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生滅の一本

作者:無限の夜
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一話目

目を開ける……。ここはどこなんだ?恐らくだが……あの感覚は召喚だろう。前回と似ている。

「おおっ!成功したぞ!!」

「これで国も安泰だ!」

「待て!まだ、終わりではない」

一人の男がこちらに向かって呪文を詠唱してくる。この魔法は奴隷化か……。少々の痛みが身体をはしり右腕に刻印が浮かび上がる。

「ほう……呻き声さえあげないとはな」

「…………なぜ召喚した」

「ほう……召喚を理解しているのか」

男が話し始めたのを聞いているとどうやら隣国と戦争が勃発。国力で負けたこの国は追い詰められあえなく勇者召喚をしたそうだ。

「それは大変だな。だが俺は助けることは出来ない」

「ハッお前の意志なんて関係ないさ」

奴隷の刻印のことか。まぁ…………いい。

「王の間に行くぞ」

俺は何人もの兵士に囲まれ王の間とやらに連れて行かれた。前回の召喚では脱走したときに王を殺さなかった……そのせいで何度刺客を送られたことやら。

「入れ!」

先ほどの男に突き飛ばされる。が逆に突き飛ばした男が転んだ。非力だな。俺は王の間へと入っていった。

目の前の玉座には小太りな王が男がいた。恐らく王であろう。俺は王と言葉を交わそうと思った。

「俺の名は……何だ?」

俺は親友を殺したときに名を失った。死んでいった者たちに捧げたのだ。

「なんだこの勇者は……ひかえさせよ」

「はっ!」

先程の男が呪文を唱える。どうやら奴隷に罰を与えるもののようだ。もうこの刻印はいらないな。少し魔力を籠めると刻印は消えてしまった。

「なっ!?」

兵士達に同様が走ったのが見て取れる。どうやら魔術の破壊は常識外のようだ。

「さて、この場にいるものよ……。バケモノの逆襲を考えたのか?」

俺は全身に強化魔法を使う。兵士達も使ったようだが俺の強化とは質が違う。

「行くぞ?」

「あいつを殺せ!!」

王が叫ぶ。すると兵士達が周りから襲いかかってくる。余りなお粗末さに呆れる。背後からきた兵士の鋼の槍を掴みとる。そして強奪。そして未だ剣を振りかぶっている兵士達に地面を凪ぐように一閃。吹き飛ぶ兵士達。弱い……弱すぎる。

「さて、王よ……。俺の召喚を知っているのは誰だ?」

「珍とここに居るものだけだ。秘密裏にやったことなのでな」

それは好都合だ。俺は謁見が始まってから用意していたある禁呪を使う。大丈夫だ。生き残ることはない。

「endemic」

「さあ……もがき苦しみ最期の生にすがるといい」

この部屋にいる全員が血を吐き倒れていく。呻き声や叫び声が聞こえるが防音結界をはっているので問題ない。一通り身体の腐っていくところを眺めた俺は外に出て行くことにした。ついでに宝物庫から少々国家予算を頂戴してきた。城のテラスに出た俺はその光景をみて嗤いがこみ上げてきた。曇天の空の下で数万の軍勢に囲まれた城だ。つまりあれだ……この城の奴らは負ける寸前で勇者を召喚したのだ。
一つ勘違いをされるが勇者は最初弱い。一般兵以下だ。ただ成長限界と速度が異常なだけだ。召喚されて次の日に死ぬこともあるらしい。
まったく俺以外なら終わっていた。まぁ、俺のせいで城の奴らの人生も終わったがな。

「ふぅ……仕方ないな」

俺は城のテラスから飛び降りた。勿論自殺ではない。バケモノはこの程度ではダメージすら入らない。上にきたジャケットがはためき、堅い石畳に着地した俺は門に向かって歩みを進めた。

※ ※ ※

男は門に向かって歩いていた。そして門まであと五十メートルほどの距離に着いたとき唐突に跳んだ。
男の大きな跳躍から繰り出されたしなやかな蹴足がぶつかる。柔らかい蹴りにも関わらずその一撃は破城槌のように轟音と共に門を吹き飛ばした。まるで木葉のように吹き飛ぶ門。そして吹き飛んだ門を見た兵士達に同様が走る。

