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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第三十四話 月下の格闘

                   第三十四話 月下の格闘
 オルファンは太平洋の海の底深くにある。ここに彼等はいた。
「先程のシカゴでの戦いに関してですが」
 伊佐未翠が夫である研作に報告していた。夫に対してというにはあまりにも事務的な声であった。
「ゲッター線を中心とした膨大なエネルギーが確認されております」
「それのオルファンへの影響は」
 問う研作の声もまた事務的なものであった。無機質ですらある。
「浮上に影響が出ました。浮上を再開しました」
「そうか」
 研作はそれを聞いて頷いた。
「それは何よりだ」
「二週間後に海面に姿を現わすものと思われます」
「思ったより早かったか。だがそれはそれでいい」
 研作は理知的な声でそう述べた。
「オーガニック=エナジーに惹かれ生ける者をいとおしむオルファン」
「はい」
「それが姿を現わすと動じに起こる人類の新たな段階への覚醒・・・・・・。それが来ようとしているのだな」
「カント=ケストナーの論文ですね」
 翠は静かにそう述べた。
「そうだな。だが認識を改めるべきか」
「といいますと」
「あ、いや」
 だが彼は妻に対して言葉を濁した。
「私個人の考えだ。忘れてくれ」
「はい」
「だがこれでまた動く。人類がな」
 不思議なことにそれは破滅を願う言葉ではなかった。まるで何かを期待するような言葉であった。

 ロンド=ベルが日本に向かっているその頃ラストガーディアンの基地では木原マサキが沖と美久を前にして何かを語っていた。
「この世界を征するのは連邦政府か鉄甲龍だ」
 マサキは邪気を含んだ声でそう二人に語っていた。
「俺はそう見ていた」
「そのうえで動いたのか」
「そうだ」
 マサキは沖にそう答えた。
「だからこそ俺は双方に俺のクローンを送り込んだのだ。どちらに転んでもいいようにな」
「御前自身を」
「俺自身が世界をかけてそれぞれ戦う」
 その声の邪悪さが増したように感じられた。
「それ以上のゲームがあるか」
「・・・・・・・・・」
 沖も美久も答えない。だが沖は答えるかわりに腕を懐に入れようとした。それを見たマサキがまた言った。
「ほう、またか」
「何っ!?」
「また俺を殺すのだな、沖よ」
「クッ・・・・・・」
 沖はそう言われて動きを止めてしまった。
「あの時と同じように」
「・・・・・・・・・」
 沖は懐から手を離した。そして項垂れたように顔を俯けさせた。
「沖さん、どういうことですか」
「この男は俺が鉄甲龍を抜けた時に俺を殺したのだ」
 答えない彼の替わりにマサキがそう答えた。
「己が野心の為にな」
「えっ・・・・・・」
 美久はそれを聞いて絶句した。
「沖さん、それは本当なんですか!?貴方が・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 沖は答えない。それが何よりの返答であった。
 マサキはそれを見てやはり笑っていた。そして美久にも言った。
「御前もまた同じ」
「えっ・・・・・・」
「御前は次元連結システムそのものなのだ」
「そんな・・・・・・」
「ゼオライマーの為に作られたアンドロイド、それが御前なのだ」
「木原マサキ」
 沖はようやく顔を上げ彼の名を呼んだ。
「御前は何処まで他の者を踏み躙れば気が済むのだ」
「踏み躙る!?当然だ」
 マサキは邪な笑みをたたえてそれに答えた。
「俺にとって他の者なぞ塵も同然。御前は塵を踏んでも何とも思わないだろう」
「それでは今まで御前が倒した者も塵だったのか」
「そうだ」
 マサキは言い切った。
「あの者達は全て俺が作り出した。余興としてな」
「余興として・・・・・・」
