ。俺はすぐにそれを押収し、カナの傷を治してもらうために病院へと駆けつけようとしたが。

「動くな! この街担当の検束魔導士だ。ギルド間抗争禁止条約違反により貴様らを連行する」

「あぁ? その前に自分でも逮捕しとけよ。真っ黒検束さんよ。ここに闇ギルドのマスターとてめぇが不正な取引をしていた証拠書類があるんだよ」

 すると周囲にいた検束魔導士の部下達がざわめき始めた。反応を見ようと思ったが、こいつらが全員グルっていう可能性はなさそうだな。となるとこの集団を率いてるこいつだけの犯行ってわけか。

「き、貴様、不当な言いがかりは止めてもらおう! えぇい、こいつをひっ捕らえろ!」

 何とも小悪党が言いそうな言い逃れだ。哀れすぎて目も当てられない。部下達も動揺しながらもやはり、上司の命令には逆らえないようだ。まぁこの証拠も部下達からしてみれば本当かどうかも疑わしいからな。俺もギルド間抗争という違反をしているわけだし、どちらを信じるかなんて分かりきった事か。俺も早くカナを治療しなければいけない。さっさと終わらせるか。

「捕らえわれるほうは、ルシア君の言うとおり貴方のほうですよ。検束魔導士さん」

 すると突然後方で声が聞こえた。声がした方向を見ると依頼人でもあるブランクが周囲に使用人たちを従えながら佇んでいた。こちらを微笑みながら俺と検束魔導士達の間に介入する。使用人達の内数名がカナに近づき治療を始めてくれた。これで最悪の事態は間逃れたか。ブランクが俺の証拠書類の一部を手にとり、次々と今までの黒い繋がりの詳細を読み上げる。

「で、デタラメだっ! そんな嘘で塗り固められたものなど証拠になるか!」

 すると部下の中でも一番偉いであろう人物がこちらに近寄り、その証拠書類を遠巻きから内容を見ていた。恐らくこちらへの配慮だろう。そしてこちらに頭を下げ、確かに確認いたしましたと俺達に告て、検束魔導士を捕らえるよう指示をだした。
 何やら検束魔導士は騒いでいたがあっという間に捕まり連れ去られていった。弱っ!もう少し、暴れるかと思い期待していたんだが。俺はカナの様子を見に治療している場所まで行くとするか。

「く、来るな馬鹿っ! まだ上着着てないのよ!」

 いきなり放たれたマジックカードで攻撃され顔面に刺さりそうになるが二本指でカードを挟むように攻撃を阻止した。カードを見ると変態の文字が……このカードいつ作ったんだ?まぁカナも女の子だったということか。子供に興味はないが、カナは恥ずかしいのだろう。

「ルシア君、依頼品は確かに受け取ったよ。まさか闇ギルドと検束魔導士が本当に絡んでいるとはね。これは報酬を増額しなければ。この街の汚点も排除してくれたしね」

「汚点はたまたまだがな。だが増額は有難い」

 そうして無事一連の事件は解決した。
 ブランクが読み上げた資料から検束魔導士の悪事が次々と見つかり、逆に検束魔導士が所持していた資料からは闇ギルドの悪事が見つかった。お互い協力関係というよりも互いに利用しあっていた間柄だったようだ。

 俺達はブランクの家でカナが完治するまで滞在させてもらった。幸い傷跡は残らずにすみ、カナはほっとした様子だった。魔導士ギルドに所属しているとはいえ女の子だからな、傷跡が残るのは嫌なのだろう。その間俺は新聞を手に取りながら今回の事件について読んでいたり、美味しいご飯をいただいたりとゆっくりさせてもらった。

 報酬も本来は50万Jだったのだが、闇ギルドや検束魔導士そしてワインを完璧な状態で取り戻してくれたということで250万Jの大金を報酬として渡してくれた。自然と顔がにやけてしまったのは仕方のないことだろう。カナの顔もだらけきっている。

 そして今俺とカナはギルドへ帰るための馬車の中にいる。これはブランクが用意してくれたものだ。馬車内にはお土産用のワインも積んであり致せり尽くせりだ。フェアリーテイルの大人勢にどうぞと言われたが、半分は俺が飲む予定だ。ブランドが付く程のワイン。楽しみでしょうがない。俺がワインの味に期待を膨らませていると

「ルシアごめん。最後に迷惑かけちゃって」

 カナが暗い表情を浮かべながら俺に謝ってきた。恐らく最後とはギルドマスターに捕らわれたときのことを言っているのだろう。しかしあれは仕方がないことだった。俺も気を抜いていた。なにより