「敵対の意志はない。中に要人もいるだろう捕らえるといい」

男はゆっくりと兵の中を闊歩し始める。そんな男に困惑し対応が出来ない兵士達。だが一人の青髪の若い女が男の目の前に出てくる。

「私の名はアメリア。総司令をしているアメリア=ファベリアだ!貴公の名を問おう」

男は少し上を向いて考える。どうやら返答に困っているようだ。

「名前……か。残念ながら名前は……んっ?」

男の顔に水がぶつかる。先程までの曇天の空が遂に雨を降らし始めたようだ。男は少し笑い。

「そうだな俺はレイン……。レインだ」

レインと名乗った男は女、もといアメリアの問いに答えた。

「そうか……レイン殿!同行を願えるだろうか?詳しい事情を聞きたい」

レインはアメリアを眺めると

「構わない、同行しよう」

と答えた。

その後アメリアの命令の下、城を占拠した兵士達は勝利に酔い酒に酔い、朝まで騒いだ。

そんな中レインと名乗った男は独り城の城壁の端に座っていた。

「…………やはり人間は温かいな。そしてまた醜い。そんな俺が一番醜い存在……か」

独り夜空を見上げながら小さく呟く。遠くから宴会の喧噪が聞こえ、それが嫌でも人を感じさせる。レインは目をつぶり、ずっとその音を聴いていた。

※ ※ ※

寝ていると近づいてくる者が居る。俺はとっさに肩に立てかけてある槍を掴みそれを喉笛に突きつけた。

「誰だ……」

小さくそして低く敵に聞く。

「ええっと……私だレイン殿」

声を聞いてはっと思い出す。急いで槍を肩の位置に戻す。

「アメリアか、済まない気配には敏感でな」

独りの時に散々生物を探したからな……。

「いや、気にするな。で、結局貴公は何者だ?」

ここで聞かれるとはな。まだ、この世界のことを知らない……ここは友好的に取り入って貰わなければいけない。

「あの謁見の間の死体はなんだ?腐っていたでたないか」

あれか……拷問用に昔作ったやつだな。生物は俺しか居なかったが。

「あれは奴らが俺を奴隷にしようとしたから反撃したのだ」

「反撃……そうか。わかった」

アメリアは納得しないも頷きはした。

「では貴公は何者なんだ?と言うか何故奴隷にされそうになった」

「俺は召喚された。お前等を皆殺しにする勇者としてな」

空気が凍る。アメリアは腰の剣に手をかけ脚に力を入れている。俗に言う臨戦態勢というやつだ。
月の光が俺たちを照らす。アメリアの額には冷たい汗が浮かんでいた。

「いや、俺はそれがいやで奴らを殺したのでな。敵対の意志はないよ」

アメリアはまだ多少警戒を浮かべているが先程のようにはなっていない。だが、軍を担うものならば臆病なくらいがいいと思う。

「それに……俺は俺の意志で槍を取る」

ここは譲れない……。誰かの命令で戦うなど有り得ない。殺した命位、自分で背負わなくてどうする。
俺は勢いにより、肩の槍を足下に突き立てる。魔力で硬化しておいた槍は刃こぼれせずに奥まで突き刺さった。アメリアが一つ息を吐くと

「すまなかった。貴公は武人なのだな」

武人……か。そんな大層なものではないな。俺はバケモノだ。

「気にしてはいない。少し一人にしてくれ」

「すまない」

そう言うとアメリアは兵士達の所へ降りていった。再び静かになる俺の周り。未だ衰えぬ歓声が時折耳にとまる。
俺は光を放っている月を眺めた。

「キャァァァっ」

唐突に女の叫びが聞こえた。そちらを見てみるとこの城の侍女であったであろう少女が数名に兵士に襲われそうになっていた。

「………………下種が」

吐き気がするな……。
突き刺さっていた槍を引き抜き侍女の前まで跳ぶ。そして服をはためかせながら地上へと降り立つ。

「さて、月も綺麗なこんな夜だ……。静かに眺めてはどうだ?」

まあ、元の場所に帰れと言った。可能なら殺したくない。

「はぁっ?馬鹿じゃねーの?」

一人の男が酒臭い臭いをさせながら寄ってくる。酔っているな。
いきなり大振りに殴りかかってくる男。それをカウンター気味に殴り返す。男は吹き飛んでいった。いくら力を入れなくてもこうもなるか。

「さて……まだやるのか?」

途端に逃げ出す男達。流石に戦場にいるだけのことはある。酔っていても実力差を把握できるとは。戦場では忠誠心で生き残れない。

「……あのっ」

後ろの侍女が話しかけてくる。だが、見ていない俺にも怯えている様子がわかった。

「いや、気にしないでくれ」

再び脚に力をいれ跳び上がる。
バケモノが嫌われるのは世の常だな。もう慣れたさ。
城の屋根に着地した俺は横になり目をつぶった。

月は平等に地上を照らしていた。

※ ※ ※

歩兵と共に川岸を歩いている。肩に担いだ槍は太陽に照らされ反射をしていた。誰も言葉を発しない。いや、発せないのか。長い行軍は強い疲労を残す。だから攻める側は守る側の三倍の兵力がいると言うのだ。