「互いに憎み、愛するようにした。だがその想いが決して適うことのないようにな」
「何て酷い・・・・・・」
「酷い!?あの者達は俺の駒に過ぎん。駒は遊ぶ為にあるものだ」
 そう語るマサキの目は冷徹なだけでなく邪悪な赤い光も宿していた。
「将棋やチェスの駒と同じだ」
「では私達もそうなのか」
「そうだ」
 マサキはまた言い切った。
「この世の全てのものが俺の駒だ。俺がこの世界を滅ぼす為のな」
「一つ聞きたい」
 沖はまた問うた。
「何だ?」
「何故貴様はこの世界を滅ぼそうとする。ゼーレとの契約の為か」
「そういう老いぼれ共も集まりもあったな」
 マサキはそううそぶいた。
「確かに俺は一時期あの老いぼれ共に従うふりをしていた。碇と同じようにな」
 その言葉と顔には忠誠なぞといったものは一欠片も存在していなかった。碇ゲンドウとはまた違った意味で彼はゼーレを欺いていたのであろうか。
「人類補完計画か。戯れ言を」
 彼はゼーレの計画も一笑に伏した。
「あのようなもので人類を生き長らえさせてどうする。素直に滅べばいいのだ」
「それが御前の本心か」
「そうだ」
 マサキは答えた。
「その為にゼオライマーを作ったのだ。世界を滅ぼす為のな」
「・・・・・・・・・」
「わかったなら行かせろ。また奴等が来る」
「奴等」
「八卦だ。それも三人な。御苦労なことだ」
 冷たい笑いを浮かべたまま部屋を出ようとする。だがそこで彼を沖と美久が呼び止めた。
「待て」
「待って、マサト君」
「何だ」
 彼はここでどういうわけかマサトという名に反応した。顔を二人に向き直した。
「それはマサト君の考えなの?」
「どうなのだ、マサキ」
「秋津マサトは俺自身だ」
 それがマサキの答えであった。
「ならば答えはわかろう。また言おうか」
「いや、いい」 
 沖はそれを聞いて首を横に振った。
「御前には・・・・・・もう何も聞きたくはない」
「フン」
 沖の言葉を聞いてまた邪な笑みを浮かべた。
「凡人にはわからぬさ。この俺の考えは」
「本当に世界を滅ぼすつもりなのね、マサト君」
「くどいな。だが何度でも言おう」
 彼は前に顔を戻しながらまた言った。
「そうだ」
「そう・・・・・・」
「それこそが冥王計画。俺が世界の王となる為のな」
「マサキ」
「もう聞かないのではなかったのか?」
 沖が声をかけてきたのを嘲笑しながらまた顔を向けてきた。
「相変わらずはっきりしない奴だ」
「御前は誰もいない世界の王になるつもりか」
「それがどうした」
「他に誰もいない孤独な世界・・・・・・。それが御前の望む世界なのか」
「何度も言っているだろう。そうだとな」
「では何故彼等を作った」
 八卦衆のことを指していた。
「そしてマサトと幽羅帝を。それは何故だ」
「余興の為だと言っただろう」
「美久もか」
「くどいな。だが答えてやろう」
 マサキは言った。
「そうだ」
「それは本当に余興なのか!?」
「何!?」
「木原マサキ、御前は孤児だった」
 沖は彼の生い立ちについて言及した。
「常に孤独だった。御前は孤独が永遠に続いていいのか」
「・・・・・・・・・」
 それには何故か答えようとはしなかった。
「彼等と美久、そして二人の御前を作ったのはその孤独から逃れる為ではなかったのか。そして御前は彼等に救いを求めているのではないのか、どうなのだ」
「下手な推理だな」
 マサキはそれも一笑に伏そうとした。
「俺は推理小説は読まないがそれでも下手だとわかるぞ」
「推理ではない」
 沖はそれを否定した。
「これは御前の深層心理ではないのか」
「深層心理か。さっきの言葉は訂正しよう」
「どういうことだ」
「御前は下手な推理をしたのではない。耳学問をかじっただけだ」
 沖のその分析もまた否定した。
「馬鹿馬鹿しいことだ。では行くぞ、美久」
「え、ええ」
 彼は美久を連れて基地を後にした。そして何処かへと出撃していった。

 その頃ロンド=ベルは富士の山麓にいた。そしてそこでミケーネ、ハニワ幻人の連合軍と遭遇していた。
