FAIRYTAIL-ダークブリングの力を操りし者-
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プロローグ 異世界への旅立ち
東京には珍しく辺り一面が雪景色で彩られている。いくら冬といっても東京でこれほど雪が降り積もるのは果たして何時以来だっただろうか。
そんな寒空の下このアホ共は俺に因縁をつけ、クソ寒い地面に転がっている。正確には俺がその原因なのだが……まぁ手加減はしてやったし、あっちが先に手を出してきたのが悪い。自業自得とはこの事だなと思いつつ熱い缶コーヒー片手にその場を後にする。
高校三年、もう高校も卒業するというのにまだこんなことをしているのかと自身で呆れつつも、やはり喧嘩は少し楽しい。
昔からこの眼つきの悪さのせいで不良には絡まれ、普通の人には避けられる。人間最初の印象は外見で決まるとどこかの誰かが言っていたが、それには同意しよう。かといって友人がいないわけでもない。何かの拍子に話す機会は学校にいればできるわけで、その際普通に相手に接していれば意外に良い奴と言われそれが噂となり、尾ひれが付き接してくる人も増えてくる。
何か良いことをしたわけでもないのに良い奴と言われるのはきっと外見とのギャップのせいだろう。その点については役得だなと思う。そんな学校生活もあと少しとなると、どこか物悲しくもなり、少し感傷に浸ってしまう。
学校からの帰り道、俺は家に着いてからの行動を考える。ふと煙草がきれたことを思い出しそのままコンビニに行こうとしたが、学生服で堂々と煙草を買うほど馬鹿じゃないし愚かでもない。悪いことは悪びれてするべきだと思う。そんな自己満足な理論を展開しているが悪いことは悪いので正論を言われれば一発で論破される。とりあえず家に着いたら服に着替えてコンビニへ行こうと思った瞬間、唐突にただただ突然に何の前触れもなくキラりと輝くような光に包まれ俺はこの世界から姿を消した。
まるで眠りから覚めたかのように眼を開けるとそこは一面真っ白な空間で部屋の中央に一人掛け用のソファーが対面式に二つとその間にテーブルが設置されていた。そこには極々普通という印象しかない30代半ばぐらいの男性がソファーに座っていた。
「どうぞ、お座りください」
男性の低音の声がこの部屋に響き渡る。俺は警戒しながらも男性の指示に従いソファーに腰を下ろした。男は何もない空間からコーヒーを取り出し薦めてきた。
「あまり驚かれないんですね。この状況に」
「十分驚いてるぜ。ただ表情に出にくいんだ」
「なるほど。素晴らしいポーカーフェイスです」
俺はそんなやり取りをしながらコーヒーを一口飲む。おっ!美味しいなこれ。
さっきまで飲んでた缶コーヒーが虚しく感じてくる。
「お気に召されたようでなによりです。」
「ちっ。何が素晴らしいポーカーフェイスだよ」
「美味しいものは自然と安らぎと落ち着きを与えてくれますからね。表情に出てしまうのも仕方がありませんよ。貴方の世界でも重要な取引や交渉をする際、料亭などを活用するのと一緒です。美味しい物を飲み食いしている時は気持ちが落ち着き大らかになりますからね」
男は笑顔を浮かべた後、ここからが本題とばかりに表情を真剣なモノへと変えた。俺自身も相手に気づかれない程度に身構える。
「さっそくですが今の現状について説明させていただきます。あなたが体験したのは所謂、神隠しと呼ばれているモノです。と言ってもあなたが想像しているものとは少し異なります」
想像しているものと言われても俺自身、神隠しに対して詳しい知識を持ち合わせていないので、想像もクソもないんだが。まぁ、人が突然といなくなるということぐらいだろうか。
「本来私たちが言うところの神隠しとは、その世界に合っていない魂をこの部屋に呼び戻し転生させるシステムのこと指します。合っていない、本来そこの世界に誕生するべきではない魂は何かしらの特殊能力や異常な身体能力の高さを持ちます。これはあなたがいた世界ではなく異なる世界に生まれるはずだった魂が間違ってその世界に生まれてしまったことが原因です」
