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美少女超人キン肉マンルージュ

作者:マッフル
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第2試合
  【第2試合】 VSノワールプペ(5)

「キ、キン肉マンルージュ様ぁ! なのですぅ」

 目の前で倒れ込んでいるキン肉マンルージュを、ミーノは心配そうに見つめる。

「キン肉マンルージュ様! し、しっかりなのですぅ! だ、大丈夫ですか? なのですぅ!」

 ミーノの心配そうな声に、キン肉マンルージュは笑顔を向ける。そして、キン肉マンルージュは立ち上がろうとする。しかし、脚に力が入らず、腕はぷるぷると震えて、いうことをきかない。

「思った以上に……ダメージがあったよお……でも……大丈夫だよ……」

 キン肉マンルージュはふらふらになりながらも、なんとか身体を起こし、無理やりに立ち上がった。

「ああっとお、これはキン肉マンルージュ選手、かなりのダメージがあるようだ。それもそのはず、あれだけ大量のダイヤモンドの銃弾を胸に受けてしまったわけですから、無事であるわけがありません」

 アナウンサーのコメントに合わせるように、悪魔将軍プペは笑い上げながら話しだす。

「プペプペプペプペプペッ! ほんとにバカだよねー、こいつー。もうボロボロじゃん、おまえー」

「本当にバカだとお思いですぅ? だとしたら、あなたの方が、よっぽどのおバカさんなのですぅ」

 笑い上げていた悪魔将軍プペから、一気に笑みが消える。そして無表情な顔で、ミーノを睨む。

「はあ? なにいってるの、おまえー。おまえもバカなのー?」

 ミーノはため息をつきながら、あきれた様に話し始める。

「キン肉マンルージュ様は、悪魔将軍プペが何をしようとしているのか、誰よりも早く気がついていたのですぅ。散弾銃のように、無差別、不規則な、回避不能な攻撃をしようとしていると。そこでキン肉マンルージュ様は瞬時に判断したのですぅ。大量の銃弾が拡散してしまう前に、マッスルジュエルの胸当てで、全ての銃弾を受けてしまおうと……これはとても危険な賭けでしたが……でも、おかげで、致命傷となるようなダメージは無かったのですぅ」

 ミーノの説明を聞いて、観客達がざわつく。

“確かに、拡散した銃弾を避けるのは不可能だよなあ。だったら、拡散する前に、全部の銃弾を受けちゃおうと思ったのかあ。かなりやべぇギャンブルだよ、その賭け”

“でも、マッスルジュエルって、悪魔将軍プペのダイヤモンドマグナムを防いでるんだよね? だったら、マッスルジュエルの胸当てには、ダイヤモンドの銃弾はきかないってことだよね?”

“そんなに単純じゃねえよ。ダイヤモンドマグナムは単発だけど、さっきのは散弾銃状態だぜ? もしかしたら、いくらマッスルジュエルでも、粉々に砕けてたかもしれないぜ?”

“肉を切らせて、なんとやらってヤツ? ルージュちゃん、ダメージは受けたけど、結果的には、賭けに勝ったんだよね? だったら、悪魔将軍プペに突っ込んでいったルージュちゃんは、無謀だったんじゃなくて、勇気ある行動だった、ってことだよね?”

 ミーノはクスッと笑んで、悪魔将軍プペを見つめる。

「観客の皆様は、どうやらわかっていらっしゃるようなのですぅ。どちらがおバカさんなのかを! ですぅ」

 悪魔将軍プペは肩をわなわなと震わせながら、ぎりぎりと歯をならす。

「だ、だーれがバカだってえ? バ、バカっていうほうが、バカなんだよ! ……って、ボクがさいしょにいったのか、バカって……ちきしょー! なんなんだよ、もう! ほんとのホントに、もう、おこったぞー!」

 悪魔将軍プペは全身に力を込め、踏ん張りながら身を丸める。すると、悪魔将軍プペの全身は、ダイヤモンドの汗でびっしゃりになった。

「ホントのギラギラじごく、みせてやんよー!」

 キン肉マンルージュは、全身にゾクッとした悪寒を感じた。

「ッ! あ、あ、あ……ど、どうしよう、今度のは……避けられない……防げないよ……捨て身の特攻でも無理……」

 悪魔将軍プペが繰り出す攻撃について、いちはやく気がついたキン肉マンルージュ。しかし、その攻撃の打開策が見つからない。

「プペプペプペプペプペッ! わかっちゃった? でもさー、わかったところでさー、どうしようもないよねー! プペプペプペプペプペッ! だからさー、しんじゃえよ、おまえー!」