「そういやこいつ等もいたんだな」
 サンシローが彼等を前にしてぼやく。
「恐竜帝国が滅んでも敵は健在ってことか」
「フン、我々をあのようなトカゲ共と一緒にするな」
 ミマシがサンシローのその言葉に突っ込んできた。
「所詮奴等は滅びる運命にあったのだ。だが我等は違う」
「どう違うってんだ!?一度俺に敗れたってのによ」
 宙が彼にくってかかった。
「一度負けた奴はそう簡単には這い上がれねえんだよ。それを教えてやらあ」
「教える?貴様がか」
 マガルガに乗るククルがそれを聞いて冷淡に笑った。
「機械がか。面白いことを言う」
「何っ!」
「我等が偉大なる女帝ヒミカ様は貴様により滅ぼされた。だが邪魔大王国が貴様に敗れたわけではない」
「屁理屈を!」
「それが屁理屈ではないことを今わらわが証明してくれよう。そこにいる男」
 ゼンガーを見据えた。
「かかって来るがよい。今度こそ地獄に送ってやろうぞ」
「一騎打ちということか」
「左様。あの時の借り、返させてもらう」
「よかろう。では行くぞ」
「おいゼンガー」
 仲間達が前に出ようとする彼を止める。
「危ないぜ、罠かも知れねえ」
「罠ならそれまでのこと」
 ゼンガーは彼等の言葉に対しそう返した。
「この剣で断ち切ってくれる。罠もな」
「そうか」
「フフフ、それでこそわらわの敵」
 ククルの笑みが妖艶なものとなった。
「かかって参れ。わらわの舞い、またもや見せてくれようぞ」
「うむ」
 彼のグルンガストも空に舞い上がった。こうして一騎打ちがはじまった。
 戦いは一騎打ちだけではなかった。ロンド=ベルはミケーネと邪魔大王国の連合軍に向かって行った。そしてまずは激しい砲撃及び銃撃戦が行われた。
「オーラノヴァ砲、いけますね」
「ハッ」
 エレの言葉にエイブが頷く。
「何時でも射撃可能です」
「わかりました。それではオーラノヴァ砲発射」
「オーラノヴァ砲発射!目標は前面!」
「ハッ!」
 ゴラオンに乗る他の者もそれに応えた。そして巨砲が火を噴いた。
 それによりハニワ幻人の多くの部隊が薙ぎ倒される。これにより彼等の陣に穴が開いた。
「あのポイントを狙え!」
 そこですかさずブライトが指示を下す。ロンド=ベルはそれに従いそこに集中攻撃を仕掛けた。
 そして斬り込む。先頭にはオーラバトラーがいた。
「チャム、じっとしてろよ!」
「うん!」
 ショウのビルバインのソードが緑色に光った。そしてそれでミケーネの戦闘獣オベリウスを両断した。
「ガオオオオオオオオオオオンッ!」
 オベリウスは断末魔の叫び声をあげ空に散った。ビルバインはその爆発を潜り抜けるとさらに突き進み次の戦闘獣を一閃した。
 彼等により敵は完全に二分された。そして背後に回ったオーラバトラー隊が反転し分断された部隊の左側の部隊に襲い掛かる。
「あの部隊をまず叩け!」
 それを見たブライトがまた指示を下した。これにより左側の部隊は包囲され圧倒的な火力により次々と撃破されていった。
 左側の部隊が殲滅されるのは最早時間の問題であった。ミマシ達はそれを見て右側の部隊に指示を下した。
「すぐに守りを固めるのじゃ」
 それを受けて右側の部隊は守りを固めようとした。だがそれは適わなかった。
 突如としてそこにゼオライマーがやって来た。マサキは彼等の姿を認めるとすぐにゼオライマーを攻撃に移らせた。
「フン、蝿共が」
 彼はすぐにメイオウ攻撃を放った。そして彼等を一掃してしまったのだ。
「な、ゼオライマーが」
 それを見た両軍は戦いを停止させた。
「ここに来たか」
「まさか我等の精鋭を瞬く間に消し去るとは」
 その反応はそれぞれ違っていた。だがゼオライマーの登場に驚かされたのは同じであった。
「ヌッ、あれがゼオライマーか」
 ククルもそれは同じであった。ゼンガーとの戦いを止めそちらに顔を向けた。
「ククル様」
 ここでアマソが声をかけてきた。