男はコーヒーを一口飲み自然と笑みを浮かべた。相当このコーヒーが好きなんだな……
まぁ美味いのは否定しないが。というより俺もあんな笑顔を浮かべたに違いない。
「人類が存在する世界には大きく二つに分けることができます。魔法があるか、ないかです」
「……魔法。本当に存在するのか? いやこんな超常現象を味わった俺が言うのも難だが」
確かにいきなりこんな空間に召喚され何もない空間からコーヒーを出されれば少しは信じることは出来るが、今までの常識がそれを否定してしまう。
「世界によって呼び方は違いますし細かい部分は違いますが、まぁ魔法という認識で問題ないでしょう。神隠しで呼び戻される魂は大体魔法世界で生まれるはずだった魂です」
「そして、この俺も魔法世界で生まれるはずだったってか?」
「さすがです。察しがいいんですね」
「ここまでお膳立てされればアホでも気づくだろ。んで、俺は今からその本来生まれる筈だった魔法世界とやらに転生させられるのか?」
「……厳密には違いますが、魔法世界ではあります。しかし、冷静ですね。僕は怒鳴られると覚悟していたものですから何だかこう拍子抜けと言った感じでしょうか。それにこうも簡単に信じていただけるとも思っていませんでした」
「こんな現象体験してコーヒーを何もない所からいきなり取り出せば嫌でも信じるさ。自分でいうのも難だが俺は意外と適応能力あるほうだしな。もし仮にこれがトリックだったとしてもそれはそれで面白いからいいかなってね。用はどちらでもいいのさ」
俺は未だ少しも冷めていないコーヒーを飲みながら冗談交じりそう言った。どちらにしろこれが貴重な体験であることは確かだ。それも一生に一度あるかないかの。
「それに怒りだってあるんだぜ? ただそれよりも魔法がある世界に興味がある。あとは罪悪感ぐらいか」
「罪悪感?」
「両親にここまで育ててもらっといて、消えるってのはな……中々にキツイものがあるな。まぁ両親には負担かけちまってるだろうし、だから怒りよりも興味とそのことでの比率考えれば転生するのもいいかなと思ってな」
両親は俺が幼い頃から仕事で忙しく家にもあまり帰ることはなかった。そのため中学生までは良い印象を抱いていなかったが、両親は忙しいなりにも息子に寂しい思いをさせまいと努力していた。そのことに気がついたのは高一のときだったが。しかし、それが両親の負担になってしまっているのではないかと心の片隅で今でも思っている。もちろん、両親からしたらそんなことはないと言ってくれるのだろうけれど……。
「あなたが消えることには気がつきませんよ。あなたと同一の存在をもう送り込んでいますから。……それでもその罪悪感は消えることはないでしょう?」
「当たり前だろ。育ててもらったのは俺だ。そいつじゃねぇだろ」
「そうですね……。っと、話を戻します。本来ならば神隠しとは幼少期までには起こるはずなんですよ。神隠しは特殊能力や異常なまでの身体能力を察知し作動します。だがあなたは身体能力も常人に比べればかなり高い方ですが異常なわけではなく、特殊な能力があるわけでもない。ゆえに、発見が遅れたんです。そしてこれはかなり稀なケース。自我が完全に確立された後の転生は物議を醸したぐらいです」
「物議って……どこでだよ」
「僕たちにもいろいろとあるんですよ。さて、先ほど稀なケースと言いましたが稀ということは前例があるということです。それと同様の処置をしようと思います。まずは、転生ではなく憑依するということです。僕たちが一から構成した肉体にあなたの魂を定着させますので、記憶もなくなることはありません」
「へぇ、ってことは母親から生まれるわけじゃなく最初からいることになるのか。……ん?記憶もなくなることはないってもしかして、今まで転生した奴らは記憶を消されてたってことかよっ!?」
「え、ええ。自我が確立する前に神隠しが作動するわけですからね。幼い子供がヘタに記憶を持ったままだと返って混乱してしまいます」
「あぶねぇ~。当然記憶はそのまま受け継がれるもんだと思ってたぜ。創作小説の読みすぎか」
