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トリコ~食に魅了された蒼い閃光~

作者:joker@k
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第二話 現状確認と絶望と拾い食い

 長い眠りから目覚めるようにゆっくりと瞼を開けるとそこは前世では考えられないほど生い茂った木々や草に囲まれた森の中だった。……いや違う。確かに木々も大きいがどこか違和感を感じる。ふと自身の体を見てみると

「あれれぇ~、おかしいよぉ」

 仕方がない。仕方がないと思う。記念すべき第一声がコナン風に白々しくなってしまったことは致し方ないことなのだ。だってそうでしょ。体が縮んでしまっていたのだから。

「俺はアポトキシンでも飲まされたのか……」

 身長は150に満たないほど小さく、手のひらも自分で言うのもなんだが可愛らしいプニプニの手をしているのだ。すげぇプニプニだ。なるほど、木々がデカく感じたのは俺が縮んだせいか。……ミニスカートなら覗き放題だな。ここがジャングルなのが悔やまれる。

 背にはリュックを背負っており、中には一冊の分厚い手帳が入っていた。とりあえず捲ってみるとそこには食材や動物の絵図とそれについての説明が記載されていた。
 これは助かる、すんごい助かる。これがあれば毒の有無や味など調べられるからね。

 っていうかいきなりこんな森の中に放り込んでんじゃねぇよ!殺す気かっ!……案外殺す気だったりして。ハハッワロス……笑えねぇよ。


 リュックの中はこの本と今着ている服と同じものが一着のみだったが(もっと入れとけ)もう一つ気になる物がある。それは俺の首にかかっている黄金のアクセサリー。6、7センチ程度の長さで形状は円柱。ただの棒ってわけ。まぁ黄金の時点で唯の棒ではないけど。……メッキとかじゃねぇだろうな。

 所持品はこれだけ。服装は上下黒革でスーツで全身をコーディネートされていて、蒼いジグザグのラインがアクセントになっている。前世でこんな格好してたらKダッシュのコスプレだと思われるな。懐かしいなぁKOF。

 とりあえず自身の体に慣れるため歩き出してみると頭部の重量と身体のバランスが悪いからか結構転びそうになった。子供の頃よく転んでいたわけを今になって身をもって理解した。足場が悪いっていう理由もあるだろうけど、何とか早く慣れるしかないな。


 自己主張の激しい雑草を踏み分けながら転ばないように注意して歩いていると変わった木の実やら毒々しい花が咲き実っているのを見かける。
 そういえば、ここはもうトリコの世界なんだよな。ということはいつ襲われても不思議じゃないってわけだよな。

 そう認識した瞬間楽観的な気分は消え去り、周囲を警戒して見回してみた。
 そうだ、前の世界とは違い常に生死が付き纏う場所にいるんだ。数分前までの自分のお気楽さに腹が立つ。

 五感を、いや六感全てを使い集中するんだ。
 すると先程までとは違い草木の香り、虫や鳥の鳴き声がよく聞こえてくる。

 微かに揺れる草花、耳を澄ませて初めて聞こえてくる荒い息の音が聞こえてきた。
 その息の主は間違いなくこちらに近づいてくることは用意に理解できた。
 
 俺はすぐにうっそうと生い茂った草の中に身を隠した。ドン!ドン!と次第に大きく聞こえてくるその音に自然と冷や汗が流れ落ちてくる。

 それから数分後、十五メートルほど先だろうか。その音の発信源である生物の全貌を見ることができた。重なり合っている草木で視界は悪かったもののその存在は圧倒的だった。
 体長五、六メートル程で強靭な四脚に血がべっとりと付着した鋭い牙。瞳はその生物の獰猛さを表しているほど鋭く威圧的だ。額から左頬にかけて縦に一本ある大きな傷跡も歴戦の獣の風格をより際立たせている

 思わず唾を飲み込んだ。ゴクリと聞こえてくる自分の唾音で相手に自身の位置がバレてしまったのではないかと危惧してしまう。身体全身の震えが止まらない。相手の一挙手一投足に気を配る。