「ロンド=ベルだけでなくゼオライマーまで出て来ては最早戦にならぬかと思いますが」
「むう」
「ここは一時撤退すべきです。そしてまた機をあらためて雌雄を決しまそうぞ」
「・・・・・・わかった」
 ククルにもそれはわかっていた。彼の言葉を認めた。
「全軍撤退せよ。よいな」
「ハッ」
 これを受けて連合軍はその場から姿を消した。ククルもまたゼンガーに捨て台詞を言い残して戦場を後にした。
「また会おうぞ」
「去ったか」
 ゼンガーはそれを見届けて一人呟いた。そしてゼオライマーに顔を向けた。
「暫く振りだな、銀のマシンよ」
「ほう、流石に知っていたか」
 マサキはゼンガーの言葉を受けて笑った。
「ロンド=ベルよ。今は御前達の相手をするつもりはない」
「何っ!?」
「俺の敵は別にいるからな。そろそろか」
 そこで三機のマシンが姿を現わした。彼等はゼオライマーのすぐ側にいた。
「久し振りだな、木原マサキよ」
 先頭にいる祗鎗が彼にそう言った。
「今度こそ貴様の最後だ」
「フン、また雑魚に相応しい台詞を」
 しかしマサキは冷静なままであった。いや、侮蔑がそこにあった。
「残り三機がまとめて来るとはな。探す手間が省けたというものだ」
「何っ!?」
「貴様等では俺は倒せぬ。それを教えてやろう。冥土の土産にな」
「待て」
 だがここで黄金色のマシンに乗る男がゼオライマーに通信を入れてきた。塞臥であった。
「ほう」
 マサキは彼の通信が入ったのを確認して口の端を歪めさせた。
「雷のオムザックか。ようやく修復したようでな」
「おかげでな。このオムザックのことは知っていよう」
「唯一ゼオライマーに対抗できるということだったな」
「そうだ」
 冷やかな様子のマサキに対して言う。
「このオムザック、決してゼオライマーに劣ってはいない」
「では俺を倒すというのか?」
 マサキは彼に対して問うた。
「どうなのだ?俺を倒すのか?」
「まさか」
「何っ!?」
 それを聞いた祗鎗は驚きの声をあげた。
「塞臥、どういうことだ」
「フン、貴様には関係のないことだ」
 塞臥は祗鎗を鼻で笑った。そしてゼオライマーとマサキに顔を戻した。
「手を組まないか、俺と」
「何故だ?」
「俺達が手を組めば無敵、共に世界を掌握しようというのだ」
「世界をか」
 話を聞くマサキは邪な笑みを浮かべたままであった。
「あのような小娘に世界をどうにかできる筈もない。だが俺ならできる」
「塞臥、貴様!」
 祗鎗はそれを聞いて激昂した。
「貴様、やはり!」
「それがどうしたというのだ」
 だが塞臥は開き直った。
「世界は力ある者の手に収まるべきなのだ。あのような小娘の手に収まるべきものではない」
「小娘だと!貴様、帝を!」
「力ある者の手、か」
 マサキは二人の言葉を聞いて冷やかに笑っていた。
「戯れ言だな」
 しかしそれは二人の耳には入らない。彼等、いや祗鎗は激昂したままであった。
「謀反を企むか!」
「謀反ではない」
 塞臥は邪悪ささえ感じられる声でそう答えた。
「当然の権利を主張するだけだ。力のある者がな」
「まだ言うか!」
「何なら貴様を仲間に加えてもいいのだぞ」
 塞臥は今度は勧誘に出た。
「貴様の力、惜しい。どうだ?俺につかぬか?悪いようにはしないぞ」
「断る!」
「やはりな」
「・・・・・・当然のことだ」
 どういうわけか塞臥とマサキではそれを聞いた反応は違っていた。
「貴様が謀反を企てるというのなら、塞臥」
 祗鎗はそう言ってバーストンの全身に力をこめさせた。
「俺は貴様を倒す!」
「できるのか?貴様に」
「できる!」
 そう言って腹から何かを出した。
「この核ミサイルでな!せめて一撃で葬ってやる!」
「何っ、核だと!?」
 ロンド=ベルの者達はそれを聞いて驚きの声をあげた。
「あいつ、そんな物騒なモンまで持っていやがったのかよ!」
「何て野郎だ!」
「死ね、塞臥!」
 だが祗鎗はそれに構わずに攻撃に入った。