 攻撃を繰り出そうとしている悪魔将軍プペを見て、ミーノはとっさに叫び上げた。

「マッスルジュエルの面積の範囲内、それが唯一の安全地帯なのですぅ! とても狭い安全地帯ですが、なんとかその中に、入ってくださいなのですぅ!」

「マッスルジュエルの面積の範囲内? そんな……こんなちっちゃい胸当てなのに、どうすればいいの?」

 ミーノの言葉を聞いて、キン肉マンルージュは困惑する。

「プペプペプペプペプペッ! ムダむだムダむだムダー! こんどのは、ゼッタイにさけられないよーだ!」

 そう言って、悪魔将軍プペは、全身に溜め続けていた力を解放するかのように、一気に身体を開いた。

「プペプペプペプペプペッ! ダイヤモンドスプラッシュ!」

「マッスルプロテクション!」

 悪魔将軍プペの全身から、全方向に向かって、無数のダイヤモンドが飛び出した。
 同時に、キン肉マンルージュはマッスルジュエルを変化させる。

“ずがががががががぁぁぁあああああん”

 縦横無尽に飛び交うダイヤモンドの銃弾。
 凄まじく鋭い、そして恐ろしく硬い激突音が、周囲に響き渡る。
 大量のダイヤモンドによる全方向射撃には、まったくもって隙がない。

“…………”

 激突音が止むと、今度は無音とも言えるほどの静寂が、周囲を包み込んだ。

“すたんッ”

 そんな中、静かな着地音が、周囲に鳴り渡る。
 キン肉マンルージュは傷ひとつない、まったく無事な姿で、リング上に着地した。

「プペェッ! そ、そんなバカなー!」

「あ、えええええ?! キン肉マンルージュ選手、無傷! まったくの無傷です!」

“あれ? う、うそ?! あんなめちゃくちゃな銃撃、避けきったの?!”

 悪魔将軍プペと、アナウンサーと、観客達は、まったくの同時に、驚きの声を上げた。
 そんな中、ミーノだけは、ホッと安堵の息をついていた。

「よかったですぅ。間に合ったのですぅ」

「ありがとう、ミーノちゃん。あの時、安全地帯について言ってくれなかったら、わたし、絶対にやられてたよお」

 ゆっくりと立ち上がるキン肉マンルージュの手には、胸当てと同じくらいの大きさの、盾が握られていた。

「こ、これは一体、どういうことだあ! ミーノちゃん、解説お願いします!」

 状況を理解できないでいるアナウンサーは、隣にいる解説者の中野さんにではなく、ミーノに解説をお願いした。

「え、えーとお、ですぅ」

 ミーノは恥ずかしそうに、身体をもじもじしながら、解説を始める。

「マッスルジュエルがダイヤモンドの銃弾を防ぐことができるのは、既に実証済みなのですぅ。ということは、マッスルジュエルに身を隠せば、安全なのですぅ。つまり、これがマッスルジュエルの安全地帯なのですぅ」

 観客達とアナウンサーは、なるほどと、頷く。

「でも、今のキン肉マンルージュ様には、先ほどの胸当てくらいの大きさまでしか、マッスルジュエルを変化させることができませんですぅ。そうなると、マッスルジュエルで身を隠すことは、到底無理、できませんですぅ」

 観客達とアナウンサーは、それはそうだと、頷く。

「しかしながら胸当ての大きさしかなくても、一瞬であれば身を隠すことはできるのですぅ」

 観客達とアナウンサーは、それは何だとばかりに、身を乗り出す。

「キン肉マンルージュ様は、胸当てを盾に変化させましたですぅ。この盾の面積内にキン肉マンルージュ様の身を隠すには、どうすばよいのか? それは盾に対して、身体を真横に向けてしまえばよいのですぅ。そうすれば盾にすっぽりと、キン肉マンルージュ様の身体が隠れるのですぅ」

 観客達とアナウンサーは、なるほどなるほどと、大きく頷く。

「ですので、キン肉マンルージュ様はダイヤモンドの銃弾が飛んでくるのと同時に、盾を持ちながら飛び上がって、身体を真横にピンと伸ばしたのですぅ。これでキン肉マンルージュ様の身体は、盾に完全に隠れるのですぅ」