俺は何を根拠に記憶の保障があると思っていたのだろう。自身の楽観していた考えに少し恥ずかしくもなる。固定概念というものは恐ろしいな。いや概念ではなく常識か。
「まぁあなたのような自我が完全に確立してしまった人のためにお詫びとして記憶の引継ぎができるようにしてますからね。そしてその魔法世界と貴方に見合った力を与えられます。」
「どんな力だ!?」
俺は興奮を隠そうともせず、前のめりになりながら聞いた。高三といっても俺も漫画好きの男子だ。ちょっと取り乱してしまったのは仕方がないんだ、うん。
「分かりません。それを決めるのは僕ではなく僕の上司……人間がいうところの神様ということになりますね。」
「あんた、中間管理職だったんだな。お疲れ様」
この人の外見年齢的に下っ端ではないと予想しての発言だ。
「あ、あえてそこを指摘してくるあたりさすがと言えますね」
男は若干苦笑いしながらも、笑っていた。普通は神様について言うんだろうけどな、正直なところあまり興味はない。それにしても、この男は人をもち上げるのが上手いな。ちょっと気分が良くなってしまう。まぁだからこそ俺の説明担当になったのだろう。
「さて、では心の準備はよろしいですか? あっと、言い忘れてました。先ほども少し触れましたがあなたが本来生まれるはずだった魔法世界に行くわけではありません。あなたほど長く異なる世界いると本来生まれるはずの世界の情報はなくなってしまうのです」
そんなどこぞの小説で読んだことあるような説明をしながらも男は俺の足元を見て少し驚いた表情を浮かべ、ため息をついた。まるでやれやれ、と言わんばかりの顔だ。
「もうシステムが作動しているようですね。あなたがこれから行く世界はフェアリーテイルと呼ばれている漫画の世界です。かといって、そこにいる世界の人達はちゃんと生きていますのでご安心を。その世界の言語などはあなたの肉体にすでに情報としてありますのでご心配なく」
立て続けに急いで説明してるが、おいおいフェアリーテイルって……ッッ!?なんだこれ!俺の脚のつま先から少しずつ消えていってんじゃねぇか。もう声もだせない。唐突すぎるし、心の準備もクソもねぇじゃねぇか。せめて俺が行く世界についてもう少し詳しく聞きたかったんだが。っていうかフェアリーテイル読んだことねぇぞっ!前作なら――
ではいってらっしゃいませ。と男は惚れ惚れするような綺麗なお辞儀をしてた。
それがこの部屋で最後に見た光景だった。
side out
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side 管理者の男
まったく、上の連中は事を急ぎすぎる。まだ彼には説明したりなかったんですが。まぁ、仕方ありませんね。それに彼なら大丈夫でしょう、いきなりこのような空間呼ばれ、彼からしてみれば到底信じられないような話に混乱せずについてきたんですから。どんな環境でも馴染んでくれるでしょう。
そして僕は、一つ上のグータラ上司から送られてきた書類に眼を通していた。その書類とは彼の肉体構成についてや与えられる力について記載されている書類なのだが……ん?おかしいな、DBって文字が見えるんだが、彼が行った世界はフェアリーテイルなはず。DBはフェアリーテイルの前の作品のRAVEに登場する力だ。つまり、その世界に見合った力ではない。こんなことをすれば彼に何らかの影響が出てしまう可能性だってある。
……あのジジイ達ついにボケたか。
肉体構成の一覧にはこう記述されていた。
ルシア・レアグローブの体を元に強靭な肉体を構成。これは元々の容姿や趣味や魂の質が似通っている部分が多々あったためである。ただこれにより、DBとの相性が良くなったため、ジジイ共はこれ幸いとDBの力とそれを扱いきれるようにDBマスターの称号を与えた。以上!
PS 仕事終わったら飲みに行こうぜ( ・ω・)b
……今日はやけ酒ですね。はぁ胃が痛い。
僕は痛むお腹を手で押さえ(ジジイ共のせい)ソファーの背の部分にもたれ掛りながら、もうどうでもいいやと思考することを止めた。
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