「空が綺麗だな……」

何となく空を眺めた。雲一つない晴天だった。
荒廃したあの世界では失われてしまった青を……世界を懐かしく感じる。そして、同時に人間ではないこの身に引け目を感じる。周りには必死に歩く重装歩兵達。槍一本しか持っていないといえ、疲れ一つない俺はやはり全く違う存在なのだろう。

「ままならないモノだな……いくら進んでも、いや……俺らしいといえばそうらしい道かな」

遮るもののない太陽光は兵達の体力を大量に削っているようだ。へばっている者はいないが時間の問題だろう。俺は周囲を見回すと遙か前方にアメリアがいることを見つけた。誰かを探すことが俺にとっては久しいことだった。
兵の疲労を言うべきか……いや俺は軍どころかパーティーすら率いたことがない。黙っておこう。
その後俺は景色を楽しみつつ行軍速度に合わせ歩いていった。

※ ※ ※ 

そろそろ太陽も落ち始めたころ、夜営の準備に取りかかっていた。俺も手伝えることはやりたいが最後にそれをしたのは遙か昔のことだ。さらに一人分……全く勝手が分からない。

「…………ふむ」

近くを歩いていた兵士に話しかける。まだ少年のような彼は恐らくは初仕事がこの戦争だったのだろう。金髪の髪は本人の疲れを表すかのように草臥れている。

「すまないが……何か手伝えることはないか?」

兵士は疲れたような顔をして俺をチラリと見るとそそくさと去ってしまった。どうやら余り歓迎されていないようだ。俺に手伝えることはないのだろうか?俺はどうすればいいのか判らずに少し離れた木下で槍を抱えて胡座をかいていた。

「…………何が違うのだろう」

遠くで焚き火を囲む兵士達が羨ましい。俺も人と触れ合いたいのか?いや……バケモノにそんな権利はないな。やることのない俺は周囲の警戒をしながら仮眠を取ることにした。

※ ※ ※ 

さて、その後何日かの行軍の後無事隣国の王都……アメリアにとっての城へと着いた。街並みは白塗りの煉瓦で建てられた家が連なり、中央の通りには市がひらかれている。このそして巨大な城は全体的に高めの位置に作られていた。城に向かって帰還する軍に都市の人々は歓声で迎える。
しかし……こんなに人を見たのは久しい。いや、兵士は見ていたのだがな。
街並みを味わっていると城が近付いてくる。そろそろ入城か。俺はどうすればいいのだろう。尋問でもされるのだろうか?
アメリアがこちらに向かってくる。

「レイン殿はこのまま王に謁見して頂く」

王との対談か。こんな格好でいいのだろうか。ポケットの多いゆったりとした黒革のズボン、それとシャツの上に黒革のジャケットだ。

「この格好で問題ないか?」

不安だ。この服しか残っていないから変えがない。さらにこの国の通貨も持っていない。

「大丈夫だ」

それはよかった。俺はアメリアについて王の元へと向かった。上手くこの世界の情勢などをしりたいものだ。

※ ※ ※

城の中は装飾華美としていて国の権力の強さを物語っていた。そんな中一際輝いていたのが今俺がいる謁見の間だった。周りには
俺が入りしばらくした後、近衛兵を引き連れた王が玉座へと座った。

「儂はファベリア皇国、皇帝ルーク=ファベリアだ。さて、レインと言ったかな?主は何者だ?」

最初の国の王とは全く威厳がた違うな。

「俺はなんだ?勇者として召喚されたが……召喚主達は皆殺しにしたしな。バケモノとでも言っておこう」

俺は何なんだ?いや、そうなるまでに人を否定するのが召喚と言うものか。今回は人ではなかったようだが。思わず苦笑が漏れる。
誰も言葉を発さない。ふざけたと思われたか?俺が周りを見回すと茫然とした人々の顔が目に入った。

「何か不敬を働いてしまったか?」

こちらの文化などしらないからな。

「あ、いや、すまんな。貴殿を客人として扱おう。部屋へ案内してやれ」

すると一斉に止まっていた人々が動き出す。そして、侍女と思われる三十路ほどの女が俺を部屋へと案内してくれた。

※ ※ ※

───バケモノとでも言っておこう」

そしてレインは寂しそうな笑みを浮かべた。今にも崩れそうなその表情に私は胸が締め付けられた。今まで王女として散々人の黒さを見てきた私だが、もし彼の表情が作り物だったら私は二度と人を信じられないだろう。

「────部屋に案内してやれ」

父上のその言葉で私は正常な判断が下せるようになった。彼はここのメイド長に連れて行かれた。
私は父上に素早く提案をした。

「父上、少しお話が」

「アメリアか、では部屋で話そうぞ」

私と父上は私室に向かって歩き始めた。 
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