 観客達とアナウンサーは、なるほどなるほどなるほどと、大きく大きく頷く。

「ちなみに銃弾は一直線に飛びますので、銃弾が盾の範囲内に入ってくることは絶対にないのですぅ」

 観客達とアナウンサーは、うおおおおおお! と、めいっぱいに頷く。

「これは驚きました! もはや数学です! キン肉マンルージュ選手とミーノちゃんの頭脳プレー! 見事です! 見事すぎます! そして悪魔将軍プペ選手、無様すぎます!」

 悪魔将軍プペはアナウンサー席に向かって、デコピンをする。

“ずがぁん”

 アナウンサー席の机に穴が開き、アナウンサーが持っているマイクが爆発する。
 悪魔将軍プペがデコピンで放ったダイヤモンドの銃弾は、机を貫通し、マイクに激突した。

「うるさいよ、おまえ! こんどは、おでこに、くらわすよー?」

 アナウンサーは、ひぃッと悲鳴を上げて、アデラ●スゴールドの中野さんの背後に隠れてしまう。

「ちょ、ちょっと! やめてくださいよ! 私を盾にしないでくださいよ! どのみちダイヤモンドの銃弾ですから、例え私を盾にしても、私を貫通して、結局はあたなに当たっちゃいますよ!」

 中野さんは広すぎる額に青筋をたて、猫の子を掴むようにアナウンサーの首根っこを掴んだ。そして強引に、アナウンサー席に戻してしまう。

「ちゃんと仕事なさい!」

 そう言って中野さんは、アナウンサーに新しいマイクを渡した。

「関係のない人に手を上げるのは、お止めなさい」

 マリは静かな声で、悪魔将軍プペに言った。

「はあ? なんだあ? むかついたから、あいつにおしおきしたんだよー! ボク、なにもわるいことなんてしてないよー? ってか、おまえ、ボクにセッキョーくらわすキ? チョーむかつくんですけどー?」

 そう言って悪魔将軍プペは、マリに人差し指の先端を向ける。

「んん? なにそれ? おまえ、なにしてんの?」

 キン肉マンルージュは両腕を開いて、マリをかばう様に悪魔将軍プペの前に立ちふさがった。そして無言のまま、つよく悪魔将軍プペを睨みつける。

「プペプペプペプペプペッ! こわい、こわーい! おっかないカオー! そんなにオコるなよー!」

 悪魔将軍プペは笑い上げながら、おどけてみせる。

「なーにがシュゴテンシだよー! おまえのカオ、まるでオニだよー! アクマ、カオまけー!」

 からかう悪魔将軍プペに動じることなく、キン肉マンルージュは悪魔将軍プペを睨み続けている。

「なーんだよー、つまんないのー。ボク、そういうの、きらいー」

 悪魔将軍プペは、しらけたとばかりに、とぼとぼと歩いて自陣のコーナーポストに戻った。

「よっ、とー」

 そして悪魔将軍プペは、コーナーポストの先端に乗っかる。

「プペプペプペプペプペッ! さーて、つぎはなにして、あーそぼーかなー」

 悪魔将軍プペは、まるで無邪気な子供のように、キャッキャッと騒ぎだした。そして、考え込む。

「うーん、うーん! どうしてくれようかなー、こいつー」

『……人形よ……』

 悪魔将軍プペの頭の中で、ゼネラルの声が響く。
 悪魔将軍プペは何事も無いかのように、変わらず騒ぎ続ける。が、ゼネラルの声にはちゃんと集中する。

『……人形よ……地上界で余が活動できるだけのデヴィルエナジーを溜め込むには、1日や2日では無理なようだ……時間が掛かりすぎるわ……人形よ……余の力の全てを、貴様に貸してくれる……無理を承知で言うぞよ……余の力、使えるものなら、使いこなしてみせい……』

