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東方守勢録

作者:ユーミー
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第十話

「え……雛……さん?」

「はい……よかった……ほんとによかった」

「俺……どうして……」

「気がついた?」


状況が分からずぼんやりとしている悠斗に、医者のような人物が話しかけてきた。


「あの……ここは?」

「ここは永遠亭。迷いの竹林にある診療所……私はここの医者の八意永琳よ」

「ここが……永遠亭……じゃあ俺は……」

「助かったんです……生きてるんですよ悠斗さん」


そう言いながら涙を浮かべる雛は、軽い笑みを悠斗に見せていた。


「でも……どうして……」

「事情は聞いてるわ。ただそれだけよ」

「……」

「とりあえず、安静にして置いて頂戴」


永琳はそういうと部屋を出て行った。


「……また……会えましたね」

「……もう会えないって思ってたけどな」

「それは……私に触れたから……ですか?」


雛は表情を暗くしてそう言った。


「ちがう!そうじゃないよ」

「……そんなことありませんよ……私は厄神です。いままで私に触れた人はみな……」

「厄神だからなんなんですかっ……いっ」

「悠斗さん!」


雛の声に反応したのか、無理に体を起こそうとしてしまい痛みを訴える悠斗。

悠斗に手を差し伸べようとした雛だったが、悠斗に触れることをためらいなにもすることができなかった。


「厄神にふれることが絶対に不幸を呼ぶのですか?だったらどうして俺は助かったんですか?」

「それは……でも、現にあなたは生死をさまよって……」

「でも生きてる。そして雛さんに会えた。それだけで十分ですよ」


悠斗はそう言って痛む体を無理やり起こし始めた。


「悠斗さ……」

「大丈夫ですよ。雛さん、俺がこう言っても自分に触れた人は不幸になるといいますか?」

「……」

「なら……かけをしましょうか」

「え……きゃっ」


悠斗はいきなり雛の手を使むと、一気に自分の方に引き寄せ抱きしめた。


「えっ……ゆ……悠斗さん?」

「これだけやったら俺もどうなるかわからないですね」

「!? 早くはなれ……」

「このまま聞いてて下さい。この戦いが終わるまでに、僕がもう一度生死をさまよった場合……あなたの言うことを一つだけ聞きましょう。でも、なにもなかったら……僕の言うことを聞いてくれますか?」

「え……でも……」

「俺は本気ですよ?」


そう言って悠斗は笑っていた。そんな彼をそばで感じ取った雛は、少し顔を赤く染めていた。


「……わかりました……でも、ほんとうにどうなっても知りませんよ?」

「いいですよ。もう怖いことなんてないですから」


悠斗はそう言ってまた笑っていた。


「二人とも積極的ね」


紫は部屋に入ったとたん、抱き合う二人を見ながらそう言った。


「うわっ!いって……」

「だっ……大丈夫ですか悠斗さん」

「それだけ動けるなら大丈夫そうね……さて、あなたに聞きたいことがあるのだけど……」

「俺に……ですか?」


聞き返す悠斗だったが、その表情は覚悟をした様子だった。


「ええ。なぜ革命軍がここに来たのかとか、これから何をしようとしていたのかとか、あなたが知ってることなんでもいいわ。話してほしい」

「……わかりました。軍の機密情報まではわからないんですが……簡単なことだったら……」


と言って、悠斗は自分が知っていたことをすべて話し始めた。

ここに来ることになった理由・ここで何をしていたか・なにが目的なのかなど、すべて簡潔に話して言ったが、内容が多くすべて話し終えたときは一時間以上経過していた。


「……こんなところですかね」

「そう……ありがと。さて、これからどうするの?」

「……もう軍には戻れないでしょうね……元の世界に戻る方法を地道に探します」

「それじゃあ、その子はどうするの?」

「えっ……」


その子と言われ反応してしまったのか、悠斗はちらっと雛の方を見る。同時に雛も悠斗の方を見ており、一瞬目が合ってしまった。

そしてすべてを理解したのか、悠斗ではなく雛が顔を赤く染めていた。


「紫さん!わっ私と悠斗さんはそのような関係では……」

「そのようって……私何も言ってないわよ?」

「えっ……ですから……その……まだ……」

「まだ?」

「……」


紫にちゃかされた雛はついに黙り込んでしまった。悠斗はそんな彼女をみながら軽く笑っていた。


「でも、俺にはここにいることなんて……」

「ここはすべてを受け入れる幻想郷よ。もともと敵だからって、いてはいけないなんてものないわ」

「はあ……」

「じゃあ言い方を変えるわね。私達と戦ってもらえるかしら?」


紫は軽く笑いながらそう言った。

悠斗は少し驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な表情に戻っていた。いくら彼女がそう言っても、自分のなかではそれがゆるせなかったのだろう。

そんな悠斗をみて、雛が口を開いた。


「私からもお願いします」

「雛さん……」

「あなたは悪い人ではありません。私が保証しますから」

「……そうですか……わかりました。そこまで言ってもらえるなら……よろしくお願いします」


そう言って悠斗は軽く頭を下げた。紫は「ええ。よろしく」とだけ言うと、部屋を後にした。


「さて……これで一段落ね」


こうして霧の湖侵攻作戦は幕を閉じたのであった。 
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