―――瞬間、その生物の鋭い目と合ってしまった。

 殺されるっ!早く逃げなければ!様々な考えが頭を過ぎるが、それとは逆に身体はまるで石化したかのように動けずにいる。
 額から流れ落ちる汗が目に入ろうとも瞬きをした瞬間に殺されるのではないかと思って無理やりにでも目を開ける。
 そいつと目を合わせてから一体どれだけの時が流れただろうか。五分?十分?いやそれ以上に感じてしまう。体感速度では異様に長く感じる地獄のような時間。

 そんな俺の思いとは裏腹にやがてそいつは俺から目を離し優雅に、まるで自身がこの森の王者だと言わんばかりに俺を嘲笑ってからゆっくりとその場を後にした。その後ろ姿は運がよかったなと言わんばかりだ。
 奴がこの場を後にしてから少ししてやっと自分の身体が動くようになっていた。
 
「……ッはぁはぁがはっ」

 呼吸することを忘れていたかのように身体は酸素を求め、そして疲弊しきっていた。
 甘く見ていた。油断していた。楽観視していた。そんな自分にヘドがでる。あんなのと渡り合うつもりでいたのか?冗談じゃない。俺がいくら鍛えようと勝てるわけがない。

 見ればわかる。あいつの牙に付いていた血は真新しいものだった。つまり満腹の状態だったがゆえに俺を見逃したのだ。そのことに悔しいが屈辱を感じるよりも安堵のほうが度合いが大きい。

 もし、あれがこの森の王者だったらまだいい。だが、そうじゃなかったら……あんなレベルの奴がうじゃうじゃいるとしたら

「俺は……生きていけるのか」

 未だ震えている手でリュックから手帳を取り出し、先ほどの生物について調べてみることにした。ただそれは俺をよりいっそう絶望へと陥れる情報となった。


「ほ、捕獲レベル……3だって? う、嘘だろ」


 バロンタイガー(哺乳獣類)捕獲レベル3。たったの3だ。たったの3であれほどの威圧感。
 そうだ、思い出した。確か原作1巻でトリコが威圧しただけで逃げ出したあいつだ。あんな奴に俺は……。

 ……そう、だよな。確かレベル1で猟銃を持ったプロの狩人が10人がかりでやっと仕留められるんだったっけ。それなのに俺はトリコ目線になって強くなった気でいたってことか。ははっ……だっさいなぁ俺。


 このまま悩み続けてもいても仕方がない。重い腰を上げ、足元がフラつきながらも何とか立ち上がる。
 とりあえず何か食べれる食材を探さなければならない。さっきの出来事のせいで喉もカラカラだ。
 まずは生き抜くこと、それからだ。それから絶望でも何でもすればいい。

「行くか……」

 自己暗示でもかけるかのようにポツリと言葉を発し、歩き出した。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇








 それから何時間たったのだろうか。未だ食材は見つからず、見つかったとしても他の動物達の縄張りだったりした。
 そしてそいつらから死に物狂いで逃げ出し、何とか撒いたものの俺の身体は限界に達していた。視界が霞み身体も思うように動かない。何時間も歩き走り続けて筋肉も疲れているが、動けないというほどではない。

 ただ何だろうか、そうお腹が空いたのだ。たぶんこれが身体が思うように動けない一番の要因だと思う。お腹が減りすぎて動けなくなった経験など初めてだ。次に獣と出会ったらもう逃げきれる自信はない。

「もう、無理」

 声も掠れている。その場にあった木を背もたれにして座り込む。数時間食べ物を食べないだけでここまでキツイとは思わなかった。多分、死ぬのだとしたら獣に襲われるよりも早く餓死してしまいそうだ。

 前世では当たり前のようにあった食材。自分が食べたい時に食べ、いらなくなった時は捨てていたこともあった。なんて裕福な生活だったのだろうか。食せないということがこんなにも苦しく、辛いことだったなんて。
 もし、次の人生があるとすれば食べ物を大切にしよう。それがこの厳しい世界で唯一学んだことだ。