 それきりゼネラルの声はしなくなった。

「うーん、そっかー、そうなんだー。じゃあ、もう、だしおしみしなくても、いいだよねー」

 悪魔将軍プペはぶつぶつと独り言を言いながら、すたんッと、リング中央に降り立った。

「いいこと、おしえて、あげよっかー?」

 悪魔将軍プペは両手を腰に当てながら、身体を傾けて、キン肉マンルージュを見つめる。
 そしてキン肉マンルージュの返事を待つことなく、勝手に話し出す。

「あのねー、アシュラマンってさー、マカイのクソヂカラ、つかうよねー」

 魔界のクソ力と聞いて、キン肉マンルージュは話に集中する。

「マカイのクソヂカラってさー、じつはさー、ゼネラルがおしえたんだよー、アシュラマンにー」

 悪魔将軍プペは、カーカカカ! と、アシュラマンの真似をする。

「でもさー、アシュラマンでもさー、カンペキにはつかいこなせなかったんだよー、マカイのクソヂカラー。ほんとのホントなピンチなときに、ちょこっとしか、つかえないんだよー。それにシゴキなんてさー、あいつはロンガイだよねー。マカイのクソヂカラのハツドウにシッパイして、デヴィルディスペアにくわれっちゃってさー」

 悪魔将軍プペは頭部をくるくると回転させて、アシュラマンのファイスチェンジを真似している。

「でもねー、アクマショーグンはねー、つかいこなせるんだよー、カンペキにねー、マカイのクソヂカラー」

 悪魔将軍プペがそう言うと、全身から真っ黒なオーラが噴出した。そして悪魔の暗雲、デヴィルディスペアに包まれた。

「プペプペプペプペプペッ! カクゴしておきなー! マカイのクソヂカラがハツドウしたアクマショーグンは、ベツジゲンのツヨさだからねー!」

 悪魔将軍プペを包んでいたデヴィルディスペアが、徐々に晴れていく。そして、その姿があらわとなった。
 悪魔将軍プペがまとっている鎧は、真っ黒に変色し、鈍く黒光りしている。そして薄っすらと、デヴィルディスペアが全身を覆っている。
 背中にはデヴィルディスペアで出来た、悪魔の羽が2枚生えている。悪魔将軍プペは、ばぁっと羽を広げて、叫び上げた。

「プペプペプペプペプペッ! これぞ真の悪魔の姿! 我は真・悪魔将軍プペなりい!」

 激しく笑い上げながら、真・悪魔将軍プペは、背中の羽を折りたたんだ。

「キン肉マンルージュよ。ここからは真の悪魔の戦いというものを、存分すぎるほど存分に味あわせてくれるぞ」

 様子が全くもって変わってしまった真・悪魔将軍プペを見て、アナウンサーは声を上げる。

「こ、これは! 悪魔将軍プペ、真の悪魔として、真・悪魔将軍プペとして、再降臨だあ! 全身真っ黒に染め上がったその姿は、まさに悪魔! 禍々しくも、どこか美しささえ感じてしまう、ひどく妖しい真・悪魔将軍プペ! 戦う前から、とてつもない強さであることが感じ取れます!」

 アナウンサーに続いて、アデラ●スゴールドの中野さんもコメントする。

「これはまた、あからさまにパワーアップをしましたですねえ、真・悪魔将軍プペ選手! 確かにとんでもなく強くなってしまったように感じますですよ、はい。それも真の悪魔のなせるわざなのでしょうかねえ。とにもかくにも、キン肉マンルージュ選手、これは大ピンチですよ!」

 ピンチな状況であるということは他の誰でもない、キン肉マンルージュ本人、そしてミーノが一番わかっていた。

「ミーノちゃん……どうしよう」

「真・悪魔将軍プペの全身を覆っているデヴィルディスペア……これはとても厄介なのですぅ……デヴィルディスペアの影響で真・悪魔将軍プペの攻撃力、殺傷能力は倍増……それどころか真・悪魔将軍プペに触れただけでも、こちらにダメージがあるのですぅ……つまり真・悪魔将軍プペに密着する必要がある技は、甚大なダメージを負ってしますのですぅ……例えパンチやキックのような打撃系の攻撃でも、かなりのダメージを負ってしまうのですぅ……」

 ミーノは頭を抱えて、ひどく考え込む。しかし現状では、デヴィルディスペアの攻略法は見つかっていない。そのため手の打ちようがない。

「ミーノちゃん……この状況って、つまるところ……ダメージ覚悟で真・悪魔将軍プペを攻撃するしかないってことだよね……」

「そ、そうなのですが……でも、それではあまりにも……でも……はい、そのとおりなのですぅ……」

 打つ手がないキン肉マンルージュとミーノをあざ笑うかのように、真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュに歩み寄る。

「プペプペプペプペプペッ! どうやら理解しているようだな、自分の置かれている状況を。プペプペプペプペプペッ! 便利であろう、デヴィルディスペアは。こうやって貴様に近寄るだけでも、立派に攻撃していることになる」