「これで消し飛ぶがいい!そして己が罪を地獄で悔やむのだ!」
「ふん」
 だが塞臥は核ミサイルを突き付けられてもまだ平然としていた。そしてロクフェルに顔を向けた。次に彼女の名を呼んだ。
「ロクフェル」
「な、何っ!?」
 問われたロクフェルは驚いたように顔をあげた。
「御前を愛しているぞ」
「え、ええ」
「何だとっ!」
 それを聞いた祗鎗の顔が急に強張った。
「ロクフェル、今何と!」
「フン、知らなかったのか」
 塞臥は嘲笑しながら祗鎗に対して言った。
「ロクフェルは俺を愛しているのだ。貴様ではなく俺をな」
「馬鹿な!」
「これは本当のことだ。そして俺もまた」
「それは嘘だな」
 キリーが彼の言葉を聞いて一言で論破した。
「あいつは彼女を愛してなんかいないさ。あれは嘘に決まってる」
「どうしてそう言えるんだ?」
「勘ってやつさ」
 真吾にそう答える。
「ブロンクスで培った勘さ。あいつは根っからの悪党だ」
「そうか」
「女を騙すような奴は皆悪党なのよ」
 レミーも言った。
「それがこの世の決まりなのよ」
「決まりか」
「まあ真吾にはわからない話かもな。これは大人の世界の話」
「そうそう」
「おい、からかうなよ。俺にだってそれ位わかるよ」
「運がないせいで随分振られたからね」
「おい」
 ゴーショーグンの三人のやりとりの中でも彼等はそれぞれ睨み合っていた。主導権は塞臥が握っていた。
「愛しているぞ、ロクフェル」
「本当!?」
「嘘だ!」
 祗鎗がまた叫んだ。
「あいつは御前を利用しようとしているだけだ!御前を愛しているのは俺だけだ!」
「そうかもしれない」
 ロクフェルはそれに対し弱い声で返した。
「けれど私は・・・・・・」
「ロクフェル」
「フフフ、何度でも言うぞ」
 塞臥は笑いながらまた言った。
「愛している、愛しているぞ、ロクフェル」
「黙れ!」
 たまりかねた祗鎗が叫ぶ。
「まだ言うか!これ以上言うと・・・・・・」
「祗鎗!」
 だがここでロクフェルが叫んだ。
「塞臥を殺さないで!お願いだから!」
「ロクフェル!」
「フフフ、どうする祗鎗」
 塞臥はやはり笑っていた。
「俺を倒すのか?それとも」
「クッ・・・・・・!」
「今はゼオライマーを!それが私達の!」
「止めろ!」
 突如としてマサキが叫んだ。
「ムッ!?」
「止めろと言っている。愛なぞという迷いごとを語るのは」
「マサト君」
「一体どうしたんだ、あいつ」
 見ればコクピットにいる彼は苦しんでいた。右腕で顔を押さえ呻いている。
「愛だと・・・・・・貴様等には互いに憎しみ合うようにプログラムしたのだ。それにあがらうつもりか」
「何っ」
「何だと!?」
 それを聞いた塞臥も祗鎗も共に驚きの声をあげた。
「プログラムだと」
「一体どういうことだ」
「貴様等を作ったのは俺だ」
 それまでの邪な笑みは何処にもなかった。マサキは呻きながら言う。
「互いに憎しみ合い、滅びるように作ったのだ。八卦全員をな」
「馬鹿な、それでは俺達は」
「そうだ。全て俺の手の中で弄ばれる駒だったのだ。その駒が・・・・・・」
 ゼオラマーが不気味に光った。
「勝手に動くな!消えろ!」
「私は消えても消せないものがある!」
 だがロクフェルは最後に叫んだ。
「何だと!?」
「私の心は消せない!恋をしていたというこのことが私の生きた証!貴様にもそれだけは消せない!」
「ロクフェル・・・・・・」
「貴様が私達を造っていたとしても!私達は生きていたという事実は消せない!」
「黙れ!」
 マサキは呻きながら叫んだ。
「それ以上・・・・・・言うなあっ!」
 マサキはそう叫ぶとメイオウ攻撃を放った。そしてそれにより三機のマシンを襲った。
「ロクフェル・・・・・・!」
 祗鎗は最後にロクフェルのディノディロスを抱き包んだ。それでメイオウ攻撃から彼女を護ろうとする。
「それでも俺は御前を・・・・・・」
「祗鎗・・・・・・」
 ロクフェルも彼を抱いた。そして二人は光の中に消えた。