 徐々に重たくなってきた瞼を閉じようとしたその時、ゴンっと何かが俺の頭に当たった。上から何か降ってきたのだろうと思い最後の力を振り絞って、その落下物を見てみるとそれは。


「ま、まさかのバナナッッッーーーーーーーーーーー!!」


 もう1ミリも動けないと思っていた俺の身体は瞬時に飛び起きそのバナナへと飛びついた。形は多少歪だが黄色く、いや今の俺には黄金にも似た輝きに見える。気がつけば目と口からは歓喜の涙と涎が滝のように溢れ出ていた。

 まるで宝物を扱うかのように丁寧にそのバナナを手にとった瞬間、ビリッと電気が走ったが俺は気にせず丁寧に皮を剥いた。前世からの強烈な静電気体質の俺からしてみればそんなことでいちいち驚かない。いつものことだと思い、そして何より目の前の宝物に比べればリアクションすら取る必要のない些細なことだ。

 皮を剥いてすぐに中身もよく見ずに頬張った。

「う、うんめぇぇぇえええええええええ」

 まるで全身に電気が走り抜けたかのような美味さ。アクセントに少しピリッとくるのもグッド!濃厚で、しかし後味はくどくはない爽快感と陶酔感がある。
 ひと房丸々落ちてきたので残り3本もすぐに手をつける。

「美味。実に美味! 前世で俺が食ってたのは腐ったモノに感じてしまうほど美味!!」

 前の世界では使ったことのない味覚器官があったのではないかと思えるぐらい脳が身体があまりの美味さに喜びをあげている。
 し・あ・わ・せ!

 ってあれ?俺の身体光ってる。それどころか森の中でついたかすり傷が治ってる……あっ!グルメ細胞のおかげか。でも身体が光ってるのは何故だ。


「…………ま、まさか。いきなり適合食材にヒット!?」

 握りこぶしを作り力を入れていくと前以上に力が入るのが分かる。力が溢れ出そうだ。自分でも怖くなるぐらいまだまだ力が入っていく。強く握りすぎて手が破裂しそうだ。変な例えだとは思うがまさにそんな感じ。

 俺はその持て余している力を目の前にある木に向けることにした。目的はもちろん先ほどのバナナがまだまだ木に実っているためだ。腰を深く落とし、掌底打ちで木に打撃を与えた。

 するとバキバキという音と共にその木をへし折ってしまった……マジかよ。
 木にしては細いほうだがまさか折れるとは思ってなかった。ただ木を揺らしてバナナが落ちてくればラッキー程度に思っていたのだ。グルメ細胞恐るべし。

 よく見てみるとここら一帯はバナナの木々が多くあるので調子に乗って何本かへし折る。満足いくまで喰らってやる。

 とりあえずバナナを折った木から全て収穫して、食べながら手帳を開く。もぐもぐ。いかんせん食べながらページを捲っているので時間が掛かる。比率的には9対1で食べることに比重を置いているので収穫したモノを全て食べ終えたときにやっと見つけることができた。

 どれどれ、どんな絶賛が書いてあるのかなっと……ん?え?嘘でしょ?見間違いだと思い何度もそのページにある絵と自分が食べたバナナを見比べるが確かに同じモノだった。ということはこれって……


「え、エレキバナナ食べちゃった」


 手帳にはこう記載されていた。
 エレキバナナ捕獲レベル10。触ると感電するバナナで一口で体中に電流が走り、まるで天国に登るような陶酔感が得られると言われている。中毒性が強く、第二級の麻薬食材に指定されている危険な市場流通禁止食材である。



「そ、そんなバナナァァァーーーーーー!!」

 この世界で一番初めに口にした記念すべき食材は麻薬だった。もうやだ。 
 

 
後書き
多機能過ぎて手に負えないぜ 
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