 真・悪魔将軍プペはじりじりと、ゆっくりと、キン肉マンルージュとの間合いを詰めていく。キン肉マンルージュは必死に距離をとろうとするが、二人の距離は少しづつ、確実に縮まっていく。

「悪魔将軍プペの時とはまるで別人だよ、真・悪魔将軍プペ……全然、隙が無い……なんだか素人の子供から、いきなり大人の達人にまで成長しちゃったみたいな……それくらいに差があるよお……」

 キン肉マンルージュは動きに緩急をつけたり、フェイントを混ぜたりして、真・悪魔将軍プペを惑わそうとする。しかしそれでも、距離は縮まる一方である。

「プペプペプペプペプペッ! では参るぞ!」

 真・悪魔将軍プペは突然、キン肉マンルージュに向かって走りだした。対するキン肉マンルージュは、とっさに反応して、逃げるように駆けだした。
 しかし一瞬のうちに、二人の距離は詰められてしまう。キン肉マンルージュの目の前には、禍々しい姿の真・悪魔将軍プペがいる。

「喰らえい! デヴィルズエンブレイス!」

 真・悪魔将軍プペは目の前にいるキン肉マンルージュを抱き締めた。

「き、きゃああああぁぁぁぁぁあああああッ!」

 うら若き乙女の悲痛な叫びが会場中に響き渡る。乙女の悲鳴はあまりに痛々しく、ひどく苦しそうで、聞いているだけで胸が張り裂けそうになる。

“じゅぶぶぶわああぁぁああじゅぶりゅるるぅ”

 キン肉マンルージュの身体から、まるで焼け焦げるような、溶かされているような、不気味で不快な音が響き渡る。そして真っ黒い煙が噴き出した。

「た、大変なのですぅ! 生粋の正義超人であるキン肉マンルージュ様にとって、デヴィルディスペアは大変な猛毒、劇物、超刺激物なのですぅ! このままではキン肉マンルージュ様は、デヴィルディスペアに焼かれて、溶かされて、跡形もなく消されてしまうのですぅ!」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュを抱きながら、肩を揺らして笑い上げる。

「プペプペプペプペプペッ! デヴィルディスペアで消滅か! そうしたいのはやまやまだがな。しかし腐ってもマッスルジュエルの適合者、デヴィルディスペアだけでは、こやつを消すには至らぬわ」

 真・悪魔将軍プペは両腕を開き、キン肉マンルージュを解放する。
 キン肉マンルージュはぶすぶすと細い真っ黒な煙を上げながら、その場に立っている。よろよろと、ふらふらとしながら、かろうじて立っている。

「プペプペプペプペプペッ! 悪魔の抱擁はまだ半分残っているぞ! そしてこれがもう半分だ!」

 真・悪魔将軍プペは目の前にいるキン肉マンルージュの両肩を掴み、ぐるんとキン肉マンルージュを半回転させる。そして今度は背後からキン肉マンルージュを抱き締める。

「喰らえい! デヴィルズエンブレイス・リバース!」

“ぶじゅぶぶわああぁぁああぶじゅりゅるるぅ”

「き、きゃああ……うう……うああぁぁ……ひゅぁぁぁあああああ……」

 まだ焼かれていなかったキン肉マンルージュの背後を、真・悪魔将軍プペは容赦なく焼いていく。
 もう悲鳴を上げる力すら残っていないのか、キン肉マンルージュの悲痛な声は、途切れ途切れになっている。

「……うう……うぁあぅ……ぅ……」

 キン肉マンルージュの口から声音が消えた。そしてキン肉マンルージュの全身から、力が失せる。
 ぐったりと力を失ったキン肉マンルージュ。真・悪魔将軍プペは片手でキン肉マンルージュの胸ぐらを掴み、そしてそのまま持ち上げる。

「プペプペプペプペプペッ! 全身こんがりと、真っ黒く焼けたろう? 表も裏も、焼きむらなく、きっちりと焼いてやったわ! そして、あとはここだ!」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの首に目線を移す。

「ここを焼けば、地獄の九所封じの完成だ」

 ミーノは動揺を隠しきれない様子で、身を乗り出した。

「じ、地獄の九所封じ?! ですぅ!? キン肉スグル大王様と対決したゴールドマン版悪魔将軍が使った、悪魔の奥義! 超人が持つ9か所の急所を、9つの技で封じてしまう驚異の連続技なのですぅ!」