「馬鹿な、これが運命だというのか」
 塞臥も光の中にいた。そしてその中に消えようとする。
「俺は・・・・・・世界を手に入れるに相応しい者ではなかったということか・・・・・・」
 彼もまた光の中に消えた。こうして八卦衆はマサキとゼオライマーにより一人残らず消えてしまったのであった。
「終わったか・・・・・・」
「これが八卦衆の最後か」
 ロンド=ベルの者達はメイオウ攻撃を見届けた後静かにそう延べ合った。だがここで万丈が言った。
「いや、まだだ」
「万丈」
「まだ彼が残っている。二人の彼がね」
「二人の」
「そうさ」
 万丈はゼオライマーの方に顔を向けた。そこで通信が入ってきた。
「はい」
「ロンド=ベルか」
 モニターにサングラスの男が姿を現わした。
「こちらラストガーディアン。私は責任者の沖だ」
「ようやくお出ましかよ」
「待たせやがって」
「実は諸君等に話したいことがある。聞いてくれるか」
「どうやら聞かなくちゃいけない話みたいだね。わかった」
 万丈が頷いた。
「ゆっくりと話を聞きたい。そちらに向かっていいかな」
「ああ」
 こうしてロンド=ベルは湘南へ向かった。そして沖達との話に入るのであった。

 沖は彼等に全てを話した。ロンド=ベルの面々はそれを聞き終えて頷いた。
「そういうことだったのか」
「全てはあの男の手の平でのことだったのか」
「ゼーレまで手玉に取ろうとしていたとはね」
 ミサトも言った。
「木原マサキ、噂通り危険な男みたいね」
「だが一つ気になるな」
「何だ?」
 沖は万丈の言葉に顔を向けさせた。
「マサト君は彼のクローンなんだね」
「そうだ」
「しかし見たところ普通の人間みたいだ。それがどうしてああなるのか」
「僕にもわからないんです」
 マサトはそれに対してそう答えるしかなかった。
「いつも・・・・・・気付いたら僕の中のもう一人の自分が」
「二重人格ってやつか」
 サコンがそれを聞いてこう述べた。
「だが少し違うようだな」
「というと」
「彼の身体は元々彼のものではなかった。最初から本来の彼のものだったのだ」
「そう言うと何だかわかりにくいな」
 サンシローがそれを聞いて呟く。
「簡単に言うと彼は元々彼ではなかった。木原マサキだったのだ」
「僕が・・・・・・」
「そういうことになる」
 サコンは彼にも言った。
「君はそのもう一人の君の仮の心に過ぎないのだ」
「じゃあ僕は僕でないんですか!?」
「それもまた違う」
 普段のサコンとは違い妙に難解な話であった。
「君は君だ。それは一つの人格だ」
「はい」
「だが、君の中にはもう一つの人格がある。それが問題なんだ」
「木原マサキが・・・・・・」
「彼はどうやらゼオライマーに反応して甦るようだな。その時本来なら君はそこで消え去り完全に木原マサキとなる筈だったのだろう」
「けどどうして」
「それは俺にもわからない」
 サコンは首を横に振った。
「彼が何を考えているかまではな」
「そうですか」
「しかし君がいることは事実だ」
「僕が!?」
「そうだ。これが何を意味するのか。確か鉄甲龍の幽羅帝は君と同じだったな」
「そうらしいですけれど」
「彼女と君は木原マサキの分身だ。彼女も今何を考えているのだろうな」
「・・・・・・・・・」
 答えは出なかった。マサトは今自分が袋小路の中にいるのだと思っていた。

「帝」
 ルラーンが幽羅帝に声をかけてきた。
「わかっている」
 彼女はそれに静かに答えた。
「八卦衆、全滅したな」
「はい」
「・・・・・・全ては木原マサキの為に」
「いえ、それは違います」
「何っ!?」
 ルラーンの言葉を眉を動かした。
「それはどういうことだ」
「貴女の為にです」
「私の為に、か」
 それを聞いて哀しい顔になった。
「そうかも知れぬな、私が戦場に送り出したのだから。私が行けば」
「いえ、そうではないのです」
 ルラーンはまた否定した。
「貴女は・・・・・・木原マサキなのです」
「馬鹿な」