「マカロフが言ってたぜ。フェアリーテイルのギルドの仲間は家族でもあると。家族に迷惑をかけるなんて当たり前のことだろ? それに迷惑とは思わないしな」

「……そっか。ありがとね、ルシア」

 カナはそっと俺の腕に寄りかかり嬉しそうにに目を閉じた。そう、迷惑なんて思わない。家族にかけられた迷惑なんて迷惑とは感じない。家族にほっとかれるよりはずっと良い。俺は昔自分が想っていたことを少しだけ思い出した。家に帰っても誰も居ず、一人寂しくご飯を食べていた。友人もいなかったあの頃の孤独な状況より苦労を共にしたほうがよっぽど嬉しい。

 馬車特有の馬の歩く音が鮮明に聞こえるほど車内は沈黙している。だがその沈黙は決して嫌なモノではなく、むしろ心地よいモノだった。

 それから数十分後、ガタッと急停止するかのように馬車が立ち止まった。窓を見るともうギルドはすぐ目の前なのだがここで下ろすのは不自然だ。もう少し近づいてくれても良さそうなものだが。馬車から降り窓からは見えなかった真正面には


「評議院の者です。ルシア・レアグローブとカナ・アルベローナだな。ギルド間抗争禁止条約違反により連行させてもらう」


 ギルド間抗争禁止条約とはギルド同士の抗争を禁止する条約。対象は正規ギルドだけでなく、闇ギルドも一応枠内に入るので、闇ギルドへの武力行使は評議院の意を受けた検束魔道士でなければ、理由に関係なく犯罪行為と見なされる。

 俺とカナは思いっきりこの条約に違反したというわけだ。カナが文句を言いだしそうになったが俺がすぐに消音のDB【サウンドキャンセラー】を発動し、一時的にカナの声を消した。

 俺はすぐにカナはまだ病み上がりでなので呼び出しは俺だけにしてくれと交渉した。事実こいつらは先の俺達の行動を詳しく知った上で連行しに来たのだろう。ならばカナの怪我も知っているはずだ。無理には連行できないだろう、何せカナはまだ十歳だ。

 こいつらも悩みながらも了承してくれた。カナは何か言いたげだったが睡眠のDB【ダックスドルミール】で眠らせた。かなり強引な手段だったがここで言い争っても時間の無駄だ。カナのことはブランク専属の馬車を引いていた御者に任せた。じゃあ行くとするかと告げ俺は評議会の使者に連れて行かれた。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「これより魔導裁判を開廷する」

 周りには評議員と言われる連中が俺を囲むように居座っている。DBで見てみると全員思念体だ。つまらん、この場で暴れても意味が無いというわけか……勿論最初から暴れるつもりなどないが。

「被告人、ルシア・レアグローブよ。証言台へ」

 俺はそのままじいさんの命令に従い証言台へ立った。ブランクの家で見た新聞では闇ギルド、ジャッチメントの崩壊事件だけが報道されていた。検束魔導士については触れていなかった。影で処理したのだろう。
 つまり、評議院の連中がもみ消したということになる。検束魔導士が事件を起こしたとなれば評議院まで信用問題に関わる。故に規制したわけだ。ブランクが持っていた証拠書類も差し押さえられているだろう。

「聞いておるか。おい、ルシア・レアグローブ!」

「あぁ、聞いてるぜ。つまりギルドなんちゃらとやらの条約を破ったから何日か牢屋へ入ってろってことだろ?」

「むっ、まぁ端的に言うならばその通りだ。何か反論は?」

「特に無いぜ。あぁ、そういえば検束の事件の証拠書類あれだけじゃなかったんだよな」

 なに!?と評議院の連中がちっこいじいさん一人を除き、慌てふためく。そう、あの証拠書類はブランクが俺が持っていたモノの【一部だけ】を持っていたのだ。つまり、残りの書類はまだ俺の手の中ということになる。俺の言いたいことも評議院たちにも伝わるだろう。

「ルシア・レアグローブ。何が望みだ」

「即解放とフェアリーテイルを今後ともご贔屓に」

 俺は言うだけ言って証拠書類の残りを投げ捨てこの裁判所を後にした。結果など聞かなくてもわかる。体面を保つのが大好きな爺さん達だ。ならば俺のこの行動に何の問題もない。魔法界の秩序など俺にとってはどうでもいいことだ。善も悪も関係ないし、ただ利用される立場にもなるつもりはない。俺にとってはギルドの仲間達が全てなのだから。


 さて、久しぶりに我がホームに帰るとするか。フェアリーテイルへと。

 
 

 
後書き
毎回これくらい書いてる方は本当に尊敬します。 
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