 しかしミーノは腕組みをしながら、考え込む。

「でも……おかしいのですぅ。キン肉マンルージュ様は試合が始まってから、まだ8つも技を受けていないのですぅ」

 真・悪魔将軍プペはミーノを馬鹿にするように、悪意のある笑い方で言葉を返す。

「デヴィルズエンブレイスとデヴィルズエンブレイス・リバースにて、こやつの全身を焼いたであろう? それで8つの急所を封じたのよ! デヴィルディスペアがあれば、いちいち9つの技を出さなくとも、一気に急所を封じてしまうことが可能なのだ」

 ミーノは開口したまま、言葉を失った。

「でわ余が直々に、貴様を地獄へと招待してやろう。余のとっておきの技でな」

 真・悪魔将軍プペは力を失ったキン肉マンルージュを、片手で真上へと投げ上げた。

「プペェッ!」

 真・悪魔将軍プペ自身もキン肉マンルージュを追うように、真上へと飛び上がる。
 そして、上空でふたりの身体が重なる。同じタイミングで、ふたりは下降を始めた。
 真・悪魔将軍プペは片膝を折り、スネをキン肉マンルージュの喉元に食い込ませる。

「あああっとお! こ、これは! 悪魔将軍のフェイバリッドホールド! 地獄の断頭台の体勢だあ!」

「キン肉マンが戦ったゴールドマン版悪魔将軍が使っていた、文字通りの必殺技ですよ! キン肉マンはこの技を喰らったせいで、一生消えない傷を、体と心に刻まれたしまったのですよ! ああ……ッ! うら若き純情乙女なルージュちゃんが、この悪魔の技を喰らってしまうのでしょうか?! 傷ひとつない潔白な少女の身体を、悪魔の毒牙が痛々しく切り裂いてしまうのでしょうか! あああ……それはひどい! ひどすぎます! まさに悪魔の所業!」

 アナウンサーと中野さんが興奮している中、ミーノは違和感にさいなまれていた。

「……違う……これは……ち、違うのですぅ! これは地獄の断頭台ではないのですぅ!」

 叫び上げるミーノを見て、真・悪魔将軍プペは愉快そうに笑い上げた。

「プペプペプペプペプペッ! さすがはミーノ! その通りよ! これは地獄の断頭台ではない! 破滅への道案内よ!」

 真・悪魔将軍プペは地獄の断頭台の体勢のまま、キン肉マンルージュの両脚を片脇に抱え込んだ。そしてもう片方の脇で、キン肉マンルージュの両腕を抱え込む。更に抱え込んだ両脚と両腕を引っ張り上げ、キン肉マンルージュの喉元に食い込んでいるスネを、ぐいぐいと深くめり込ませる。

「喰らえい! 破滅の断頭台!」

 真・悪魔将軍プペが声を上げると、力が失せているキン肉マンルージュが苦しそうにうめき声を上げた。

「ぐうぁぅ……ぐぐぐうううぅぅぅ……」

 そしてキン肉マンルージュの喉元はぶすぶすと音を立てて、デヴィルディスペアに焼かれていく。

「プペプペプペプペプペッ! さあ逝くがよい! 地獄という死後の世界を存分に味わいつくせい!」

“ずどがじゃががぁぁぁあああん!”

 ふたりはリングに落下し、激突する。そしてリングは破滅の断頭台の衝撃で、ぐにゃりとたわんでしまう。キャンバスはまるで大穴が開いたように、べこりとへこんでしまう。
 真・悪魔将軍プペがのそりと立ち上がると、その足元には、リングにめり込み両脚だけが見えているキン肉マンルージュがいた。

「プペプペプペプペプペッ! 随分と無様で、はしたない格好をしておるな。しようがない小娘よ」

 真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュの足首を掴み、片手でキン肉マンルージュを引っこ抜いた。

“きゃあああぁぁぁあああッ!”

“うわわわあああぁぁぁあああッ!”