 帝はそれを聞いて言葉を震わせた。
「それは一体どういう意味だ」
「貴方と秋津マサトは・・・・・・木原マサキのクローンなのです」
「嘘を申せ!」
「いえ、残念ながら」
 ルラーンは首を横に振った。
「これは真実です。木原マサキは己が野心の為に自らのクローンを二人置きました。日本と鉄甲龍にそれぞれ一人ずつ」
「それが私だというのか」
「はい」
 ルラーンは答えた。
「貴女は木原マサキのクローンであり、もう一人の秋津マサトだったのです」
「では私は木原マサトの分身か」
 彼女は呆然とした声でそう述べた。
「はい。私が貴女に仕えてきたのは貴女を殺す為でした」
「木原マサキへの憎しみ故か」
「最初はそうでした。あの男はこの世にいてはならない」
「では私も」
「それもまた違います」
 しかしルラーンはそれも否定した。
「どういうことなのだ。私は木原マサキなのだろう?」
「はい」
「では憎いのではないのか、私が」
「私は確かに木原マサキは憎い。しかし貴女は」
「私は」
「あまりにも美しい。そして心優しい」
「世界を滅ぼそうとする者がか」
 帝は問うた。ルラーンはそれに答えた。
「貴女はそれを望まれてはいない」
「馬鹿な」
「その証拠に八卦にも涙を流された。それが何よりの証拠」
「・・・・・・・・・」
「そんな貴女だからこそ私は今まで側にいた。私は・・・・・・貴女は憎くはない」
「私は」
「そうだ。だからこそ」
 そう言いながら懐から銃を取り出した。
「さらばです。貴女へのしがらみがないように」
 その銃をこめかみに当てた。
「何をするつもりだ」
「貴女の為です」
 ルラーンは静かにそう答えた。引き金にかけた指に力を込める。
「私もいなくなれば貴女は」
「止めろ」
 帝はそれを制止した。
「馬鹿な真似はよせ」
「・・・・・・その御言葉だけで充分です」
 ルラーンは最後にそう言って笑った。
「貴女は私が思っていた通りの方だった。これからは一人で歩まれて下さい」
 そして死んだ。その死に顔は不思議な程穏やかであった。
「ルラーン・・・・・・」
 帝は彼の亡骸に歩み寄った。そしてその目をそっと伏せさせた。
「私を愛してくれていたのね。有り難う」
 目から銀色の光が滴り落ちた。そしてそれが床に落ちると顔を上げた。
「私一人になった。だがそれだからこそ全てを決する」
 意を決してそう言った。
 彼女は何処かへ姿を消した。最早そこには彼女しかいなかった。だからこそ動いた。全てを終わらせる為に。

 ロンド=ベルの者達はラストガーディアンの基地に集結していた。そしてそこでまだ話を続けていた。
「マサト君」
 ミサトが険しい顔で彼に向かっていた。
「私達ネルフが何故また結成されたか知っているかしら」
「ゼオライマーの為でしょうか」
「そうよ。鉄甲龍はゼーレの裏組織だった。人類補完計画が失敗した時世界を滅ぼす為のね。木原博士はそれの責任者だったのよ」
「けれど彼はゼーレに従うつもりはなかったの」
 リツ子も言った。
「自分の野望を達成させる為にゼーレを利用しようと考えていたのよ」
「そして僕達が作られた」
「そういうことになるわね」
 ミサトはまた言った。
「貴方は彼自身、そして彼の駒ということになるかしら」
「そうですね」
「私達は彼の冥王計画を防ぐ為にロンド=ベルに参加したの。必要な場合は破壊する為に」
「破壊・・・・・・」
「そうよ。これからどうするつもりなの!?」
「どうするつもりと言われましても」 
 ミサトに問い詰められ返答に窮してしまった。
「僕は何も・・・・・・」
「わからないのも無理はないさ」
 ここで加持がこう言った。
「加持君」
「少なくとも彼には罪はないさ。彼に何を言ってもはじまらない」
「加持さんの言う通りだな」
 隼人がそれに頷いた。
「隼人君まで」
「マサトといったな」
「はい」
 マサトは隼人に頷いた。
「俺は御前は信じられると思っている。御前はな」
「はい」