 観客の誰もが、悲痛な悲鳴を上げた。
 キン肉マンルージュの全身はどす黒く染まり、びくんびくんと痙攣している。口角にはだらりと、舌がだらしなく飛び出している。
 そして目からは完全に光が失われていた。
 真・悪魔将軍プペは、ふんッと鼻をならすと、おもむろにキン肉マンルージュを放り投げた。

「これで地獄の九所封じは完成よ」

“ばぁん”

 キン肉マンルージュの身体は一度バウンドし、そしてリング中央にうつ伏せになって倒れ込んだ。その姿はまるで、こうべを垂れて、許しを請うているようであった。

「プペプペプペプペプペッ! 無様なものだな、小娘よ。せいぜい地獄に行っても、そうやって鬼どもに、こうべを垂れるがよいぞ」

 キン肉マンルージュは全く反論しない。それどころか、ぴくりとも動かない。
 そんなキン肉マンルージュを見つめながら、ミーノは涙をこぼして叫び上げた。

「うわああぁぁああん! だめですぅ! 立ってくださいですぅ! わああぁぁああぁぁん! だめなのですぅ! 死んじゃダメなのですぅ! うあああああん! お願いですぅ! 動いてくださいですぅ! 立たなくてもいいですから、ほんの少しでもいいですから……動いてですぅ! うわああぁぁああぁぁああん! キン肉マンルージュ様ぁ! ルージュ様あああぁぁぁあああッ!」

 泣き声混じりの悲痛な叫びが、会場中に響き渡る。そして会場中の誰もが、キン肉マンルージュは絶命していることに気がつく。

“うそ……ルージュちゃん……死んじゃった?”

“そ、そんな……死んだって? ルージュちゃんが? ……マジかよ……”

“いやぁ……ルージュちゃん……いやだよぉ……”

 観客達は呟くように、驚きと悲しみの声を漏らす。

「プペプペプペプペプペッ! 小娘の魂は無事、超人墓場という名の地獄に辿りついておるわ!」

 真・悪魔将軍プペは倒れているキン肉マンルージュに向かって、唾を吐きかける。

「ル、ルージュ様ぁ!」

 唾はキン肉マンルージュの頭に当たり、カツンという音を立てて跳ね返った。そしてキャンバス上には、ギラついたダイヤモンドの唾が転がっている。
 ミーノは真・悪魔将軍プペを睨みつけ、怒りをあらわにする。

「小娘よ、何を怒る必要がある。そこに横たわるは、ただの肉塊。魂の抜けた死肉よ。キン肉マンルージュであったのは過去の話。今は朽ちゆくだけの抜け殻よ」

 悪意のある言葉を吐いて、真・悪魔将軍プペはキン肉マンルージュを見下ろしながら、笑いに笑い上げた。

「プペプペプペプペプペッ! プーペプペプペップペプペペ! プーペペペプペプペプペプペプペッ!!」

 ――。
 ――。
 ――。
 ――闇。

 キン肉マンルージュは起き上がり、目を開ける。しかし何も見えない。どこを見渡しても、真っ暗な闇が続いている。

「ッ!」

 不意にキン肉マンルージュは、背中に冷たいものを感じた。無意識のうちにキン肉マンルージュは振り向く。

「こ、これって……」

 キン肉マンルージュの背後には巨大な扉があった。
 扉の表面には赤黒いものが付着していて、鉄さびの臭いがやたらに鼻についた。

「?? 何これ? ここを通るの?」

 キン肉マンルージュは首を傾げながらも、巨扉に手をかけようとする。

『それに触れてはなりません、少女よ』

 背後から声がした。キン肉マンルージュは振り返ると、突然、目の前が真っ白になった。

「ひゃあ!」

 真っ暗がいきなり真っ白になって、キン肉マンルージュは驚きのあまりに、心臓をどくんと跳ね鳴らした。

「何? なに? 今度は何事?」

 キン肉マンルージュは困惑して、きょろきょろと周囲を見渡す。しかし辺りには何も無い。

『少女よ』

 先ほど聞こえた声が、また耳に届いた。
 キン肉マンルージュは頭をぐるぐる回しながら、声の主を探す。しかし辺りには誰もいない。

「誰?! 誰ですか!? お姿が見えませんけど! 少女って、わたしのこと?!」

 キン肉マンルージュは声の主に向かって話しかける。

『少女よ』

 キン肉マンルージュは再び頭をぐるぐる回しながら、声の主を探す。しかし、やはり辺りには誰もいない。

「ちょっとお! 声だけ聞こえるとかって、かるくホラーなんですけど! やあぁん、怖いよお! どこにいるのお?!」

 困惑するキン肉マンルージュにはお構い無しに、声の主は一方的に質問をする。

『そなたが欲しいのは、敵を滅ぼす破壊の闇か? それとも敵を浄化する慈愛の光か?』

 突然の質問にキン肉マンルージュは考え込む。そして自分を落ち着かせるべく、すーッ、はーッと、薄い胸を張りながら深呼吸をする。
 めまぐるしい変化がありすぎたせいで、ぐちゃぐちゃになっている頭の中を、キン肉マンルージュは必死に整理する。

「……わたし……よくわからない……だけど、これだけは言えるよ……わたしが欲しいのは……」

『少女よ、何を望むか?』

「わたしが欲しいのは、敵を倒せるだけの正義の力だよ……闇とか光じゃなくて……わたしに足りてない、正義の力が欲しい!」

『ならば、そなたに足りない正義の力を与えてやろう!』

 カァッ! と、真上から強くまばゆい光が降り注ぐ。キン肉マンルージュは全身に心地よい暖かさを感じた。

「あ、暖かいよお」

 キン肉マンルージュは両腕を広げて光を受けとめる。

“どくん!”

 突然、キン肉マンルージュの心臓が高鳴った。そして次の瞬間、全身が燃えるように熱くなった。

「あ、熱いよお!」

 まるで血液が沸騰したかのように、全身が焼かれているように、とてつもなく熱い。
 肌も、筋肉も、内臓も、脳も、脂肪も、骨も、血管も、神経も、歯も、そして唾液や涙、毛までも、全てが熱々しく熱い。
 神経が通っている通っていないにかかわらず、とにかく全身という全身が、焼け落ちそうなほどに熱い。

「きゃあああぁぁぁあああぁぁぁッ! 熱い! 熱いよお! きゃわわあああぁぁぁッ! く、苦しい! 熱くて苦しいよお!」

 キン肉マンルージュは自らを抱くように両腕を閉じ、その場にうずくまってしまう。

『少女よ、それが力だ。正義の力だ。そなたは受けとめねばならぬ。正義という、熱く、重く、猛々しい力を』

「そ、そんな……受けとめろって言われても……ああッ! だ、だめぇ! で、でちゃう! でちゃうよお! ひぃぅ! でちゃうのお! やあああぁぁぁん! ダメだよお! でちゃうのお! きゃあああああああんッ! で、でちゃうううぅぅぅうううぅぅぅッ!!」

 ひと際大きな悲鳴を上げると、キン肉マンルージュの全身から、大量のマッスルアフェクションが噴き出した。
 まるでガソリンを投入したキャンプファイヤーのように、マッスルアフェクションが火柱となって、キン肉マンルージュから噴き上がっていく。

『少女よ、正義の力を内にとどめよ。さもなくばそなたの生命エネルギー、つまり命が、すべて体外へと放出されてしまうぞ』

「えッ! ちょ、ちょっとまって! そ、そんなあ! いきなりそんなこと言われても……でちゃうう! 勝手にでちゃうのお! 自分で止まられないよお! でちゃう! でちゃうのお! いやあああぁぁぁあああん! でちゃうったら、でちゃううう! 止まらない! もうでっぱなしだよお! ひあああひぃいいあああん! ひゅああぃぃうううん! でるの、止まらないいい!」

 キン肉マンルージュは涙を流しながら叫び上げ、四つん這いになってマッスルアフェクションを出し続ける。

『少女よ、心を落ちつかせよ。そして内にある力を感じ、とどめよ。正義の力は敵ではない、味方なのだ。そなたを苦しめるものではない。そなたを守り、向上させ、真の、誠の、正義へと導く……それが正義の力なのだ』

「そんなこと言われても……止まらないんだよお……止まらないよお……でちゃうのう……でっぱなしになっちゃのお……止めたくても……とどめたくても……どんどんでちゃううッ……でちゃうよお……」

 キン肉マンルージュは息を切らしながら、声も絶え絶えに弱音を吐く。

『少女よ、正義はそなたの敵ではない。信じよ、正義の力を、そして自らを。正義超人の使命とは何か? いまいちど自らに問うてみよ』

「うあああんッ……正義超人の……使命? ……くううぅぅぅん……苦しい……ふゅゆゆゆうん……つらいよお……使命……使命って……」

 キン肉マンルージュは全身をびくびくんと揺らしながら、涙を流して声を漏らす。
 
 

 
後書き
※メインサイト(サイト名:美少女超人キン肉マンルージュ)、他サイト(Arcadia他)でも連載中です。 
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