「悪い印象は受けない。だがもう一人は違う」
「・・・・・・・・・」
「もう一人の御前は絶対に信用できん。あいつは邪悪そのものだ」
「おい、隼人」
 竜馬がそれを止めようとする。だが隼人はそれに構わずに言葉を続けた。
「あいつがこれからどうなるかわからない。だがもう一人の御前は何としても止める」
「ゼオライマーを破壊しても」
「そうだ」
 隼人は言い切った。
「俺の命にかえてもな。だが」
 彼はまた言った。
「御前は死なせはしない。それは安心してくれ」
「はい・・・・・・」
 力なく頷くしかなかった。マサトは自分はこのまま運命に翻弄されるだけなのだろうかと思った。だがここで彼にその運命を断ち切る機会が訪れた。
「!?」
 モニターのスイッチが入った。最初に勝平がそれに気付いた。
「誰かここにやって来たぜ」
「!?誰だ」
 沖はそれに顔を向けさせた。
「こんなところに」
「私だ」
 するとモニターに美しい顔立ちの少女が姿を現わした。
「私が鉄甲龍の皇帝幽羅帝だ」
 彼女はまず自分の名を名乗った。
「鉄甲龍の」
「敵の首領がわざわざお出ましかよ。一体どういうつもりだ」
「秋津マサト」
 彼女は周囲の声に構わずマサトに声をかけてきた。
「私はこれから鉄甲龍の要塞を動かす」
「何っ!?」
「そして世界を滅ぼす。かねてからの計画通りな」
「何勝手なこと言ってやがる!」
 サンシローがそれを聞いて最初に激昂した。
「御前の好きにさせてたまるかよ!」
「そうだそうだ!」
 豹馬もそれに同意した。
「御前の好きなようにさせるかよ、今からそっちに行ってやるぞ!」
「何処にあるのかもわからないのに?」
 ちずるが彼にそう突っ込みを入れた。
「うっ」
「豹馬もサンシロー君も落ち着いて。あたし達に言ってるんじゃないんだから」
「わかったよ、ちずる」
「じゃあ俺達も大人しくしておくか」
「そうそう」
 こうして彼等は黙った。そして二人の木原マサキが向かい合った。
「場所は知っているな」
「勿論」
 マサトは答えた。
「では来るがいい。そしてそこで全てを終わらせる」
「わかった。そちらに行く」
「待っている」
 それが最後の言葉だった。幽羅帝は姿を消した。
「ロンド=ベルの皆さん」
 マサトは彼等に顔を向けた。
「ここは僕がやります。いいでしょうか」
「駄目だって言っても行くつもりだろう」
 隼人がクールな声でそう述べた。
「俺達がそうだからな」
「マサト」
 沖が前に出て来てマサトに声をかけた。
「はい」
「私が言えた義理ではないが」
 そう断ったうえで言う。
「行って来い。そして全てを終わらせるのだ。御前自身の因果をな」
「わかりました」
「マサト君」
 美久も前に出て来た。
「私も連れてって」
「美久、けれど君は」
「私がいないとゼオライマーは動かないわ。それに」
「それに!?」
「マサト君と一緒にいたい。そして運命を切り開くのを手伝わせて」
「けれど」
「美久、行ってくれるか」
 沖は彼女を助けるようにここで言った。
「沖さん」
「マサトには御前が必要だ。頼めるか」
「はい」
 美久はそれに頷いた。
「私が作られたのはその為ですから」
「そうだな」
「マサト君と一緒に行きます。いえ、行きたいです」
「そうなのか」
 マサトはそれを聞いてようやく頷いた。
「では一緒に来てくれるかい。そして助けて欲しい」
「ええ」
 美久も頷いた。
「行きましょう、全ての因果を断ち切って運命を切り開く為に」
「うん」
 最後にまた頷いた。マサトもまた決意した。
 それまでの彼を象徴するような暗黒の空が世界を覆った。しかしそれもまた終わる時が来る。マサトと美久は今それに辿り着く為に動こうとしていた。


第三十四話   完


                               2005・7・24


 
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